貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します   作:ナロウ・ケイ

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貞操逆転世界の悪徳皇子と、輪廻の英傑と、転生の教祖⑥

「ククク⋯⋯やってくれたな⋯⋯あの外道皇子⋯⋯ッ」

 

 うぞうぞと這い回る夢喰い虫──蚯蚓(ミミズ)のような外見の巨大な双頭の生き物──を周囲に放ちながら、博士(ドットーレ)は毒気を吐いた。

 夢の世界で強力無比なる生き物は、夢そのものを喰らう生き物。普段は天敵だが、博士(ドットーレ)はこの時のために夢喰い虫どもを確保していた。未だに完全に使役できているわけではないが、圧倒的な魔力を以てすればその小さい脳髄に命令をねじ込むことは可能である。

 

 誤算は、さきほどから本当に洒落にならないぐらい痺れる媚薬効果である。頭が馬鹿になりゅというふざけた言い回しがあるが、今の状況はそれに近い。皇子の奸計に対する、煮えるような殺意と憎悪。それを塗り潰さんばかりの色欲の情動。

 命令を維持するため、博士(ドットーレ)は床に這いつくばって呪符を握りしめて精神を集中させていた。もう碌に立てない。立てないが淫蕩に耽る暇はない。

 

「毒見用の植物が反応しなかった⋯⋯未知の薬⋯⋯」

 

 手持ちの植物に一部与えても反応しなかった。色変などが見られないことから、少なくとも人体を痺れさせたりする鉱毒類でないことは確かである。生物由来のものであれば加熱で壊れるため、再度加熱して口に運んだ。念のためあらかじめ解毒用の調合薬を飲んで食事を採った。そうしたらこれである。

 念のため、教祖と富豪(パンタローネ)には食事の量を減らしてもらっていたが、その程度では焼け石に水というもの。こんなろくに工房設備もなさそうな僻地に、無味無臭で既知の毒物検知法に引っかからない新しい毒を作り出せる錬金術士(アルケミスト)がいるとは誤算であった。毒というよりは媚薬なのだが、同じことである。

 

「⋯⋯隊長(カピターノ)、状況は」

「⋯⋯見張っている」

 

 隊長(カピターノ)は短く答えた。こちらも床に這いつくばって息を荒らげている。ぬいぐるみの軍隊を操れる隊長(カピターノ)は、稀代の人形遣い(ドールマスター)である。ぬいぐるみの軍勢は今、周囲を警邏し、相手の動向を広く探索している途中である。ただ、使役者たる隊長(カピターノ)は半泣きで身悶えていた。

 立てなくなるほどの媚薬を人に盛るな、と博士(ドットーレ)は憤慨した。本当にあの外道皇子、どこかぶっ壊れている。

 

「毒ではないということは、殺害ではなく、対話を求めているということだ⋯⋯」

「対話を求める相手に媚薬を盛るな⋯⋯」

「そうだな⋯⋯」

 

 本当あの皇子は。

 

「⋯⋯なあ、博士(ドットーレ)

「⋯⋯駄目だ、隊長(カピターノ)

「今のうちに、()()すべきではないか⋯⋯?」

「だから駄目だ⋯⋯ッ」

 

 博士(ドットーレ)は短く断じた。()()()()()をして、気の緩みで敵に負けたらどう申し開きが立つというのか。時間をかけないとかそういう問題ではない。

 確かに辛すぎて切迫しているのは事実だが。

 

「……あの皇子は、危険すぎる。あの赤毛の奴もだ。片時たりとも油断はならない」

「……そうか」

 

 隊長(カピターノ)はしょぼくれていたが、状況が状況である。夢の世界に引きずり込むことができて圧倒的に有利とはいえど、依然として不確定要素が残っている。あの赤毛も、あの皇子も、戦力が未知数である以上、警戒するに越したことはないのだ。

 博士(ドットーレ)には言い知れぬ焦燥感があった。不完全な形とはいえ、このまま【夢幻世界の交響楽団(ナイトメア・オーケストラ)】の発動に踏み切ることができればよいのだが──。

 

「……しかし、まだ連中は見つからないのか? 見張り用のぬいぐるみの目を搔い潜って行動するのは至難の業だと思うが」

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 ぬいぐるみと目と目が合うと強制的に戦闘が始まる、と皇子は言っていた。エンカウントだとか言っていたが理由も仕組みもわからなかった。

 ただ、皇子は何やら攻略方法があるとか言っていた。賢者(キルケ)の頭脳を以てしても理解不能な方法。

 その方法とは、つまり。

 

「箱をかぶって動いたら大丈夫って、本当ですの……?」

「実際、気づかれている気配はないでござる」

「アホらし」

「ですね」

 

 その方法とはずばり、箱をかぶること。潜入捜査(スニーキング)には箱がいいと皇子は力説していたが、正直信じられなかった。

 念のため、聖人(アナスタシア)に魔よけの祈りを施してもらい、剣聖(イオリ)に忍法・空蝉の術を使ってもらっているものの、本当に箱をかぶってゆっくり歩くだけのお粗末な潜入。だが、驚くほどに気づかれなかった。

 

「気を付けなさいまし、前方、ぬいぐるみが二匹いますわ……全然気付かれてなさそうですけど」

「? 変わった使役ゴーレムだな。弱点の呪文が額に彫られてない。となると命令組み込み型だと思うが……自律型だとすると高度なドールマスターが使い手だろうな」

 

 気色悪いクソデカ蚯蚓(ミミズ)と、のっそのっそ歩くクソデカぬいぐるみをやり過ごしながら、四人はゆっくり歩調を進める。途中、運動音痴で鈍くさい聖人(アナスタシア)が箱を壁にぶつけてしまって物音を立ててしまったが、なんと奇跡的にも気づかれなかった。(剣聖(イオリ)聖人(アナスタシア)の鼻をつまんで叱っていた)

 これがきっと箱の効果なのだろう。今まで全く気付かなかった知識だが、魔物たちは箱にまるで興味が湧かないらしい。

 

「討伐でござるか?」

「いーややめとけ。倒したら異変に気付かれかねない。やり過ごせるならやり過ごすでいい」

 

 剣聖(イオリ)を小声で諫める賢者(キルケ)

 戦闘はなるべく避けたかった。というのも、実はこの四人、服を着ていない。服装は箱。皇子の指定である。

 曰く、「夢の世界には直前に装備しているものがそのまま持ち込まれるんだ。四人には()()()()()()()」とかいう意味の分からないお達しがあった。ひどい命令だった。おかげで、裸にひん剥かれて箱を被って眠ることになった。鬼畜にもほどがある。

 裸で杖を握りしめる賢者(キルケ)は、ふと、これって普通に服を着て箱を被ったらよかっただけなのでは、という疑問に襲われた。だがもう遅い。あの人でなし皇子のお願いに素直に従ってしまった自分が阿呆だった。

 

「つーか、とにかく下に潜れ、って適当な命令すぎねーか……」

 

 地図は描いてもらったが正直記憶が怪しい。夢の世界には()()()()()()()()()のだ。だから賢者(キルケ)は、頑張って地形を思い出していた。

 というかそもそもなんで地形情報を知ってるんだよという疑問はあったものの、とにかく皇子の言葉が唯一の手掛かりである。とにかく下に潜る。地下に地下に。地下室につながっていそうな階段があれば一つずつ下っていくしかない。

 

 こういう時、食欲旺盛な聖人(アナスタシア)がいてくれて本当によかった。鼻が利くのだ。地下室といえば大抵、酒蔵や食糧庫があることが多く、聖人(アナスタシア)が匂いに従って導いてくれた。

 本人は「神の導きです」とか何とか言ってたが、他の三人は微塵も信じなかった。

 

「今度酒の神にお布施してやるよ、お酒の香りに感謝をってな」

「だから神の導きですって……」

「うふふ、聖人(アナスタシア)は敬虔な信徒ですものね、酒の神の」

「! ……静かに、でござる」

 

 やいのやいのと四人で言いながら歩いていると、どこか遠くの廊下が騒がしくなった。いち早く気づいたのは剣聖(イオリ)だった。

 音の発生源は地下ではない。目的の方向からは少し逸れる。

 

 廊下を進み、恐る恐る状況を確認すると、そこには光る刃がぶんぶんと唸っていた。

 両手剣の作法で、独楽のように踊ってぬいぐるみや蚯蚓(ミミズ)を切り裂いて暴れる、一人の影。

 

 息を吞むほどに流麗な所作。抵抗もなく敵を切り伏せる手の早さ。

 動きがうまく目で追えないのは、動きの早さもあるが、歩法が独特で、体重移動がつかみにくく、次の動作が読みにくいという巧みな戦闘技術にあった。

 戦いたくない──と直感した。運動音痴とはいえ、凡人と比べれば多少心得がある賢者(キルケ)だが、あの人物の所作は遥かな高み、達人の域にある。比較すれば、剣聖(イオリ)よりは動きが遅いかもしれないが、剣聖(イオリ)よりも引き出しが豊富で、間合いも呼吸も読みにくい流れる動きだった。

 

 目が合った。

 

「!?」

 

 息もできなかった。不意打ちだった。

 見透かされていると直感した。賢者(キルケ)だけでなく、四人皆がびくりと身を跳ねさせていた。

 だが、その赤毛の少女は──どこか悲しげに微笑んで、戦闘を淡々と続けていた。

 

「…………」

 

 敵の数が多いのか、赤毛の少女の戦闘は止まらなかった。

 四人はどうすればいいのか一瞬迷ったが、道を引き返し、先に進むことにした。

 うまく言葉にできないが――あの赤毛の少女は、自分たち四人のことを知っているのだろうか。

 

「……気付かれましたわよね?」

「……絶対に目ぇ合ったよなあ」

 

 箱の中で、英雄(エイル)賢者(キルケ)は二人して目を見合わせた。無論、答えなど誰も知る由がなかったが。

 

 





 赤毛のオーベル(なんであの子たち、裸なんだろ……)
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