貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します   作:ナロウ・ケイ

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貞操逆転世界の悪徳皇子と、輪廻の英傑と、転生の教祖⑦

 夢の神殿といえば、地下教団【魂の在処】がいつも密会に使っている異空間のことであり、距離の概念と時間の概念が曖昧になった無秩序の世界である。

 上下左右や重力の概念が部分的に否定され、未来と過去が一方向性ではなく双方向性をもって互いに干渉する異空間。簡単に言えば、重い代償を支払うことで過去の改変から未来の予知までを実現できる世界である。魂が想起するものがこの夢の世界であり、あらゆる現象は魂の一部を投影した写像に過ぎない。

 夢の世界は、混沌で秩序がないゆえに、目が覚めればすべて泡のように消える性質を持つ。精霊の住みついている、事象の狭間に極めて近い性質。

 

 しかし──夢を維持するために、複数の人格をその身の魂に窶して、魂すべてが目覚めぬように、わずか一部だけでも眠り続けることで夢を見続けてきた狂気の魔女が一人いた。

 その魔女は、その夢の場所を、そして己の信念を、【魂の在処】という教義として繋ぎ続けてきた。

 

 終わらぬ夢を紡ぐもの。魂を移し替え続ける化け物。数ある死を否定し摂理を歪める博愛の狂人。

 救世主。銀の女王。

 その名は、教祖サルヴァ。

 

 地下教団【魂の在処】には、黒く大きなフード(カポーテ・エ・カペロ)と仮面の装着が認められている。

 そうすることで、自分が既に死人である(二度と目覚められない)ことを気付かなくて済む人がいるからである。

 

 歪んだ優しさが、その理念に共感する人々を増やし、そして地下教団【魂の在処】はかつてないほどに大きく広がった。

 そしてその慈悲深き教祖は、やってくる皇子たちを迎え撃たんと待ち構えていた。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「ラスボスって第三形態まであって、第一形態は『結晶化の進んだ蝶の羽をもつ少女』、第二形態は『影絵とステンドグラスで身体ができたオーケストラの指揮者』、第三形態は『泣き続ける赤ちゃんたちが生えたケルト十字架を背負った魔女』なんだ」

「らすぼ……?」

 

 地下室に向かう前に、ありとあらゆる嫌がらせを仕込んだ俺は、振り落とされないようぎゅっとしがみついている三人に軽く説明した。嫌がらせというのは、放火であったり、クソうるさい大鐘楼を一定間隔で鳴り続けるように術式を仕込むことだったり、湧き続ける魔物を多数引き連れたトレイン行為だったりする。

 だがまあ、そんなゲーム的なグリッチを説明したところで理解してもらえるわけもない。ましてやロナ、ラネール、カマソッソの三人は幼い子供に若返ってしまった。説明は必要になったらすればいい訳で、今は俺の護衛に徹してもらったほうがいい。

 とにかく今は、教祖サルヴァの待ち構える地下を目指すのだ。

 

「あらかじめ放火しておくことで、ステンドグラスを熱々に溶けさせることができるし、大鐘楼の音色でオーケストラを妨害できるんだけど……まあ、あまり気にしなくてもいいよ。おまじないみたいなものだよ」

「ええと……はい……」

 

 魔物たちに追い立てられながら、俺は頭の中で重要なことを整理しなおしていた。

 とりあえず大事なことは、この夢の世界はあの教祖サルヴァの庭であるということ。何を仕掛けてくるか分かったものではない。

 俺のやるべきことは、彼女の弱体化と妨害である。あの赤毛のオーベリアが味方かどうか判別がつかない以上、頼みの綱は、英傑四人。戦いのお膳立てなら得意なので、俺は露払いに徹したいところであるが、果たして先方がそれを許してくれるかどうか。

 三人を抱えて走りながらも俺は、何とか状況を有利に運ぼうと考えを巡らせていた。

 

(……地下室に飛び込む前に、少し酒をくすねておくか)

 

 ぬいぐるみの大群と蚯蚓(ミミズ)の群れを飛び越えながら、俺は昔の記憶をたどった。

 向こうは原作で言うところの、『魂の救済』編の四天王三人にラスボス一人。こちらは精鋭とはいえ、原作の観点で見れば多勢に無勢。モブが主要人物に勝てるかという話である。強気で勝負する気持ちにはならない。

 俺は運命なんてものは微塵も信じないが、運命に愛されている存在がどれだけ厄介なのかは理解しているつもりである。

 故に、奇襲こそが正義となる。

 既にあらゆる手は打った。後はあの教祖と直接対面するのみ。

 

「さて、教祖様と楽しいダンスパーティーと洒落こもうじゃないか」

 

 大量の魔物を一気にけしかけて、状況を混沌とさせるのが俺の目論見。相手が第一形態から第三形態まで備えている強敵であるとはいえ、状況が複雑化すればするほど、俺に勝機があると思われた。

 地下室の扉を思い切り蹴とばして、俺は足を踏み入れ──。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「私には自信があります」

 

「あの皇子は、何故かは知りませんが、我々の情報を正確に把握しています」

 

「ですから、今まで通り()()()()()()()()()()()

 

「その思い込みを利用します」

 

「私がその気になれば、夢の世界そのものを作り変えられるというのに」

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 曇天。

 深く暗い夜。

 足場のない場所。

 気圧差で吸い込むように背を押す突風。

 

「あ──?」

 

 踏みとどまろうとして失敗する。背後から大量のぬいぐるみたちが突進してきたためである。

 

「! そうかこれは」

 

 ()()

 夢の世界は、距離の概念と時間の概念が曖昧になった無秩序の世界。その気になれば、別の場所同士を扉と扉でつなぐことができる。例えば地下室と上空のように。

 

(完全にやられた)

 

 上空に飛ばされた。

 咄嗟にラネールが糸を飛ばし、何とか扉の枠に絡めようとするのが見えた。だが、急なことで強度が足りなかった。

 カマソッソが羽を広げたものの、落下を和らげるのは不可能というもので、気休めにもならなかった。

 

 屋上の庭が見えた。

 儀式用の巨大魔法陣が赤黒く光っているのが見えた。

 多分、あそこに墜落するのだろう。

 落下速度が早すぎてよく見えないが、『生贄』という古代典礼文字が施されているのが見えた。

 

 扉から大量のぬいぐるみがぼろぼろと落ちてくる。気色悪い巨大蚯蚓(ミミズ)もどぼどぼと落ちてくる。

 それらの波に押しやられながら、俺は何とか、窮余の打開策を考えていた。

 

 

 

 

 

 




教祖&幹部たち「やったか!?」
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