貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します   作:ナロウ・ケイ

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貞操逆転世界の悪徳皇子と、輪廻の英傑と、転生の教祖⑨

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 ──恐らくあの皇子は、自分の知識を過信して、地下室に祭礼の魔法陣が準備されていると思い込むはず。

 だから地下室の扉を遥か上空につなげてしまって、地面に叩き落としてしまえば簡単に無力化できるであろう。

 

 ──恐らくあの赤毛の少女は、味方が一人もいないため、待ち伏せしていれば打って出ざるを得ないはず。

 だから屋上の庭園に罠を多数仕込んで、総力戦で叩き潰せば計算上は勝利できるであろう。

 

 それが地下教団【魂の在処】の導き出した解である。

 必ずしも正々堂々と相対する必要はない。有利な条件で戦いに引きずり込み、前提となる条件を作って勝利を獲得するのだ。

 

 この夢の神殿は、一種の魔術工房(アトリエ)といっても過言ではない。

 結界十三層。魔力炉五機。猟犬代わりの兎とぬいぐるみとミミズの群れ。空間は異界化されており、距離の概念と時間の概念が曖昧になった無秩序の世界と化している。よく魔術工房(アトリエ)といえば、凡庸な魔術師が作り上げるような、魔術をたくさん仕込んだ隠れ家的な密室を指すことが多いが、教祖サルヴァのそれはあまりにも格が違う。

 何故ならば、限定的とはいえ、別の世界そのものを作り上げているのだから。

 

「深い眠りが必要ですね……微睡(まどろ)みを維持するための……」

 

 どこかの阿呆の皇子が盛った媚薬のせいで、精神集中がままならない。

 この夢の世界を維持するためには、常に固定された一定の夢を見続ける必要がある。夢の世界の整合性・連続性を失ってしまってはすぐに泡沫に消えてしまうからである。それを見越して、術者の精神を揺さぶるための薬を仕込んできたのであれば、あの皇子は大した役者である。

 

「あの皇子も……あの赤毛の子も……両方をこの世界に閉じ込めてしまえば……誰も表立って我々を妨害できなくなるのです……」

 

 少女は、神殿の霊廟で静かに祈りを捧げていた。祈る相手は過去の人々。自我を維持することができず、夢の世界の泡沫となって消えていくことを選んでしまった者たちのために。

 人は、死んだ後であっても魂さえ残っていれば、この世界に残り続けることができる。だがそれは決して楽な道ではなく、教祖サルヴァが力を貸したとしてもなお、魂が先に損耗して消えていくことがほとんどであった。

 

「誰も置いて行かれない……優しい世界を……」

 

 眠りに落ちるように、静かに祈りを。

 ──捧げることが、できればよかったのだが。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「ぐっ……! 花の網(ラ・レッ・アンプリア・デ・フルール/la red amplia de flores)」

「ぬいもん! 集まれ! デカマックス進化!」

 

 崩れ行く瓦礫の中、博士(ドットーレ)の号令で、蜘蛛の巣のように花のツタが広がった。が、捕まる先の建物が激しくひずんで連続的に破砕され、落下を止めるための網としての体をなしていない。

 遅れてぬいぐるみたちが、どんどん集まって一体化し始めた。高位の人形遣い(ドールマスター)の秘術には、自動人形(ゴレム)たちを合体させる技がある。隊長(カピターノ)の元に集まったぬいぐるみたちがどんどん巨大化して、博士(ドットーレ)隊長(カピターノ)富豪(パンタローネ)を優しく包んだ。

 

「今だ! リバーカードオープン! ストレートフラッシュ!」

 

 富豪(パンタローネ)が叫ぶ。

 狙いを定め、煙幕を一気に吹き飛ばす極太の光線を放つ。展開されたカードの絵柄はダイヤ。宝石の散弾が散りばめられた眩い光の帯が、先ほどまで赤毛のオーベルがいた場所へと放たれた。

 しかし――。

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおですわあああああ!?!?」

 

 気の抜ける声と同時に、大盾がそれを真っ向から防いでしまった。

 一体何が――と判断する間もなく。

 

「火遁・石楠花(しゃくなげ)の術!」

 

 クナイ型の短刀が複数本降り注ぎ、わずかな隙に、結びつけられた呪符が花火のように爆散した。

 博士(ドットーレ)の自動防御の植物のツタが、幾本か焼けただれて千切れた。

 

「方角を晒したなァ! よく分からんが一発もらっとけ!」

 

 続けざまに、瓦礫の束が方向を伴って降り注ぐ。おそらく崩落する神殿を、急遽土魔法で操ったのだろう。

 目隠しにもなる攻防一体の手。一体何者の襲撃かが全く読めない。

 

 咄嗟に巨大化したキングぬいもんが手を払った。打ち払われた瓦礫の束は、しかし、乱雑に周囲に散るだけ。

 土埃で視界もままならない。博士(ドットーレ)隊長(カピターノ)富豪(パンタローネ)は身構えた。

 しかし――。

 

「……隊長(カピターノ)富豪(パンタローネ)、魔力が」

「魔力炉がやられた……!?」

「そんな……!」

 

 三人は状況を理解した。

 全てではないが、明らかに魔力の巡りがおかしい。魔力の供給源だった魔力炉が異常な反応を見せている。とはいえ多重結界に守られた魔力炉を破砕するとは、神話級の秘術か、奇跡降ろしの御業といった極大魔術でもない限り、到底考えられない。

 それほどの術士が、相手にいる――。

 一連の応酬の合間を縫って、博士(ドットーレ)は短く叫んだ。

 

「誰だ! 名乗れ!」

「悪党に名乗る名は存在しませんことよ!」

 

 謎の声。あんな奴らはいただろうか、と咄嗟に隊長(カピターノ)富豪(パンタローネ)に目配せするも、思い当たる節はなさそうであった。

 もしや、と博士(ドットーレ)は考え込む。可能性が高い順、かつ最悪の事態を想定するとなると、もしかすればこの少女たちは。

 

「魂の適合者、英傑の四人……!?」

 

 呟いたその隙に。

 キングぬいもんが急遽、三人を庇うように半身を乗り出した。

 ほぼ同時に、切り飛ばされるぬいぐるみの腕。

 

「ちっ」

 

 舌打ちは赤髪の少女だった。光る双刃を振り回した彼女は、そのまま瓦礫の中に消えていった。

 遅れてキングぬいもんが口から光線を放つも、相手の姿は影も形もなかった。

 

「英傑の四人が何故ここに……!?」

「赤毛と組んでいるのか!?」

「いや……それより、地下室の罠は発動したのか!?」

 

 混乱が加速する。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 考えられるとすれば、()()()()()()()()()()()()()()()()あの皇子が、四人を呼びつけたという可能性があるが――。

 

(いや、まさか、この世界に迷い込んだならその時点で、サルヴァ猊下が感知してらっしゃるはず……!)

 

 まさか、誰にも感知されないように()()()()()()()()をして潜伏してきたとでもいうのだろうか。

 舞い立つ土煙の中で、状況の混迷はますます複雑さを増しつつあり――。

 

 

 

 

 

「――その勝負、ちょっと待った!」

「!?」

 

 今度は、はるか上空から。

 

「この戦いを終わらせに来た!」

 

 またもや新しい闖入者が参戦してきて。

 

「お、皇子の声!?」

「な……終わらせる?」

「一体、何が」

 

 動きを止めた三人が、上空を見上げていると。

 

「…………はいよーし。本当に動きを止めてくれてありがとう!!」

「「「えっ」」」

 

 呼び止めておいて奇襲するという超卑怯な踵落としが、綺麗にキングぬいもんの額に炸裂し、巨大ぬいぐるみはばらばらに分裂した。

 

 

 





■Tips:魔術工房(アトリエ)
本来の用途は隠れ家のようなものであり、敵の待ち伏せに使う拠点や要塞ではない。特定の魔術の効果を強化するために、その周囲一帯に紋様を施したり、魔法陣を構築したり、龍脈から魔力を引っ張ってきたりすることで魔術工房(アトリエ)は構築される。


■Tips:古来からあるゴーレムの弱点
よくあるゴーレムの弱点は、額のemeth(真理)の文字から、eを削除してmeth(死)にすること。
ぬいぐるみの人形たちはヘブライ文字のような典礼文字で命令を書き込まれている旧ゴーレムではなく、核を埋め込んでそこに術式を刻まれた高度なゴーレムである。なので額は別に弱点ではない。
ただ単純に、はるか上空からの四人分の質量を乗せたかかと落としを脳天に決められて分裂してしまっただけである。



■Tips:キングぬいもん
ぬいぐるみの使い魔、通称ぬいもんが合体して生まれた姿。デカマックス化により大量の魔力と引き換えに強烈な攻撃を繰り出せる。
《影の巨人》とは違って召喚条件に制約は少ない。その代わりデカマックス化による活動時間の短さと、あくまでぬいぐるみの集合体なので防御力が低いことが欠点。

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