貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します   作:ナロウ・ケイ

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貞操逆転世界の悪徳皇子と、輪廻の英傑と、転生の教祖⑩

 種明かしは簡単である。

 この世界は、教祖サルヴァが作り出した夢の世界である。眠っている隙にこの世界に誘いこまれた俺たちに勝ち目はない。

 というのが普通誰もが思うこと。

 

 実際のところ、『もしかしたら今日夢の世界に閉じ込められてしまうかもなあ』という予想が出来ていればいくらでも対策の打ちようはあった。

 例えば、夢を共有するお守りを信用できる者たち──英傑四人に持たせておいたり。

 赤毛のオーベルに、夢の世界に武器を持ち込む方法(といっても装備して寝るだけだが)を共有しておいたり。

 そして何より──。

 

 

 

 

 

「こういうのは不意打ちだからこそ効果があるのであって、『これは夢だ』って分かっていたら、誰でも対処は簡単だよ」

 

 そう。あまりにも初歩的なことなので見落とされがちではあるが、夢の世界を『これは夢だ』と看破できるかどうかが重要なのである。普通こんな見ず知らずの場所に誘われて、魔物の群れに襲撃されたとして、これをどう思うか。俺の住む屋敷の構造に詳しければ『寝ているうちにどこかに転移されたのかもしれない』と疑うことはできるだろうが、そうでない場合は、単に魔物に襲撃されただけと思い込むかもしれない。あるいは、屋敷の景観も外の景色も全然違うから場所が違うことに思い至ったとしても、これが()()()()という発想に至らないかもしれない。

 

「だから、きっとそちらの予想では、夢の世界に引きずり込んだ時点で勝利だと思い込んでいたんだろうね。訳も分からない場所に連れ込まれて、魔物の群れに襲われて負ける──と計算していたんだろう」

 

 ましてや、夢の世界に入り込んだ人間は、多かれ少なかれ影響を受ける。

 ロナ、ラネール、カマソッソはまさにその好例である。全員幼い頃の姿に戻ってしまっている。幼い頃の心の傷、昔の思い出に記憶が引っ張られてしまって、その姿になってしまっている。

 この若返りは、夢の世界の迷宮によくありがちな現象である。夢の中の世界なのだから、当人の記憶が強く反映されてしまうのだ。

 

 かたやその一方で、俺も、オーベルも、英傑四人も、全然幼い姿に戻ってはいない。オーベルは予想外だったが、俺と英傑四人は対策を打ち終わっていた。対策というのはつまり、夢を共有するお守りの中に、心を閉ざす魔術を仕込んでおいたのだ。心を読み取られて、幼い頃の心の傷や思い出を夢の世界に反映されないようにする──というもの。

 ロナ、ラネール、カマソッソには無理を言った。この心を閉ざす魔術を彼女たちにも分け与えるべきか、最後の最後まで悩んだのだ。だが、結局彼女たちの進言で、それは行わないことにした。邪教徒側に()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と最後まで悟られたくなかったのだ。

 

「それに、夢の世界は、基本的に武器を持ち込めないからね。……寝るときに武器を装備して眠る奴なんて、いるはずもないからな。だから簡単に制圧できると高を括ったんだろうさ」

 

 ここまでが、地下教団【魂の在処】の組んだ想定展開。

 武器も持ち込めず、何が起こっているか場所も分からず、その上記憶まで過去の思い出の頃に戻っていて状況を正しく理解するのに時間がかかるはず。そこを圧倒的な軍勢で一気につぶす予定だったのだろう。

 まさか念には念を入れて、地下室にまで罠を仕掛けているとは思っていなかったが──それはまあ誤差の範囲である。

 

「勝ち確の状況で解説するの凄く気持ちいいな」

「何言ってるんですか殿下」

 

 ロナに冷静に突っ込まれてしまった俺は、改めて縄に縛られた三人衆を見下ろした。三人とも怯えている。可哀想に。さっきまでの威勢はどこにもなかった。

 それもそうであろう。準備を重ねて、万全の態勢で臨んで、まさか罠を仕掛けた庭園も全部お釈迦になるとは思ってもなかったはずである。この分だと多分、魔力炉がいくつか駄目になってしまった可能性さえあるだろう。

 

「いやあ、落下したときは本当肝が冷えたもんだ。流石にあの高さだと、みんなを守れる自信がなかった」

「だから殿下は自分を第一になさってください!」

 

 確かに焦った。落下はよくない。

 最悪の場合、翼のあるカマソッソだけ離脱させて、俺は服を脱いで、ラネールに落下傘(パラシュート)を作ってもらうつもりだった。実際そうした。だが当然落下しながらそんなこと器用にできるはずもなく、たいして落下の勢いは殺せなかった。こうなればもう、ロナとラネールを抱えて両手が塞がったまま『着地ジャスト回転(背面着地)』を決めるしかない──と覚悟したものだった。失敗しても死にはしない、なぜなら夢だから、と自分に言い聞かせて。

 

 だがそこは、天運が味方した。

 勝手に庭園がぶっ壊れた。なんじゃそら、と目が点になった。しかも巨大なぬいぐるみがいきなり現れた。

 完璧な状況だった。

 

 だから俺は、落下の勢いは全部巨大ぬいぐるみに受け止めてもらおうと考えて──今に至ったわけである。

 

「……ク、クク、そこまで読んでいたか」

「……夢の世界に引きずり込めば勝ちだと思ったのだがな」

「……なるほどな」

 

 俺の説明に、博士(ドットーレ)隊長(カピターノ)富豪(パンタローネ)の三人は、三者三様に答えた。それは、何か含みを持ったような言い回しであった。

 何か隠しているのだろうか、と一瞬疑いを抱いたが、俺はあえて説明を続けた。これは単に気持ちがいいからではない。背後にいる、英傑四人と赤毛のオーベルにも状況を正しく理解してほしいからである。

 

「見たところ、『キングぬいもん』はデカマックス進化を発動した直後で、しばらく使い物にならないだろう。あとは『来たれ、汝甘き死の時よ/Komm, du süße Todesstunde』って名前のサボテンがいたらちょっと厄介なんだけど……夢の世界には持ち込めなかったかな?」

「え、え、今なんて?」

「『来たれ、汝甘き死の時よ/Komm, du süße Todesstunde』」

 

 早速賢者(キルケ)から突っ込み半分の質問が飛んできた。俺が貸したマントを羽織りながらも、彼女は当惑を隠せていないようだった。

 方や、博士(ドットーレ)は項垂れていた。

 

「え、ごめん、こ、こむ、どぅ……?」

「Komm, du süße Todesstunde、来たれ、汝甘き死の時よって意味だよ」

「こ、こむ……お、おう」

 

 サボテン居ましたかしら、居なかったでござる、立派な名前ですねえ、という会話がちらりと。

 

「えっと、こむ、どぅ……がいるなら今のうちにこいつらを気絶させておいたほうがいいんじゃないか」

「いや、『来たれ、汝甘き死の時よ/Komm, du süße Todesstunde』は自律型の使い魔なんだ。別に術者を気絶したところで『来たれ、汝甘き死の時よ/Komm, du süße Todesstunde』の動きは止まらない」

「はあ……甘き死、止まんねえのかあ……」

「『来たれ、汝甘き死の時よ/Komm, du süße Todesstunde』な」

 

もうやめろ! いいだろ別に! 

 

 博士(ドットーレ)が真っ赤な顔で半泣きで叫んだ。

 

ああそうだよ私の最高傑作だよ何か文句でもあるのか!? あるのか!? 

 

 何か博士(ドットーレ)の古傷を抉ってしまったらしい。

 

「なぜ笑うんだい? 彼女の使い魔の名前は素敵だよ」

「いや笑ってるの殿下の方です」

「……これは勝利の笑みだよ」

 

 ロナからも厳しい突っ込みが入ってしまった。ちょっと笑うのは許してほしい。これでも堪えている方である。

 

「……そう、勝利のね」

 

 そう言って俺は、博士(ドットーレ)隊長(カピターノ)富豪(パンタローネ)の三人の顔色を窺った。

 もちろんそれは探りである。勝利の確信なんか、まださらさら掴めていない。

 だから反応を引き出すことにした。軽口も冗談も、油断の演出のため。

 幹部三人の反応は、まだない。

 俺は問うた。

 

「……時間を稼いでいるのか?」

「「「──!」」」

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 月夜を羽ばたく蝶の群れ。

 はるか昔から蝶は、死者の霊魂(プシュケ)を運ぶ使者として扱われてきた。

 なぜならば、幼虫から蛹、そして成虫へと至る過程は、死と再生、あるいは肉体から解放された魂の転生を表す存在だから。

 

 崩れた瓦礫が徐々にほどけて。

 淡い光を放つ、蝶になって。

 

 人は夜そのものを幻想的なものと捉えた。

 であるからこそ、夜想曲(ノクターン)小夜曲(セレナーデ)の曲調は儚くも美しい。

 夢幻世界の交響楽団(終わらない夜のオーケストラ)は、優美さと神秘性を想起させる、透き通った音色で構成されていた。

 

 踊る蝶の群れ。

 歌う兎の群れ。

 

「──酷く残念です。もはや対話は成り立たないのですね」

 

 銀の少女は、血の涙を流しながら、そこにいた。

 うぞうぞと不気味に胎動する十字架を背負って。

 彼女の腕は四本。影の腕、植物の腕、兎の腕、結晶の腕。奇しくもそれは、少女自身の両足を含めたら、蝶の脚の数に一致していた。

 

 かつて神殿だった瓦礫の山が、少しずつ回り始めた。

 小さな蝶へとほどけていくそれらは、旋回しながら、少女の振るう指揮棒の指示に合わせて動きを変えていた。

 動く天球。小さくなった星図。それらはさながら、星の運動を模倣した天象儀(プラネタリウム)のようであった。

 

 植物の蔦がゆっくりと地面を蝕み始めた。らあ、らあ、らあ、と歌う黒い影の兎たち。

 影絵、植物、使い魔、宝石。

 頂にて統べるは、妖精の女王。

 

「分かり合えると思ったのですが、残念です。この世界はあまりに悲しみが多く、そして救いがない──」

 

 花の冠をつけた妖精の少女は、複数の人格が混ざったようなぞっとする声で、囁いた。

 

 

 

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