貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します   作:ナロウ・ケイ

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貞操逆転世界の悪徳皇子と、空飛ぶ領地:第四章エピローグ②

 その日、帝国の中央は混乱の極みにあった。

 皇子辞めます。領地ごと空に飛んでどこかに行きます。

 そんな馬鹿げた報告が舞い込んでくるや、帝国貴族たちは震撼した。皇室派、宮廷貴族派、地方諸侯派はもちろんのこと、軍閥のもの、商会とつながりが深いもの、国外に植民地を多く持つもの、政略結婚により帝国経済の枢軸を支配している一族、複数の派閥に与している有象無象──要するに大体皆が蜂の巣をつついたような騒ぎになったのだ。

 その騒ぎたるや、希少な宝具『遠見の鏡』と遠隔音信魔術を使用してまで緊急で開かれる大会議に発展したという。

 

 

 

 

 

「こんなもの、帝国に反旗を翻した独立ではないか!」

「徴税の義務や兵役供与の義務から逃げ出すとは、帝国貴族の風上にも置けぬ恥さらしではないか!」

 

 ルーク皇子に今まで嫌というほど冷や飯を食わされてきた連中は、ここぞとばかりに責め立てて気炎を吐いた。

 誹謗中傷に罵詈雑言。事実に基づかない憶測から風説の流布に至るまで、ありとあらゆる非難の声が上がった。

 その一方で。

 

「寄り親は今まで彼をどうしていたのかね? 皇子がこれほどの行動に出る直前にそれを御する責任があったのではないかね」

「あのジャヴァリの森林の狩猟監督官はリューデリッツ伯爵だったな。近隣の領主はモロー伯爵とガスターデン子爵かね。となると寄り親のランカスター公に管理責任があると思うが」

 

 もちろん、ルーク皇子に対する監督責任ということで、ランカスター公を筆頭に複数名の貴族たちに非難の声も集まる。

 そもそも今まできちんとルーク皇子の面倒を見て援助していたのか。ルーク皇子の行動を利権で縛って制限することがなぜできなかったのか。若者の暴走を止められなかったのは、器量不足ではないのか。

 こちらもこちらと、好き放題に意見が飛び交う。もちろん、ランカスター公派閥と敵対する連中がこの機に便乗して嚙みついているのがほとんどだったが。

 

 議論は一向に進まない。

 もちろん勝手に領地を乗っ取って独立するなどと、国家に対する背信行為である。一族郎党まとめて死罪が妥当。

 そうした独立がなぜ帝国の各地で起きないのかというと、あらゆる物流を近隣の関所で差し止められる経済制裁のお触れが発布されてしまうことと、圧倒的な兵力を誇る帝国軍で討滅されてしまうことと、その二つが大きな抑止力であった。

 そしてその抑止力が効かない。帝国貴族たちは絶句していた。

 

「ただちに帝国内の商業ギルド全てに商取引禁止令を発布せよ! 経済制裁を食らわせてやるのだ! やつらが外部から依存しているあらゆる物資を差し止めるのだ!」

「差し止めって、空にですか!?」

「彼らが輸入に依存している物資なんて、ほとんどありませんよ!?」

 

 相手が空を飛んでいるのだから、そもそも差し止められて困る物流がない。

 しかも内需で経済活動が回っているらしい。有効な手立てがなかった。

 強いて言えば、鉄器類、酒と塩と香辛料を外部からよく輸入していたらしいが、鉄器類は古くなったものを鋳つぶして再利用できてしまうだろうし、一年以上に渡る準備期間があったのですでに鉄を大量に仕入れ終わっているだろう。酒と香辛料は差し止めたところで大して困ることはない。塩はたぶん、空でも飛んで海から回収するのだろう。

 

「では帝国の威信をかけて、討伐軍を編成し奸臣ルークを討ち果たせ!」

「討伐軍って、空にですか!?」

 

 相手が空を飛んでいるのだから、そもそも仕向けられる兵力がかなり少ない。竜騎兵を派兵するという手があるが、数百人規模の兵力を、一万人以上の戦闘民族が住む空飛ぶ森に送ってどうするというのか。

 

「皇子の一切の名誉を剝奪し、皇室一族から破門し、教会と協力して第一種異端指定をかけるがよい! 奴は政治犯だ! 奴に継承権が渡ることなど、あってはならぬのだ!」

「それをしてくれと皇子が手紙に書いているのですが……」

 

 皇子は謙虚だった。

 自分が帝国の継承権を僅かにでも認められてしまうと、後々国を割る禍根になりかねないと。姉上、兄上が正当な後継者として国を率いるべきであり、自分は一切の継承権をここに放棄すると。

 つまり、一切の名誉を剝奪し、皇室一族から破門し、教会と協力して第一種異端指定をかけるということと、事実上あまり大差なかった。貴族という身分に少しでも未練があれば絶対に申し出るはずのない内容であった。

 つまり無傷。こんなのは逆に、破門する側が恥をかく。

 

 

 

 

 

「ランカスター公よ! これはどういうことか!」

 

 非難の声は、遠くの地にいるランカスター公に向いた。

 例えて言うならこの会議は、行き場がない怒りを、どこに振り下ろせばよいのかと迷っている始末。『遠見の鏡』越しに、ランカスター公の使節の女性は青い顔で答えた。

 

『お、皇子は、私が領地に向かったころには、すでに独立宣言を果たしておりました……。ジャヴァリの地は空を目指すと。皇子は、過分な野心に駆られていたのです……!』

 

 このランカスター公の使節の女性は、どうやら謁見さえも門前払いされてしまったとのこと。

 数日間待ちぼうけを食わされてしまったらしい。要するにランカスター公家としては打つ手がなかったということをそれとなく言外に滲ませているが、聞く人が聞けば「つまりランカスター公家はもう全然皇子に相手にされてなかったんだな」と分かってしまうような独白だった。

 

『わ、我々ランカスター家は、帝国の今後の発展と栄光のため、ルーク皇子の領地経営に惜しみない協力を続けてきました! 結果、魔物の脅威は減り、人口は増え、あれだけの領地になりえたのです! それをあの大悪漢ルークは、あろうことか我々の優しさに付け込み、己の欲望のために独立を果たし、この帝国の顔に泥を塗ったのです!』

 

 ランカスター公の使節の女性は力説した。

 というより、用意されていた台詞を言わされている。"ルーク皇子の領地経営に惜しみない協力"というのがどういう協力なのかそもそも明らかになっていないし、全然協力してなかっただろうことが発言の浅さから透けていた。仮に事実だとして、独立する協力をさせられていたのであれば相当間抜けである。

 

 あとこれは貴族の一般教養だが、支援を打ち切られたら困る形で協力支援するのが普通ではないだろうか。例えば、ルーク皇子がガラス不足で困っていたと仮定する。こういう時、ガラス職人を貸し与えたりガラス製法の技術供与をするのは下策で、そんなことをすると領地内でガラス作りができるようになってしまい、支援を打ち切っても困りはしない。だから支援という名のもと、ガラス製品のみを割高で売り付けて、宝石やら蜂蜜やら織物やら価値のあるものを割安でせしめる。いわゆる植民地化である。

 それが出来ていなかった。支援を打ち切っても困らないどころか、支援なしに独立されているのだから。

 

 もしかしたら、ランカスター家は、あるいは近隣領主のモロー伯爵とガスターデン子爵は、それに近いことをやろうとしていたのかもしれない。

 支援の名のもと、鉄器類を割高で売り付けて、宝石やら蜂蜜やら織物やら価値のあるものを割安で買い取っていたのかもしれない。

 だが、事実皇子は独立した。モロー伯爵も、ガスターデン子爵も、ランカスター公も、支援を打ち切っても困りませんとばかりに領地を空に飛ばした。

 皇子を利権という首輪で繋ぎとめられなかったのだ。

 

「……ランカスター公よ。宰相の私あてに、ルーク皇子からの告発状が届いておる」

 

 ここにきて、帝国宰相は重い口を開いた。

 ルーク皇子は腐っても皇子である。なので宰相とも手紙を交わすことができるかなり偉い立場だった。

 

「皇子曰く、鉄器類を相場の倍以上の値段で買わされ、宝石やら蜂蜜やら織物やらの価値ある輸出物を半値以下の価値で売らされたと。……これが事実であれば、そなたらの領地が帝国に収める税は、少しばかり増やさねばなるまいな」

『お、お待ちを!』

 

 もともと、ジャヴァリ森林地域は治安が悪かった。魔物が跋扈し、盗賊団が根城を作っていた。専売制の砂糖、一部の貴族にしか鋳造権が認められてなかった金や魔銀、帝国法で禁じられている人身売買など、密輸が横行していた。

 その密輸の陰に隠れて私腹を肥やしているのではないか──とランカスター公ならびその一派は昔から噂されていたのだ。

 この皇子の告発状をきっかけに、過去の帳簿の数字も精査しなおすことで、もしかしたら皇室は、大量に財貨を押収できるかもしれない──と。宰相はこの皇子の置き土産をここで遺憾なく発揮した。

 

「よい、よい。ランカスター公。あとでゆっくり話そう。()()()()()()()()()()()()()()。そうでなくとも、あの地は大きく様変わりした。森がなくなったからな」

 

 宰相は、続けて皇子の報告書を読み上げた。

 怪我の功名というべきか、皇子の功績も誠に大なりであった。

 ジャヴァリの領地が消えたということは、ジャヴァリ森林地帯から人里に降りていた魔物たちや、あの辺を根城にしていた盗賊団が丸ごと全部消えたということ。

 魔物素材や森林の木材資源が取れなくなったことと引き換えに、治安維持に兵力を割かなくてよくなったといえる。

 

 他にも、土と荒れ地だらけの跡地は跡地で、どうやら地下の鉱石資源を採掘できることが分かった。

 これはこれで魔物が消えて安全になった分、開拓し甲斐がある土地に様変わりしたといえる。簡単に言えば、鉱業都市を新規に興せるということだ。

 幸いなことに、馬車道などは途中まで整備されている。モロー伯爵領地、ガスターデン子爵領地の範囲までは、馬車用の宿場町もある。

 魔物被害もあまり考えなくていいとすれば、地質調査次第ではかなり大きい利権に膨らむ可能性があった。

 

『鉱石資源!? そんな馬鹿な……』

 

 鏡越しに動揺している声が聞こえてきた。恐らくあの場所をきちんと検地できていないのだろう。あるいは皇子から「地下鉱脈の存在の可能性あり」の報告書を受領していないのか。

 いまだに一言も発声のないランカスター公の心中も察される。

 だが、会議はそんなもの関係ないとばかりに無慈悲に続く。宰相はそろそろ話をまとめにかかろうとした。

 

「皇子は、あらゆる鉱山利権を放棄し、一旦皇室に預けると署名付きで手紙をくれたわけだが──」

 

 もちろん、皇子のやり方が正しいわけではない。だが今、話の主役は皇子への沙汰ではなく、突如降ってきた大きな利権の話に移った。

 貴族たちは、利権の匂いに敏感な生き物である。

 そしてこの場の空気は、手の出しようがない上空にいる皇子への話ではなく、いくらでも利権に噛めそうなランカスター公家への責任を問う空気へと様変わりしつつあった。

 

 これを狙って手紙を宰相閣下に送ったのであれば、皇子は相当の食わせ者であるのだが──真相は杳として知れなかった。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

(……これで実家の承認とかもなしに、結婚も自由にできるわけだな)

 

 皇帝の血族なんて厄介なものである。こんなものがあるせいで、好きな人と自由に結婚することができないのだ。

 もちろん公権力にものを言わせて愛妾をとるという手段はあるのだが、そんなことをするぐらいなら、いらない継承権を放棄したほうがよほど話は早い。

 

 かくして、俺は無事円満に、実家追放と相成った。

 もちろん円満というには色々と語弊がありそうだったが、頭の中で描いていた大筋からは概ね外れなかった。

 

 

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