貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します 作:ナロウ・ケイ
「殿下!? なぜ、なぜ皇子という立場をかなぐり捨てようとしたのですか!」
「結婚しよう、ロナ」
「!?!?!?!?!?!?!?」
皇子という立場を捨てるという衝撃発言。
ルーク皇子が領主となり治めるこのジャヴァリの森で、皇子の真意を問いただすべしと臣下たちが激震に揺れる中、もう一つの特大爆弾発言が立て続けに投下された。
というより全部吹き飛んだ。
たくさんの臣下たちが、皇子の御心はいかに、と執務室に駆け込んできたその最中の出来事だった。
侍女たちの先陣を切って俺の真正面に立っていたロナは、真っ向から致死量の一発を食らって、総毛立って固まっていた。
「皇子の身分だと、結婚相手一人選ぶのにも自由がなくてね。そんなものはいらないから捨ててきた。どうだ?」
「あ、え、あ、はぁい……」
「はぁいじゃねえよちょっと待てや皇子!?」
魂が抜けたようになっているロナを他所に、今度は賢者キルケが舌鋒鋭く割って入ってきた。
「お前、皇子じゃなくなるってことかよ!?」
「そうだな。このまま俺が皇子を続けると、継承権争いに巻き込まれる可能性が僅かに浮上してしまって、いずれよからぬことが起こると思ってね」
血の繋がりと家格、生まれてきた順番、それらを元に法文書で厳密に定められる帝位継承権。その継承権の順位が、本人の資質という曖昧なもので揺らぎつつあるのが今である。簡単に言うと、ルーク皇子を担いだほうが帝国の未来は繁栄するのではないか、という考え方。
もちろん俺は、ある一面で有能だが飛び切りの問題児、という観点で賛否両論あった。否定的な意見が半分以上を占めていたものの、一割ほどはやや賛成という意見が聞こえたという。それ自体が問題である。いかに否定派が多くとも、賛成する意見が少しでもあること自体がよくない。内乱で国が割れる可能性があるのだから。
よって俺は辞退した。
完膚なきまでに、自分の継承権を自分の手で否定する形で。
「じゃあこの地の領主は……!」
「引き続き俺だな。だけど具体的な治世は、俺が関わる部分を大幅に減らす予定だ」
領主として領民たちに支持され、治世を整備して実効支配しているのはこの俺である。
一方で、皇帝陛下から譲渡された帝国の土地を勝手に強奪したという意味では何の法的正当性もない訳だが。
と、俺の回答のかなり危険な裏の真意を正確に汲み取ったのか、賢者キルケは目を丸くして唖然としていた。
「お、お、お前……! 帝国相手に反乱でも引き起こすつもりかよ……!」
「いや、多分起きない。
この件について、俺は宰相閣下と手紙を交わした。
宰相閣下は、俺の話が分かる聡明な方である。
今、大陸の力関係は、西方の星教国、北方の商業王国、南方の君主国、東方の帝国、の四つの勢力で出来ている。
例え話だが、仮に帝国がもしこんな間抜けな形で地方諸侯の造反と独立を許したとしよう。それは諸外国にとってどう目に映るか。もしかすると帝国は今、地方諸侯をまとめる力が存在しないのではないか──という疑念につながる。求心力を失い、諸侯の離反を防げないということは、兵力を迅速に展開したりできないということ。
もし疑念を抱かれてしまっては、四大勢力のうち、敵対している西方の星教国、北方の商業王国、南方の君主国、それら三勢力が同時に帝国への進攻の圧を強めてくるのではないか。帝国が弱っている今が好機とばかりに。
別に帝国は実際のところ弱体化はしていない。弱体化してはいないが、三勢力が手を結ぶ可能性があること自体が危険なのだ。
だが逆に、『皇子の功績誠に大なり』として、
今度は一転して、空飛ぶ領地をもつ俺そのものが、諸外国の脅威になる。
帝国から独立したとはいえ、帝国の息のかかったものが治める土地。それが今後、自由に空にやってくる可能性がある。
大軍を動かそうとすれば、上空からその動向は丸見えとなり、「敵国はどこどこの場所に陣地を作っている」という情報を伝書鳩などで伝えられる。
敵対する三勢力は、俺の存在を潜在的な脅威とみなし、帝国へ攻め入るのにより慎重になるであろう。
つまり、話の決着は半分見えている。
帝国は面子を大事にするがゆえに、皇子である俺を処罰できない──。
「まあ、この空飛ぶ領地は誰からも簡単に手出しできない聖域になったわけだ。多分俺は、皇子というか、小さな国の王扱いになるかも」
「わかりました、ルーク陛下」
「全ては陛下の御心のままに」
「あーちょっと早い、《
戴冠式も何もなしに、はい王様、という訳にはいかない。
俺の古くからの臣下である《
その一方で。
「……偉くなったってことですわよね! 出世ですわね!」
「……見事にござる、殿! 誠に天晴でござる!」
「……神の御名において、この晴れやかな日に祝福の在らんことを……」
「待て待て待てそうじゃねーんだ、帝国に攻め込まれないって保証がまだねぇンだわ」
四人の英傑たちは、賢者キルケを除いて祝福の雰囲気になっていた。何かちくりとくる痛みをこらえつつも、お祝いの言葉を精一杯送っているような雰囲気があった。
その傍らで賢者キルケだけが土気色の死にそうな顔をしていた。
「俺の妻になってくれるか?」
「──────」
お目目ぐるぐるのロナは、話に全くついていけないようで、先ほどから何の抗議の言葉も出てきてない。侍女たちの先陣を切って飛び込んできたということは、言いたいことが山のようにあったということだ。それが一言もない。奇妙なことである。
「……ワシゃあ一体、何をみせられておるんじゃ」
「ルークの旦那とロナはんへの祝福やろ? ええこっちゃ」
「どちらかというと死刑宣告じゃろ」
女番長ワヤと女商人アンシュのささやきが聞こえてくる。ひどい内容だった。死刑宣告って。俺との結婚ってそんな印象なのか。流石にちょっと凹む。
「……あの、殿下」
顔を赤くしたロナが。
死にそうな声で。
「……考えさせて、ください」
手で顔を覆いながら。
ふらふらと。
……………………。
…………。
ゆっくりと部屋を出て行くロナの背中を座りながら見送った俺は、思わず深いため息を吐き出さざるを得なかった。
俺とロナの間には、海よりも深い身分の差がある。血統を重んじる帝国貴族の常識において、その意味はひどく重い。
考えさせてほしい、という言葉。
即答ではなく、やんわりと、ということはつまり。
「……こいつは、振られちまったかもな」
「「「いやいやいやいやいやいや」」」
ちょっと元気が出ない。死刑宣告を受けたのは、ひょっとすると俺の方かもしれない。