貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します   作:ナロウ・ケイ

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貞操逆転世界の悪徳皇子と、空飛ぶ領地:第四章エピローグ④

『ジャヴァリの森林の奥、世界樹の場所まで一緒に来てほしい。……見せたいものがある』

 

 殿下の言葉に誘われて、ロナは森の奥に一緒に出掛けることになった。

 川の開拓工事、魔物化した樹林の伐採、食用茸や薬草の育成、家畜の養殖──森林の開発をそれだけ広域に進めてもなお、森の奥にたどり着こうと思ったら一週間はかかる。魔物の数はまだまだたくさんいるが、それでも一時を思うとずいぶん落ち着いた。こうして野宿を前提とした探索に出かけられているのは、水晶人形(クリスタルゴーレム)や、ワヤたちが魔物狩りを頑張ってくれているおかげである。

 命の危険があってはいけないということで最低限の護衛(ラネールとカマソッソ)はついてきているものの、今の頃合いで森の奥に呼ばれるのは何かしら意図があるように思われた。

 

(……結婚、でしょうか)

 

 ロナは物思いに沈んだ。

 

 未だに実感が沸かない。

 自分なんかが殿下と結ばれて幸せになっていいのだろうか、と。

 どうしようもない後ろめたさが拭えない。

 

 昔のことを思い返す。

 母上は自分を産んで死んだ。双子の妹がいたらしいが、産まれてくるときに死産になったという。

 自分は忌み子と聞いている。古き伝承に従い、赤き月が訪れるときに産声を上げた忌み子。

 そんな自分が、果たして殿下の傍にいてもよいのだろうか──。

 

(……私は、どうしたいのでしょう)

 

 森の世界樹──殿下が原罪(クリフォト)の樹と呼んでいるものが祭られている場所には、柱が複数本建てられており、しめ縄がされていた。柱は、太陽を象徴する霊鳥、雨を運ぶ霊魚、虹を食らう竜、月を食む狼、などを彩色して建てられた象徴の柱(トーテムポール)であり、過去の族長たちが彫った曰くつきのものである。

 柱には幟が結び付けられており、安全と繁栄を祈る紋様が織られている。この幟は、歴代の長老が織手となって補修を繰り返し、また新しい意味を追加して少しずつ長く広げていくものだ。

 

 中央の祭壇には、風の振動で鳴る木板の楽器。

 精霊たちに捧げる感謝と安寧の祈りの音楽を、永久(とこしえ)に奏でるもの。

 傍にある石板には、読めない古代文字がいくつか刻まれている。その石板は、()()()()()()()()()

 殿下曰く、この古代機構は「空を飛ぶためのもの」らしい。

 

 この場所は、森に暮らす全ての民の聖地。

 

「ロナ、見てくれ」

 

 殿下の手には、小さな花の冠があった。おそらくは、世界樹の傍にある淡く光る花を使った花冠である。

 朽ちないように、乾燥させた後に保存薬を塗って、焼いて固めたもののように見える。銀細工と宝石細工がなされており、ちょっとした宝飾品のようになっていた。

 

「これを作って君に贈ろうと思ってたんだ」

 

 そういって殿下は、そっと顔を近づけてきた。もしや口付けか──と身構えたが、その手は頭へと伸びて花冠をそっと乗せて終わった。

 

「もう皇子じゃなくなりそうだけど……どうか、俺と結婚してくれないか」

 

 今度こそ、口付けをするような予感があった。

 ロナは、目を瞑って少しだけ沈黙した。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「あ゛ー! お二人とも交尾してますわーっ!!」

「交尾言うなや」

 

 ジャヴァリ領地への食客として滞在している英傑たちは、領主邸宅に残って、森の奥に赴いたルーク皇子とロナたちに思いを馳せていた。

 もとい、家臣たちと一緒に晩餐会を行って、管を巻いていた。

 

「だってキルケぇ……あんな顔立ちがよくて、大金持ちで、領主で、強い殿方なんて……そんなの状況証拠が交尾って言ってるようなものでなくて!?」

「状況証拠って使い方あってるかそれ?」

 

 いつも酒をばかすかに飲んでいるのは聖人アナスタシアの役割だが、今日はちょっと様子が異なっている。

 英雄エイルも剣聖イオリも賢者キルケも聖人アナスタシアも、四人ともそれなりに深く酒が入っていた。飲まなきゃやってられない夜もあるということらしい。

 見ればルーク皇子の家臣団も、悲喜こもごもというべきか、いろんな感情で乾杯を行っている。

 それもそのはず、この度の晩餐会の趣旨が、ルーク皇子とロナの新しい門出に対する予祝なのだ。本人たちが森の奥から帰ってきてから本格的な宴に入るので、今日はまあ、今のうちに吐き出せる感情は全部吐き出しておけという会合にあたる。本人たちがいなくてもこうやって会が開かれるぐらいなのだから、二人の家臣たちからの人気は相当なものだとも言えた。

 

「ああ……ようやくロナさんの想いが報われるんですね……!」

「ええ、もう本当に、本当に長かったですね……」

「明らかに殿下から格別の恩寵を賜ってましたからね⋯⋯」

 

 お祝いの声がちらほらと。

 

「ロナの姉さん、殿下に殺されるんじゃないかな……大丈夫かな……」

()()()()()()()()()とすると、ここから先が怖いっスね本当⋯⋯」

「どうか殿下に人の心が残ってますように⋯⋯」

 

 心配の声もちらほらと。

 

「……妙でござるな」

「? どうしたんじゃ、おどれ。変なもんでも食うたか?」

 

 耳のいい剣聖イオリは、この場の微妙な違和感に気づいてしまったらしい。

 近くを通りがかったワヤが怪訝そうに声をかけると、剣聖イオリは少しだけ周りを見回してから口を開いた。

 

「ロナ殿が心配されているのは何故でござるか?」

「あー……」

 

 ほうかあ、おどれらは知らんじゃろうしなあ、とどこか遠い目で。

 どうやら英傑たち四人の知らない事情があるらしい。

 

「んー⋯⋯まあ、おどれら、(ボン)が魔石を食うとるのはしっちょるか?」

「有名な噂でござるな。でも、魔石には毒素がござろう? いくらあのルーク殿でも流石に⋯⋯」

「魔石を浄化するためにの、あやつ、女子(おなご)助平(すけべ)働いとるんじゃ」

「拙者、興味津々にござる」

 

 聞き捨てならない発言が出て、四人の英傑たちは色めき立った。

 女子(おなご)助平(すけべ)。あのルーク皇子の麗しい見た目でそれは、あまりにも事案が過ぎる。

 

「交尾ですわね! その特徴はもう完全に交尾ですのよ!」

「おい」

「以前何年も前にお泊りしたとき、遠くから仄かに嬌声が漏れ聞こえてきたって話! 繋がりましたわ! その特徴はもう完全に交尾ですのよ!」

「すまんがそこの姉ちゃん、もうちょっと魔石の浄化の特徴言ってくれ、うちのリーダーがちょっと悪い酔い方してやがるもんで」

 

 慌てて賢者キルケが口をはさんだ。

 酔いが酷いとはいえ、あらかた今の衝撃で吹っ飛んだとも言えた。

 

「ん、まあ、魔石の浄化は、純化された魔力で魔石を洗うだけじゃな。一人じゃできないから二人の魔力を使うんじゃ」

「あらー……その特徴は交尾と違いますわね、交尾は石なんか洗ってる暇ないですもの、あんな色男にがっつかないで石洗うのはもうそういう趣味の人しかありませんもの」

「じゃがなー、(ボン)が言うには、純化された魔力を作るにはお腹で魔力をぐちゅぐちゅに攪拌する下準備が必要なんじゃと」

「交尾ですわね! その特徴はもう完全に交尾ですのよ! お腹をぐちゅぐちゅに攪拌する下準備なんて、どんな教科書開いても交尾しか当てはまらないですもの!」

「ワシもそう思うたんじゃがな、(ボン)が言うには、協力してくれる女子(おなご)が足りないんじゃと」

「あらー……その特徴は交尾と違いますわね、あの色男の助平に協力してほしいなんて言い出したら朝昼晩ずっと人が途絶えるはずがないですもの、もうそういうお店でお金払ってでも懇願するやつですもの」

 

 酒の場とは不思議なもので、何故かは知らないが漫才が始まっていた。

 確か英雄エイルは女騎士の一家出身で、こんなあっぴろげな発言をそんなに乱発するような人柄ではなかったはずなのだが、深酒のせいか少々たがが外れているようであった。

 

「じゃがなー、(ボン)が言うには、嫁入り前の女性に恥をかかせたくないから一部の家臣だけに留めておるんじゃと」

「交尾ですわね! その特徴はもう完全に交尾ですのよ! 嫁入り前の女性が気にしなきゃいけない恥なんて、交尾関連でもなきゃ全部かすり傷ですわよ!」

「ワシもそう思うたんじゃがな、(ボン)が言うには、家臣たちも、毎日は絶対にやりたくないって言っとるんじゃと」

「あらー……その特徴は交尾と違いますわね、あの色男の助平なら、朝昼晩の三回おかわりに三時のおやつまでお願いするのが普通ですもの」

 

 それはお前の価値観だろ、と賢者キルケは内心で突っ込みを入れた。やはり英傑たちは精神も肉体も鋼で無敵すぎる。賢者キルケはそこまでの境地に至っていない。

 そもそも、話を総合するとぼんやりと見えてくるものがある。恐らくあの近侍のロナが心配されているのはつまり──。

 

「なあ、俺馬鹿だからよくわかんねーけどよ、その魔石の浄化ってやつ、受けた侍女たちはどうなった?」

「……おどれのような勘のいい馬鹿は嫌いじゃねえわの」

 

 当たった。

 賢者キルケは半分ぞっとした。

 

「安心せい。(ボン)も鬼ではないわ。純化された魔力を大量に練るからといって、ぶっ壊されるやつはおらん。ぶっ壊される奴が出てくるのはな、例えば罪人を懲らしめるときぐらいじゃ」

「へー加減によっては人がぶっ壊れるんだー、すごーい」

 

 安心できる要素が微塵もない。何だか恐ろしい話を聞いてしまった。

 

「いやでも、ロナって侍女は相当の傍仕えだろ? 格別の寵愛を受けてるんだから、ぶっ壊すことはねえだろ。なんで心配なんか?」

「…………。罪人が命乞いする水準が一として、あのロナが耐えておるのは三十倍から六十倍ほどじゃ。ワシも十倍ぐらいで泣いて詫びを入れた」

「あ、あ、すでにぶっ壊してる……」

 

 もう半分の恐怖が遅れてやってきた。殿下も化け物だが、ロナの方も相当の修羅ではないだろうか。

 

「これは噂じゃが……。その魔石の浄化、交尾しながらすると、効果が高まるんじゃと」

「えっ」

 

 どういうことだ、と頭が理解を拒んだ。

 賢者キルケは情報を咀嚼するのに時間を要した。

 

「……え、本当に、本っ当にあの二人、今まで交尾してなかったんだよな」

「そうじゃ」

「それもそれですげーけどさ……え、罪人が命乞いする水準が一なんだよな」

「そうじゃ」

 

 このワヤという臣下の女性が語るには、結婚するまでは肉体関係のない清い関係だったとのこと。

 それもそのはずで、帝位継承権の順位が発生するような身分の貴族がおいそれと子供を作るような真似をするはずがない。二人とも立場をきちんと弁えていたのだ。

 ところがもし、そんな帝位継承権などを気にせず、結婚さえも果たしてしまったとすればどうなるか。

 

「え、あ! 死刑宣告って、お前! そういう……!」

「……まあ、(ボン)は手加減するじゃろう。ロナの方が平気なふりしてとことんやせ我慢する可能性が高いがの」

 

 ぐびり、と果実酒を飲み干したワヤが、渋い顔で話を続けた。

 

「ちゅうわけでな、正室は一人でよいとしてな、早う他の女子を側室に見繕わんと死人が出かねんと、家臣どもは大騒ぎなんじゃ」

 

 それは、予祝の穏やかな雰囲気の晩餐会の空気が、いっぺんに違う雰囲気に感じられてしまうような情報であった。

 確かにところどころ、不穏な会話をしている様子がちらほら漏れ聞こえていた。だがまさか、そんな内容であったとは。

 

 領地は無事に天空を目指し、このジャヴァリの大地は新たな門出を迎える。そしてルーク皇子と近侍ロナは新しい関係に一歩進む。そうした喜ばしいことの陰に、苦労している人たちがいることを、英傑たち四人は改めて痛感するのであった。

 

 




 とても長く続いた領主編も、これにてようやく終わりです。
 内政物が好きなので、筆が乗って色々と描写が長くなってしまいました。読んでいて皆様が楽しめる章であれば幸いです。

 次からは冒険者編。移動する便利な拠点を手に入れた殿下が、まさかの冒険者を始めるというお話になります。

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