貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します 作:ナロウ・ケイ
四章の名前を変えました。
貞操逆転世界の悪徳皇子と、旋乾転坤の探索者稼業①
西方の星教国にて、女教皇ミカエリスは神託を賜った。
かつて星教国が邪教徒と認定し、大陸中に第一種異端指定を発布した危険思想集団──地下教団【魂の在処】が何者かの手によって崩壊したと。
「なるほど、あの夢の魔女が数百年かけて構築した儀典魔法を散逸してしまったと……皮肉なものよねー」
あの魔女は、名前をサルヴァと言う。
数百年もの間、ずっと
名前以外の情報は、誰も持ち合わせていない。あの魔女は、死人の身体に次々と乗り移り続けることで相貌を変えてしまうからである。
「いずれにせよ、死体を確認出来てないのと、【予言の書】の回収が確認できてない以上、妾からは第一種異端指定の終結宣言は不可能かあ……なーんか、中途半端よねー」
どこで手に入れたのかは不明だが、あの狂った魔女は、星教国が禁書として保管してきた【預言の書】を盗み出し、さらに一部を解読したとされている。禁書にはいくつか種類があるが、最も厳しいものの一つに、暗号化された文書を解読しようとすることさえ死罪にあたる特級禁忌指定が存在する。【預言の書】は星の運命を記載した、まごうことなき特級禁忌指定の古文書であった。
齎された朗報と引き換えに、事態の詳細は全く分からない。
女教皇ミカエリスはため息を吐いた。
「最後に足取りが確認できたのは帝国だったかしら? 東の帝国が情報隠蔽してないか、調査してもらおうかな。あいつらの《花園》には手を焼いてきたし」
この大陸には四つの大きな勢力が存在する。
北方の商業王国は、機械の国。
南方の君主国は、武士の国。
東方の帝国は、貴族の国。
そして、西方の星教国は、崇拝の国。
「本当余計なことする連中ばっか……しょうがないにゃあ……」
女教皇ミカエリスは、正装に着替えて演説の準備を進めた。この国は常に、崇拝がないと成り立たない。だからこそミカエリスは、積極的に人民のために姿を見せなくてはならなかった。
◇◇◇
「よっわ〜い皆のもの〜♡ 見返り大好き♡ ミカエリスちゃんだよ〜♡」
舞台に立った女教皇に、観客たちはペンライト──光る杖を振り回して色めき立った。
特殊な魔力塗料で加工されたこの杖は、観客たちの連帯感を高める効果がある。教皇の言葉に観客たちが呼応する、コール&レスポンスのやり取り。元々コール&レスポンスは、ゴスペル等の宗教歌をリードシンガーが歌い、合唱団や会衆が応答する儀式なのだから、宗教的に極めて正しい形式である。
「今日はぁ、妾の生誕祭に来てくれてありがと♡ 頑張って予定を空けてくれた人、奴隷根性丸出しでえらいぞ♡ 媚びるの大好き♡ 欲しがり欲豚♡ 予定が元々空いてた人もえらいぞ♡ 予定すかすか♡ いい年して暇人♡」
女教皇の罵倒は、ありがたい説法の裏返しである。司祭や牧師による説法とは元来、善悪の判断基準や、苦しみから逃れるための具体的な方法を示し、人々の倫理観や使命感を養う意義がある。
星教会の教皇の説法は、正しく人生の指針そのもの。
人々は罵倒に酔いしれ、熱狂した。
「今宵も皆の、なっさけな〜い雑魚雑魚脳みそ♡ 妾の
その姿は、まさに
崇拝の渦中にいる、空間の支配者。
迷える人々に希望と活力を与える存在。
「ほ〜ら♡ 祈れ♡ 祈れ♡ 負けろ♡ 負けろ♡」
教皇ミカエリスは、偶像の女王。
地上に降り立った、一番星の生まれ変わり。
◇◇◇
「東の帝国と西の星教国、互いの戦争回避のために、婚姻関係を結ぶことで互いの安全保障としたい⋯⋯だとさ」
それは、ロナに森の奥で
「相手は女教皇ミカエリス、
話を聞くロナの顔はすっかり青い。
元々、私なんかが幸せになってはいけないという思い詰め方をしていた矢先にこんな話が来ているのだ。やっぱり自分が幸せなんかになろうとしたからこうなるんだ、とばかりに暗い顔を作っていた。
「まだ帝国から、正式に声明発表してないんだけどな……。空を飛ぶ領地が出たって、こんな早く情報をつかめるもんだろうかね? 嫌がらせだとしたらかなり効果的だし、制空権という概念がない現状で空を飛ぶ利点にこの早さで気が付いて手を打てるなら相当やり手だな……」
女教皇からの求婚の手紙を受け取った俺は、当惑した。
はっきり言ってこの展開はちょっと困った。
俺の見立てでは、空を飛んだ領地が出てきたところで、しばらくは大陸中のどこの領地も事態を正確につかむことができず、なあなあで時間が過ぎると思っていたのだ。
時間が経つにつれて有用性が徐々に知られてきて、そこでようやくこのジャヴァリの地と交渉を行いたいという領地が出てくるのだろう、その時にはアンシュに考えさせていた保険商材もある程度形になっているだろう……という青写真を描いていたその最中。
まさか、いきなり絡め手に出て来るとは予想していなかったのだ。
「……断る理由は、普通はない、が」
俺がもしごく普通の貴族であれば、この話は断らない。
否、
この婚姻一つで帝国に利する影響は計り知れず、周囲の貴族たちからは絶対に結婚するよう圧力をかけられるだろう。
しかし──。
「⋯⋯どうしましょう、殿下」
「どうもしなくていいよ、俺たちには俺たちの考えがあるんだ」
寝台の上でしおらしくなっているロナを慰める。服は例によって着ていない。当然である。既に一線を越えてしまったのだから。
「わ、私が性欲に負けてしまったせいで⋯⋯国運を左右する大切な婚姻話だというのに、清らかな身の殿下の貞操を汚してしまって⋯⋯」
「そういやそういう価値観だったな」
元の世界の価値観に置き換えたら、他国の王に嫁ぐ令嬢が婚前に他人と性行為してたようなものである。当然、御法度どころの騒ぎではない。
本気で落ち込んでぽろぽろ泣いているロナを前に、俺は掛ける言葉に悩んでいた。性欲に負けたのはどちらかというと俺の方だと思うが。
「⋯⋯前途多難だな」
ちいさな精霊たち「昨晩はお楽しみでしたね」