機動戦士ガンダム Stellar Bless 改訂版を作成中 作:木星市民
「改修が20機しか終わってない」
「まーた、カイル様が荒れてるよ」
来たばかりのキールの街にはまだ冬の冷たさが残っていた。空気は鋭く、時折吹く北風が頬を刺すようだった。
しかし、日差しが徐々に強まり、凍てついた大地を暖め始める。木々の枝には小さな芽が顔を出し、春の訪れをそっと告げている。
現在は初夏の陽気が感じられる。日中の気温は上昇し、穏やかな風が木々の緑を心地よく揺らす。海岸沿いには新緑の香りが漂い、キールの街全体が植物の生命力に満ち溢れている。
「前線も近づいて来てるし、潮時かな」
ジオンは既にドイツへの侵攻は開始されており、ベルリンやニュルンベルクなどは陥落していた。キールにも次々と避難民や敗残兵などが集まって来ていた。
シュテルン軍はキールを始めとしたインフラや医療の支援をこの2ヶ月で行っており、市民の支持を獲得していた。
支援を行うシュテルンを横目で見ながら、カイルはグラウの地上及び海中での運用テストを実施。また、現在の主力機であるグラウⅡの改良型の作成に取り組み、完成させていた。
オケアノスのMS製造ラインを使い、機体改良と付随するパーツを生産しているのだが慣れない重力下での作業は効率は悪く、進捗が芳しく無かった。
更に毎日、呼んでない客が現れては時間を奪って行く為、カイルは荒ぶっていた。
「カイル様。申し訳ありませんがシュテルンまでお越しください」
「またか。めんどくさい」
オケアノスのクルーに言われ、グラウⅢでシュテルンで向かうと管制官からそのまま第一会議室に来て欲しいと伝えられ、カイルはため息を吐いた。
「我々に
「我々は連邦及びジオンに対して、中立を宣言し、両政府はこれを了承しております。また、我々が軍事行動をする場合は攻撃対象とされた際の報復行動のみです」
会議室の前に着くとエリック少将と
「失礼します」
「漸く来ましたか、シュミット殿」
毎日、艦艇とMSの提供を求めてくるベルリン基地の司令官。初日はキール軍港基地の司令官以外は来て居たが、第一艦隊のクルーが街の酒場で連邦軍に嫌がらせを受けていると愚痴を言った所、噂となった。
その噂を聞いたキール市民は連邦軍人の店への入店禁止などを行い、地味な嫌がらせを始めた。そして、連邦軍人たちは誉れ高き連邦軍の軍服を脱いで街に行かなければ、店にすら入れない状態になった。
「私が上にかけえ合えば、一サイドの中立など撤回されますよ。今からでも遅くはありません、兵器を提供しなさい」
「分かりました」
カイルが一言、告げると了承されたと思い、司令官と側近はニヤリと気持ち悪い笑みを浮かべた。
壁に備え付けられた通話機で、カイルは艦橋に指示を出す。
「お疲れ様。全艦に本日1800をもって、ドイツ行政区支援作戦の完遂とする。また、2100にはドイツ行政区内を出立する旨を通達して」
「貴様は提供を了承したのではなかったのか!?」
怒りに満ちた表情する司令官一行を気にせず、椅子に座り直すと徐にポッケから最中を開けると食べ始めた。
「はっきりと言いますね。この1ヶ月、脅迫まがいの要請をこちらは丁寧に断っていたんだ。さっきの分かりましたは、あんたらが現状を理解してないってことを理解したって意味です。
この後、うちの関係者に手を出したらお前らの頭の上にメガ粒子砲の降らせてやるから覚悟しろよ。おーい、お客様がお帰りだよー」
司令官が何かを言おうとしていたが、入ってきた陸戦隊により強制退室させられた。
「なんで途中から空気になってたんですが、エリック少将」
「連中と関わり合いたくないですからね。シュテルン軍の采配は私ですが、作戦の完遂を決めるのはカイル様の役割でしたので、私が口を挟む理由はございません」
「せめて、本音を隠して…少将……」
窓から外を見ると各艦から陸戦艇が発艦して行く。各地方に散らばったクルーを迎えに行く為であり、万が一備えてでもあった。
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「全艦点呼完了。欠員無し。移住希望者の乗り込みも確認しております」
「了解した。これよりキール軍港から進発し、上空に待機する分艦隊と合流し、大気圏離脱する。万が一がある第二種戦闘配置」
特にトラブルも無く、第一艦隊は再集合を果たしていた。帰って来た者の中には花束やバスケットを持っている者も多く、現住民との交流が良好であったと感じさせられる風景であった。
「キール軍港から入電。貴軍の支援に心からの感謝を、キール軍港基地司令官とのことです」
「貴軍の武運長久を願うと返電」
キール軍港の軍人とは良好な関係を築けていたシュミット軍は別れを惜しんだ。戦場では誰が死ぬかは分からない。
「あの人はいい人でした、是非生き残って欲しい限りです」
「そうですな」
エリック少将も名残惜しいのか、モニターに映るキールの街並みを見つめていた。そして、シュテルンは分艦隊と合流した所で、通信士が報告を上げた。
「キール管制所から連絡で1部将兵がミディアとセイバーフィッシュを奪い逃走。方角から予測するにこちらに向かって来てるとのことです。また、シュミット軍への攻撃の意思が確認された場合、撃墜されたし。責任は連邦軍にあると通信が来ました」
「大人しくしとけば良いものを。アストラにオービタルの出撃指示」
「エリック少将、俺も出るよ」
「かしこまりました。怪我完治した訳ではありませんので、十分にお気をつけ下さい」
エリック少将の言葉にカイルは左手を上げて、振る。
「なんか襲撃事件から皆が更に過保護になってる気がする。もしかして、出撃禁止とか言われんよなぁ。そうなったら、ストレスで死ぬ……」
シュテルンから出撃したカイルは器用に艦を足場にして、飛び回り、オケアノスに着艦した。
「忙しい所、ごめん。すぐに出撃するからLHBRを出して」
長距離用高出力ビームライフル通称LHBR。ミノフスキー博士との共同開発されたEパックを4つ内蔵しており、長射程かつ高威力を実現したビーム兵器である。しかし、1射で全Eパックを使い果たす為、実戦に向かないトンデモ兵器でもある。
カイルはLHBLを受け取ると、オケアノスから再出撃し、同じ要領で先頭にいるシュテルンまで戻った。
「試験で持ってきたけど、まさか実践で使えるとは連中にも多少の価値はあったな」
シュテルンの艦上で二ーリングの姿勢を取ると、交戦の知らせを待った。
「オービタルより連邦機、交戦意思あり。迎撃準備されたし」
「了解。全艦に通達、
コクピットに搭載されている長距離射撃用のスコープを引き出し、狙いを定める。
「乗り手が下手くそ過ぎて、セイバーフィッシュが可哀想だ」
スコープから映し出される映像には次々とセイバーフィッシュがオービタルに撃墜されており、護衛対象であるミディアは丸裸同然であった。
「射線を通達…完了」
カイルから通達を受け取ったオービタルたちがセイバーフィッシュを誘導し、射線がクリアになる。
「カイル・シュミット、目標を狙い撃つ!」
ミディアまで約3km。カイルから放たれた光の矢は夜空を照らし、目標まで駆け抜けた。
「ミディアの撃墜を確認。敵セイバーフィッシュは撤退して来ます」
「オービタルに帰投命令」
ヘルメットに内蔵してあるスピーカーから敵機の撤退が知らされ、カイルは空を見上げる。
「久しぶりの宇宙だな」
夜空は蒼かった。