機動戦士ガンダム Stellar Bless 改訂版を作成中   作:木星市民

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17話 その爺さん、危険につき……

「デッカイなぁ」

 

「そうだね。宇宙世紀以前に起きた4度の世界大戦で日本の軍需産業を支え続けた伝説的な企業だからね」

 

キールでの事件もあり、室内での会談を終えたカイルとレオンは陸戦隊を引き連れて、母の実家である佐藤邸に来ていた。

 

「レオン様、カイル様、御館様がお待ちしております。護衛の方々は3名のみ、お入り下さい」

 

「了解です」

 

佐藤邸の前では20名の陸戦隊と佐藤家に使える護衛20名が睨みあっており、お互いの厳つさでヤクザの抗争のような雰囲気が醸し出されていた。

 

3名と聞いた陸戦隊メンバーはジュリアン大尉と他2人がすぐに2人の後ろに陣取り、居残り組は車へと戻っていった。

 

「こちらです」

 

「ありがとうございます」

 

案内されて縁側を歩いていくと、目の前には四季折々の美しさを湛えた立派な日本庭園が広がっていた。苔むした石畳が優雅に曲線を描き、彩り豊かな紅葉が風にそよいでいる。

 

庭の中央には、静かに水をたたえる池があり、その水面には青空が映り込んでいた。鯉がゆったりと泳ぎ、時折、水面を跳ねる音が静寂を彩る。ししおどしの音が心地よく響き、庭全体に和やかなリズムを与えている。

 

「御館様、レオン様、カイル様がご到着致しました」

 

縁側を歩いていると案内役は立ち止まり、室内に声をかけた。少し間があり、障子の向こうから堂々とした低い声で中から入れと聞こえてきた。

 

案内役に促されて一歩踏み出すと、コロニーでは感じられない木の温もりと畳の香りが静かに漂ってきた。日本家屋特有の、心を落ち着けるような優しい匂いが鼻をくすぐり、緊張していた心が少しずつほぐれていくのを感じた。

 

「久しぶりだな。レオン、カイル」

 

「お爺様もお元気そうで何よりです」

 

和室の中にはこの屋敷の主である佐藤昭二、御歳74歳が待ち受けていた。小柄な体躯ながら、その存在感は圧倒的で、どっしりとした威圧感を放っている。

 

彼は落ち着いた手つきで和服を整えながら、煙管をゆっくりと口に運んでいた。煙がゆらゆらと天井に向かって昇り、彼の鋭い眼差しがこちらをしっかりと捉えていた。

 

「まぁ、座れ。飯の準備をさせる」

 

「「失礼します」」

 

彼の鋭い眼差しを受けながら、対面に準備された座布団に座るよう促された。座ると、静かに襖が開き、女中たちが次々と豪華な和食を運んできた。

 

漆塗りの膳に、色とりどりの小鉢が並べられ、湯気の立つ味噌汁の香りが漂う。中央には、見事な尾頭付きの鯛の焼き魚が堂々と置かれ、その香ばしい香りが食欲をそそる。

 

刺し身の艶やかな色合いに、炊きたてのご飯がふっくらと盛られている。美しく盛り付けられた料理が次々と並べられ、その一つ一つが丁寧に準備されたものであることが伝わってくる。

 

「「「いただきます」」」

 

一口目を口に運ぶと、炊きたてのご飯の甘みが口いっぱいに広がった。ふっくらとした粒がほろりとほどけ、噛むごとに旨味が増していく。

 

尾頭付きの鯛の焼き魚は、外は香ばしく、中はふっくらとしていて、豊かな潮の香りが広がる。刺し身は新鮮で、口の中でとろけるような食感だ。

 

味噌汁の優しい風味が全体を包み込み、心がほっと温まる。どの料理も丁寧に作られており、一つ一つが贅沢なひとときを演出している。

 

「箸も綺麗に使えているな。教えたのは桜か?」

 

「はい。母上から教わりました」

 

その後、祖父から何か聞かれることは無く、部屋の中は静寂に包まれ、食事をする音だけが響いていた。箸が器に触れる小さな音、汁物をすする音、そして鯛の身をほぐす時に立てる微かな音。

 

それぞれが静かに、心地よいリズムを刻んでいる。誰も言葉を発さず、料理を味わうことに集中するひととき。外の風が障子をかすかに揺らす音が、さらに静けさを引き立てていた。

 

食事が一段落した頃、若い女中が静かに近づいてきた。彼女はにこやかに微笑みながら、丁寧にお辞儀をして言った。

 

「おかわりはいかがですか?」

 

「あっ……お願いします」

 

その声は優しく、心地よい響きを持っている。彼女の手には、炊きたてのご飯がたっぷりと入ったお櫃が抱えられており、湯気がほのかに立ち上っている。

 

彼女の姿を見た瞬間、どこか懐かしさが胸に広がった。まるで過去に出会った誰かを思い出すような、不思議な感覚だった。柔らかい笑顔と落ち着いた仕草が、昔の記憶を呼び起こしているように感じられた。

 

「沢山食え。特にカイル、お前は兵士だからな身体をデカくしろ」

 

「うん、爺様」

 

食事が終わると、静かに箸を置いた。女中たちはすぐに動き始め、手際よく片付けを始めた。器を一つずつ丁寧に重ね、静かに膳から下げていく。彼女たちの動きは洗練されており、無駄がない。

 

さっきまで賑わっていた膳が、あっという間に元の整然とした姿に戻っていく様子を見ていると、食事が終わったという実感が湧いてきた。最後に若い女中が微笑みながら一礼し、静かに襖を閉じた。

 

「8年ぶりか」

 

「ジュピトリス級の引き渡しの時ですね」

 

「儂も歳をとった」

 

 

食事が終わり、静かに片付けが済むと、部屋のあるじは手元に煙管を取った。火をつけ、一息吸い込むと、ゆっくりと煙が立ち上る。昼下がりの柔らかな日差しが窓から差し込み、部屋を穏やかに照らしている。

 

目の前には、すっかり大きくなった孫が座っている。孫の表情や仕草に若い頃の娘の面影が重なり、懐かしさが胸に広がった。あの頃の娘の笑顔を思い出しながら、時の流れをしみじみと感じる。

 

煙管を持つ手を見つめると、かつての力強さが少しずつ失われていることを実感した。指先に感じるしわの感触が、これまでの歳月を物語っている。

 

「かつては世界一の会社だと胸を張って言えたが、巨大な流れには勝てず、祖国のためとはいえ宿敵に頭を下げ、物を恵んで貰う始末。祖先に顔向けできん」

 

そうつぶやくと、昭二は煙管の灰を静かに落とした。しばらくの沈黙が部屋に満ちる。

 

「しかし、誰かが泥を被らなければ、物事が進まず、尊い命や生活が奪われてしまいます。私はお爺様の選択を誇りに思っております」

 

孫の言葉に、祖父は再び煙管を口に運び、深く息を吐き出した。柔らかな煙が空中に漂い、昼下がりの光に溶け込んでいく。心の中で何かが少しだけ軽くなったように感じながら、静かに目を閉じた。

 

「支援の件、ヴィクターに感謝すると伝えてくれ。後、済まなかったと」

 

「私がお爺様のお気持ちをしっかりと父上にお伝えします」

 

目を逸らさず、堂々と己の意思を言うレオンの姿を見ながら、昭二は心の中で静かに微笑んだ。孫の成長を喜ぶ気持ちが溢れていたが、これまで距離を置いていたことに対する後悔も胸に広がっていた。

 

もっと早く心を通わせる努力をしていればと、祖父はふと考える。しかし、そのわずかな距離感が今はお互いを理解し合うための大切な時間だと感じていた。そして、空気と同化しているもう1人の孫に声をかける。

 

「おい、カイル。お前は借りてきた猫如く、大人しいのだ?」

 

「ふぁ!? えぇっと、爺様と兄様が大切な話しをしてるから、邪魔しないように黙ってようかと……」

 

「シュミット家の慣習からすれば、お前も兄を手助けする為に何処かの長になるだろうに。興味が無いことには、集中しないのは桜の悪い癖じゃった。たが、お前は………」

 

急に話を振られ、説教が始まり、カイルは初めての経験に戸惑いを見せていた。

 

彼はあまり怒られるという経験が前世から通して、あまり無い。自分のやりたいことをする為に邪魔なことは先に処理し、十分に時間を確保するからである。

 

手のかかならない子や要領が良い子と評価され、他人から放置されることが増える。更にはシュミット一族という立場と幼少から成果を出しているカイルに注意や説教を出来る者は極僅かである。

 

「何を笑っているのだ?」

 

「爺様が想像以上に俺のことを気にしてくれていたんだなと思って、嬉しくなりました」

 

昭二はカイルの真っ直ぐな言葉に恥ずかしくなり、顔を赤くした。カイルにとって、説教や注意は好き嫌いの感情を別にして、自分をよく見てくれている証拠であり、嬉しいのだ。

 

「……まぁいい。ところで童貞(性的な意味)は捨てたのか?」

 

「はい。童貞(殺し的意味)は大分前に捨てました」

 

昭二は少しからかってやろうと聞いたら、想像以上に進んでいる孫に。そのような関係になった人物が居る弟に。2人は度肝を抜かれた。

 

「カイル、お兄ちゃんはそんな話を聞いてないよ? 何処の誰だい? 屋敷のメイド? 軍やファクトリーの関係者? 博士? もしかして、フランかい?」

 

「兄様、落ち着いて。仲間や兄様の婚約者を殺せる訳ないでしょ? サイコパスじゃあないんだから」

 

「「?」」

 

訳の分からないことを言いながら詰め寄ってくる兄を止めて、カイルは否定すると少し間が生まれ、2人は同時に首を横に倒した。

 

それを見ていた昭二はカイルが考えている童貞の意味を理解し、声を堪え切れずに笑ってしまった。

 

「カイル、お前はシュミットの血より我ら佐藤の血が強いようじゃな。レオン、こいつが言った童貞は殺しの方の意味だ。齢15にして、性的な意味ではなく殺し的な意味で解釈するヤツがいるか」

 

「取り乱しました、申し訳ありません。カイルにはもう少し世間一般の知識を学ぶように手配いたします」

 

「えっ!? 俺、常識あるよ?」

 

カイルの反応を見て、更に昭二はゲラゲラと大きな声で笑ってしまう。最初の威圧感などは無くなり、少し口調が荒い好々爺になっていた。

 

「2人は和菓子を食べるか? まぁ持って来させる。おい、茶と菓子を頼む」

 

「かしこまりました」

 

昭二は外に控えていた女中に少し早めの3時のおやつを思って来るように言った。程なくして、和やかな和室に女中たちが静かに足音を忍ばせて入ってきた。

 

彼女は丁寧にお盆を運び、そっと卓上に置く。お盆の上には湯気を立てる緑茶と、美しく整えられた最中が並んでいる。

 

女中は一礼し、慎重に湯呑みを差し出した。緑茶の香りがふわりと広がり、部屋中を包む。続いて、最中をそっと置き、その姿勢には長年の経験が感じられた。

 

緑茶をひと口飲む。程よい渋みが口に広がり、心が落ち着く。続いて最中を手に取り、口に運ぶと、皮のパリッとした食感としっとりとした餡の甘さが絶妙に広がった。茶の渋みと最中の甘さが見事に調和し、至福のひとときが流れていく。

 

しかし、他の女中は和室を退出したがカイルの緑茶と最中を運んで来た若い女中だけはカイルの横に笑顔で居続けていた。

 

「椿もカイルを気に入ったみたいだな」

 

「はい、とても。ご飯や最中を食べている姿が大変可愛いくて、沢山食べさせたくなります」

 

椿と呼ばれた若い女中は当主である昭二の方を向かずにカイルから視線を外さず、答えた。カイルも食べている姿をずっと見られているのは恥ずかしく、小さくなっていく。

 

「国家間の戦争というのは戦術や用意された兵器などの多くの要素が絡み合い、勝敗が決まる。しかし、一兵卒の戦いは勝利条件は生き残ることだけだ。

 

そして、生き残るのに重要なのは、愛する人が居る帰るべき家だ。カイル、新しい兵器であるMSを巧みに操り、お前が挙げた戦果を儂も聞いておる」

 

突然、戦争について、語り出した昭二を三人は黙ってを見ている。そして、間を空けて、カイルに問いかける。

 

「本音を言ってみろ、カイル。お前はサイド9(祖国)やシュミットの為に戦っていないのだろ? 自分が作った物がどのくらい通用するか、己の手で確かめたかっただけだろ?」

 

「…………はい、そうです。俺は自分が作った艦やMSがどのくらい通用するのかを確認したくて、戦いに参加していました」

 

「そうだろう、大義などは後付けの理由でしかない。儂らのような人種は好奇心だけで動いてしまう」

 

「待ってください。カイルは遺族や負傷兵の保障を拡大したりして、寄り添っています!」

 

「自分が作り上げた物が他の物より劣っていたから、被害が出たのだ。その被害を補償するのは当たり前であろう。

 

家族が居る兵士はさっき言った通り強い。家族が待つ家に帰る為に生き残ろうと死力を尽くすからな。では、そのような兵士は次は何を考える?」

 

昭二の雰囲気が変わった。背筋を伸ばし、目に鋭い光が宿る。声には先程とは異なる重みが加わり、部屋の空気が一変する。

 

レオンはその変化に驚き、思わず息を呑んだ。祖父の言葉には確固たる信念があり、その圧倒的な存在感に圧倒される。

 

「己が死んだ後のことだ。もし、死後に家族が十分な稼ぎに無く、飢えたらと兵士が考えたら軍を辞めて、一般企業に就職するだろう。

 

そうなったら、兵士が居ないのに兵器を作る意味がない。結果的には軍事費は縮小され、新型兵器の開発なんて以ての外だ。

 

だが、死後も十分な金が家族に支払われるとしたら、兵士は喜んで続けるだろう。忠誠も上がり、軍の規模は拡大し、軍事費も上がる。新型兵器も十分な資金を得て、開発出来る。

 

カイルはこの独立戦争がスペースノイド独立の機運になり、ジオンが滅びようと戦乱が続くと考えているのだろう。

 

シュミット軍は宇宙開拓を支えてきた誇りもあって、シュミット家に忠誠を誓っている。しかし、今後は忠誠を金で買う時代に備える為に制度を変えた」

 

「その通りです」

 

昭二は獰猛な笑みを浮かべ、嗤う。その表情は決して、孫に向けるものでは無かった。彼の視線は遠く過去を見つめ、かつての出来事を思い出しているようだった。

 

「造船業を営んでいた佐藤家は当時の当主が第一次世界大戦時に見たドレッドノート級戦艦に惚れて国産弩級戦艦を作り上げた。そして、その弩級戦艦が他国の艦船に通用するか気になった当主は息子を海兵に仕立てあげて、性能を確認させた。

 

カイル、お前はシュミットの血より佐藤の血が強いのだ。儂が望んだ者がこのタイミングで、シュミットの人間として、産まれてきたのだ」

 

カイルを見つめる瞳には、愛情と悔しさが複雑に入り混じっていた。望んだ能力を持ちながら、手の届かない存在となった彼がシュミット家で活躍する話を聞くたびに、無力感と嫉妬が胸を締めつける。

 

大きな流れに抗えない運命に対する失望も隠せず、愛しい孫を手に入れられないジレンマに苛まれているのだった。

 

「儂からお前に呪い(・・)をくれてやる。そこの椿を連れて、宇宙に帰れ。部屋に戻る」

 

「かしこまりました、御館様」

 

椿は昭二が和室の障子が閉まるまで頭を下げ続け、閉まる音が聞こえると体勢を戻し、カイルと向き合い、手を握った。

 

「これからよろしくお願い致します、旦那様(カイル様)!」

 

昭二も椿もカイル達の話を聞かずに事を進めていく。すぐに和室まで案内してきた女中が迎えに来た。

 

また、日本庭園を眺めながら縁側を歩いていくが来た時は違って、祖父の心情を体現するように儚く寂しげに見えた。

 

「カイルはお爺様が言ったことを肯定していたけど、私はそう思わない。君が楽しみながらMSを作っているのは事実だが、これまでの戦いで戦死した人を思って、悔しそうに泣いていた姿は本心からだった。

 

もし、カイルが間違った道に進もうとしたら、私は君を殴ってでも止めてみせる。お兄ちゃんだからね」

 

「ありがとう、兄様」

 

カイルは疲れ切った体を後部座席に沈めた。窓の外には、少しずつ色あせていく夏の景色が流れている。遠くの空はオレンジ色に染まり、夕日が山の向こうへと沈んでいく。

 

車内には、隊員が選んだ落ち着いた音楽が静かに流れている。少し冷たい風が窓の隙間から入り込み、心地よい涼しさをもたらしてくれる。彼は目を閉じ、日中の喧騒と疲労を忘れようとする。

 

エンジンの穏やかな振動が、まるで子守唄のように彼を包み込む。頭をレオンに預け、彼はふとした瞬間に訪れる静かな安らぎを味わいながら、ナイトフォール(我が家)へと向かっていた。

 




舞鶴とは言えば舞鶴鎮守府、舞鶴鎮守府と言えば提督、提督と言えば鎮守府に提と【パァン】………

もし、よろしければ、お気に入りやしおり、評価、感想をして頂けると私が物凄く喜んで続きを書きまくります笑

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