機動戦士ガンダム Stellar Bless 改訂版を作成中 作:木星市民
「分からん」
カイルは先日の戦闘ログを見直していた。更に僚機やサラミスに残されていた映像も合わせて見ているが、疑問が尽きない。
「急に現れたザクはバズーカを撃つまで、熱源すら無かった。でも、あそこで止まるを予測したような長距離からの狙撃。あのザクのパイロットもニュータイプか?
後は僕の身体の異変かぁ。精密検査も異常が無かったし、どうしたんだろう」
史実でもニュータイプのパイロットは数人する。たまたま、シャアと同じ部隊に居ただけかも知れないと考えるが何故か違和感を感じていた。
また、戦闘後に体調というより感覚に異常な感覚が現れている。艦隊のレクレーションでサッカー、バスケなどを行ったが全選手の位置把握、行動の先読みなどカイル自身も身に覚えの無い能力に困惑していた。
「はぁ、ニュータイプ能力って常時発動なのか? 気持ち悪い。サイコミュ兵器のテストパイロットを自分が出来るから良いけど、一般人からしたら地獄だなこれ」
機動戦士ガンダムに憧れた者として、己にニュータイプ能力があるのは嬉しい。シャアやアムロを筆頭した
「ミノフスキー博士から実験の報告書が来ていたな。ビームライフルとエネルギーパックは完成間近、ミノフスキードライブについては現状維持か」
山積みになっている書類を仕分けいると、ドアをノックする音の後にレオンが入ってきた。
「カイル、外で晩御飯を食べないかい?」
「良いですね、兄様! 行きましょう!」
カイルとレオンは使用人に晩御飯をいらないことを告げ、2人仲良く、外に出た。
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「こんな所にカレー屋なんて出来ていたんですね」
「だね。部下たちの評判が良くて、来たいと思ってたんだよ」
カイルたちが住むコロニーはシュミットファクトリーの工廠があり、大半が立ち入り禁止エリアとなっている。たが、工業関連の資料館などがあり、数は少ないが観光客向けの店もある。
「屋敷の料理は美味しいんだけど、ドイツと日本の食事ばかりだしたまには本格的なカレーとかを食べたくなるんだよね」
「僕たちのアイデンティティですからねー」
シュミット財閥の母体はドイツにあった重工業の会社であった。宇宙進出を考えていた所、技術力があった日本企業の結城工業を買収しようとした。
買収まで後一歩の所で社長や会社が変わるなら退社すると社員の大半が辞表を出し、抗議した。会社自体では無く、技術力が欲しかったシュミット社は頭を悩ませていた。
だが、事態は好転した。交渉に参加していたシュミット社の長男と結城社の長女が恋に落ち、会議の場で交際を宣言した。
抗議していた社員もお嬢の旦那の下なら喜んで働くと言い、その後はスムーズに結城社はシュミット社に吸収された。
宇宙進出及び資源開発は圧倒的な技術力のおかげで世界を出し抜き、現在のシュミットコーポレーションを作り上げた。
そのこともあってか、シュミット一族の食卓には決まって、ドイツと日本の料理が必ず並ぶ。
「申し訳ありません。現在、満席でして相席をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「私は構いませんよ、カイルも良いかい?」
「僕も良いよ。閉店時間も近いし、しょうがないよ」
ウェイターがカイルたちに相席を頼み、2人が了承すると礼を言い、男女を連れてきた。
「…………………」
「お食事中にお邪魔してしまい、申し訳ない。彼女にここのカレーを食べて欲しくて、店にも無理を言ってしまった」
「いえいえ、どうぞお座り下さい」
レオンが金髪碧眼の青年と褐色肌の少女を招き、座らせた。カイルは現れた人物に驚き、見つめたままカレーを掬ったナンを空中で止めてしまった。
「どうした? カイル?」
「う、うん。急に美男美女が現れたからビックリしただけ」
「嬉しいことを言ってくれるな。出来ることは少ないがデザートくらいは奢らせてくれ」
金髪の青年はカイルの横に座り、褐色肌の少女はレオンの横に座った。カイルの背筋には嫌な汗が流れ、フォークを3人の目を盗んで隠した。
「お名前は?」
「エドワウ・マスで彼女はララァ・スン」
「私はレオン・シュミットで彼は弟のカイル・シュミットです」
「シュミット? これは本当に失礼なことをしてしまった」
「私たちは分家ですから、気になさらないで下さい」
レオンとエドワウはにこやかに話を続けていく。シュミット家でユウキを名乗るのは直系のみに許されている為、誘拐や暗殺の防止で初対面の相手にはフルネームでは名乗らない。
「エドワウさんはプログラミングをしてるのですね」
「おかげで旅をしながら、働くことが出来ています」
仕事の話や趣味の話で2人は盛り上がっていく。カイルはカレーを口に運ぶが全く味がせず、護衛隊を呼ぶか迷っていた。
「少し席を外しますね」
「はい」
話の途中でレオンがトイレに行ってしまった。そこでララァが口を初めて開いた。
「私たちは本当に観光で来ました。ですので、そんなに怯えないで下さい。カイルさん」
「どうしたんだ、ララァ? 急に現れた初対面の相手なんだ、緊張も怯えもするだろう? なぁ、カイル君」
急にカイルに話しかけたララァの行動を困惑しているエドワウはカイルに同意を求めた。
「顔を合わせて、話すのは初めてですが初対面ではありませんよ、エドワウさん。いえ、シャア・アズナブルさん」
「ほう、私を知っているのか。初対面では無いということは、戦場、シュミットの軍と交戦したのはミノフスキー博士の件。ということは第一艦隊の
「想像にお任せしますよ」
「ふむ。だが、私たちはサイド9の偵察でも博士の暗殺の為に来た訳ではない。戦争の前のバカンスに来たのだよ。あの時、神がかった動きを見せたMSに興味を持ってな」
2人の間に嫌な空気が流れていく。カイルは隠したフォーク、シャアはテーブルにあるナイフに手を置いてある。
「……凄く雰囲気が悪くなっているね? トイレに行ってる間に何があったの、カイル? 」
「……」
黙り込んでシャアから目を外さないカイルを見て、愉快に笑った。
「あれ、エドワウさんの本名がシャア・アズナブル中尉でジオンの将校って分かって、険悪になった感じ?」
レオンが指をパチンッと鳴らすと店に居た他の客が立ち上がり、シャアとララァに銃口を向けた。
「兄様、知っていたんですか?」
「うん。中尉がこのコロニーに入った段階で要注意人物として、マークしてるよ。愛おしい弟を殺そうとした相手だよ? なんかしたら、そのまま拘束して、行方不明にするつもりだったしね」
今度はシャアから嫌な汗が流れ始めた。シュミット家の情報網や監視体制を舐めていた。しかし、後悔しても遅い。今は無事にこの場から帰還することしか考えていなかった。
「エドワウさん、明日の朝イチの便で帰るなら見逃します。貴方と話していて楽しかった」
「ご好意に甘えて、帰らせていただく。レオン氏との話は私も楽しかった」
シャアとララァは立ち上がり、レジカウンターに食事代を置くと、出入口の前で立ち止まった。
「カイル君、1つ聞いても良いかね?」
「はい、何でしょうか?」
シャアはカイルの方に向き直し、質問をぶつけた。
「ジオン・ズム・ダイクンが唱えた新たな人類とは、どのような存在だと考えるかい?」
「それは、単なる人間の進化の一形態だと思います。ザビ家が主張するような選ばれた存在ではなく、環境に適応した結果としての人類です。
歴史を振り返れば、人類は常に環境に最も適応した者が生き残るという過程を繰り返してきました。
では、宇宙に住む人類だけが特別に進化しているのかと言えば、僕はそうは思いません。人間とは、2つの遺伝子が交わり、新たな生命を生み出す存在です。
その営みの中で、進化は続いています。だからこそ、ジオン・ズム・ダイクンのニュータイプ論は、ザビ家が特権視するような神秘的なものではなく、人類の当たり前の進化の帰結なのです」
「君は年齢を詐称してないか? まるで大学の教授と話している気分だ。だが、ありがとう。戦争からお互い生き残ったら、ゆっくりと話したい」
「僕も貴方と話してみたいです」
シャアは一瞬、カイルの答えに驚いていたがすぐに笑い、不確かな約束をして、ララァと共に人混みに消えて行った。
「カイルの年齢詐欺については、エドワウさんの同意だね。もっと兄に甘えて欲しい」
「……疲れました。僕たちも屋敷に帰りましょう」
カイルたちは会計し、護衛と共に屋敷と帰った。その道中でカイルは手を胸に当てて、自分の知らない気持ちがあることに気づいた。
(何故、僕はララァが生きていることに驚き、喜んでるんだ)
カイルからしたら、この時期にララァが生きてることは知ってるのは当たり前なのだ。ララァが死ぬのは一年戦争の終盤である。
カイルは困惑しながら屋敷に帰るとすぐに感情を押し殺し、眠りについた。その日の夢は前世の記憶であった。
「嬉しいそうですね、中尉」
「あぁ、嬉しい。彼と戦うことや戦後の楽しみも出来た。しかし、シュミット家への警戒を引き上げることを報告しなければならない」