ウマ娘プリティーダービー ~Your name.~ 作:ミヤフジ1945
朝、目が覚めると、なぜか泣いている。
そういうことが、時々ある。
見ていたはずの夢は、いつもなぜか思い出せない。
あとすこしで、思い出せそうななにか。
しかし、
思い出せそうななにかは、わからずに、
ただ…………
ただ、なにかが消えてしまったという感覚だけが、
目覚めてからも長く、残る。
ずっとなにかを、誰かを探している。
そういう気持ちにとりつかれたのは、
たぶんあの日から。
あの日。星達が降った日。
それはまるで……………
まるで、夢の景色のように。
ただひたすらに、美しい眺めだった。
⏱
懐かしい声と匂い、愛おしい光と温もり。
僕は大切な誰かと隙間なくぴったりとくっついている。離れがたく結びつき、暖かな母の胸に抱かれた乳呑み児の頃の様に、不安や寂しさなんてかけらも無い。失ったものなんて未だヒトカケラだってなく、甘く穏やかな気持ちがじんじんと体に満ちている。
そうしてふと、目が開く。
見慣れた天井。
部屋、朝。
ひとり。
東京。
…………あぁ、そうか。
夢を見ていたんだ。そうひとり呟いて、俺は乱暴にベッドからこの身を起こした。
そのたった数秒ほど間に、さきほどまで俺を包んでいたあの温かさと一体感はとうに消え失せている。跡形もなく、余韻すらも無い。その余りの唐突さに、ほとんど何も思う間も無く自然と涙がこぼれていた。
朝、目を覚ますと何故か泣いている。こういうことが俺には、時々あるのだ。
そうして何故か、見ていたはずの夢は、いつもいつも思い出せない。
アタシは涙をぬぐった右手を、じっと見つめる。人差し指に乗っかった小さな水滴、ついさっきまで見ていたはずの夢も、目尻を湿らせていた涙も、もうすっかり乾いてしまっている。
とても大切な物が、かつて。
この手に。
…………だめだ、分からない。
アタシは諦めてゆっくりとベッドから降りて、未だ寝ている隣人を起こさぬ様に部屋を出て洗面所へと向かう。パシャパシャと顔を洗いながら、何故か不味い隣の美浦寮よりもマシなはずのこの水のぬるさと味にかつて驚いた事があった様な気がして、じっと鏡を見る。
どこか不満げな顔が、鏡の向こうから問いかける様にアタシを見返している。
俺は鏡を見つめながら、何時からか伸ばし始めた髪を結う。そして着慣れない春物のスーツに袖を通す。
アタシはようやく着慣れはじめたパジャマを脱いで、着慣れたジャージを着る。
俺はアパートのドアを開けて、
アタシは静かに寮の玄関を閉める。目の前には、
ようやく見慣れて来た、東京の風景が俺の前に広がっている。かつて山々の峰を自然と覚えていた様に、今ではいくつかの高層ビルの名前を俺は言える様になっていた。
アタシは人のいない校門を抜け、ゆっくりと準備運動をして、
通勤電車に俺は乗る。ドアに寄りかかって、ゆっくりと流れて行くこの街の風景をただただ眺める。ビルの窓にも、走る車にも、歩道橋やウマ娘の専用レーンにも、この街には人とウマ娘で溢れている。
ぼんやりとした、花曇りの白い空の下で。走るウマ娘、百人が乗った車両、千人を運ぶ列車、そしてそれらが結んでいる万人が営むこの街。
気がつけば何時もの様に、そんな街並みを眺めながら。
俺 は 、
誰かひとりを、ひとりだけを、探している。
アタシは、
ウマ娘プリティーダービー
~Your name.~