【Acropolis】狙撃手の弟   作:へへへへへへのへ

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邂逅

結局、その後シノンの弟に関する話題に触れることはなく、俺たちは三時間ほど課題を進めたのち、太陽が完全に沈み切る時間帯になってきたため俺たちはダイシー・カフェに料金を支払い店を後にした。

あれだけ美味しい料理を沢山頼んだのに、友達料金とやらで俺の財布から野口様が2枚消えた程度で済ませてくれるSAO時代からの友人の太っ腹加減にはなんとも頭が上がらない。

 

「さてと、帰るか。俺とスグはユウキを送ってから行くけど、アスナとシノンは?」

「私は今日ちょっと無理言って門限伸ばしてもらってるから、早めに帰るよ。ごめんね、ユウキ。またね」

「全然気にしないでいいよ~、今日分かんないとこいっぱい教えてくれてと~~っても助かった!また遊ぼうね、アスナ!」

「アスナを1人で帰らせるのもあれだし、私はアスナと一緒に行くわ。みんな、またね」

そう言って、俺スグユウキ、アスナシノンと言ったように別れ、帰路に着く。アリスは一足先に、神代博士の迎えによる車で帰った。この後もAIの人権活動のためのパーティに参加、と言っていた。本当にすごい。

 

AIDS---そんな死の病であり、前例には完治した記録がないとされる強大な病気が奇跡的に完治し、俺たちと同じように帰還者学校に通っているユウキは今、病院があった横浜にてかつての担当医師である倉橋先生と一緒に生活をしている。

家族の中で自らだけが完治したはいいものの、身よりも住処もなくなってしまったユウキに対して倉橋先生が提案したのは「自分たちの養子になってみないか」というものだった。

様々な事情で願望はあったが子宝に恵まれることがなかった倉橋先生の独りよがりのエゴのお願いだ、と彼は言っていたが、その瞳はユウキを案じるものでしかなかったのが今でも鮮明に思い出せる。当然、ユウキの返事は即刻OKだった。

帰還者学校はSAOサバイバーのために作られた学校であるため、MMOプレイヤーと言えどそれ以外の人物が入学することは特例ではあったが、ユウキが病気で寝込んでいた3年間以上はMMOで過ごしたことがSAOサバイバーの近況と何ら概ね変わりは無いこと、前途ある若者に期待をするだとかなんだとかその他諸々の理由で編入が許され、今ではすっかり馴染んで生活している。___大方、アンダーワールドの件に尽力してくれたということもあって、神代博士が何らかの手回しをしてくれたのも大きな理由なのだろう。

そんなこともあり、ここ新宿からユウキの家までは電車で30分、歩きで10分ほどの計40分ほどの圏内にある。そのため、東京や俺たちの住む埼玉近辺で用事がある時は、俺のバイクで送り迎えをしたり、今のようにこうして駅まで見送ることが日課となっている。

 

「んや〜、やっぱりみんなでやると進みが何倍も早いな」

「お兄ちゃん、理科苦手って言ってたもんね〜。アスナさんや私の方がそっちの科目は得意だし、テキパキ覚えれるかもね。困ったらいつでも頼ってくれていいよ?お兄ちゃん」

「だったら、スグが数学に行き詰まった時は俺のところに来てもいいぜ?」

「ぐぬっ…」

 

文系科目が全般的に人より多少、いや本当に多少苦手という俺の弱点を突けて勝ち誇った顔をするスグに、俺は反対に数学科目などの理系科目が苦手というスグの弱点を突きその鼻っ柱をへし折ってやる。

実際、数学やVRの系統に関する科目であれば俺はアスナやシノンにも勝るほどの知識とセンスがある、と自負はしている。しかし対照的にそれらの勉学や調べ物2時間を使ってしまうが故暗記が中心となる理科や古典などの文系科目はからっきしである。

その点、元から本の虫であるシノンや記憶力のいいスグ、全ての科目を均等にこなせるアスナやアリスなどとはそういった点で差がついてしまっているので、得手不得手、というやつで今日のように知識を借りることが多い。

…しかしシノンやアリスなどは元からリアルワールドの住人のため分かるのだが、なぜアンダーワールドからリアルワールドに来て半年も経っていないアリスはあれほどまでにリアルワールドの勉学が出来るようになっているのか不思議でしかない。センス、というやつなのだろうか。

そんな他愛もない話をしながら、歩いていたからだろう。空模様が綿のような雲に覆われ始めたことに気づかなかった俺たちは、突如として降り注ぐ真っ白く透き通った球体に目を丸くして空を見上げた。

 

「わ、ねぇ見てお兄ちゃん、雪だよ!雪!」

「今日は一段と冷えるから降ってもおかしくはない、と思ってたけど…まさか本当に降ってくるなんてな。」

「でもこれくらいじゃそんなに積もらなそうかなぁ〜、残念」

高校1年生になっても雪遊びをしたがる、自分とは正反対な程に元気な妹に思わず苦笑いが溢れる。しかし、雪で喜ぶのはスグもそうだが、隣にいるユウキもとてもはしゃぎそうだ、と思いユウキの方を振り向く。

 

「でもこれくらいなら、小さい雪だるまが作れるくらいには積もりそうじゃないか?なぁ、ユウキ___」

 

そこまで言って、俺の言葉は続かなかった。

目の前にいる少女が今にも泣き出しそうな、光が消えてしまいそうな、そんな瞳をしていたから。

 

「ユウキ…?」

「______え?あ…あ、あぁ、ごめんね、ちょっとボケっとしてたや!雪の話だっけ?僕雪遊びなんて何年ぶりか分からないから、きっと楽しいだろうなー、って…」

全てに絶望したような、今にも泣き出してしまいそうな瞳のまま、ユウキは分かりやすすぎる空元気で喋りだす。しかし、それも長くは続かず、目の前の消え入りそうな少女は先程のように俯いてしまう。

 

「…ね、ユウキさん。やっぱり今日、途中から元気なかったよね」

「…あはは。バレてた?」

「うん、シノンさんの弟のお話を皆で聞いたあたりくらいから、体調が悪いのかなって思って。でもご飯はいっぱい食べてたから、何かあったのかなって」

「ちょ、ちょっとバレ方が恥ずかしいなぁ…。でも、ご名答だよ。ちょっと色々考えちゃって」

 

そう答えたユウキの表情は、先程よりさらに酷い笑顔になっていて、優しく触れてしまったとしても、今にも何かが壊れてしまいそうなそんな顔をしていて。

シノンの弟の話。恐らく、その話の内容自体にユウキの琴線が触れた事象は無いのだろう。現に最初話を聞いている時は普通にしていた。

つまり恐らくユウキの感情が大きく揺さぶられてしまったのは、シノンの話であって、しかしシノンの話ではない。つまるところ___

 

「…お姉さんのことか?」

「…うん。兄弟って聞いて、思い出しちゃってさ」

 

後天性免疫不全症候群___

いわゆるAIDS(エイズ)にかかっていたユウキ一家の中で、当時担当医師であった倉橋先生やその他大勢の名だたる医師によっても未だ原因が全くと言っていいほど明らかになっていないユウキのみのAIDSの完治。

それ自体は飛び跳ねるほど喜ばしいことであることに変わりは無い。

しかし、それは自分の実の肉親である紺野一家の葬儀にユウキが単身で参加する事実を作った訳でもあって。

当時、ユウキは笑顔で振舞っていた。「せっかく自分は生き残れたのだからお父さんやお母さん、姉ちゃんが見れなかった景色を沢山見て天国の皆にいつか話してあげたい」というようなことを言っていて、しかしその時から空元気の兆しはあった。

俺がそんなユウキの空元気を見たのはその時___そして、たった今、俺たちに降り注ぐ雪景色のように消え入ってしまうかのような2回だけだ。

 

「___最近ずっと、夢を見るんだ。姉ちゃんの夢。

 

姉ちゃんと買い物に行く夢なんだよ。夢そのものはとっても楽しくてさ。ねぼすけな姉ちゃんを起こして、2人で朝ごはん食べて、手繋ぎながら歩いて、お揃いの服とか買って、笑顔で帰って…

 

最後に、姉ちゃんは決まってどこか知らないところに飛んでいっちゃうんだ。いい子だから、着いてきちゃダメよ、って」

「…」

「でもね、その時の姉ちゃん、すっごく笑顔なんだよ。あの頃と何も変わらない、僕を包んでくれるみたいな、そんな優しい顔をしてたと思うんだ」

 

「1週間くらい、前かな。姉ちゃんの顔、思い出せなくなっちゃって」

「…!」

「もう、声も思い出せなくてさ。人のことを忘れる時って、最初に声から忘れていって、そのあとに顔とか、仕草とかも思い出せなくなってくるんだって調べたらあったんだ。それが、どうしようもなく怖くて、たまらなくて。忘れたくない。お父さんを、お母さんを、姉ちゃんを忘れたくない。忘れてしまいたくない。」

 

「それで、最近夜寝付けなくなっちゃって。ダメだね、僕」

「…ユウキ……」

「どうして僕だけ生き残っちゃったんだろう。皆と、同じ世界で生きれることは、たまらなく嬉しくて楽しい。でも、僕だけが生きていいのかな、なんて考えちゃってさ」

「ッ、ユウキさん、そんな事言わないで、!あなたのご両親も、お姉さんも、きっとあなたが生きてることを嬉しく思ってる!だかr「それでも!!!もう皆居ないんだ!!!!」「!!」

 

「どうして、僕からみんなを奪ったの?なんで僕たちだったの?なんでだよぉ…神様ぁ…」

 

「ユウキ……」

「ユウキ、さん…」

 

ついに何かの糸が切れてしまったであろうユウキに、かける言葉を俺たちは持ち合わせていなかった。目の前で雪と共に地面に水滴を作る涙を流す少女に俺と、直葉の胸も締め付けられる思いでしょうがなかった。

仮想世界での英雄になったとて、現実世界ではあまりにも無力であるということを思い知らされる。

それは、目の前で泣きじゃくる少女も同様で。

俺と直葉はその場で立ち止まってしまう。しかし、何か意を決したのだろうか。直葉は口を開こうとして、

 

「ユウキさん、あのね…」

「ちょいちょいお姉さんたち、なにか困り事ですかぁ〜?」

 

突如後ろから聞こえた声に中断され、俺たちはそちらを振り向いた。

声の主は、おそらく大学生ほどの年齢だろうか。俺たちより一回りは歳をとっていそうな風貌で、同じくらいの年頃の男性達が5人、ニヤニヤとした表情でこちらを伺っている。

しかし、俺に冷汗をかかせることになった原因はその風貌だ。革ジャンやボアジャケットを中心に、エアフォー○やアディ○スのスキニーパンツなどを身にまとったその身なりは全く育ちが良いとは言い難く、どちらかと言えば何かトラブルの素になりそうな、そんな風貌であった。俺は警戒心を最大限に巡らせ、直葉と万が一のためのアイコンタクトを行ったあと大学生達の方に向き直す。

 

「あ、あぁ、すみません、大きな声を出してしまって。えっと、なにか僕たちに御用ですかね?」

「いやいや、お兄さん用も何も、こーんなかわいい女の子達と二股しておいて、浮気バレして修羅場なんてヤバいっすよやってることぉ〜」

「…は?」

「とぼけないでくださいよ!今修羅場でしょ?浮気相手とデートしてるところにたまたま遭遇しちゃって、そっちのちんちくりんな彼女さんにバレてとんでもない事になっちゃってんですよね〜?」

 

言っている意味がいまいち理解できなかった。

いや、理解はできたが、本当にそんなことを思っているのか。もし本当にそんなことを思っていたとして、なぜこちらに話しかけてきたのか。目的はなんなのか。なぜこのタイミングでなのか。

考えれば考えるほどこいつらの意図の理解ができない。一つ、理解ができるのは。

___おそらく、今の状況は、ピンチだ。

 

「あー、まぁ、自由に解釈してくれて構わないが、どちらにせよ今取り込み中なんだ。すまないが、立ち去って貰っても大丈夫か」

「ちょっとお兄さん、女の子泣かしといてそりゃねーよ。だから、俺たちが2人とも慰めてあげるために来たんだよ」

「慰めるって…」

「2人ともその辺で適当に飲みに行ってさ、パーッと忘れてもらうんだよ。あ、でも見た感じどっちも未成年か。まぁ、行ける行ける!」

 

こちらの様子などつゆ知らず、背筋が凍る不気味な笑顔のまま早口でまくし立てる男に対し、俺の心臓はドンドン普通ではない速度で働き始める。

同時に、思考を巡らせる。

なんとかスグとユウキだけ逃がすことは出来ないか。しかし俺たちは今ほとんど囲まれているような状況で、それは厳しい。

なら、大声を出して助けを求めるか。ここは住宅街の外れであり近隣の家までは少し距離がある。すぐに助けが呼べそうにない。それも却下。

いっその事、戦うか。だが、ここはリアルワールドだ。神意もシステムアシストもない。今の俺はただの「桐々谷和人」だ。それもダメだ。

 

脳みそをフルに動かし続けたからだろうか。こちらとあちらの距離がもうすぐそこまで近づいてきているのに気づかなかった。

リーダー格の男が道にしゃがみこんでいる形になっているユウキの手を無理やり引っ張り、連れ去ろうとしていた。

 

「ちょ、ちょっと、何するのさ!はなし、てよ!」

「大丈夫だって〜、絶対楽しいからさぁ。ほら、俺らそこに車停めてっからさ。それ乗ってその辺ドライブしようや!な?」

「い、やだ!はなして、って、!」

 

ユウキがそう言ったのと、俺とスグが駆け出したのはほぼ同時だった。

 

「や、めろお前ェ!!」

 

ユウキを掴んでいる腕を振りほどこうと俺は男の腕を掴み、引き剥がそうとするが。だが、

 

「チッ、なんだてめぇクソガキ。離せや!」

「がっ…!?く、っそ…」

「、ッ!お兄ちゃん!!」

「抵抗しなきゃ痛い思いしないで済んだのによ、バカが。おい、車持ってこい。すぐだ。」

「ああ、分かった。」

 

そう言うと1人の男がその場から離れる。車を持っているのはホラでは無かったのだろう。

ゲーム廃人の俺が歳上の、ましてやなにか格闘技をやっているのだろうか。明らかに体格で劣っている男に勝てるわけがなく、俺はそのまま男の空いている方の拳で吹き飛ばされてしまう。

口の中から血の味がして、一撃で足がふらつき倒れ込んでしまう。

直感で悟った。____これは、ヤバい。

何とか立ち上がろうと試みるも、思ったよりダメージが大きい。もう一度抵抗を試みることはおろか、立つこともままならない。

それでも、と足掻こうとし、顔をあげると後ろにいた内の二人の男にスグまでもが連れ去られそうになっていた。

 

「離してよ!やめて!!」

「よく見たら、元カノのねーちゃんの方も可愛いじゃん?あんなナヨナヨした男捨てて、俺らと遊ぼうや、なぁ?」

「ッ、離してってば!!」

「ぐほっ!?」

 

抵抗するスグの膝がスグを掴む男のみぞおちに綺麗に入る。

しかし、剣道で全国大会に出場しているとはいえ、スグは女の子だ。体格は俺より華奢であろう。案の定、男はそれだけでは倒れず、

 

「何すんだ、クソアマがァ!!!」

「がっ…!!」

 

脇腹に男の蹴りを入れられてしまう。もろに食らったスグは、気絶してしまいガックリと項垂れてしまう。

____駆けつけなければ。

しかし、そんな思いと裏腹にまだダメージが回復しない。足が、動かない。

このままだと、まずい。本当にまずい。

何より俺の大事な妹とユウキを傷つけたこいつらは許さない。

動け、足、動け、頼む、動け。

______しかし、足は俺の感情とは裏腹に動くことは無い。

ふざけるな。なにが「英雄」だ。「黒の剣士」だ。

ここで動けない、何かを守ることも出来ない、戦うことすら出来ない俺にそんな呼び名の資格はない。

心臓がうるさい。どんどんと加速していく。こいつらを許さない。

頼む。動いてくれ、頼む。

 

「ッ…お前らァ!!!!!やめろぉぉおぉ!!!!」

 

 

 

俺がそう叫んだのと、ユウキを連れ去ろうとするリーダー格の男に、横から殴打を加える男が割り込んできたのはほぼ同時だった。

 

 

 

 

「グハッ!!?!」

「リーダー!?!てめぇ、何しやがる、コラァ!」

「なっ…?!」

 

そう言ってスグを抱え込んでいた男がスグを放り投げ、男に殴りかかる。

しかし、割り込んできた男はその拳をいとも簡単にいなす。その瞬間、殴りかかってきた拳を掴んだかと思うと、

 

「い、いでででででで!!!?!」

 

拳を掴まれた男は急に痛がりだし、その痛みに耐えられなかったのか地面に膝をついて苦しむ。

ちょうど腰あたりの位置に頭がきただろうか。

その頭のちょうどこめかみ辺りに謎の男は、空を斬る音がするほどの速度の蹴りを入れた。瞬間、大学生は気絶する。

あっという間に2人を気絶させた謎の男は、残る2人の方に振り返って

 

「女の子いじめるなんて、趣味が悪いよ、君たち。

____あと2人みたいだけど、どうする?戦ってみる?」

 

向き合い、笑顔でそう告げた。

それに残りの2人は臆したのだろうか、「す、すみませんでしたぁ!!!」と捨て台詞を吐き、気絶したリーダー格であろう2人を放置して逃げる。ちょうど残りの1人が車を持ってこちらに向かってきていたため、その車に乗り込んだのが遠目で見えた。

それを苦笑いで見届けた後、謎の男はこちらに向き直り、

 

「…さて。駆けつけるのが遅れてごめんね。警察呼んでたから。もう少しで、ここに着くと思う。3人とも怪我は?…って言っても君はもろに殴られてたし、女の子の方も蹴られちゃってたからね。病院に行った方がいい。」

「あ、あぁ…俺は大丈夫、だけどスグとユウキは?」

「ボクは、大丈夫、だけど直葉ちゃんが…」

 

そう問われた俺は戸惑いながらも答え、ユウキは涙目になりながらスグを見つめる。すると謎の男は倒れ込むスグの右腕の手首あたりに触り、

 

「……うん。脈はある。大丈夫。命に別状はなさそうだけど、ここに倒れ込んでちゃ体調を崩しちゃうと思うから、パトカーが来たら直接病院に連れて行ってもらって寝かせてもらうのが良さそうだ」

「じゃ、じゃあ、直葉ちゃんは大丈夫、ってこと?」

「この子は直葉ちゃん、って言うのか。ああ、大丈夫。安心して」

 

そう男が告げると、ユウキはまた先程のように涙を目に浮かべてしまう。

それを見て慌てる男に、俺は「安心したんだと思います。君がなにかした訳じゃないから、大丈夫」そう告げると男は安堵の表情を浮かべる。先程の修羅のような表情とは一転して、柔らかい雰囲気の男性であることがうかがえた。

そんな会話をしていた矢先、

 

「キリトくーーーーーん!!!!」

 

ここにいるはずの無い最愛の人の声が聞こえてくる。

驚いて振り返ってみると、そこにはこちらに走り込んでくるアスナと、アスナと共に帰っていたシノンの姿が見えてくる。

 

「ア、アスナ!?なんでここに!?」

「キリトくんの心臓の鼓動が尋常じゃないくらい早くなったから、何かあったんじゃないかと思って、3人が帰った方向を急いで来たんだけど、って、直葉ちゃん!?大丈夫!?」

「いまさっき、怪しい男たちに襲われてしまっていて。俺のせいで、2人が危ない目にあってしまったんだ、本当に、ごめん」

「最初アスナに言われた時、ただの考えすぎじゃないか、って言ったんだけど…本当に、考えすぎじゃなかったのね。あんたは、怪我してないの?というよりそのほっぺた、大丈夫なの?」

「ん、あぁ。思ったより大したことないよ。それにこの人が助けてくれたんだ。」

 

そう言って、俺はスグに自分が来ていたジャケットをかけておぶってくれていた男性の方を指差す。ユウキも後ろから着いてきて

 

「お兄さん、すっごく強くてね!僕たち3人のこと守ってくれたんだよ!ありがとう、お兄さん!」

「本当に、ありがとうございます。私の大切な人たちを守ってくれて」

 

アスナと、少しは回復したのだろうか、少しいつも通りの笑顔に戻ったユウキが笑顔でお礼を告げる。微笑ましい光景であった。

 

しかし、アスナの横にいるシノンは、男性を見て、「ありえない」とでもいうような表情をして

 

「……う、そ………?」

 

静かにそう呟いたのが聞こえた気がした。何かあったのだろうか。しかし、俺たちの周りには異変は見当たらない。スグはもはや寝息を立てているし、ユウキもアスナも特に変わった様子はない。

 

ならば、必然的に原因となるのは。

シノンの見つめる先には、先程俺たちを助けてくれた男性がいて。

何か、この男性におかしなところでもあるのだろうか。

そう思っていた矢先、シノンは口を静かに開いて、

 

 

 

 

「……あなた…、元貴、なの………??」

「………な、んだって?」

 

 

 

 

聞いた事のない名前であった。

男友達だろうか。それにしては反応が驚愕に寄りすぎている。

そこまで考えて、俺の中にシノンの発言がフラッシュバックする。

 

 

 『えぇ、いるわよ、兄弟。1人、弟がいるわ。上京してきてからはしばらく会ってないけどね』

 

 

改めて、男性の方に向き直る。

長い髪の毛を真ん中で分けた、所謂センターパートという髪型だろうか。

キレイめな白シャツに薄い藍色カーディガンを身にまとい、黒のスラックスと革靴で全身をフォーマルでありカジュアル、と言ったような印象に統一させた彼は、先程までまじまじと見ていなかったので、全く気づかなかった。

 

 

 

顔立ちが、不自然すぎるくらいシノンに似ている。

 

 

 

まさか、そんなことがあるのかと、どんな確率だと、さすがに有り得ないだろうと、考えていると。

その男性はゆっくりと口を開き。

 

 

 

「…久しぶり。姉さん」

 

 

 

気まずそうに苦笑して、そう呟いた。

 

 

 




暇だったから連載し始めた瞬間にリアルが忙しくなりました!!!
投稿頻度かなり遅いと思いますが、見守ってやってください。
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