【Acropolis】狙撃手の弟   作:へへへへへへのへ

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文考えるのって本当に難しい


懺悔

朝田元貴。

 

 

そう名乗った彼は現在、先刻俺たちが襲われた公園前に駆けつけた数台のパトカーによって俺たちと共に最寄りの警察署に送り届けられた後、医務室に連れていかれた俺やユウキとは別室に連れて行かれ、俺たちは署内に立てかけてあるベンチに腰かけてその帰りを待っている。

結局、俺たちを襲った残りの大学生達はパトカーの到着より先に逃亡を図っていたため足取りが掴めていない。が、現在医務室で加害者の一部であるとして、治療という名目の監視でベッドに横たわっているリーダー格の2人の身元が分かれば自然に判明するだろう。

故に、その監視に治療という名目をつける原因となった張本人である彼____元貴にも事情聴取が行われるのは当然のことだ。俺たちが先程必死に事情を説明して、彼は自分たちを助けてくれただけ、と主張したので、大事にはならないと勝手に予想しているが。だとしても、この時間は少し息が詰まるし、恐らく、俺以外のみんなも同じことを感じているのだろう。俺やアスナ、シノンやユウキも喋る気力がない、といった感じで沈黙している。

 

「しっかしよぉ、すげぇ確率だよな。たまたまキリト達が襲われていたところに通りかかった救世主様が、たまたま今日都内に着いたばかりのシノンの弟さんだって言うんだから。巡り合わせってのはあるもんだなぁ」

 

その息が詰まるような静けさをお構いなしといったように壊したのは、俺たちが襲われた、という連絡をエギルから受けて保護者役として代わりに同伴を申し出てくれたクラインだ。たまたま仕事終わりだった、ということもあったらしくすぐに駆けつけてくれたのだが、自分も仕事による疲労が溜まっているだろうに、俺たちの身を案じて一目散に駆けつけてくれた。本当に頭が上がらないなぁ、と感じる。

クラインを呼んだ理由としては、俺たちが未成年であるから、ということになる。事情聴取を受けた後署から帰宅する際、未成年をさよならーと言って返す訳には行かない、とのこと。しかしシノンは一人暮らしであるし、俺とスグの父母ならまだしも、直近で過去より改善の兆しが見えつつあるとはいえ、アスナの母はまだVRMMOに対しての不信感が0ではないし、VRMMOで知り合った友人に対しても少し後ろめたさはある、と以前話していた。

今回事情がどうであれ、そのVRMMOのお友達がいざこざに巻き込まれた、ということは事実であるため、しっかり説明をしてくれればわかってくれるとは思うが、心配をかけたくない。そこでクラインを呼んだ、という形だ。

 

「ええ、私達もつい先程シノンから弟に関する話を伺ったものでしたから。アスナから事情を聞いた時は、その情報と含めて2段構えで驚かされました」

 

先程、パーティの予定をキャンセルしてこちらに出向いてくれたアリスがクラインに対しての返答をする。念の為、といってアリスにも連絡を入れてくれたアスナが、即既読の後に「今からアリスが駆けつけてくる」なんて言ったものだから、さすがに騎士様の行動力には目を丸くさせられた。

それだけ、俺達の身を案じてくれているということだろう。あとで神代博士にも謝罪をしないと。

 

「しかし、本当に良かったです。3人共が無事で。シノンの弟が、とてつもない実力者であったことが驚きです。」

「あぁ、本当に凄かった。リアルワールドなのに、まるでALOの拳闘士みたいな速度だった。格闘技…多分、合気道の類だと思う。以前ALOにいた人型のボスと戦い方が似ていた」

「相当鍛錬を詰んだんだろうね。シノのん、元貴くんって合気道みたいな格闘技やってたの…」

 

そこまで言って、アスナの言葉が止まった。

何事かと思い、アスナとシノンの方を振り返ると、俺とアスナの視線は同じ方向____何かを思い詰めたような表情で、下を向いているシノンに集まる。

思えば、先程公園の前で俺たちと合流してから、警察署に向かうパトカーの中でも顔色が優れていなかった。この季節、ましてやあの雪景色の中走らせてしまっただろう、体調が悪いのだろうか。

 

「なぁ、シノン。気のせいだったら悪いんだけど、さっき俺らと合流してから顔色が悪い気がして。熱、あるのか?」

「えっ?あぁ、いえ、そういう訳じゃないわ。ただ、ちょっと…」

 

1度は俺の呼び掛けに顔を上げてくれたのだが、また何かを考え込むように下を向いてしまう。体調が悪いわけではない、ということは先程までの一刻の間に何かがあったのだろうかと、思い返してみる。

しかし、俺たちと合流したタイミングでは顔色は優れていた、と思う。つまり、俺たちと合流してからのタイミングで何かがあったのだろうか?

…そこまで考えて、ひとつ思い当たった節があった。

今日の不確定要素。そして、先程シノンの口からも濁してではあったが語ってくれたこと。____元貴だ。

しかし、だとしたら何故だろうか。一般的であれば、実の弟との久しぶりの再会は、姉としては喜ばしいものであるはずだ。

なにか、濁して話していたことと、関係しているのか。

 

「なぁ、シノン。答えたくなかったらいいんだけど…」

 

「すみません、お話中失礼いたします。壷井 遼太郎さんでお間違いないですか?」

 

俺がそう質問をしようとしたタイミングで壷井遼太郎こと、クラインが警察官に呼ばれ、会話が途切れた。

 

「んお?はい、そうですが…」

「大変お待たせして申し訳ございません。朝田元貴さんの事情聴取が終わりました。こちらの方で参考人としてお名前等は控えさせて頂きましたが、元貴さんの事件への加害性は薄い、という結論になりましたので、こちらでご帰宅していただいて大丈夫です。つきましては、保護役として書類にサインを頂きたいのですが、大丈夫でしょうか」

「おぉ、そりゃよかった!もちろん、構いませんよ」

「ありがとうございます。それでは、こちらへ」

 

そう言ってクラインと俺たちを呼んだ警察官は、元貴が事情聴取を受けている部屋へと消えていく。

非常に良かった。俺たちが守られた立場であるのに、そのせいで加害者として身柄を拘束されてしまったら、本人に下げる頭がなかった。その場合、菊岡さんか比嘉さんかに頼んでどうにかしてもらおうとは思っていたが。

全員、先程の警察官の言葉を聞いて安堵の表情を浮かべていた。ユウキも心配事を取り払えたかのような笑顔で、アスナとアリスと顔を見合わせて笑いあっている。

…しかし、やはりシノンの顔は暗いままだ。否、笑顔は浮かべている。恐らく、弟の無実を喜んではいる、のだが。懸念点がそこにない、といった顔をしている。

____やはり、そういうことなのだろう。俺はおもむろに口を開く。

 

「なぁ、シノン。さっきの続きなんだけどさ。元貴と仲悪いのか?」

 

考えられるとしたら、多分そういうことになるのだろう。

シノンは以前、人を殺めてしまったことがある_____そう、話していた。

父は交通事故で他界、母親はシノンに恐怖心を抱き、別居。それがシノンにトラウマを植え付けるには十分であった。

話に弟が出てこなかった、ということは、大方母方に引き取られているのだろう。しかし、シノンの口から出たのは俺が想像していたのとは全く違う答えであった。

 

「………えぇ。仲良くはない、わね。全部、私が悪いのだけれど」

「え?それって…どういう」

「待たせたな、おめぇら!全員の事情聴取も終わったし、引き取りの書類にサインもしたから後日連絡するかもしれないが、ひとまず今日は帰っていいとよ」

 

俺がシノンに問おうとしたタイミングで、クラインの陽気な声が聞こえた。振り返ってみると、後ろに元貴もいる。

なんというか、誰のせいでもないが今日は全体的に間が悪い。発言をしようとしたタイミングで、何かが起こっている気がする。

そんなことはお構い無しと、シノンの方に振り返り再度声をかけようとすると、彼女の視線は元貴____実の弟の方に向いていた。

それは元貴も同様で、シノンの方を向かいながら歩いてくる。

しかし、感動の再開、とは言い難そうな空気であった。原因は、お互いの表情だ。

元貴が先程見せたような柔らかい笑顔であることに対し、今にもここから逃げ出したいような、倒れ込んでしまいそうな、そんな表情をシノンはしている。

クラインもその表情を感じ取ったのか、アスナとユウキとアリス、そして俺とアイコンタクトをとると立ち止まり、元貴とシノンが対面する形になった。

 

15秒、もう少し長かっただろうか。お互いが顔を見合せての沈黙の末、

 

 

「…さっきは、しっかり話せなかったけど…久しぶり、姉さん。変わらないな」

 

 

元貴が、ゆっくりと口を開いた。

それは、兄弟の再会というには、あまりに暗いトーンで、そしてなんというか…よそよそしい感じであった。

しかし、元貴はそれでも笑顔ではあった。姉との再会を喜んでいる。そんな雰囲気は醸し出されていた。

しかし、姉の口から飛び出した言葉は、

 

 

 

 

「………なんでいるの。もう、あなたとは会わないって、言ったわよね」

 

 

 

 

まるで、両親の仇かのような。積年の恨みが積もったかのような、シノンから発せられたことのなかった低い、そんな声で、実の弟を突き放した。

あまりの声色に、アスナとユウキ、アリスは驚愕を隠せない、といったような顔をしていて。俺とクラインは顔を見合せて、その顔をしかめることしかできなかった。

 

「実は、色々あってこっちに引っ越すことになって。今日、たまたまあの近くに用があったんだ。それで、歩いてたら和人くん達と会って…それで」

「…そう。」

 

そう呟いたシノンは目を合わせたかと思うと

 

「何年ぶりか分からないけど、もう一度言うわ。わたしは、あなたとはもう関わらない。もう私のことを姉だとも思わないで、好きに生きてちょうだい」

「…姉さん、そんな」

「……キリト。元貴は、悪い子じゃないわ。仲良くしてあげて」

 

弟に、あまりにも酷すぎる言葉を吐いて、その場を立ち去っていく。

その背中があまりにも縮こまっているように見えて、呼び止めたが、シノンは早足で署を出てしまって。

 

「あ、おい、シノン…!」

「いいんだ、和人。こうなることは、分かってたから」

「分かってた、って……」

 

そう告げた元貴は、その状況になれていて、だがしかし、あまりにも泣き出しそうな顔をしていて。

 

 

 

「…姉が……朝田詩乃が僕を嫌っているのは、僕自身のせいだ。僕が、SAOサバイバーになる何年も前からそうだよ」

 

 

 

天空城の名前を口に出す元貴は、力のない笑顔でそう呟いた。

 

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