聖王女の妹は信仰者【本編完結】   作:お稲荷猫

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新たな日々①

 蘇ったリリアに「リリア、リリア」と泣きつくカルカの頭をリリアは震える手で優しく撫でる。そうしていると、廊下から走ってくる音が聞こえ、部屋の扉が大きな音を立てて勢いよく開かれる。

 

 

「そんな馬鹿な……。本当に……」

 

 

 廊下で偶然出くわしたケラルトが馬鹿なことを言い出した時は本気で怒ろうとしていたが、ケラルトに手を引かれるまま入室したカスポンドは目の前の光景が信じられず言葉を失ってしまう。リリアの目が開き、体が動いていたためだ。

 リリアの遺体が安置された日の晩、その手で冷たくなったリリアに触れ、確かに亡くなっていることを確認した。

 カスポンドはゆっくりとリリアに近づき手をリリアの頬に当てる。そこには確かに生きている者の温かさが感じ取れた。

 

 

「奇跡だ……。神の奇跡だ……」

 

 

 カスポンドはそう言いながら涙を流す。そして、「父にも報告せねば」と言うと涙を拭き、ケラルトにその場を預け部屋を飛び出した。ケラルトも恐る恐るリリアの手に触れるとリリアが確かに生きていることを感じ取れ、涙を流す。

 

 カスポンドが飛び出して少しもしないうちに廊下から再び誰かが走る音が聞こえる。

 開け放たれたままの扉から、先ほどまで休んでいたのか、寝間着に上着を着た父が「リリア!」と言いながら入ってくる。リリアが父の声に反応し顔を向けると、父とリリアの目が合う。父は直ぐにそばの侍従に王宮医や神官を呼ぶように伝えると、リリアの下へ行き手を掴んで聖王国が信仰する四大神に感謝するように祈りをささげた。

 

 侍従が王宮医と王宮付きの神官を引き連れ戻ってくると、状況を理解できていない二人に対し、すぐにリリアの容態を確認するように命令する。王宮医と神官は戸惑いながらも、診察を開始するための用意を始め、カルカはケラルトによって一時的にリリアの下から離される。

 

 

「陛下、王女様の体に異常は特に見当たりません。お痩せにはなっておられますが、これは栄養不足のためです」

 

 

「アンデッド化の予兆や身体の変異等も見受けられません」

 

 

 王宮医と神官がそれぞれの診察結果を伝えると、父は「ご苦労。このことは他言無用だ」と言い、侍従に二人を連れて行くよう促す。診察が終わり、カルカは再びリリアの下へ行き抱き着く。

 

 

「父上、これは一体……」

 

 

「私にも分からん。カルカの祈りが通じたのか。神の奇跡か。どちらにせよ今はリリアが戻ってきたことを喜ぼうではないか」

 

 

 カスポンドの問に対し、父はそう答えると「忙しくなるな」と言いながらカスポンドの肩を叩き、具合があまりよくないのかそれ以上リリアに声をかけることなく、そのままその場を後にする。あまりに多くのことが短期間に起きているため、体には大きな負担となっているのだとカスポンドはうっすらと感じとっていた。

 

 

 翌日、体調を崩した父の代理としてカスポンドが緊急の会議を開き、上層部の中でも特に信頼のおける一部の大臣や王家と関係が深いレメディオスとケラルトの父であるカストディオ家の当主も呼び出し、リリアが蘇ったという事実を率直に伝えた。彼らは当初、カスポンドの言葉を理解できず唖然としていたものの、カスポンドに連れられ実際にリリアが体を起こしている姿を見ると納得せざる負えなくなった。

 

 

「カスポンド様、いったいどういうことでしょうか」

 

 

「私に聞くな。私も訳がわからず困っているのだ。何か要因があるはずなのだが……」

 

 

 大臣の質問にカスポンドも同様の疑問を持っていることを伝えると、カストディオ家の当主が口を開く。

 

 

「古い記録の中に死体から蘇った記録が一件ありますが、今回はその事例と同じ現象だったのではありませんか?当時の調査では蘇った者は一度だけ死を回避できる異能(タレント)を保持していたそうですが……」

 

 

異能(タレント)か……」

 

 

 異能(タレント)は、およそ二百人に一人の割合で発生する、生まれた時から得ている能力であり、その効果は地味なものから国家の持つ戦力としてカウントされるものまである。しかし、異能(タレント)の保持を鑑定することは、一般的に本人が自覚をしてから申告によって行われるため、ほとんどの場合は異能(タレント)を保持していたとしても気づくことなく一生を終える。

 

 

「我が国に異能(タレント)の鑑定を行える魔法詠唱者(マジック・キャスター)はいるのか」

 

 

異能(タレント)の有無を鑑定するだけなら可能です。しかし、より詳細に知ることのできる魔法を使えるものは聖王国内にはおりません。しかし、リ・エスティーゼ王国に鑑定を行うことができる者がいます」

 

 

「他国の者に王家の情報が漏れることは避けたい。ここはまず異能(タレント)の有無だけでも確認するべきだろうな」

 

 

 カスポンドの意見に他の者達も同意する。周囲の同意が取れたカスポンドは、カルカやリリアの異能(タレント)の有無を調べるための準備をするように指示を出す。その後、カスポンドは父に代わり連絡事項を伝え終わると、会議は御開きとなった。

 

 

「カスポンド様、よろしいでしょうか」

 

 

 他の者が会議場から退出している中、カストディオ家の当主がカスポンドに声をかけ、カスポンドは「構いませんよ」と返事をする。

 

 

「陛下にお願いしようと思っていたのですが、陛下はお倒れになっているため、代理であるカスポンド様にお願いさせていただきます。実は…………」

 

 

 

 翌日、カストディオ家の紋章が入った馬車が王宮の入り口に止まり、聖騎士の姿をしたレメディオスといつもと変わらない神官服を着たケラルトが降りる。

 

 

(ケラルト、レメディオスが暴走しそうになったら何としても止めるのだぞ)

 

 

(分かっています。父上)

 

 

 ケラルトが自身の父と降りる瞬間に小声でやり取りをする。

 馬車の扉が閉められ、カストディオ家の当主は自身の仕事場に向かうために御者に命令し、再び馬車を出させる。

 

 

「姉様、行きましょう」

 

 

「あぁ……」

 

 

 いつになく暗いレメディオスを後押しするようにケラルトが声をかけ、二人は王宮へと入る。

 

 

 

「リリア様、何か御用はありますでしょうか」

 

 

「大丈夫だ。何かあったら鈴を鳴らす」

 

 

 リリアのメイドは扉を開けると「失礼します」と言いながら頭を下げ、部屋を後にする。蘇ったばかりのリリアは、最初の一日の間、手も動かせず喋ることも難しかったが、一晩休むと何事もなかったかのように回復していた。カルカは、リリアが蘇ったことで安心したためか、今までの疲れを癒すように長い間睡眠をとっている。しかし、起きてはリリアの下を訪れ、頬を触っては「大丈夫そうね」と言いながら笑みを浮かべて部屋を後にするという具合だ。

 

 

(姉様に苦しい思いをさせてしまった……)

 

 

 蘇ってからリリアは自分の置かれていた状況をカスポンドより説明され、カルカがリリアのことで病んでしまっていたことを知っていた。

 

 

「第二王女様、レメディオス様とケラルト様が面会を申し出ております」

 

 

 扉の外の騎士の声にリリアは「通せ」と返事する。

 扉があけられ、レメディオスとケラルトが部屋へと入ってくると、レメディオスは起き上がっているリリアの姿を見て一瞬動きが止まる。

 だが、すぐにリリアの下まで早足で歩いていくと、リリアのベッドから少し離れたところで止まり、剣を抜く。

 

 

「姉様!何を!」

 

 

 突然の行動にリリアもケラルトも驚くが、レメディオスはその剣を床に突き立て、片膝をつき頭を下げる。

 

 

「リリア様、私は聖騎士として自分の使える国の主人を守ることができませんでした。この罪は私の命でもって償います!」

 

 

 レメディオスがそう言い放つと突き立てていた剣を構え直し、自分の首へ突き立てようとする。すぐにケラルトが「姉様!おやめください!」と言いながら、レメディオスの体を抑えるも、レメディオスは「放せ!」と言いながらそのまま剣を突き立てようとする。単純な力の差ではケラルトがレメディオスに勝てるわけもなく、剣が首へと近づく。

 

 

「やめよ!」

 

 

 リリアの怒りにも近い声が部屋に響き、レメディオスとケラルトは動きがとまる。

 

 

「王女様!何事ですか!」

 

 

「大事ない!気にするな!」

 

 

 扉の外から騎士の心配する声が聞こえるも、リリアは部屋に騎士が入ってこないようすぐに返事をする。そして、ベッドから起き上がりレメディオスの下まで行くと、震える手からゆっくりと剣を離させ、自身でその剣を持つと剣先をレメディオスへ向ける。

 

 

「レメディオス。お前がやろうとしていることは忠義ではなく、この国への裏切りに他ならない。お前は私だけでなく姉様も、そして姉様が愛するこの国の民を守る聖王国の騎士だろう。守るべき者達が未だいるのにもかかわらず、命で償うなど言語同断だ!その命尽きるまで、聖王国に。姉様に忠義を尽くし続けるべきだろう!」

 

 

 リリアの言葉にレメディオスは俯く。ケラルトはレメディオスの力が抜けたことで安心したのかそのまま床に座り込む。

 

 

「私は一度死んだ。それは私自身も感じている。真っ暗な空間にただ一人、何も聞こえず、何も見えず、暑さも寒さも感じない。だが、姉様の声だけが唯一聞こえてきたのだ。私はその声を頼りに空間をさまよい、姉様の手によってその空間から引き揚げられた。姉様に生かされたのだ」

 

 

 リリアはベッドに座ると、自分の体験をありのままに話した。

 

 

「この命は姉様に救われたも同然。ならば、私は姉様のためにこの命を使うと決めた。レメディオス、ケラルトも共に姉様を支えてほしいのだ。いや、支えてくれ頼む」

 

 

 リリアが座ったまま二人に頭を下げる。その姿を見た二人は「頭を上げてください!」と慌てる。リリアが頭を上げると、二人も姿勢を正しリリアの前に片膝をついた状態になる。

 

 

「リリア様、私が間違っておりました。この命尽きる時までカルカ様の。この国のために忠義を尽くします!」

 

 

 レメディオスが涙を流しながらそう声を上げると頭を下げ、ケラルトも共に頭を下げる。リリアが「ありがとう」と言うと部屋の扉が開く音が聞こえた。

 

 

「これは……。一体、どういう状況かしら……?」

 

 

 三人が声の主の方へ顔を向ける。部屋に入ってきたのはカルカだった。その顔はどこか怒っているように見える。

 

 

「カルカ様!これは……!」

 

 

「ケラルト、貴方が口を開いていいとは言っていませんよ」

 

 

「姉様、ケラルトとレメディオスをそう睨まないでください。それよりもお願いがあるのです。こちらへ来ていただけますか」

 

 

 ケラルトにカルカが冷たく接する。

 リリアはカルカの怒りを鎮めようと、穏やかな声で話しかける。それに答え、頭を下げる二人を後にカルカはリリアが座るベッドへ近づく。

 

 

「どうしたのリリア」

 

 

 リリアはそう言うとベッドから立ち上がり、レメディオスやケラルトの隣に並び片膝をつく。突然そのような態度をとったため、カルカは「リ、リリア?」と動揺する。

 

 

「姉様、私は今ここで、二人のように姉様の剣となり盾となることを認めていただきたいのです。どうか私を姉様の専属聖騎士として認めてください」

 

 

 そう言うと、リリアはレメディオスから預かった剣をカルカへと捧げた。

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