聖王女の妹は信仰者【本編完結】   作:お稲荷猫

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新たな日々②

 カルカはリリアの予想にもしていなかった発言に、ベッドに座りながら固まってしまう。

 レメディオスとケラルトは、先程まで話をしていたことで流れを理解していたが、リリアが片膝をついてまでカルカに願い出るとは思いもしなかった。

 二人は共に王女という身分であり、王位継承権の順位があるとはいえ血縁者である。リリアが今行っていることは自分よりも高い地位にあるものに対する礼儀としては正しいが、身内に対してそれを行うことは異様だからだ。

 

 

「リリア、一体どういうこと?話の内容がよく分からないのだけど……」

 

 

「私を姉様の騎士として、認めてくださいと申し上げました」

 

 

 カルカは「そうじゃなくて!」と声を上げるも、言葉がうまくまとまらず、頭を下げているレメディオスとケラルトの方を見る。

 

 

「レメディオス、ケラルト。貴方達が何か言ったのかしら?」

 

 

「カ、カルカ様!姉様も私もリリア様に強制をするようなことは申し上げておりません!」

 

 

「ケラルトの言う通りです!何も言っておりません!」

 

 

 怒りの感情がこもった声でカルカが二人に問いかけたため、ケラルトは慌てて否定し、レメディオスもすぐにケラルトを掩護する。

 

 

「姉様、二人は関係ありません。私がこの決断をするにあたって、二人には私の意思を話し、協力を求めただけです。この決断は私自身で考えたことです」

 

 

「いいえ、関係がないわけではないわ。リリア、貴方が二人にその意思を伝えたならば、二人は臣下として間違いを諫めなければならないの」

 

 

 カルカはそう言いながらリリアの方を見る。レメディオスとケラルトはカルカの正論に言い返す言葉もなく、再び頭を下げる。リリアはこのまま二人を巻き込み続けるのは気の毒に思ったのと、カルカを説得するために重要な話をするため二人を退出させる必要があったことから、「レメディオス、ケラルト。一度部屋を出てくれ」と言い、退出を促す。リリアの命令に二人は「はっ」と言うと速やかに部屋から退出した。

 

 

「姉様、率直に申し上げます。私は王位継承権を放棄し、聖騎士としてこの国家に命を尽くそうと考えています」

 

 

 王位継承権の放棄。その単語を聞いたカルカは目を丸くする。聖王国では、王位継承権を放棄した場合、王室に名を残すことはできるものの、新たな爵位を授けられ王宮に残ることはできないことが定められている。つまり、現在王族として持っている多くの権利を自ら手放すことを意味しているのだ。具体的な例を挙げれば、王家の名を使った命令を下すことができなくなること。王族と接する場合は爵位に基づく礼儀をする必要があること。そして、有事の際には軍を率い、参戦しなければならないこと。

 

 

「二人にもその話をしたの!?」

 

 

「いいえ、姉様以外には誰にも話しておりません」

 

 

 カルカはベッドから立ち上がりながら問うも、リリアの答えに安心し倒れこむようにベッドに座る。

 

 

「リリアのことだから。私がどんな風に思っているのか。分かった上でそう言っているのよね」

 

 

「はい、姉様はもう二度とこのような経験はしたくない。私にさせたくないと考えられていると思います」

 

 

 カルカはリリアの発言にため息をしながら、ベッドに静かに横たわる。そして、すこしの間をおいて口を開く。

 

 

「そうね、私もそう思ってるわ。いや、それ以上に」

 

 

 リリアは横になりながら、頭を下げているカルカの方へ体を向ける。

 

 

「私はもう二度とリリアに剣を持たせない。騎士をやめさせ、私の隣で文官として一生を過ごしてほしいと思っていたわ。いや、思っているの」

 

 

 リリアは「姉様、それは……」と言いかけるも、カルカは「待って」と言い話を続ける。

 

 

「分かってるの。リリアが何をしたいのか。騎士として何を成したいのか。だから、これは私のわがまま。こんな命令をリリアにするのは私だって嫌、リリアにとって、この命令は生きる意味を失わせることも同意義だから」

 

 

 リリアは黙ってカルカの話を聞く。カルカはリリアに「顔を上げて」と言いながら、自身も体を起こし前から向き合う。リリアはゆっくりと顔を上げながら目を開ける。

 

 

「リリア、私はあなたの意思を尊重するわ。でも、王位継承権を放棄する必要はない。ただ、約束をしてほしいの」

 

 

 リリアが「約束ですか?」と尋ねると、カルカは頷く。

 

 

「私が悲しむことはしないこと。勝手に死ぬことは許さない」

 

 

「それは……「できないの?」」

 

 

 リリアの答えを聞く前にカルカが釘を刺すように声をかぶせながら、人差し指をリリアの口へ当てる。リリアは「いえ、できます」と慌てて返す。カルカは「よろしい」と言いながら笑みを浮かべた。

 

 

「もう二度と家族を辞めるなんていうのも無しだから。私、悲しかったわ」

 

 

「家族を辞めるとは……。一応、王家として名は残りますし……」

 

 

「形式上の話でしょう!辞めているも同然です!」

 

 

 リリアのごまかす様な返答に、カルカは怒っている振りをしながらそっぽを向く。リリアは「姉様!申し訳ありません!」と手を動かしながら謝る。その様子を見たカルカは思わず笑みがこぼれ、騙されたと知ったリリアは「姉様!」と声を上げる。

 

 

「ごめんなさい。でも、リリアとまたこうして話せることがうれしくて……。こんなに話をするのは久しぶりで……」

 

 

 カルカはリリアの部屋に訪れはしていたものの、目の前にいるリリアは本当にリリアなのか、蘇る前のリリアではないのではないかという不信感によって、体調を確認しては一言残して行く程度であった。

 だが、その不信感は今や微塵にも思っていない。

 

 

「姉様、一つ質問してもいいでしょうか」

 

 

 リリアが真面目な顔になり訪ねてきたため、カルカは「な、なに?」と少し困惑する。

 

 

「寿命で死んでしまう場合はどうすればよいでしょうか……」

 

 

 真面目に考えこみながら思いもよらぬ質問をしてきたことで、カルカは笑いながら「その場合も私が良いというまで」と返す。リリアは「そ、そんな…!」と衝撃を受ける。

 カルカは笑いが収まると、何か思い出したかのように「そういえば」と言いながら、扉の方を見る。

 

 

「リリア、二人は『一度』退出してって言ったけれど、何時まで立たされるのかしら?」

 

 

 リリアは「あっ」と言うと、扉に向かって「レメディオス!ケラルト!戻ってきていいぞ!」と慌てて声をかける。

 レメディオスとケラルトが部屋の扉を開け入ってくる。二人は、部屋の中から笑い声が聞こえてきたことと、先ほどまでの険しい表情をしていた二人がいつもの穏やかな表情に戻っていたことから、無事うまくことが収まったことを理解した。

 

 

「このまま、反省するまで立たされるのかと思いました」

 

 

 ケラルトが冗談交じりにそう言うと、リリアが聞かれてもいないが「忘れていた訳ではないからな」と言う。レメディオスは「私はいつまでも立っていれます」と謎の自信を持っている。

 

 

「レメディオス、ケラルト。二人には言い過ぎたわ。ごめんなさい」

 

 

 カルカが頭を下げると二人はまたしても慌てて「おやめください!」と止める。

 

 こうして、四人の仲は以前のような関係に戻りつつあったものの、聖王国の風向きは徐々に怪しくなりつつあった。

 

 

 

「父上、お加減はいかがですか」

 

 

「うむ、今は大丈夫だ。少し疲れていたのだろう」

 

 

 ベッドで体を起こしている父にカスポンドが訪ねると、笑みを浮かべながら返事をする。

 カスポンドが空気を入れ変えようと、窓の扉を開けると父が咳き込んでしまう。

 

 

「父上、大丈夫ですか。窓を閉めます」

 

 

「いや、開けてくれ。外を見ていたいのだ」

 

 

 あの日以来、父の容態は急に悪化していた。王宮医による診察や神官の様々な治癒魔法による治療が行われるも効果が薄く、原因は不明のままだ。

 

 

「やはり、カルカの治癒魔法を頼ってはいかがでしょうか。あの子の魔力ならあるいは……」

 

 

「あの子は見かけでは無事な振りをしているが、心を傷つけている。私の今のような姿を見れば……。それに、カルカの魔法でもどうしようもなければ、あの子は責任を感じてしまう」

 

 

 父はそう言いながら再び咳き込み、カスポンドに「水を」と言うと、カスポンドは側の水差しからコップに水を入れ渡す。父はそれをゆっくりと飲み干す。

 

 

「父上、南部貴族の一部が父上の容態に疑問を持っています。おそらく、情報がどこからか流れているのかと……」

 

 

 聖王の容態が芳しくない。と言う噂が南部貴族の間で広まりつつあった。カスポンドの下にも南部貴族から陛下の容態をうかがうような手紙が何通も届いているものの、返答はうまく濁している。

 

 

「噂程度であれば、王宮で務めている者の中でそう思う者もいるだろう。私の代わりにカスポンドが政務を行っておるからな。加えて、ここ数日は王宮内をうろつくこともしていない」

 

 

 カスポンドは「そうであればよいのですが……」と言いながら渡されたコップを元の場所に戻す。

 

 

「とはいえ、奴らに好きにさせておく必要もあるまい。ここらで一つ将来に向けて布石を打つ必要があるだろう」

 

 

 カスポンドが「それは…?」と尋ねる。

 

 

「我が国には、死の騎士(デス・ナイト)を倒す功績を上げた者がおり、英雄として認める場を設ける、と布告するのだ。その場には私も出席し、体調には何の問題もないことをアピールする」

 

 

「カルカ達を英雄として認めることで、北部の威信を高め、南部貴族の動きを牽制するということですか」

 

 

 父はゆっくりと頷き、再び咳き込むも話を続ける。

 

 

「目的はそれだけではない。我が国に英雄が四人も存在するとなれば、諸国もわが国をこれ以上軽視することは無いだろう。我が国は、国家としての軍は各国から見ても劣ってはいないが、個としての戦力は他国に大きな後れをとっているからな。聖王が英雄ともなれば、各国は見方を変えるだろう」

 

 

「なるほど……。しかし、父上、少々訂正を入れてもよいでしょうか」

 

 

 カスポンドの発言に父は「構わん」と言い、話を続けさせる。

 

 

「英雄として認定するのはリリアとレメディオスのみにするのがよいでしょう。リリアは事情から様々な脚色をすることが可能ですし、レメディオスは次期騎士団長候補にするのによい政治的材料になります。カルカはこれらの英雄を従える者として更に名声を高めるのです。ケラルトは、聖王国の裏方を行わせるのに能力が向いています。目立たさせるのは良い方法とは言えないでしょう。それに四人も同時に英雄、しかもほぼ身内からとなれば、逆に疑問視するものが増え、権威が薄れるのではないかと…」

 

 

 父はカスポンドの考えを聞くと「そうだな。お前の方がよく見ているようだ」と言い、カスポンドに手続きを進めさせることにした。

 

 

「カルカとリリアにも確認は取るのだぞ。私はもう休む」

 

 

「分かりました父上」

 

 

 カスポンドは横になる父に頭を下げ、部屋を後にする。

 

 部屋を出たカスポンドは父の前で取り繕っていた笑顔を崩すと、そのまま仕事をするために執務室へと向かった。

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