聖王女の妹は信仰者【本編完結】   作:お稲荷猫

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新たな日々③

 父から任された一件に関して説明と協力を求めるために、カスポンドはカルカとリリアを呼び出した。リリアの体調がすぐれないのであれば、リリアの私室で話をしてもかまわなかったが、連絡のために送った従者の問いに、リリアは「問題ない」と返したため現在に至る。

 

 

「今日、二人を呼び出したのは父上から任された一件について、協力と理解をしてもらいたかったからなんだ」

 

 

 カスポンドがそう言うと、カルカは「協力ですか…?」と不思議そうに尋ねる。カスポンドは基本的には自分自身か自分の配下によって、物事を済ませてきたため、協力を求めるということは珍しかったからだ。リリアは首をかしげるも続きを聞くために黙ってカスポンドを見ている。

 

 

「父上は今回の事件で死の騎士(デス・ナイト)が倒されたことを、我が国の権威を高めるための政治的な材料として利用しようと考えておられる。死の騎士(デス・ナイト)は一国を滅ぼしうる存在だ。それを倒した者は英雄として認められても、何らおかしくはないと」

 

 

「つまり、私たちを聖王国の英雄として公式に認めるということですか?」

 

 

 カスポンドはリリアの問いに「あぁ」と言いながら頷く。カルカは驚きつつも嬉しそうな様子ではなかった。死の騎士(デス・ナイト)の事件はカルカにとってリリアを一度失った原因となったものであり、関係者のみが事実を知るとはいえそれを政治的に利用することに抵抗感を覚えたからだ。

 

 

「正確には二人にこの国を代表する英雄になってもらう。一人はリリア・ベサーレス。もう一人はレメディオス・カストディオだ。ケラルト・カストディオには当日、元神官長殿の遺言によって聖王国最高位神官及び神官団団長として任命がなされる。そして、カルカはこの三人が使える主であり、御する存在であることを示すため、任命を行ってもらう」

 

 

「お兄様、それは…」

 

 

「あぁ、父上はその場では直接おっしゃらなかったが、おそらく当日、カルカのことを次期聖王として公式に発表なさるだろう」

 

 

 カスポンドは椅子から立ち上がり窓の近くへと歩く。

 この国の最高戦力ともいえる英雄を任命することは、国家の代表として認められた者のみにしか認められない権利である。また、聖王国の神殿に関する人事も聖王又は聖王によって代理を認められたものに限られている。つまり、父が下した決定はカルカが次期聖王として既に決まっていることを示していた。

 

 

「お兄様は、それでよろしいのですか?」

 

 

 カルカはカスポンドの様子を窺うように、申し訳なさそうな声で尋ねる。カスポンドは息を吐いて、少しの間を置くと二人の方を向く。

 

 

「正直に言えば、私は既に次期聖王として認められているものだと考えていた。以前から執務を任されていたし、特に最近は父から多くのことを任されていたからな。それに、カルカもリリアのことでとてもじゃないが、この国を任せられる状態ではなかった。父もカルカの体調が戻らなければ考えを変えることは無かっただろう」

 

 

 すべてはリリアが目覚めたことで変わったということをカスポンドは遠回しに表現する。だが、黙り込む二人を見て自身の発言に少し気まずさを覚えたのか、わざとらしく咳き込むと再び口を開く。

 

 

「正直、私は国を率いるということには向いてないと自分では思っていたんだ。残念ながら、私はいつもこの国をよくするために、捨てるべきものは切り捨てるということばかり考えているからな。カルカの目指す、弱きものを救い、誰もが泣くことのない平和な国…、私は到底作り上げる事はできないだろう。だが、カルカにはその理想を実現できる力もあり、支えてくれる臣下もいる。父もその理想の行き着く先を、この国の未来を信じたのだろう」

 

 

 心の奥底で思っていることを隠し、笑顔でそう話すカスポンドにリリアは「兄様…」と声をかける。カスポンドは「すまん話がそれたな」と言うと、再び椅子に座り、任命式の詳細や今後の日程について説明を始めた。

 

 

 

 カスポンドはその日の成すべき仕事をすべて終え、報告のために父の寝室へ向かう。

 寝室の前に待機する従者に姿を見せると、従者は静かに扉を開ける。カスポンドはそのまま部屋へと入り、「父上、本日の報告に参りました」と言いながら横になっている父のそばまで行く。

 

 

「カスポンド、どうだ。うまくいきそうか」

 

 

「えぇ、父上。カストディオ家の当主も全面的に協力するということです。各大臣にも話はすでに通し、予定であればこの日には執り行えるかと……」

 

 

 カスポンドは父に手渡した資料の一部を指さしながら説明する。

 父はカスポンドに「よくやった」と言うと、カスポンドも「ありがとうございます」とだけ返す。そして、カスポンドが口を開こうとするも、すぐに言いたかったことを胸の奥にしまい込んだ。

 

 

(父上は、最初からカルカを聖王にすることしか考えていませんでしたか?)

 

 

 今この質問の答えを聞けば、私はもしかしたら……。そんな気がしたからだ。

 

 

「どうかしたか、カスポンド」

 

 

「いえ、父上。なんでもございません」

 

 

 父は「そうか」と言うと、渡された書類に再び目を通し始める。

 カスポンドは自身の内に眠る欲望があることを知り、いつか目覚め始めるのではないか。いや、既に目覚めているのではないかと不安になった。

 

 

 

 翌日から任命式に向けた準備が各所で開始され、カルカとリリアも衣装の用意や当日使用する器具の確認やセリフの暗記などやることは多かった。だが、それ以上に大変だったのは、レメディオスの暗記力のなさである。

 

 

「姉様!違います!会場に入室して玉座の前まで行ったらすぐに片膝をついてはなりません!」

 

 

「?陛下の前ではすぐに膝をつくではないか」

 

 

「それは通常の場合です!今回、姉様は英雄として任命されるのですよ!英雄が陛下にいとも簡単に従っていては英雄の面子がたちません!陛下が英雄にお願いをする立場なのです!」

 

 

「私はお願いされずともこの国のために従う。であれば構わないのではないか?そもそもだ!あまりにも普通の礼儀と違いすぎるのだ!」

 

 

「だからこうして練習をしているのではありませんか!それにあくまで儀式のための礼法なのです!姉様の忠義心はどこかにおいてきてください!」

 

 

 カルカとリリアの前でレメディオスとケラルトが当日の進行の仕方をめぐって言い争いになっている。言い分はケラルトがほぼほぼ正しいのだが、レメディオスはあれこれ理由をつけて自身を正当化しようとする。レメディオスも貴族としての礼法は幼い頃から身に付けさせられたが、普段の様子を見るに得意としてはいなそうだった。

 

 

「姉様……。これは……」

 

 

「えぇ、レメディオスには騎士団長になる前に、まずは『勉強』をさせなければいけないわね……」

 

 

 父とカスポンドが建てた人事案はおおよそは適当なものであったが、レメディオスを騎士団長に立てるという点においては条件を付けるべきだったと二人は目の前の光景を見て思う。とはいえ、こうして決まったことを今から覆すわけにもいかず、準備のための日数も長くはないため、練習を再開させようとリリアが言い争いを続ける二人に近づく。

 

 

「二人とも、そろそろ再開しても構わないか?姉妹喧嘩は家で続けてもらっていいぞ」

 

 

 リリアの覇気に二人は「は、はい」と言うと、再び定位置に戻り、通しの練習が再開されることになった。

 

 

 

「本日はここまでにしましょうか」

 

 

 カルカが少々疲れ気味な様子でそう提案すると、リリアとケラルトも「そうですね」と全面的に同意し、何度もうなずく。

 

 

「私はまだまだ構いません!」

 

 

 レメディオスは疲れていないような仕草で自身をアピールしている。

 

 

「「「誰のせいで長引いたと思ってる(の)!」」」

 

 

 三人の重なった怒号が会場の外まで響き渡った。

 

 

 

「陛下、任命式に掛かる見通しの予算ですが……。陛下……?」

 

 

「大丈夫だ。続けてくれ」

 

 

 大臣は苦しそうな表情をしている父に心配そうに尋ねる。父は任命式に向けて寝ていたばかりの体を慣らすため、執務を徐々にカスポンドから自分へと移し始めた。だが、体の不調に嘘はつけない。

 

 

「陛下、今はまだご休養になるべきでは……。延期なさるべきではないでしょうか」

 

 

 大臣がそう提案すると、父は鬼気迫る顔で「駄目だ!」と声を上げる。あまりの表情に大臣も驚き「申し訳ありません!」と言いながら頭を下げる。

 

 

「いや、大声を出してすまなかった。だが、大臣。これは速やかに行わねばならないのだ。我が国のためにも、混乱の種をまくことはできぬ」

 

 

 大臣は「畏まりました」と言うと説明を再開する。

 

 父は理解していた。自身はもう長く生きられず、この病を治療し、延命する方法はおそらくあるものの、それは内紛に火をつけかねない行為であるということ。そして、ここで潔く身を引き、後の者たちに国を託すことが自身に与えられた最後の役目であるということを。

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