聖王女の妹は信仰者【本編完結】   作:お稲荷猫

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始まり①

 その日の空は雲一つない綺麗な青空、と言うわけではなく雨雲とまではいかないものの曇が広がっていた。しかし、城下は聖王国民のみならず、他国から来た者達で溢れ、普段以上のにぎわいを見せている。

 

 聖王国で新たな英雄が発表されるという噂はすぐに大陸に広がり、遠方であっても関心を持った者達は長い道のりを経て聖王国の王都ホバンスを訪れている。新たな英雄やアダマンタイト級の冒険者が現れたことはここ十数年の間ほとんどなく、それ故、国内のみならず、各国から見ても関心度は非常に高かかった。

 

 

「レメディオス。珍しく静かだな」

 

 

「リ、リリア様は公務でこう言った場には慣れているでしょうが、わ、私は初めてですので・・・」

 

 

 式典用の衣装を身にまとい、始まるまでの間待機するように言われた王宮内の一室で、リリアはレメディオスの気を少しでも紛らわせようと話しかける。普段の堂々とした様子とは対照的に、目の前にいるレメディオスは小動物のように椅子にちょこんと座っている。レメディオスにとって、人前でこう言った式に臨むことは初であり、当初は何の問題もないと思っていたものの、予想外に来賓がきたことで緊張してしまう。

 

 

「確かに、リ・エスティーゼ王国のみならず、バハルス帝国やスレイン法国からも来賓が来ているらしいからな。非公式なものを含めれば他にもいるかもしれんが」

 

 

 ローブル聖王国は亜人の入国を基本的には認めていない。部分的に協力関係にある亜人を認めてはいるものの、国内の者達から見ても亜人は憎悪する対象になっているため、亜人が住む国家の者を進んで招くようなことは無い。そう言った者はあくまで一個人として参加している形になるだろう。

 

 

「姉様、そんなに緊張なさらずとも……。いつもの姉様と違って気味が悪いです」

 

 

「な、なにを言う!わ、私だって緊張するときくらいはあるんだぞ!」

 

 

 ケラルトもレメディオスのあまりの萎縮している姿に心配を通り越してあきれてしまっていた。ケラルトもこうした場は慣れていないものの、自身を律して冷静さをなんとか保っている。

 

 

「楽しそうですね」

 

 

 そう言いながら部屋の扉を開けて入ってきたのはカルカだった。カルカは三人と同じように部屋で待機していたが、先ほど、父に呼び出しを受けたため一人その場から離れていた。入ってきたカルカにレメディオスとケラルトが姿勢を正そうとするも、カルカは「今はいいから」と止める。

 

 

「おかえりなさい、姉様。父様からのお話は?」

 

 

「あぁ……。ええっと」

 

 

 リリアの質問にカルカはこまった表情をする。変な質問をしてしまっただろうかとリリアは不思議に思う。

 

 

「式のことに関してなの。だけど、秘密にしろと言われているから。貴方達はこれまでの練習と同じように式に臨んでくれればいいわ」

 

 

 リリアはそれ以上追及せず、「分かりました」と返し、二人も「畏まりました」と返事をする。カルカは三人を見ると「頑張りましょうね!」と笑顔で張り切る姿を見せ、三人はその表情やしぐさに感動に近いものを覚え、顔が赤くなった。

 

 

「カルカ様、間もなく式典が開始されますのでご移動をお願い致します」

 

 

 式典の進行を担当している神官がカルカ達を呼びに来た。カルカが「分かりました。それでは参りましょう」と言うと、三人も椅子から立ち上がり、カルカと共に部屋を後にする。

 

 

 

 任命式は王宮内にある王室礼拝堂で執り行われ、拡声の魔法が込められた宝珠によって王宮の外にいる者たちにも式の進行が分かるようになっている。聖王国で最も神聖と言えるこの場は、過去にも多く任命式や叙勲式、そして戴冠式が執り行われた。会場に用意された椅子には各国の来賓や国内の南北双方の貴族が着席し、ざわめいている。

 カルカ達が神官の案内を受けながら、指定された場所へと向かうと、その場所に一人の高位神官が待っており、四人を見ると一礼する。

 

 

「カルカ様、陛下からお話はお聞きになっておられますでしょうか」

 

 

 カルカは高位神官に「はい」と返すと、神官は「では手筈通りに」と言い、頭を下げその場を後にする。

 

 

「貴方達は少しこの場で待っていて。まずは私が行くから。式の進行自体は変わらないから安心して」

 

 

 カルカの言葉にリリア達は「は、はい」と困惑しながらも返事をすると、カルカは頷き会場へと歩き出す。会場の奥に鎮座する王家の者が座る席に父とカスポンドが既に着席しており、カルカのためと思われる席が一つ空いている。

 カルカは堂々としたたたずまいで来賓に左右を挟まれる中央の赤絨毯を歩き、父の隣の椅子へと座る。

 

 

「皆さま、これより式を執り行わさせていただきます」

 

 

 神官がそう言うと、ざわめいていた会場が静かになる。神官は会場を軽く見渡し、静かになったことを確認すると口を開く。

 

 

「最初に、皆様に訂正させていただきたいことがございます。本日の式を執り行うにあたり、聖王陛下のご要望により、本来の式に優先して行わさせていただきたい事がございます」

 

 

 神官の発言に会場が再びざわめき始めるも、父が椅子から立ち上がり両手を上げると、静かになる。父は少し間をおいて話を始める。

 

 

「まずは私の勝手で式を変更させてもらうことを謝罪しよう。なぜ、式を変更しようと思ったかは、私は今日と言うこのめでたき日に、新たな聖王を立てることが良いと考えたからだ」

 

 

 カスポンドは予想外の父の発言に顔を向け目を丸くしているが、カルカは驚いた様子もなく前を向いている。その様子をみたカスポンドは全てを理解したのか、椅子に背中を付け前を向く。

 

 

「私はここに聖王国の次期聖王として我が娘であり、第一王女であるカルカ・ベサーレスを指名し、王位を継承することを宣言する。カルカ・ベサーレスよ、前に出よ」

 

 

 カルカは「はい」と言うと、毅然とした態度で椅子から立ち上がり、父の前へと歩いてその場に祈りの姿勢をとる。国内の貴族、来賓を問わず、会場が突然の戴冠式の開始にざわめき始める。

 

 

「陛下!これはあまりにも横暴ですぞ!」

 

 

 南部貴族が集まる席から一人の貴族が立ち上がり、声を上げる。それに続き、何人かの貴族が声を上げるも、父はその貴族達を睨みつけると「式の進行に邪魔が入った。連れていけ」と側の侍従に言い、侍従が目で合図をすると待機していたであろう聖騎士がどこからともなく現れ、貴族達を連行していく。

 その場を見ていた各国の来賓や貴族たちがざわめくも、父が「愚か者が紛れ込んでいたようだ」と言うと、とたんに静かになる。

 

 二人の高位神官が国法を定めた書と王位継承を定める書をそれぞれの両手で胸の前に持ち、もう一人の高位神官は聖王国に伝わる聖剣サファルリシアを手に持ちながら、二人は父の後方に、もう一人は聖剣を手渡し後ろへと下がる。父は、聖剣を鞘から抜くと、両手で目の前に持ち上げる。

 

 

「カルカ・ベサーレスよ。聖王国の統治者、聖なる大地と海洋の守護者、半島の解放者にしてローブルの支配者たる聖王の座を継ぐことに迷いはないか」

 

 

 カルカは祈りの姿勢を保ったまま「ありません」とはっきり答える。

 答えを聞いた父は、一つ間を置き宣言を続ける。

 

 

「民と国土の繁栄のためにその身をささげることを誓うか」

 

 

 カルカは「誓います」と先程よりも強くはっきりと答える。

 

 

「ならば、この聖剣に誓いの口づけを」

 

 

 父はそう言いながら剣身をカルカの前へと差出し、カルカは臆することなく聖剣にそっと手を添え口づけをし離す。父は剣を再び目の前に持ちあげ、鞘へとしまうと再び神官が前に出て、父から聖剣を預かり、その場に掲げる。

 

 そして、父は自身が被る王冠をそっと外し、カルカに王冠を移す。

 

 

「新たなる聖王に祝福あれ」

 

 

 その声が会場に響いた瞬間、王都が民衆の歓声によって震える。会場も礼儀上拍手をするものや心から歓迎し、祝福するものなどで溢れているが、民衆の歓声はそれ以上に大きく、カルカが北部の民衆に支持されていることを示していた。

 

 

「新たなる聖王。…聖王女様に栄光あれ!」 「聖王女様!万歳!」

 

 

 カルカは後ろを振り向き、会場を見渡しながら手を振る。

 

 

 こうして、未だ二十歳にも満たない聖王国の新たなる若き統治者、カルカ・ベサーレスが誕生した。

 

 

 カルカが両手を上げると、会場の者達は徐々に拍手や喝采を終えていく。そして、神官から聖剣を預かり、地面に突き立てると柄を持ち支え、話を始める。

 

 

「聖王国はこの先、困難な時を迎えることになります。偉大な父からこの国を引き継いだ若輩者の私に不安を覚えるものも多いことでしょう」

 

 

 会場にいる者たちは、カルカに対し視線を集める。王都の歓声もカルカの話が始まると静かになり、皆が街中にある宝珠から聞こえるカルカの声に聞き入っていた。

 

 

「しかし、我が国の民達よ。恐れることはありません。我らには祖先伝来のこの聖剣にも勝る守護者達がいます。紹介いたしましょう我が臣下であり、友となるもの達を」

 

 

 カルカがそう言うと、礼拝堂の中央の扉が開かれる。リリアを筆頭にレメディオスとケラルトが両翼を固め、赤絨毯の上を歩きながら、王座から少し離れたところまで行くとその場に止まる。リリアとレメディオスは立ったままカルカと視線を合わせ、ケラルトは神官の礼をとった。

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