聖王女の妹は信仰者【本編完結】   作:お稲荷猫

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始まり②

 カルカの言葉と共に会場に姿を現した三人に対し、会場の視線が集まる。式典用の衣装は派手なものではなく、神官服のような白を基調とする衣装であったが、カルカと同様に未だ二十歳にもなっていない少女達が入室してきたためだ。一部の者達は噂で情報を掴んでいたが、それを知らぬ者達からすれば異様に見える。

 

 

「この者達は私を護るために死の騎士(デス・ナイト)とその死の軍団を相手に戦い、わずか三人で何千ものアンデッドを討伐したのです」

 

 

死の騎士(デス・ナイト)を…!?」  「本当か……!?」

 

 

 会場にどよめきが走る。死の騎士(デス・ナイト)を倒したということ、そして数千のアンデットの軍団を相手にしたことが事実であれば、それは間違いなく英雄の器に等しいためだ。英雄として認めるのはあくまでハッタリに近いものだと考えていた者達にとっては、このカルカの発言は事実がどうかを置いても奇襲に近いものだ。

 

 

「噂を耳にしたものもいるだろう。我が妹であるリリアが亡くなったという話を。しかし、それは嘘だ。リリアは死の騎士(デス・ナイト)との戦闘によってまた新たな力を獲得し、その力を使いこなすために訓練をしていたのだ」

 

 

 カルカがそう言うと、リリアは魔法を小声で詠唱し始めると足元へ魔法陣が出現し、そのまま、天井に向かって手を伸ばす。

 

 

魔法効果範囲拡大化(ワイデンマジック)雲操作(コントロール・クラウド)

 

 

 リリアの魔法によって王都の上空に広がっていた雲が消えていき、太陽の眩しい光が王都へと差し込む。使った魔法は第四位階の雲操作(コントロール・クラウド)であり、雲を操作することができる魔法だ。

 魔法の知識が乏しい民衆や一部の貴族にとって、使用された魔法を知るすべはなく、天候をも操る伝説の魔法だと思い込む。それこそが狙いである。

 

 

「雲が……!」  「この魔法は一体……!」

 

 

 会場の者はもちろん、王都でもリリアの魔法に驚くものや歓喜している者たちが声を上げる。

 

 

「これを見れば、どれほどの力を持っているのか、言わずともわかるでしょう。私はこの者達を迎え、共に聖王国のために力を尽くしていきたいと思う。そして、中でも大きな力を持つ二人を我が国の英雄として迎える」

 

 

 カルカはそう言いながら聖剣を持ち上げ、三人の前まで歩き始める。その様子を見た神官が小声で「お持ちしましょうか」と言うも、カルカは「大丈夫です」と返す。

 そして、リリアの前まで行くと聖剣を鞘から抜き剣身を目の前に持ちあげる。

 

 

「リリア・ベサーレス。我が妹にして、英雄たる者よ。我が命に従い聖王国に仕え、我が友として共に聖王国を支えるか」

 

 

 リリアは片膝をつくとカルカを見上げ「従います」と言いながら軽く頭を下げる。カルカは手にもつ聖剣の剣身をその肩へと置く。

 

 

「英雄リリア・ベサーレス。汝を我が国の聖国守護騎士に任ずる。我が国に迫る災厄を払い、その命尽きる時まで忠義を尽くせ」

 

 

 リリアは「はっ」と言い、さらに深く頭を下げる。

 聖国守護騎士とは、リリアのような王族が騎士になるために用意された一種の名誉職ともいえるものである。王族はその身分から、聖騎士や『九色』と言う王が能力を持つものに与える名誉職を受けることができないため、その代わりとして用意された役職であり、過去に一度も使われたことは無い、法典上存在はしているものとして理解されていた。

 

 カルカは剣身を持ち上げ、元のように構え直すとそのままレメディオスの前へ行く。リリアよりも身長が高いレメディオスをカルカは見上げる形になるが、その絵はカルカの尊厳を損なわせるような様には見えない。

 

 

「レメディオス・カストディオ。我が臣下にして、英雄たる者よ。我が命に従い聖王国に仕え、我が友として共に聖王国を支えるか」

 

 

 レメディオスもリリアと同様の礼儀をとりながらはっきりと「従います!」と答え、カルカは剣身を肩に置く。

 

 

「英雄レメディオス・カストディオ。汝を我が国の剣でもあり盾でもある聖騎士団長に任ずる。守護騎士リリアと共に我が国に迫る災厄を払い、その命尽きる時まで忠義を尽くせ」

 

 

 レメディオスは「はっ」と言い深く頭を下げる。

 カルカは聖剣を持ち上げ一度リリアの前に戻ると、聖剣を鞘に戻し側に来た神官へ渡す。そして、神官から古びた教典を受け取る。この教典は神殿が管理する由緒あるものであり、高位神官以上の者を任命する際に使用されていた。

 カルカは教典を両手で胸元に抱えるように持ちながらケラルトの前に行く。

 

 

「ケラルト・カストディオ。我が臣下にして、友たるものよ。汝、神官長の遺言にしたがい、民を救い、悪しきを正し、我が身と共に聖王国にその身を捧げることに迷いはないか」

 

 

 ケラルトは前の二人と違い、既に王の下であることが認められているため、用いられる言葉も異なる。そして、神官長の遺言と言うものも、実際にはカスポンドによって事前に作成されていたものであり、前神官長の押印がなされているだけであるが、その事実を知るものは父とカスポンドのみである。

 ケラルトは微動だにせず「ありません」と答える。カルカは教典を一度天にあげ、そのままゆっくりとケラルトの頭の近くへと降ろす。

 

 

「ケラルト・カストディオ。汝を我が国の聖の象徴である神殿の最高位神官及び神官団団長に任ずる。守護騎士リリア、騎士団長レメディオスと共に聖王国のためにその身を捧げよ」

 

 

 ケラルトは「はっ」と言い深く頭を下げる。

 三人の任命を終えたカルカは持っていた教典を神官に返し聖剣を受け取ると、そのまま元の王座まで行く。以前父が座って居た中央の王座は既にカルカの席であるため、父がカルカの座っていた椅子に座っている。カルカは王座の近くまで行くと振り返り、聖剣を掲げ声を上げた。

 

 

「この者達の力は軍勢をも軽く凌駕する!親愛なる我が民よ!そして世界よ!我が名において宣言する!今後我が国に害をなすものが現れれば、この者達がその悪に対し正義の鉄槌を下すだろう!」

 

 

 

 式典が終わると晩さん会が予定されていたが、来賓の多くは今回の出来事の重大性からいち早く報告せねばと帰路についていたため、晩さん会は国内向けの社交時間となっていた。

 カルカやリリア、レメディオスやケラルトも大勢の貴族から挨拶を受け、ひと段落したことでようやく話しができるようになった。

 

 

「姉様、正直驚いていました。まさか戴冠式が今日行われるとは…。それに数千のアンデッドは誇張しすぎです」

 

 

「そうですね。事前に説明をいただきたかったです」

 

 

 リリアとケラルトは少し不満そうにカルカに言うと、カルカは「ごめんなさい…」と肩を窄めた。

 

 

「しかし、お見事でした。『聖女王』の尊厳を失わせない見事な立ちふるまいです」

 

 

 リリアが近くの貴族に聞こえるか聞こえないか程度の声でそう言い放つ。

 多くの貴族はカルカのことを聖王として認めたものの、その能力には疑問を持つとして統治者としての女王ではなく聖王を務める王女として『聖王女』とあの場で叫んだのだ。北部の中にも領地との付き合いや神殿との関係を良好に保つため、女性が王になることに抵抗を持ちつつも、カルカのことを認めたという者もいる。つまり、そういった抵抗心を持つ者は未だ国内に多く存在しているということだ。民衆のほとんどはそのような意図は知らず、カルカのことを慕う一心で尊敬の意味を込めて『聖王女』と呼んでいるだろう。

 

 カルカは小声で「リリア!」と諫めるように声をかける。ケラルトもリリアの言いたいことは理解しており、同じ主に仕える配下として不満に思っている。レメディオスはそのような背景など考えもしていないのか、なぜリリアが『聖女王』と言ったのか分からず首をかしげた。

 

 

「私のことを認めていない者が多くいるのは事実です。それならば、今後、私の治めるこの国を見て考えを変えさせればよいこと。三人も協力してくれるでしょう。皆から認められるその時まで、私はこの聖王女と言う名を甘んじて受け入れます」

 

 

 カルカの言葉に三人は「御身の成すままに」と返事し、カルカに対し改めて忠誠を示した。

 

 晩さん会の会場では改めて父が自身の退位と、カルカの聖王就任を宣言し、南北双方の貴族が最後の挨拶をと父の下を訪れ、挨拶を交わす。その数は明らかにカルカの下へ挨拶に訪れた貴族よりも多い。

 

 こうしてすべての一致が為されぬままではあるが、正式にカルカによる統治が始まることになった。しかし、その先には多くの問題が残っており、カルカの頭を悩ますことになる。

 

 

 

 そしてもう一つの大きな問題が発生する。父が翌日の朝に息を引き取ったということだ。正確には、侍従が父を起こしに行ったことで亡くなっていることが確認された。昨夜は特に問題もなく、部屋の中から大きな声や物事などもしていなかったことが周囲の聞き取りによって確認され、王宮医の検死の結果も病死であるとされたことで事件性はないものとして処理された。

 

 表向きはである。

 

 

 

「先生、貴方が水差しに毒を入れていたことは分かっていたさ」

 

 

 カスポンドは大勢の犯罪者を尋問してきたこの秘密の場で椅子に縛り付けられている男に話かける。その男とは王宮医であった。

 

 

「貴方の家族がある南部貴族によって捕えられていることは知っていました。命令に従わなければ、殺されることも。父はあなたを信頼し、最後まで自分の口から真実をお話になることを願っていましたよ」

 

 

「カスポンド様!私も長年、陛下にお仕えしてきた身です!陛下に対する忠義を失ったことはありませんでした!毒物など!」

 

 

 カスポンドは言い訳をする王宮医には一切目もくれずに手元の書類を見ながら話を続ける。

 

 

「残念だが、貴方の妻と娘、そしてその家族はもうこの世にはいない、私の部下が確認した。半年以上も前に殺害されていたようだ」

 

 

 カスポンドの言葉に王宮医は下を向くと「そんな…」と言いながら涙をこぼす。その様子を見たカスポンドはあきれたような表情をすると、ため息をついて口を開く。

 

 

「貴方のようなものが王宮内に残っていてはカルカの統治に差しさわりが出る。先生には私もよくお世話になった。安心してくれ、悪いようにはしないさ」

 

 

 カスポンドはそう言うと手を叩き、外で待機していた配下の者を招きいれる。

 

 

「睡眠の魔法をかけてから処理してくれ。なるべく苦しまないようにね。後処理も」

 

 

 そう言いつけると、カスポンドは「さようなら、先生」と言いながら手に持っていた書類を部屋の中に置き、その場を後にする。そして、用意していた馬車に乗り込むのとほぼ同時に先ほどまでいた小屋から火の手が上がる。

 カスポンドは燃え上がる小屋を後にしながら、王都への帰還の途に就く。

 

 

「あのような救いようのないものを救おうとしていたとは…。父上、貴方は貴方の正義に殺されたんですよ」

 

 

 カスポンドは暗い夜道を走る馬車の中でそうつぶやいた。

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