聖王女の妹は信仰者【本編完結】   作:お稲荷猫

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変化の時①

 カルカがリ・エスティーゼ王国に使節団を歓迎する返事を出してから約一カ月後、リリアとレメディオスはカルカの命によって、使節団を迎えるため、朝早くから数十人の聖騎士と共に聖王国北方の国境沿いの街道で待機していた。

 使節団には、以前より面識のある、聖王国を含めた諸外国との外交を担当しているウロヴァーナ辺境伯に加え、王国第一王子であるバルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフが参加しており、他国の王族を迎えるためにカルカもそれに対して必要な対応を行ったのだ。

 

 

「我々は栄えある聖王国の!聖王女様の騎士団だ!皆、恥になるようなことはするな!」

 

 

 レメディオスが騎士達の気を引き締めるために声を上げる。その様子を見ていたリリアは頼もしく思いつつも、レメディオス自身が不敬な態度をとらないか心の片隅では不安に思っていた。

 

 しばらくすると、街道に騎乗した王国兵の姿と立派な馬車の姿が見え始める。二台ある馬車の内、後方の馬車には王国の旗が見えたため、使節団の一行であることは間違いない。

 

 

「旗を掲げよ!」

 

 

 レメディオスがそう言うと、騎士の一人が聖王国の旗を掲げ、騎士達も列を整える。

 使節団が街道の聖騎士達の前で止まると、一番前の馬車の扉が開き、ウロヴァーナ辺境伯が挨拶のため降りてくる。リリアとレメディオスも馬を降り、ウロヴァーナ辺境伯に騎士の礼をもって応対する。

 

 

「リリア様、カストディオ団長。お迎えいただき光栄です。本日はよろしくお願い致します」

 

 

「ウロヴァーナ辺境伯殿、こちらも使節団を歓迎致します」

 

 

 リリアと共にレメディオスも一礼をし、「それでは参りましょう」と言うと辺境伯も馬車に戻り、二人も馬へと乗る。

 レメディオスが「出発するぞ!」と言うと騎士たちは使節団の前を先導するように隊列を形成し、一行は王都へ向け移動を開始した。

 

 道中はいたって平穏でこれといった問題も起きず、大都市プラートを経由して、日が少し落ちる頃には王都ホバンスの城門をくぐることができた。城門の先では使節団を見るために集まった人々が聖騎士や王国の者に向けて手を振っている。

 

 城下の大通りを過ぎ、王城の門の前につくとすぐさま門が開かれ、そのまま王宮の前まで移動する。王宮の前には既にカルカや大臣達が待機していた。

 リリアを先頭に一行は王宮の前につくと、ゆっくりと止まる。リリアは馬を降り、騎士に馬を任せてカルカの下へ行き、使節団が到着したことを報告する。護衛に当たっていた騎士達が馬を降り始めると、先頭の馬車と後方の馬車の扉が開かれ、先頭の馬車からは辺境伯が。後方の馬車からは非常に目立つ衣装を着た金髪の青年が降りてくる。年齢はカスポンドと同じくらいだが、体付きはしっかりしており、この者が第一王子だろう。

 辺境伯が案内をしながら、バルブロは共にカルカの下まで行くと辺境伯は一礼するもバルブロが礼をする様子はない。

 辺境伯が「王子!」と小声でバルブロに声をかけるも、バルブロは聞く耳を持たない。

 

 

「出迎えに感謝する。有意義な話し合いができることを期待する」

 

 

 カルカに対して名を名乗るどころか、王族の礼さえせず、格下に見るような態度をとるバルブロに、大臣達や後ろの聖騎士、それに王国の者達も困惑している。辺境伯はバルブロの態度をごまかそうと必死にカルカに媚びへつらい、リリアとレメディオスは礼儀知らずな第一王子に対し、怒りと呆れの感情を覚える。

 

 

「今代の聖王女を務めています。カルカ・ベサーレスです。本日はよろしくお願い致します。バルブロ第一王子」

 

 

 カルカはバルブロの行為に対し表情を崩さずに丁寧な対応をする。バルブロはカルカのその姿を見て「ほう」と声を漏らす。辺境伯が王子に代わってカルカに挨拶を返し、カルカの案内の下、使節団の一行は王宮内へと入っていく。

 

 

「リリア様、あの者に礼儀と言うものを叩きこんでやりましょう」

 

 

「レメディオス。相手は王族だぞ。それに今日は両国の友好のために重要になる日だ。剣を抜く真似はするな」

 

 

 剣の柄に手をかけているレメディオスにリリアは落ち着いて対応させようと注意するが、リリア自身も怒っている。それと同時に、どうしてあのようなものを今回の使節団の一員として送り込んだのか理解に苦しむ。しかし、カルカが冷静に対応している以上、臣下として主の顔に泥を塗るようなことはできない。

 

 

「レメディオス。後の事は任せる。私は姉上の護衛騎士として会談の際には側に控えなければならないからな」

 

 

 レメディオスは「分かりました」と言うと、すぐに騎士団に対し指示を始める。リリアは兜と外套を脱ぎ、侍従に渡して簡単に服装のチェックを済ませると、会談を行う会場に一足早く向かう。

 会場に入ると、既にテーブル上にはメイド達によって必要な物がセットされ、侍従たちによって細部に至るまで確認が為されているところだった。

 

 

「準備はどうか」

 

 

 リリアが侍従長に声をかけると、侍従長は「リリア様、特に問題ありません」と返す。

 リリアは「分かった。ご苦労」と侍従長や仕事に当たっている者にねぎらいの言葉ををかけ、「会場に案内する」と言ってその場を後にする。会場を出て廊下をまっすぐ行った先の部屋がカルカが待機している王宮の一室であり、リリアはノックをして部屋に入る。

 

 

「聖王女様、会場の準備が完了しました」

 

 

「分かりました。すぐに行きます」

 

 

 カルカはそう言うと、ソファから立ち上がり今まで話をしていた大臣達と共に会場へと向かう。リリアはその足で使節団が待機している応接室へと向かう。ノックをして扉を開けると、辺境伯がバルブロに何かを言っているようだったが、リリアが入ってくるのを見るとごまかす様に咳をする。

 

 

「バルブロ第一王子、及び使節団の皆様、会場の準備が整いましたので、ご案内致します」

 

 

「リリア様、わざわざありがとうございます」

 

 

 辺境伯はリリアに頭を下げる。バルブロはリリアの姿を見ると先ほどカルカに行ったように「ほう」と声を上げる。嫌な視線を感じたリリアはさっさと会場へ向かおうと思い、「参りましょう」と言って一行を引き連れ足早に会場へと向かった。

 

 会場の前につき、扉をノックして使節団一行が来たことを伝えると、扉が開かれる。奥の席には会談に臨む聖王国の関係者が席についており、手前の席に王国の使節団一行が座る形だ。リリアは「どうぞ」と言って中へと招き入れ、王国の一行が全員席に着いたことを確認すると、カルカの側にいき、壁を背にして立ったまま待機する。

 

 会談の初めは、王国側の聖王女就任を友好国として歓迎し支持する言葉から始まり、カルカが王国との友好を今後も深めたいという意思を長い言葉で伝える。本来であればこうした挨拶は王子であるバルブロが行うはずであるが、辺境伯がすべての対応を行っており、リリアはこの者が第一王子であるという事実に驚愕する。兄のカスポンドの足元にさえ及ばないだろうと。

 

 

 

「聖王女様、本日は我が国との穀物の貿易に関して一つご相談したいことがございまして……」

 

 

「伺います」

 

 

 辺境伯が下手に出るように笑いながら話しかけ、カルカは毅然とした態度で対応する。辺境伯は「ありがとうございます」と言いながら側にいる部下から書類を受取る。

 

 

「昨年より我が国では国内における穀物の消費が増えておりまして…。聖王国に輸出している小麦の価格を引き上げざるを得なくなっているのです」

 

 

「自国の民を優先することに対して異議を唱えるつもりはありません。どれほど価格を引き上げる予定ですか」

 

 

 辺境伯は用意していた書類を目の前に座る大臣へと手渡す。書類の中身を見た大臣は「こんな話があるか!」と声を荒げる。

 

 

「小麦の価格を三倍以上だと!我が国を飢え死にさせる気か!」

 

 

「ですが、我が国における穀物の価格も上昇していまして…。これでも努力した結果なのです……」

 

 

 辺境伯は先程前の笑みとは違い、怒って当然だと理解しているのか苦しそうな表情をする。

 

 王国が貴族派と王族派に分断されていることは有名な話であり、聖王国に輸出される穀物は主に貴族派の領地で生産されている。貴族派は王族派の成すことに反対することが常であり、その背景を考えるのであればこれは王国の意思の裏返しと理解できるだろう。

 

 辺境伯は王族派に組しており、本来はこうした書類を手渡したくはないと考えていた。

 

 

「王国の輸出割合の中でも我が国は多くの穀物を輸入している国家だぞ!価格を三倍などにされたら財政が破綻してしまう!」

 

 

「そうだ!それに王国内で穀物の価格が上がっている情報など聞いたことがないぞ!我々を侮っているのか!」

 

 

 大臣達が王国からの無理な要求に対し、各々の意見をぶつける。カルカが落ち着きを失った大臣達を止めようとした矢先、バルブロがテーブルを力強く叩き「うるさい!」と大声を上げる。

 

 

「そんなに嫌なら買わなければよいではないか!我々がお前たちに販売してやっているだけ感謝して、我々の要求を黙って受け入れればよいだろう!買わずに餓死するのは貴様らだ!持たざる者が持つものに従うのは当然、それをあれだこれだと文句をつけおって!」

 

 

 突然の暴論に聖王国の者のみならず、王国の者達も目を丸くする。辺境伯はもう黙っていてくれと言わんばかりの呆れた顔をして頭を抱える。

 

 

「バルブロ王子!それは王国の意思なのですか!」

 

 

「私は第一王子だ!私の言うことが王国の意思でなければなんだという!」

 

 

「王子!聖王女様、王子は混乱なさっています。王子がおっしゃっていることは真実では……」

 

 

「ウロヴァ-ナ伯!お前がそのように下手に出るからいけないのだ!お前が前からもっとしっかりしておれば!」

 

 

「バルブロ王子、いったん落ち着いてください。こちらにも非があったことは認めます。一度落ち着いて話し合いを……」

 

 

「今は私が話しているのだ!前聖王が亡くなったことで王位を継いだ小娘が口を出すな!容姿だけは立派なおかげで支持されているだけのな!」

 

 

 大臣や辺境伯に暴言を吐き続けるバルブロを諫めようとカルカが落ち着いて対応するも、バルブロは会話に入ってきたカルカを軽んじる発言をする。

 その状況を見ていたリリアも、カルカのことを小娘と言ったところまでは怒りを抑えられていたが、バルブロがカルカの容姿や能力をも侮辱するような発言をしたことで我慢の限界に達した。

 

 

(言わせておけば!)

 

 

 リリアは腰に下げている剣の柄に手をかけた。

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