聖王女の妹は信仰者【本編完結】   作:お稲荷猫

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変化の時④

 会談を終え、ジルクニフはその場を後にしようと椅子から立ち上がり、扉へと向かうもすぐに足を止める。ついてくるべき者が動こうとしないからだ。

 

 

「フールーダ?フールーダ。爺や!行くぞ!」

 

 

 じっとリリアの方を見ているフールーダに対し、ジルクニフが大きな声を上げるも、フールーダは動こうとはしない。そして、カルカやケラルトの方も見てから、再びリリアの方を見る。

 

 

「リリア殿にお聞きしたいが、魔法はどうやってお知りになったのかな」

 

 

「なぜそのようなことを……?」

 

 

「老人の戯言だと思って教えてはくださらぬか」

 

 

 リリアはどうしたらよいか判断に困ったため、カルカの方を見る。カルカは「構わない」というように黙って頷く。

 

 

「王宮の図書館で読んだ本が最初のきっかけです」

 

 

「ではだれにも教わらずに?」

 

 

「聖王国を訪れた冒険者などから実用的な魔法の知識を教えてもらいました。後は独学です」

 

 

 フールーダはそれを聞くと、「なんと独学で!」と嬉しそうに声を上げる。その様子を見ていたジルクニフは「またか…」と言うように頭に手をやる。ジルクニフはフールーダが魔法の事となるとすべての事が目に入らなくなるとんでもない『魔法狂い』であることを知っており、また発作を起こしたのだと呆れてしまう。

 

 

 

「私も独学で魔法を学んできたがそこまで大成するには何十年も必要だった……」

 

 

 フールーダの話にリリアは「はぁ…?」と気の抜けた返事をする。

 

 

「その才をこのままにするのはもったいない!リリア殿、私の下で魔法を極めてはくれないか!その才があれば第六……いや私を超え第七位階の壁さえも……!」

 

 

「爺!話はその辺にしておけ!」

 

 

 フールーダがあまりにも過ぎた発言を続けるため、ジルクニフが釘を刺すも、フールーダの暴走が止まる様子はない。フールーダはそのままカルカの下へ行くと座り込んで頭下げて願い出る。

 

 

「聖王女様!貴方様の英雄を私に預けてはくださらぬか!私が魔法の極致に至るためにはリリア殿が必要なのです!どうか!」

 

 

「フールーダ様!それは……!」

 

 

 魔法詠唱者(マジック・キャスター)の頂点に立ち、英雄を超えた『逸脱者』でもあるフールーダに頭を下げられたカルカは、あまりに唐突すぎる話に断ろうにも断ることができず答えに困ってしまう。

 

 

「爺!止めるのだ!それ以上は流石に認められぬ。騎士よ、爺を連れて帰還する」

 

 

 ジルクニフがそういうと、護衛騎士の内二人が床で膝をついて頭を下げているフールーダの両脇を持ち連れて行く。

 

 

「聖王女様。先ほどのフールーダの発言は流してもらって構わない。爺は魔法の事となるとあのようになってしまうのだ…」

 

 

 ジルクニフが呆れながらた様子でそう言う。先ほどの光景を見て十分に理解できたカルカは「分かりました」と返すと、ジルクニフは「それでは我々は失礼する」と言い騎士に取り押さえているフールーダと共に大臣邸を後にした。

 

 帝国の一同が大臣邸を出て行ったのを確認すると、ケラルトがレメディオスに聖騎士に後をつけさせるべきだと助言し、レメディオスはその通りに指示を出す。しかし、ケラルトは何か納得いかない点があったのか、腕を組み考え込み始めた。その様子が気になったカルカはケラルトに声をかける。

 

 

「ケラルト、何か気になることが?」

 

 

「あ、いえ、考えすぎかもしれないのですが……」

 

 

 答えようか迷うケラルトに対し、カルカはそれでも話す様に促す。

 

 

「先ほどのフールーダ・パラダインの視線の動き。あれは何かを見定めているような印象を持ちました。それにリリア様に対するあの発言。第六位階や第七位階を目指せる才を持っていると。私達の魔力を見抜いていたのではないでしょうか」

 

 

「まさか、そんなことがあるわけないだろうケラルト」

 

 

 ケラルトの話を聞いたレメディオスは考えすぎだという。しかし、カルカはフールーダほどの魔法詠唱者(マジック・キャスター)であればそのような魔法を知っていてもおかしくないと考えた。もし、リリアだけでなく、ケラルトや自分の持つ本当の魔力を見抜かれ、実力を騙していることがフールーダによって他の者にも知られることになれば、警戒され今後に影響が及ぶかもしれないと。

 

 

「姉上、もう夜も遅いです。大臣も我々がいてはお休みになれないでしょう。いったん王宮へ帰り、後日、話し合う場を設けるべきでは?」

 

 

 リリアは、考え込み始めるカルカやケラルトに対し、扉の近くで様子を窺うように待機している大臣と使用人を指しながらそういう。カルカは「そうね」と言うと、席を立ち大臣に礼を言って邸宅を出て馬車へと向かう。

 

 

「ケラルトはどうしますか。一度王宮に戻ることになりますが……」

 

 

 ケラルトはカルカと共に馬車に乗ってきたため、帰る手段を得るためには一度王宮に戻らなければならず、現在地からすれば遠回りをする形になる。

 

 

「カルカ様、大丈夫です!ケラルトは私の馬に乗せて帰ります!」

 

 

「姉様がそういうので、私達のことはお気になさらず」

 

 

 カルカが「分かったわ」と言うと、二人は挨拶をして馬に乗りその場を去る。それを見送ったカルカとリリアは自分たちが乗ってきた馬車や馬に乗ると王宮へ帰還した。

 

 

 

 後日、外交方針に関する会議が開かれ、各大臣が集められると昨晩あった出来事が伝えられる。

 帝国皇帝がわずかな護衛と共に聖王国を訪れ、会談をした後に行方をくらまし、おそらく帝国に帰ったであろうという報告はどの大臣も信じられず、冗談を言っているのではないかと思ってしまう。だが、事実であり帝国一行を尾行していた聖騎士は路地を曲がった先で見失ってしまったため、どのような方法で移動したのかは確認できていなかった。

 しかし、カルカやケラルトは転移の魔法によって移動している可能性を考慮していたため、カルカは転移の魔法を使い帝国へ帰ったのだろうと理解していた。

 

 

「とはいえ、こうして印が押された書類が残っている以上、真実だと認めるしかないでしょう。問題は我々が今後取るべき方策です」

 

 

「帝国と関係を持つためには王国の領内を通る必要がある。だが、王国がそのようなことを認めるはずがない」

 

 

「その通りだ。それに王国と敵対することになれば大半を王国からの輸入に頼る農作物はどこから仕入れるというのだ。帝国と交易をするには結局のところ王国の街道をとおらねばならん!」

 

 

「敵対するとは言っていないだろう!あくまで中立を維持するというだけだ」

 

 

「王国から見れば、急に関係を変化させ帝国に近づいた我々は事実上の敵対国とみられてもおかしくはないだろう!」

 

 

「であれば帝国との交易路を新たに作るべきでは?帝国がカッツェ平野一帯を占領し、我々がアベリオン丘陵一帯を占領することができれば交易路はつくれるでしょう」

 

 

「そんなこと誰ができるというのだ!亜人共を滅ぼしてアベリオン丘陵を組み込むなど夢物語だ!帝国も王国との戦争で未だ完全な勝利を得たことは無いのだぞ!」

 

 

 大臣達の議論がエスカレートし、会議場は瞬く間に統制を失った。しかし、大臣達も聖王国のことを想えばこその発言であり、決して悪気があるわけではないことを理解しているカルカはどう止めたものかと頭を抱える。

 その様子を見たリリアはカルカに代わり場を鎮めようと思い、剣を鞘に入れたまま地面に勢いよく降ろし大きな音を鳴らす。

 

 

「大臣方、活発な議論をするのは結構ですが、言い争いをするのは賢明ではないと思います」

 

 

 その場にいる大臣のほとんどが昨日のリリアの本性を知っているため、すぐに会議場は静かになる。リリアは「姉上どうぞ」と言い、剣を再び腰に戻す。

 

 

「まずは王国との関係を壊さないようにするために私達がとるべき方策について決めましょう」

 

 

 カルカがそう言いながら大臣達に意見を求めるも、最も難しいといえる問題を目の前にし一同は口を紡ぐ。

 そのうち、何か思いついた一人の大臣が口を開いた。

 

 

「我々が帝国と取引をするために通る街道の領主を中心に取引を進めていくのはいかがでしょうか。港湾都市のリ・ロベルや王都南方のエ・ベスペルを管理する領主はいずれも王派閥。そして交易の中心地となるエ・ランテルは王の直轄領です。帝国と取引をするだけならこの地域の領主とランポッサ三世の承認を得られれば済むのでは?」

 

 

 リ・エスティーゼ王国の南部は全体的に王派閥が優勢であり、王派閥は聖王国との関係を重視する傾向にある。これは、貴族派閥が聖王国への圧力を強めようとしていることに対して反対をしている結果だが、聖王国からすれば有利な点であった。

 

 

「帝国との取引をするという点ではそれでも良いだろうが、農作物の輸入はどう解決する。王国ほどの量を帝国から輸入できるとは思えないが……」

 

 

 白髪が混じる大臣が最初の提案をした大臣の意見を部分的に同意しながらも、未だ残る問題を指摘すると会議場は再び静まり返る。しかし、何か案を持っていたのか、すぐに王国との外務を担当している大臣が手を挙げた。

 

 

「王国の北西部の貴族派閥が管理する各港湾都市は我が国から多くの海産物…主に真珠ですがこちらを買い取っています。彼らが輸入を停止、または価格を上げるなどの行為に及べば、それに応じてこちらも価格を上げるのはいかがでしょうか。聖王国産の真珠は需要がありますから。経済的にも内政的にも圧力をかけることができます」

 

 

「なるほど、それであれば価格をある程度上げられたとしても真珠に上乗せした価格で換えることができるかもしれん」

 

 

「それに貴族派閥は派閥内で農作物を安く取引しあっています。彼らからこちらに定価で流し続けてもらえば問題はないでしょうな」

 

 

 次第に大臣達の案がまとまりはじめ、王国に対する方針が決定される。リリアはまとまった内容を確認するため、カルカに代わり文書を読み上げる。

 

 

「王国に対する今後の方針は中立の姿勢を保ち、王国内の王派閥貴族及びこちらの影響力が及ぶ貴族を中心に聖王国支持の動きを広め、帝国との交易路として街道の利用を承認してもらうため、王国南部の貴族にも取引を持ち掛ける。と言うことでよろしいでしょうか」

 

 

 大臣達はこれが今選びうる最善の策だと考え、各自が頷いたり、「承認する」と言って賛同の意を示す。

 

 

「我が国の王国に対する方針は決まりました。次に帝国との関係に関する……」

 

 

 カルカが議題を進めようとすると、部屋の扉がノックされ、文官が足早に部屋へと入ってくるとカルカに向けて当てられたであろう文書を差し出す。リリアが文官からそれを受け取り「戻っていいぞ」と指示した後、文書をカルカに渡す。カルカはすぐに渡された文書に目を通す。

 

 

「姉上、文書の内容は?」

 

 

 大臣達も疑問に思っていることをリリアが代弁し、カルカに尋ねる。

 

 

「リ・エスティーゼ王国からです。第一王子の無礼な行為を謝罪する場を王都にて設けたいとのことです」

 

 

 話を聞いた大臣達は王国の対応の速さに驚いた。おそらく、王家にも昨日のことが伝わり重大な問題として判断されたのだろうと。

 

 

「しかし、謝るのであれば向こうから来るべきでは?」 「その通りだ。やはり王国は我々を下に見ているのだ!」

 

 

 しかし、これを断れば関係が悪くなることを理解しているだけに向かう必要があると判断する。大臣達も口では文句を言いながら実情は十分に理解している。だがやられてばかりと言う訳にもいかないという表情だ。

 

 

「聖王女様自らが赴いては奴らの思うつぼです。聖王国は未だに王国の指示を聞く国家だと。ここは代理を立て、聖王女様に謝罪をお伝えするという形をとりましょう」

 

 

「だが、誰が行く?我々のような者が行けば、逆に王国を刺激しかねないぞ。聖王国にとって王国は大臣を送る程度でよい国家だと思われかねん。それなりの人物でなければ……」

 

 

「ケラルト様を派遣するのはいかがでしょう。我が国の権威でもある神殿の現在の長であり、最高位神官でもあらせられますからな。肩書も十分です」

 

 

「駄目だ駄目だ!確かに派遣するものとしては身分も頭脳も十分だが、あらたな外交問題を持ち帰りかねないぞ!」

 

 

 ケラルトの事をよく知っている元神官の大臣が全力で否定する。周りの大臣はその様子を見て「そ、そうか」と引き気味に答える。最適な人物を求め悩んでいた大臣達であったが、全員が何かを思いついたのか、一斉にカルカ、の後ろに立つリリアに視線を集める。

 

 

「み、皆様、なんでしょうか」

 

 

『身分も頭脳も、実力も兼ね備えておられるお方がここにもおられるではないか!』と大臣達は一斉に声を上げた。

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