聖王女の妹は信仰者【本編完結】   作:お稲荷猫

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聖王国外交戦②

 リリアの予想だにしていなかった発言に謁見室にいた王国の者達は驚愕する。

 事情を知らない王国からすれば、謝罪を受け入れながら王国との関係見直しを迫るのは、実質的には許していないと言える行為だからだ。そのいい加減な発言に王国貴族の一人が口を開く。

 

 

「どういうことだ!我が国との関係を見直すとは!我が国を敵にするということか!」

 

 

 それに便乗するように、何人かの貴族が意見を飛ばす。リリアはそのような者達の声をかき消すように声を上げた。

 

 

「我が国は王国と敵対するつもりはありません。しかし、これまでのような関係を維持するためには『話し合い』が必要になると思います」

 

 

 それを聞いたランポッサは、文書を手にしている貴族に内容を読み上げるように迫る。貴族は「かしこまりました」と言うと、震える手に持つ文書を読み始める。

 

 

「聖王国はこれまで王国の友好国として、互いの国益のために努力を尽くしてきたが、今回の件で関係を維持することが難しいと判断せざるを得ない状況となった。王国に依存し続けることは聖王国にとって正しい道ではない。よって、聖王国は今後も王国と友好的関係を維持しつつ、新たな友好国と関係を持ち、両国間において中立の立場を貫くものとする。さらに、新たな友好国との関係構築、中立の維持のため、聖王国に対しあらゆる圧力を加えることなく、協力することを要請する」

 

 

 貴族が文書の最後にあるカルカの署名を読み終える。

 ランポッサは文書の内容から聖王国が新たな友好国として認定しようとしている国に心当たりがあったが、その予想が外れてほしいと願いながらリリアへ尋ねる。

 

 

「リリア殿。聖王国の考えは分かった。しかし、この新たな友好国とはどの国家を指しているのかね」

 

 

 周りの貴族達も聖王国が関係を持とうとする国にはほぼ一つに絞られると考えていた。亜人を蔑視する聖王国にとってアーグランド評議国は話にならず、スレイン法国とは宗教性の違いで友好的関係を築けるとは言えない。ほかに近い人間がいる統治する国家は一つだ。

 

 

「陛下、聖王国は新たな友好国としてバハルス帝国を選択しました。既にバハルス帝国皇帝と会談も終えており、後は王国との関係をどうするかが我が国にとって問題となっていることです」

 

 

 王国の貴族達が再び騒ぎ始める。王国の敵対国であり頻繁に戦争を行っている帝国と聖王国が関係を持つなどあってはならないことだからだ。帝国だけならまだしも、亜人との戦いを続ける聖王国は軍事力と言う面でいえば、明らかに王国よりも高い水準にあるといえた。この二か国を敵に回すような事態は避けたいと。

 

 

「聖王国は帝国と同盟し、我が国に攻め入る気なのだろう!」

 

 

「そうだ!今回の会談が破綻したとはいえ、そこまで態度を変える必要はないだろう!まさか、以前より帝国に寝返ろうと思っていたのではないか!」

 

 

「王国からの恩恵を受けておきながら、そのような態度をとるのは無礼ではないか!」

 

 

 王国貴族達の批判が一斉にリリアへと飛ぶ。聞くに堪えない声にレメディオスは怒りによって手が震え、剣に手をかけそうになるもリリアが止めるように手に触れる。

 

 

「お忘れなきよう、我が国は王国の傀儡国ではない!対等の関係にある国家に今回のような仕打ちをしたのは紛れもなく王国側です。それを我が国の問題だと責任転嫁するのはいかがなものでしょうか」

 

 

 それに対しさらに王国貴族が批判の声を強めた。リリアの言うことを聞きたくないというような子供が駄々をこねるようにも聞こえる。その様子を見ていたランポッサが「静かにするのだ!」と大きな声を上げると、王国貴族は途端に静かになる。

 

 

「リリア殿。先も認めたように、今回の問題は王国に非がある。それは確かなものだ。しかし、帝国と関係を持つと聞いてそれをすぐに承知することはできない。詳しく説明してもらえないだろうか」

 

 

 リリアは「はい陛下」と言うと、聖騎士に指示し、新たな文書を先ほどの貴族へと手渡させる。

 

 

「今お渡しした文書は我が国の『中立』に関して詳しくまとめたものです。口頭で簡潔に説明しますと、軍事的、政治的、経済的要素を含む問題に関して我が国は『基本的』に両国間の関係に関与をいたしません。例を挙げますと、王国と帝国が戦争をする際にどちらかに支援を行うことはありません。ただし、負傷者の治療のために神官を送ることがあれば、両国に神官を派遣致します。これらの詳細は文書に詳しくまとめられていますので、確認いただければ問題ないかと思います」

 

 

 リリアの説明にランポッサは「分かった」と言い、文官たちに文書の中身を精査させるため、貴族に指示して文書を運ばせようとする。リリアは「お待ちください」と言い、聖騎士にもう一つの文書を手渡させる。

 

 

「そちらは、聖王国が帝国との交易や外交のため、王国の街道などを利用する際の取り決めに関する提案です。共にご確認ください」

 

 

 リリアがそう言うと、貴族はその二つの文書をもって謁見室を後にした。

 

 

「リリア殿。貴国からの提案を一度審議させてほしい。そのうえで明日、結論を出したいのだが」

 

 

「構いません陛下。聖王国と王国、それに帝国も関係する問題です。すぐにとは申し上げません」

 

 

 リリアがそう言うと、ランポッサは「助かる」と言い、先ほど案内をした貴族に指示してリリア達を客室へと案内させる。退出する際、レメディオスが文句を一番多く飛ばしていたと思われる貴族を睨みつけていたが、鬱憤を晴らさせるのも必要だろうと止めはしない。

 

 

 

「こちらでございます」

 

 

 そう言って案内された部屋は非常に豪華なつくりの部屋であり、聖王国のリリアの私室はこうした豪華な装飾が施されていないため、どこか落ち着かない。窓からは様々な花によって彩られている王宮の庭園が一望できる。

 部屋の確認を終えたレメディオスと聖騎士達は別の部屋へと案内されるため、一度分かれることになり、後で合流するということになった。

 

 今日のお役目を無事果たせたことに安堵したリリアは、ひとまず休もうと部屋付きのメイドに指示し、お茶を入れさせる。お茶は香りは良かったものの、聖王国のお茶と比べ味は少々落ちているといったところだ。

 

 

 そうして休憩していたリリアであったが、いつまで待ってもレメディオスや聖騎士達が帰ってこないことに違和感を持った。

 

 

「すまないが、私の騎士達の部屋は結構遠い所にあるのか」

 

 

「いえ、もう一つとなりの兵士などが利用する館になりますが、距離は遠くありません」

 

 

 部屋付きのメイドはリリアの質問に丁寧に応対する。リリアは教えてくれたメイドに礼を言うと、その部屋まで案内をするように頼んだ。メイドは兵士たちが使うようなあまり立派とは言えない場所であることを伝えるも、リリアが構わないというため、素直に案内をする。

 

 一つとなりの館に行くまでの間には、王城内で兵士達が訓練をできるような場所があり、大勢の兵士がそこに集まっていた。その様子を見たリリアは足が止まる。

 レメディオスが王国の兵士達を地面に倒している所を見てしまったからだ。

 

 

(あの馬鹿!何をやっている!)

 

 

「あの場所にはどうやっていく!急いでくれ!」

 

 

 メイドはリリアが指を指している所を見て、「こちらです」と小走りに案内をした。

 

 

 

「王国の兵士はこの程度か!さっきまでの威勢のよさはどこにいった!」

 

 

 そう言いながら木刀を構えるレメディオスを側にいた聖騎士達が必死に諫める。

 事の始まりは、レメディオス達が部屋を案内される際に、通りがかった兵士がレメディオスが女で、まだ子供に過ぎないことを揶揄したことだった。その程度であれば、まだレメディオスも我慢でき、適当に受け流したものの、カルカやリリア、ケラルトもまだ子供でそうしたものに国を率いらせている聖王国を馬鹿にする発言をしたことで一気に火が付いたのだ。

 

 

「レメディオス!何をしている!」

 

 

 レメディオスが声の方へ顔を向けると、そこには急いできたために髪の毛は乱れ、汗をかいているリリアの姿があった。

 

 

「リリア様!これは…!その……」

 

 

 倒れている王国の兵士達の方を見ながらレメディオスが事情を説明しようとする。しかし、リリアの怒りはその説明を受ける前に爆発してしまう。

 

 

「ここは王国だ!聖王国ではないんだぞ!自分が置かれた立場や私たちが為すべき役目を忘れたか!」

 

 

 リリアの今までにないような怒り方にレメディオスは「申し訳ありません!」と頭を下げる。状況の一部始終を見ていた聖騎士達がレメディオスを擁護するため、リリアの怒りを鎮めながら話を聞いてもらおうとする。

 

 

「リリア様!団長も訳があっての事なのです!どうか落ち着いてください!」

 

 

 必死に擁護する聖騎士達の姿を見て、リリアも我に返り、説明も聞かずにレメディオスを叱りつけたことを悔いる。大任を任されていることで少々焦っていたのかもしれないと。

 

 落ち着いたところでリリアが聖騎士から説明を聞き、レメディオスがこのような行動に及んだ理由を知った。集まっていた王国の兵士からも話を聞こうとしたものの、ほとんどの兵士が「決闘をする」という話を聞き集まったため理由は知らないという。

 どう事態を収拾すべきか困っていたところに、一人の貴族がやってくる。

 

 

「これは……。一体何があったというのだ」

 

 

 リリアはその姿に覚えがあった。謁見室の場にもおり、資料でも読んだからだ。

 王国の六大貴族の一角であり、王都の東に大きな領土を持つレエブン侯の姿がそこにはあった。

 

 レエブンはリリアの姿を見ると一礼し、倒れている兵士を医療所に連れて行くよう兵士に指示する。

 

 

「リリア様。一体何があったのですかな」

 

 

 レエブンを前にして、リリアは一瞬返答に迷う。貴族派閥であるため、交渉にこの事件を持ち出される可能性があり、こちらにとっては不利になる可能性があったからだ。しかし、説明せずにいるわけにもいかず、聖騎士から聞いた話をそのまま伝える。とはいえ、説明を聞いたとしても王国の兵士がそのようなことをするわけがないと一蹴されると考えていた。

 

 

「なんと!それは我が国の者が失礼をしました。どのような償いをすればよいか……」

 

 

 想像とは全く違った対応をしたレエブンにリリアは動揺するも、こちらにも非があったとして償いはいらないことを伝える。レエブンは「リリア様がそうおっしゃるのであれば」とその場に集まった兵士に解散するように伝える。リリアもレメディオスを連れて部屋に戻るよう聖騎士に伝える。レエブンのおかげでその場はうまく切り抜けることができた。

 

 

「レエブン候。ありがとうございました」

 

 

「名を知っていただけているとは光栄です。王国の者がしでかしたことを謝罪するのは王国の貴族として当然ですから」

 

 

 レエブンは笑みを浮かべながらそう言うも、リリアはどこかその笑顔が一致しないような印象を受ける。すると、レエブンはおもむろに口を開く。

 

 

「聖王国からの文書ですが、私としては承認しても良いと考えています」

 

 

「……それはどうしてですか?」

 

 

「あの馬k……第一王子がしでかしたことを踏まえれば当然受け入れるべきでしょう。聖王国が関係を切らずに譲歩してくださるのですから。私の良心も訴えるのです」

 

 

 レエブンはそう言うと、「それではまた明日」と言って再び一礼をしてその場を去る。振り返った時には、その顔から先ほどのような笑みはもう消えていた。

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