聖王女の妹は信仰者【本編完結】   作:お稲荷猫

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ー題名を若干変更しました。前回聖王国外交戦③を読んだ方はこれが④になります。


聖王国外交戦③

 レエブン候の助力もあり、今回の一件は大きな外交問題に発展する事態は避けれたものの、依然として不安な要素であることに違いはない。しかし、リリアは王国の兵士の現状を知れたという点では今回の一件は大きな価値があると感じていた。

 

 リリアは先ほどの一件の裁定をするため、レメディオスの部屋の前を訪れる。扉をノックすると、「入れ」と言う声が聞こえたため、扉を開け「邪魔するぞ」と言いながら部屋へと入る。

 

 

「リリア様!失礼しました!」

 

 

「いや、構わない。楽にしてくれていい」

 

 

 立ち上がり騎士の礼をとろうとするレメディオスをリリアが止める。レメディオスは先程の件の処分を伝えに来たのだろうと思った。

 

 

「リリア様、今回の一件の責任はすべて私が……!」

 

 

「レメディオス。今回の件は大丈夫だ。王国に聖王国の強さを見せつけられたと考えればいい。ただし、その後先考えない反射的な行動は抑えるべきだな」

 

 

 リリアの注意にレメディオスは「はい」と言う。

 リリアはレメディオスのどこまでも『素直』な性格は称賛するべきものでもあり、場合においては危険になることも理解していた。しかし、カルカがこの性格を気に入っているため、下手に性格を矯正するようなことはしたくなかった。ただ、少しは抑えるということも知ってほしいと願っている。

 

 

「今回の一件、私もレメディオスの事を一方的に悪いと決めつけてしまっていたな。わるかった」

 

 

「そんな!リリア様が謝ることでは!悪いのはあの王国兵です!」

 

 

 そう言いながら剣を振る振りをしたレメディオスに「反省はするように」と告げる。

 レメディオスへの謝罪も終えることができ、心に残っていた靄を取り除けたリリアは「邪魔をしたな」と言ってレメディオスの部屋を後にした。

 

 リリアが部屋に戻ると、鏡に映る自身の乱れた髪や服装が目に入る。慌てていたため意識しておらず、今ままでこの姿であったことを考えると途端に恥ずかしさがこみ上げ、髪や衣装を整えるために部屋付きのメイドを呼び出す。メイド達の手助けの下、崩れた身だしなみを整えていると扉がノックされ、ランポッサの使いの者が部屋へと入る。

 

 

「リリア様。陛下からの言伝です。本日の晩餐会は、会議が長引くためご一緒することは難しい。大変申し訳ない。と」

 

 

「承知しました。陛下にはお気になさらないように。とお伝えください」

 

 

 使いの者は「承知しました」と頭を下げ、部屋を出ていく。その間に身だしなみを整え終えたリリアはメイド達に礼を言うと、「少し休みたい」と言って下がらせる。

 

 

(王国はかなり戸惑っているようだな……。レエブン候はああいっていたが……)

 

 

 今回の提案は王国側にもかなり譲歩する形でまとめられている。聖王国が帝国と交易をする際に利用する王国の各都市においても物品の販売を認め、現地の法に則り税も支払うこと。隊商の護衛は聖王国の負担(実質的な負担先は帝国である)とし、道中の魔物による被害を補償する必要はないこと。他にも通行料の支払いを保障するなど、王国の責任の結果としては破格の条件と言えるだろう。

 とはいえ、これまで長い間聖王国と王国は友好的関係だったことで生まれていた利益が保証されるかと言うことは各貴族達にとっては最も重要なことだろう。もっと言ってしまえば、貴族は自分たちの農作物が購入され無くなることや、聖王国の関係変化による防衛費用の負担による不利益を被ることを恐れている。国が滅びようと自分達の領土と利益が守れればそれでよいというのが本音であるに違いない。

 

 

(最低でも南部貴族の信頼さえ勝ち取ることができれば……)

 

 

 リリアはそのように思考を巡らせていると、やがて緊張がほどけたことで疲れが出たのか目を閉じてしまった。

 

 

 

 翌日、リリアはレメディオスの声によって眠りから目が覚める。今まで、自身で起きられないほど深く眠りについた経験はあまり無かったため、思っている以上に疲れていたことを自覚する。レメディオスから心配をされるも、「疲れはとれた」と言って平気な素振りを見せる。

 リリアがベッドから起き上がり、メイドを呼んで朝の身だしなみを整える。その際中にランポッサからの使いの者が部屋を訪れたため、自身に代わりレメディオスに対応させる。要件は本日の会議の予定だったらしく、準備が整い次第再び使いの者を送るとのことだった。

 

 しばらくして、身だしなみを整え終え、メイド達は部屋を去っていく。リリアはレメディオスに今日の予定に関して打ち合わせを始める。うまくいけば、今日中に王国内における全ての目的が達成され、聖王国への帰路につけるはずだ。

 

 

(姉上に早くお会いしたい……)

 

 

 リリアは毎日顔を合わせていたカルカに会えないことでホームシックに近い状態になっていたが、これも与えられた任のためだと頑張っていた。そんなことを思っていると、再び扉がノックされ、扉の前で警備している聖騎士が部屋へと入ってくる。

 

 

「リリア様。早馬でカルカ様より書状が届いています」

 

 

「姉上から?見せてくれ」

 

 

 聖騎士は手に持っている手紙と文書が入っている筒数本をリリアへと手渡す。リリアは「使いの者に礼を」と聖騎士に指示をすると聖騎士は一礼して部屋を去る。

 リリアはすぐに手紙の封を開き、内容を読み始める。

 

 

「リリア様。カルカ様はなんと?」

 

 

 レメディオスがリリアに尋ねると、リリアは突然魂が抜けたように呆けてしまう。レメディオスが「リリア様!?」と肩を掴む。

 

 

「姉う……いや、聖王国からだ。今回の王国の交渉が成功した際にはそのまま帝国へ向かい、聖王国の代表として会談に臨んでほしいと……。必要な文書や交渉する内容は全て文書にまとめてあるから問題はないらしい……」

 

 

 そう言いながら、リリアは頭を抱える。ここから帝国の帝都アーウィンタールに向かい、そこで役目を終えて帰るとしたら果たして、どれほど時間がかかるというのだろうか。移動時間を全力で短縮したとしても一カ月以上はかかるだろうと。リリアは「姉上…」と涙目になりながら顔を突っ伏した。

 

 

「リリア様!これもカルカ様の期待があってこそです!頑張りましょう!」

 

 

 悲しむリリアを慰めようとレメディオスがそう言うも、リリアは大臣達が無理を言いカルカがそれに従っている姿が優に想像でき、更にふてくされてしまった。

 

 とはいえ、カルカから与えられた任をこなしていく事は、カルカの評価が上がることにつながると信じているため、悲しみを抑え自身がやるべきことを再確認する。まずは、今日の王国との交渉を成功させることが第一だ。リリアは机から起き上がり、レメディオスに活を入れてもらうため、私の頬を叩くように言う。

 レメディオスは「分かりました!」と言うと、そのまま勢いよく叩こうとしたため、リリアは慌てる。

 

 

「せめて手の鎧は外せ!後、私の頭を吹っ飛ばす気か!」

 

 

 レメディオスはその通りだと言わんばかりの納得した表情をすると、今度は手の鎧をはずし普通に叩く。

 

 その後、リリアはレメディオスから見えないところで、自身の治癒魔法を使い叩かれた部位を治療した。

 

 

 そうこうしている内に、ランポッサからの使いの者が参り、「用意が整ったので案内する」と言う。リリアは「分かった」と言ってレメディオス達、護衛を引き連れ、謁見室へと向かった。

 

 

「聖王国使節団の皆様が入られます!」

 

 

 謁見室の扉が開かれ、前回と同じ面子が並んでいる。唯一違う点を挙げるならば、ザナック王子やラナー王女がいないことだろう。ランポッサの前まで進み、挨拶を交わすと「早速本題に入ろう」と言って交渉が始まる。

 

 

「リリア殿。臣下達と話し合った結果、いくつかの確認したいことがあってな。聞いてもよいかな」

 

 

「どうぞ陛下」

 

 

 ランポッサは頷くと臣下から文書を受け取り、リリアにも同じ文書が手渡される。

 

 

「気になる点は主にそこに書いてあることだが…。多くの者が心配していることは聖王国がこれまでの王国との取引を止めるのではないかと言うことだ。取引先を帝国に切り替えるのではないかと」

 

 

 ほぼほぼ、リリアの予想通りであった。本来であれば、交易路のルートを通して帝国の間者が王国内に入るのではないかなど、国家の害になることはないか警戒するべきところである。しかし、自身が帝国に情報を売っている貴族もこの中にいるため、うかつにその質問はできなかったのだろう。

 

 

「申し上げます。王国産の農作物に関する取引は、今後も続けられるでしょう。帝国は自国で利用する穀物の供給がほとんどのため、現在の価格が維持されるのであれば、王国との取引を続けることが我が国にとっては利益となります。一方で、芸術品や高級品などに関する取引は、帝国の物品が入ることで王国との取引量が減少する可能性はございます。その他は軒並み維持される可能性は高いかと」

 

 

 リリアの発言に農作物に利益を頼っている王国貴族の多くが安堵した。農作物の輸出による利益は領地運営の上で大きい割合を占めている。彼らからすれば大きな変化はないということだ。

 

 

「陛下、文書に書かれている聖王国が侵略する可能性についてですが、我らが聖王女様は民が苦しむようなことは望みません。それが自国であろうと他国であろうとです。私も姉である聖王女様が苦しむことは致しません」

 

 

「それは戦争になったとしてもリリア殿は参戦することは無いと」

 

 

「聖王女様が望んでいないことであれば」

 

 

 英雄として世に名前が広まっているリリアとレメディオスは王国が最も警戒している人物だった。今回の使節団に二人の名があるのを見た時は王国に攻め入るのではないかと疑ったほどだ。その本人から確定的な物とは言えないが安全を保障する言質が取れたことは大きな意味を持つ。リリアはそこに踏み込み更に発言をする。

 

 

「王国が聖王国に攻め入るようなことがない限り、聖王国が王国に武力を使用する事はありません。これは聖王女様も、私の名においても約束致します」

 

 

 それを聞いた王国貴族の面々は「であれば…」「まぁ…よいか」と徐々に納得しつつある。しかし、そこに口を開くものがいた。

 

 

「リリア様。昨日、我が領の兵士が聖王国の騎士団長殿に怪我を負わせられたと聞きましたが、それは事実ですかな」

 

 

 各貴族の先頭に立つ大柄な貴族。六大貴族の一角であるボウロロープ侯がいやらしい笑みを浮かべながらリリアに尋ねる。

 

 

「……はい事実です」

 

 

「なんと!それは聞き捨てなりませぬな。国家として武力を使用しないと言われても、個人でそのような武力を使用されては我が国に被害があるかもしれませぬ!」

 

 

 ボウロロープは納得しつつあった貴族達を見ながらそう声を上げる。

 

 

「ましてや、そのような行為に及ぶことを御することができないということは、貴方は自国の騎士団長さえ管理しきれていないということではないかな?果たして聖王女様は聖王国を真に管理しているといえるのか!」

 

 

 ボウロロープはリリア達の方を見ると、いやらしい笑みを浮かべた。レメディオスは自身に対する怒りと主を馬鹿にされた怒りで手が震えるも、リリアが手を添え抑えるように促す。今ここで剣を抜くようなことがあれば向こうの思うつぼだと。

 

 

「ボウロロープ侯、流石にそれは責任転嫁と言うものではないですか」

 

 

 レエブンがボウロロープに対し発言し、リリアに助け舟をだす。

 

 

「それは一体どういうことかな、レエブン侯」

 

 

 ボウロロープは隣に立つレエブンを睨みつけた。

 

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