聖王女の妹は信仰者【本編完結】   作:お稲荷猫

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旅路①

 ボウロロープは同じ貴族派閥であるレエブンの突然の発言に驚きながらも睨みつける。

 レエブンは一歩前へと出るとランポッサの方を向く。

 

 

「陛下、ボウロロープ侯がおっしゃった件に関してですが、その場を収めた責任者として調査を終えており…。原因は、ボウロロープ侯の私兵が聖王国を軽んじる発言をしたことであると分かっております」

 

 

「レエブン候!そのような話、冗談ではすまされぬぞ!」

 

 

 同じ派閥を裏切ったも同然のレエブンの行為にボウロロープが声を荒げる。

 

 

「ボウロロープ侯、事件の当事者二人はすでに自供し、牢に収監させております。まさか、気づかれておられないのですか」

 

 

 レエブンが二人を牢に閉じ込めたことは、聖王国側に有利な発言をさせないための工作だと思っていたボウロロープは悔しさに満ちた表情を浮かべ、「知っている」と吐き捨てるように言う。

 

 

「であれば、今回の事件の責任はやはり王国……、いえ、ボウロロープ侯にあるといえるでしょう。陛下、このような事件を起こした以上、ボウロロープ侯の兵を王都に駐留させる必要もないでしょう。王都の警備する兵士は、やはり陛下自らの直轄であるべきです」

 

 

 レエブンの発言にランポッサは「そうであるか」と言い、ボウロロープには後日改めて処分を下すことが伝えられると、ボウロロープはおとなしく下がる。そのままレエブンは話を続けた。

 

 

「陛下、先の事も今回の事もどちらも王国の者がしでかしたこと。これほどの譲歩する姿勢を見せている聖王国に対し、これ以上の議論は最早無用でしょう。皆さまもそうは思われませんんか」

 

 

 レエブンの発言に王派閥の貴族はほとんど納得し、貴族派閥の貴族もこれ以上反論を続ければ印象を悪くすると考え、何も言わず沈黙をもって了承する。レエブンはそのままランポッサに一礼すると、元の場所へと戻る。

 

 

「リリア殿。またしても王国の者が聖王国に対し不敬を働いたようだ。謝罪させてもらう。そして、この場にいる貴族達は聖王国の提案を受け入れるつもりだ。よって、王国は聖王国の提案を承認し、王家も聖王国の方針を支持しよう」

 

 

 ランポッサがそう言うと、リリアは「感謝致します」と言いながら頭を深く下げた。

 

 その後、ランポッサとリリアの間で公式に文書が交わされ、王国と聖王国は新たな関係を築くに至った。リリアは交わされた文書を筒に入れ、後程ホバンスへ届けるよう聖騎士に指示する。そして、ランポッサが昼食の招待をするも、ここにいる貴族達とはあまり顔を合わせたくないため、次の用事があることを伝え丁重に断った。

 

 その後、リリアは部屋へと戻り出立するための用意を進めていた。すると、扉がノックされ聖騎士の声が聞こえる。

 

 

「リリア様、レエブン候が面会を求めております」

 

 

「レエブン侯が?お通ししてください」

 

 

 リリアはすぐに通すよう命令する。今回の会談において、レエブンの協力がなければ事はうまく進んでいなかったため、そのお礼を述べたいと考えていたが、あの場では到底そのようなことも言い出せず機会を逃していた。ちょうどよくレエブンが部屋を訪れたことでその機会が巡ってきたのだ。

 レエブンはリリアに一礼すると、リリアに促されるまま、部屋の椅子へと座る。リリアはメイドにお茶を二人分入れるように頼む。

 

 

「レエブン候、此度の事、感謝してもしきれません。ありがとうございました」

 

 

 頭を下げるリリアにレエブンは「頭をお上げください」と慌てる素振りをする。そこにメイドがお茶を持ち、机の上に置くと、「失礼します」と言って部屋を出る。

 レエブンはメイドが去ったのを確認すると、一つ間をおいて話を始める。

 

 

「ひどいものでしょう、王国は。貴族達は己の保身に走り、それぞれが支持する王子をもてはやしてばかり……。陛下もあのようにおっしゃっていましたが、本来であれば謹慎処分などでは済まされない事態……。陛下でさえ、あの馬k…バルブロ王子を可愛がり、王子がもたらした影響を軽視している」

 

 

 レエブンはそう言いながら、ゆっくりと立ち上がり、窓へと近づく。

 

 

「我が国にも、帝国の皇帝のように優秀な人物が王座についていれば、そんなことを考えてしまうのです」

 

 

 レエブンは先ほどよりも声を小さくして、リリアに語り掛けるように話す。リリアはレエブンの発言に「それは…」と言葉を濁す。今の発言が王国の者に聞かれていれば反逆罪に問われてもおかしくはない。しかし、レエブンも承知の上で、この場にいる者は聖王国の関係者しかいないことを確認しているため、あえて話をしたのだ。

 

 

「リリア様。王国の今の状況が続けば、王国は帝国、聖王国が手を必要もなく、直に滅びることになるでしょう。そうなる前に、私……いや、誰かが動かなければならない…、優秀なものが王国を手に……」

 

 

「レエブン候、今の発言は全て聞かなかったことにしておきます。それに対する私の意見も遠慮させてください」

 

 

 リリアはこれ以上話を聞くわけにはいかないと、途中で話に割って入る。レエブン候は咳ばらいをして「失礼しました」と言い、椅子へと戻る。

 

 

「それで本題なのですが…、帝国と聖王国が利用するという交易路に関して、我が領もどうか一枚嚙ませていただけないでしょうか?」

 

 

 レエブンの領土は王都の東に広がり、エ・ランテルからの距離もそう遠くはない。南部の街道を利用したとしても、東部の街道を利用したとしてもかかる時間は変わらないだろう。今回の提案で南部に限定したのはレエブンが貴族派閥の貴族であったことを考慮したためだった。

 

 

「今回の件ではレエブン候に大変お世話になりました。協定では王国のどの領土も通行は可能ですから、聖王国の会議で進言させてもらいます」

 

 

 レエブンは「ありがとうございます」と言いながら頭を下げる。そして、この後に貴族による会議があることを伝え、リリアに別れの挨拶をすると急ぎ足で部屋を後にした。

 

 

(とんでもない者に関わってしまったのかもしれないな……)

 

 

 リリアはレエブン候が自身の思っている以上に腹黒い人物であると考える。交易による利益の分け前が欲しいためにリリアへと近づいたのか、それとも、自身がこの国の王となり聖王国と王国の関係を取り持った功労者として、聖王国から支持をもらおうとしていたのか……。

 リリアはそのようなことを考えながら、まだほんのりと温かいお茶を口に含んだ。

 

 

 

 王宮の入り口でレメディオスと出立前の最後の打ち合わせをしていると、ランポッサが臣下を連れ見送りのためとやってきた。

 リリアが見送りを遠慮したものの、「聖王国の新たな船出を見送らないのは失礼だ」と言いザナックやラナーもつれてきていた。リリアは三人と臣下達に別れの挨拶をし、馬車へと乗り込む。次の行き先が帝国であることは事前に話を通していたため、護衛は聖騎士のみにさせてもらった。王国兵が帝国まで護衛するのは変な話だからだ。

 

 レメディオスの号令によって馬車ははゆっくりと走り出した。

 

 

(新たな船出……。王国は沈みかけのボロ船と言ったところか……)

 

 

 ランポッサの言葉にリリアはそう思う。以前までの王国は例えるならば、様々な装飾が施された大型汎船であった。しかし、今となってはそれらの装飾は汚れて欠如し、船には穴がいくつもあき、船底から水が絶えなく流れ込む。大型であるため、辛うじて浮かんでいるといったところだ。

 

 

(とはいえ、王国が滅びることは無いだろう。王国が滅びることがあればそれは悪夢に違いない)

 

 

 リ・エスティーゼ王国は建国されてからかれこれ百九十年は立っており、大陸内でも有数の歴史を持つ人間の国家だ。この国が亡びることが人間にもたらす影響は計り知れない。周辺地域のバランスが大きく変わるだろうと。

 

 リリアがそのようなことを考えていると、馬車から見える王城は指で隠すことができるほどの大きさになっていた。リリアは、この後自身が王都を訪れることはもうなくなるだろうと考え、その光景を懐かしむように目に焼き付けた。

 

 

 

 馬車は王都を出て東を目指す。帝国までの旅程を変えた理由は、レエブン候の領地であるエ・レエブル、そして 合流地のエ・ランテルに至るまでの街道の状態や領地の状況などを調査するためだ。そのため、帝国からの帰りはペスペア侯の領地であるエ・ペスペルを通る予定だ。

 

 レエブンの領内の街道はほとんどが砂の道であるものの、馬車の往来が多いためか均されており、状態はよさそうであった。街道の警備も、レエブンが雇っている多くの冒険者によって守られており、隊商の護衛がなくとも安全そうだ。それゆえに馬車の往来も多いことが予想できる。

 

 

(領の兵士を育てるよりも、冒険者を雇い私兵にした方が費用は抑えられるということか…)

 

 

 レエブンは領の経営手腕にも長けており、王国貴族の中では最もまともな部類に分けられるだろうとリリアは思った。その欲深さを覗けばの話だが。

 レエブンの領地の中心であるエ・レエブルはそれなりの発展はしているものの、どこか見劣りしている印象を持つ。領地の位置的にも、帝国に近く、トブの大森林も近くにあるため、経済的な発展をするための要素が他の領地に比べて少ないことが理由だろう。この問題を解決したいがためにあのような提案をしたのだとリリアは優に予想できた。

 あくまで視察の一環であるため、余計な接待を受けることは遠慮したいと思い、町の宿を利用することにした。ただし、町の中でも比較的に高価な宿である。このような身なりの者が利用する宿でなければ、混乱や変な誤解を与える可能性があるからだ。

 

 そうして、一夜を過ごし朝早くにエ・ランテルに向けて旅立つ。エ・レエブルからエ・ランテルに向かうまでの街道はトブの大森林の近くを通るため、他の街道に比べ魔物の出現する可能性が高い。レメディオスや聖騎士達もそれを理解しているため、いつも以上に神経を配っている。

 しかし、魔物が出現することは無く、旅路もおよそ半分まで終えることができた。リリアも内心何も起きないだろうと思い込み始めている。すると、馬車がゆっくりと止まり、リリアが不審に思う。

 

 

「レメディオス、何事だ」

 

 

 リリアがそう声を上げると、レメディオスが扉を開ける。

 

 

「リリア様、前方で冒険者と思われる者達が戦闘しております。アンデッドの群れも見え、劣勢のようです」

 

 

 レメディオスの説明をうけ、リリアはその様子を見るため馬車から降り、遠視の魔法である「鷹の目(ホーク・アイ)」を唱える。

 

 

「レメディオス。あのアンデッドは冒険者と共にゴブリンの群れを相手している。おそらく召喚されたものだろう」

 

 

 レメディオスも目を凝らしながら「そうなんですか」と言う。

 そうして様子を見ていたリリアであったが、ある人物が目に入ると、途端に聖騎士に馬から降りるように命令し、その馬を借りて冒険者達の下へと走り出す。

 レメディオスも「リリア様!?」と言いながら、自身の馬へと飛び乗り、リリアの後を追う。

 

 

(間違いない……!あの人は……!)

 

 

 リリアの脳内に、冒険者組合に身分を隠しこっそり入り浸っていた幼い頃の記憶が思い起こされる。

 

 リリアが乗る馬が近づくほど、フードを被った老婆がリリアに魔法の才があることを見抜き、突然失踪するまでの間、孫のようにかわいがってもらっていた情景がまざまざと蘇える。

 

 

「リグリット先生!」

 

 

 リリアは冒険者達の中に立っている白髪の老婆に手を振りながらそう声を上げた。

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