聖王女の妹は信仰者【本編完結】   作:お稲荷猫

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旅路②

「おい、婆さん。向こうからあんたの名前を叫んで走ってくるやつがいるぜ」

 

 

 目の前に倒れるゴブリンに大槌を振り下ろしながら、大柄な女性がリグリットに話しかけえる。

 

 

「あの服装は……確か聖王国の……神官?」

 

 

 もう一人の金髪の少女がそう言いながらリリアの方へ目を凝らす。

 

 

「馬鹿言うんじゃないよ。あたしは『死者使い』だよ。聖王国の神官にお友達がいるわけないじゃないか」

 

 

「でもよぉ、ほら。間違いなく婆さんの名前を呼びながら来てるじゃないか……って!」

 

 

「危ない!」

 

 

 冒険者はリリアに向かって叫んだ。走ってくるリリアの横の森から出てきたオーガが、手に持つ棍棒を振り下ろそうとする姿が目に入ったからだ。

 

 

「リリア様!」

 

 

 レメディオスが剣を抜き何とか追いつこうとするも、距離があるため武技を使用しても間に合わない。しかし、それらの心配はリリアにとってはいらぬものであった。

 

 

魔法最強化(マキシマイズマジック)雷撃(ライトニング)!」

 

 

 リリアは魔法をオーガの顔面に向かって放ち、それを受けたオーガは魔法の破壊力によって押し倒され、そのまま動かなくなる。リリアはその間も走るのを止めることなく、リグリットの前まで行くと「お久しぶりです!先生!」と目を輝かせながら言う。

 

 

「あんた、誰だい?あたしはあんたのことを…」

 

 

 リグリットはリリアの様子を見て何か気づいたのか言葉が止まるも、リリアは自分の事を思い出してもらおうと直ぐに正体を明かす。

 

 

「『リア』です!七年前に聖王国の冒険者組合で…」

 

 

 その話を聞いたリグリットはリリアの事を思い出したのか「あの時の小娘か!」と言いながら頭をなでる。

 

 

「ずいぶんと大きくなったが……。あんたやっぱり平民じゃなかったんだね」

 

 

 リリアの服装は聖王国の神官服とは少し違い、上位階級の者が身に着けるものである。ことを知っているリグリットはそう言うと、撫でていた手を下げる。

 

 

「リリア様!急にどうされたのですか!」

 

 

 レメディオスがリリアに追いつき、馬から降りると「この者達は?お知り合いですか」と三人を怪しむように見る。聖騎士であるレメディオスからすれば、アンデッドを使役する者は忌避すべき対象だからだ。リリアは殺気にも近いオーラを放つレメディオスに少し下がるように言う。

 

 

「こちらの方は昔、私に魔法を教えてくださった冒険者のリグリットさんだ。そちらの方々は…」

 

 

「私たちはリグリットさんとパーティーを組んでいる者です」

 

 

 金髪の少女が代表して答える。女性の対応の仕方を見て、リリアは貴族の出身であるような印象を受ける。

 

 

「ところで、聖王国の方々ですよね。このような所に一体何用ですか?」

 

 

 王国の者、特にエ・ランテルを中心に活動している者からすれば、聖王国の者がこの地域を訪れることはほとんどないため、珍しく思えるのだ。リリアは「自己紹介を」と言いながら、改めて挨拶をする。

 

 

「私は聖王国守護騎士リリア・ベサーレスです。こちらは護衛のレメディオスです」

 

 

 そう言うとレメディオスは礼儀として一礼する。

 その名を聞いたリグリット以外の二人は目を丸くした。聖王国の英雄の名前を知らない冒険者はいない。一部の冒険者は笑い話にしたりもするが、その名は知れ渡っている。

 

 

「聖王国の……姫様ですよね?失礼いたしました!」

 

 

 金髪の少女が頭を下げ、それにつられるようにもう一人も頭を下げる。リリアは「畏まらなくて結構です」と伝え、頭を上げるように言う。

 

 

「悪いがまだ仕事中でね。まずは片づけをしてもいいかい」

 

 

 リグリットはそう言いながら周囲に転がる魔物の死体を指さし、リリアは「そうですね」と言っていったん話を後にする。そして、レメディオスに置いてきてしまった聖騎士や馬車をこちらに連れてくるように指示する。

 

 

 リグリットとの出会いは七年前に遡る。冒険者組合にコッソリ出入りしては冒険者から様々な冒険譚や魔法の使い方を教わっていたリリアを、リグリットが「あんた面白いね、魔法を教えてあげよう」と話しかけたことがきっかけである。剣術もリグリットと共に冒険者をしていたローファンと言う剣士から共に学んだものだ。

 リグリットはすぐにリリアの才能に気づき、聖王国では珍しい魔力系の魔法に関する知識だけでなく、魔法の各種系統やその仕組みに至るまで詳しく教え、訓練を施した。しかし、ある日、突如として、ローファンに告げることなくリグリッドは聖王国を去ってしまったのだ。

 

 

「討伐証明物は取り終わったね。それじゃ、帰る用意をしな!」

 

 

 リグリットがパーティーの冒険者にそう言うと、リリアの所へ近寄り、「後で『黄金の輝き亭』っていう宿に来な」と耳打ちをしてその場を去っていった。

 

 

「レメディオス。今日の止まる宿はもう決まっているか」

 

 

 リリアが皆を引き連れて戻ってきたレメディオスに尋ねる。レメディオスは「『黄金の輝き亭』と言う宿です」と言うと、リリアはすぐに馬車へと乗り込み、早急に向かうよう指示する。いつものリリアらしからぬ行動に周囲は困惑しつつも、言われたとおりにするため、馬車を動かし始めた。

 

 

 

「あんた、聖王国のお姫様なのにこんな宿にとまるのかい」

 

 

 リグリットは宿の者から言伝を受けた部屋へと向かい、中で待っていたリリアにそう話しかける。リリアは笑みを浮かべ、「今は騎士ですから」と言いながら、リグリットのために椅子を用意する。同じパーティーの金髪の少女と大柄な女性にも座るよう促すが、二人は「私たちは外で…」と空気を読んで部屋から出ていく。

 

 

「先生、まずは謝罪させてください。今日まで先生を騙していたことを…」

 

 

「あぁ、いいんだよ。あたしも何となく感じてはいたんだ。平民の子があんな上等な服を着ることは早々ないからね。他の連中も何となくわかっていたんじゃないかい」

 

 

 リリアは「そうですか…」と少しショックを受ける。

 

 

「先生は今、あの方たちと冒険者をやられているんですね」

 

 

「あぁ、金髪の方がラキュース。大柄な方がガガーランだ。『青の薔薇』っていうチームでね」

 

 

 少し気まずい雰囲気が流れるも、リリアは思い切って質問をする。

 

 

「なんで七年前、突然いなくなったんですか?ローファンさんもあの後すぐに王国へ帰ってしまいましたし…」

 

 

 リグリットは答えに少し困った様子で黙り込むも、訳を話し始める。

 

 

「古い友人に呼ばれてね。どうしても行かなきゃならなかったんだ。あまり詳しくは教えられないよ」

 

 

 そう言うリグリットの様子は「これ以上聞くんじゃない」と言わんばかりの気迫を放つ。リリアは圧され、「そうだったんですね」と言って質問をそこで終える。

 

 

「ところで、リア……。いやリリア様って呼んだ方がいいのかい」

 

 

「先生はリアで結構ですよ。ただ、人の目があるところではリリアの方でお願いします」

 

 

「そうかい。じゃあ、リア。率直に聞くよ。あんた、いつからその力…いや、魔力を手に入れたんだい」

 

 

 リグリットが真剣な目でリリアを見ながら問いただしているものの、リリアは言っている意味が分からず、「どういうことですか」と首をかしげる。このような話を受けたのはフールーダの時以来だろう。

 

 

「自覚してはいないかい…。同じような質問をされたことは?」

 

 

「帝国のフールーダ・パラダインに会った際、似たような話はしました。しかし、先生がおっしゃっていることと同じ意味かどうかは…」

 

 

 リリアがそう言うと「あの爺か」と嫌そうな顔を浮かべる。その表情から察するに知り合いなのだろう。そして、何か考え込むと懐から巻物を取り出し、リリアへと渡す。

 

 

「先生、これは?」

 

 

「『伝言』の巻物だ。ただし、これは私の持つ巻物としか繋がらない。使える回数は一回のみ」

 

 

 リグリットはそう言うと一つ間をおいて口を開く。

 

 

「リア、よく聞くんだ。あんたが今私が言ったような力に目覚めたか、目覚めなければならないと感じたならその巻物を使い連絡するんだ。古い友人に詳しいやつがいるからね。でも、私としてはその力に気づくことなく、過ごせるほうがいいと思ってるよ」

 

 

 リリアはリグリットの言い方が気になり、何か知っているなら教えてほしいと言うも、リグリットは首を横に振る。

 

 

「リア、あたしはあんたのことがラキュース以上に気に入ってるんだ。だからこそ警告しておくよ。力を持つということはそれだけ多くの責任や義務を背負うことになるんだ」

 

 

「先生、私は既に英雄として王国の民や姉上を支えています!責任や義務も背負うことも重々承知しています!」

 

 

 リリアは、リグリットに自分がまだそんなことを知らないと言われているように感じ、憤りから思わず声を荒げてしまう。

 

 

「リア、あんたが理解してるのは人として背負うことができる限界だよ。人が持つべき力ではない力を持った時、あんたは潰れてしまう。言っている意味は分かるね。だから、その巻物は保険だ。あんたがどうしようもなくなった時、それを救う手段をあいつは持っているかもしれないからね」

 

 

 リリアが「誰なんですか」と問うと、リグリットは「詮索はなしだよ」と言いながら席を立つ。

 

 

「あの時の目をつけていた小娘がここまで成長するとは、長生きするもんだね」

 

 

 リグリットはそう言うと笑いながら手を振り部屋を出て行った。

 部屋にはリリアとリグリットから渡された巻物だけが残る。リリアはリグリットに言われたことが未だに理解できず、どう解釈すればよいのか頭を抱える。

 

 

(自分では理解できない力?人としての限界?責任?義務?)

 

 

 リリアの頭の中に様々な疑問が浮かんでは消えていく。頭をすっきりさせなければと思い、一度食事でもしようと考えたリリアは部屋を出て一階へと向かう。一階にはレメディオスや聖騎士が待っていたが、降りてきたリリアの様子を見て近くに駆け寄る。

 

 

「リリア様!いかがされましたか!顔色が悪いですよ!さてはあの老婆が何か!」

 

 

 レメディオスがリリアに心配そうに尋ね、リグリットが何かしたのではないかと疑う。

 

 

「いや、先生から話をされて少し疲れただけだ。これから気分を変えに食事に行きたいのだが……。今日は高級でははないものがいいな……」

 

 

 リリアがそう言うと、聖騎士の一人が「そうであれば、市井の食堂を貸し切りましょう」と提案し、リリアもそれに頷くと、レメディオスが二人の聖騎士に命じ、直ちに行動するよう指示を出した。

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