聖王女の妹は信仰者【本編完結】   作:お稲荷猫

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帝国訪問②

 帝国における軍事訓練を視察していると、一際体が大きい者がジルクニフへの下へと来て騎士の礼をもって挨拶をする。

 

 

「彼は我が軍の精鋭である近衛部隊の中で隊長を務めているものだ。彼がカストディオ殿と手合わせを願っているのだが」

 

 

 ジルクニフはそう言いながらレメディオスの方を見る。レメディオスは主であるリリアに視線を逸らすと、リリアは「レメディオス行けるか?」と聞く。

 

 

「もちろんです!聖騎士の戦いをお見せしましょう!」

 

 

 そう言うと、相手の条件に合わせるため今着ている鎧を脱ぎ、サーコートのみを装着する。

 

 

「いいのかい、当たったら骨が折れるじゃすまないぞ」

 

 

「ふん!貴様の剣などすべて受けきってやる!」

 

 

 レメディオスはそう言うと、他の騎士が持ってきた木剣を受け取る。近衛隊長も「さすがは英雄さんだ」と言いながら剣を構える。手合わせのルールとして、武技、魔法等の使用禁止が確認され、開始の合図が鳴る。

 

 

「リリア殿はどちらが勝つとお思われるかな」

 

 

「私はレメディオスを信じます。この場にいる全員に勝てるでしょう。もちろん一対一の決闘の場合ですが」

 

 

 リリアの発言にジルクニフは思うところがあったのかほほ笑んでいた顔が少しゆがむ。この場にいる者たちは少なくとも全員が冒険者でいえば銀等級以上の実力の持ち主だ。それらと戦っても全員と勝てると言い張られるのは少々癪に障った。

 

 しかし、その発言は間違っていなかったと直ぐに証明されてしまう。手合わせを始めてわずか数回の斬りあいで近衛隊長の首にレメディオスの剣は届いていたのだ。最初の一撃は正面から受け止め、次の攻撃で剣を上へと跳ね飛ばし、すぐさま体制を整えて横から首に向かい剣を振る。武技を使用していないと言われても信じられないほどの身体能力である。

 

 

(これは……。予想以上だな……)

 

 

 ジルクニフは目の前の光景に唖然とした。彼も金等級、いや白金級に届くほどの実力者であったはずなのだが、若くして聖王国歴代最強の聖騎士団長と言われるレメディオスからすれば、大したことは無い。剣と素の身体能力の実力だけで評価するならば、今のリリアよりも強いといえるほどだ。

 

 

「陛下、あんなのを見たら俺も一本手合わせ願いたいですね」

 

 

 そう言いながらジルクニフの護衛についていた一人の騎士が名乗りを上げる。この男は以前にも聖王国で会ったことがある。ジルクニフは「いいだろう」と言うと、近衛隊長と交換するよう指示する。

 

 

「レメディオス!見事だった、次も頼むぞ!」

 

 

 レメディオスは「了解しました!」と威勢よく答える。

 しかし、先ほどまでの騎士とは違った雰囲気を持つ男に剣を構える姿勢も厳しくなる。開始の合図と共にレメディオスが踏み込むと、騎士の男は最初の一撃を受け流し、そのままレメディオスの横腹へと剣を滑り込ませる。レメディオスはすぐさま懐に迫る剣を防ぐために剣を戻し、相手の剣を受けながら衝撃を流す様に横へと飛ぶ。

 

 

「帝国の騎士の割には中々やるじゃないか」

 

 

「今の一撃を嬢ちゃんに防がれるとはね」

 

 

 レメディオスが再び剣を構え、先ほどとは違い斬り上げではなく突きの姿勢で踏み込む。騎士の男がその突きをよけると、その動きにピッタリ合わせるように剣を横へと振り、剣は男の脇腹目掛けて吸い込まれていく。その剣が届くと同時にレメディオスの体も突然宙に舞う。男はレメディオスの勢いを受けるように足をかけたのだ。

 聖騎士の戦いでは足を使い、相手の体を倒すなど卑怯と言われるかもしれないが、冒険者上がりの騎士にとってこれは戦術の一つだ。

 

 審判をしている騎士が「そこまで!」と声を上げる。結果は倒れこんだ事で背面に剣を建てられたレメディオスの負けだった。レメディオスは戻ってくると「足を使うなど!」と納得しないようであった。

 

 

「しかし、レメディオス。今回の手合わせでは魔法と武技の使用以外は認められていただろう。であれば、体術を使ったとしても何も問題はない」

 

 

 レメディオスは自身でもわかっているが納得がいかないというように頭をかきむしるも、しばらくして怒りが収まったのか、付いていた土を払い脱いだ鎧を着始める。

 ジルクニフは接戦だったものの、自分が護衛する騎士が勝利を収めたことでご満悦のようだ。

 

 こうして軍事訓練の視察を終えると、ジルクニフが一度城へ戻るというため、リリアはそれに従う。通された部屋は、皇城に着いた最初の日に案内された来賓室であり、ジルクニフが座るように促す。

 

 

「さて、リリア殿。帝国にはあのような軍隊を育て上げるための訓練やそれを支える軍制や統治に関する知識がある。条件を飲んでくれるのであれば、それらの人材を派遣するのもやぶさかではないのだが……」

 

 

「……条件とは?」

 

 

 リリアはジルクニフの提案に魅力を感じた。聖王国が帝国と同水準の軍やそれを運用するためには、貴族の反対などを抑える以前に人材や予算などを確保する必要があった。しかし、それらを用意するためには長い時間がかかることも理解している。帝国から人材を派遣してくれるのであれば、改革を行いながら人材育成を行えるため、大幅な時間短縮になるだろう。

 

 

(時間やそれにかかる費用を大きく抑えられる……。悪い提案ではないが……)

 

 

 これだけの良い提案をこの皇帝がすることには裏があるのは確定的だ。リリアは警戒し、その条件をジルクニフに尋ねた。

 

 

「聖王国では亜人と日々戦いを繰り広げているが、亜人達の中には興味深い武具を持つ奴らがいるらしいではないか、闇小人(ダークドワーフ)のマジックアイテムをね」

 

 

 アベリオン丘陵では、唯一の例外として闇小人(ダークドワーフ)と言う人間種が亜人種達とマジックアイテムの武具を取引していることが知られていた。彼らの武具は亜人たちの戦力を強化するのに役立てられており、聖王国の悩みの種の一つでもあり、希少なマジックアイテムの武具を入手する手段の一つでもあるのだ。

 

 

闇小人(ダークドワーフ)のマジックアイテムの武具をお望みということですか」

 

 

「もちろん全てとは言わない。帝国に『融通』してくれればありがたいという話だ。もちろん、代金は出そう」

 

 

「何に使うおつもりですか?提供する側として、使用される用途が気になります」

 

 

「新たな魔法が付与された帝国製の全身鎧・盾・武器などの開発に役立てさせてもらいたい。もちろん、そのまま使うこともあるが……。マジックアイテムは希少だからな。研究材料といて使用するには、安定した入手先が必要だろう」

 

 

 聖王国が亜人と戦争をしているとはいえ、毎日のように戦っているわけではない。それを『安定した入手先』と言っている所の意味するものは、ほとんどを送りつけろと言っているのと変わりはない。

 

 

「この案件はどうやら私一人では決めかねるようです……。一度聖王女様に……」

 

 

「先ほどの文書の中に、今回の交渉の責任は全て君にあると書いてあった。ならば帝国の皇帝として、今ここで答えを出してほしい」

 

 

 ここで答えを出さなければ返さないというジルクニフの強い意志が伝わる。と言うよりも、ほとんど拒否権はないようなものだろう。これを拒否し、ジルクニフがそれを口実として何らかの行動に移る可能性も否定はできない。帝国が聖王国を見捨てることは考えにくいが……。

 

 

(この場に兄様……。いえ、ケラルトでもいてくれれば……)

 

 

 頭が切れる二人であれば何か妙案を出してくれたのではとないものねだりをしてしまう。これから聖王国で行われるであろう改革に対する対価として、手に入るマジックアイテムの武具のほとんどを帝国へと引き渡す。それが等価として見合ったものになるのだろうか。それを考える暇をジルクニフは与えない、選択肢を狭め自身が望む答えを引き出すのだ。

 

 

「分かりました。その提案御受け致します。ただし、あくまで『融通』させていただく程度に限ります」

 

 

「あぁ!それでいい!こちらの提案通りなのだから」

 

 

 ジルクニフがそう言うと指を鳴らし、既に廊下で待機していたであろう文官が、今発言した通りの文書を用意している。リリアはこの幼い皇帝と取引をするのであれば、相当な切れ者でなければ、痛い目に合うに違いないとジルクニフのいたずら顔を見ながらそう思った。

 

 聖王国との協定によって、帝国はこれまで入手が困難であった多くの者を手にできるようになった。信仰系魔法の使い手やマジックアイテムの武具など、今の帝国がそれらを手にすることができれば更に強化することができるだろうと。

 

 ジルクニフは意気揚々としながら、この後に調印式を行い正式に国交を結ぶことを伝える。もはやすべてがジルクニフの手の内で回っていると言わんばかりだ。リリアは疲れ果てた様子で「分かりました」と言うと、準備のためにレメディオスを連れ部屋を後にした。

 

 

 

「陛下、少々お話が……。嬉しそうですな陛下」

 

 

 そのような場に唐突にフールーダが現れる。気分がよさそうにしている様子を見て、何が行われたのか大体の予想がついたようだ。

 

 

「おぉ、爺や。これを見るがよい」

 

 

 そう言うと先ほど署名された文書をフールーダに手渡す。フールーダはそれに一通り目を通し、少し驚いたようである。

 

 

「陛下にしましては、随分と優しい対応ですな。この程度の対価でよろしいのですか?もっと搾り取ることもできたでしょう」

 

 

「いや、これでよいのだ。それに、王国以上に手厚くもてなすべきだと言ったのは爺であるぞ」

 

 

 フールーダは長い白髭をなでながら「そうでしたな」と笑う。ジルクニフは部屋の周りに誰もいないことを確認させると、フールーダに座るように促す。

 

 

「爺。今回の事で恩を売ることができれば……。行き先を失った者に帝国と言う場を与えることができるかもしれないだろう。爺も欲しがっているではないか」

 

 

「陛下はあの者達を我が国に取り込もうと?」

 

 

「まあそうだな爺。彼女たちが我が国へと希望して逃げてくるのを受け入れるのだ。今の聖王国を見ろ、確実な手を打つことができなければ、あと二十年……、いや十年もたたないうちに内戦だ。あの聖王女にはその手を打つことはできないさ。しかし、あれほどの人材を王国に渡すなど宝の持ち腐れになる」

 

 

 そう言いながら笑うジルクニフに、フールーダはため息をもらす。

 

 

「少々軽率だったのではないですかな?表で活動している者だけを評価するのであればよいですが、あの国は裏で動く者達が多いのです。お忘れになっているとは思いませんが……」

 

 

「例え目的は達成できずとも、表向きではマジックアイテムの武具が手に入るのだ、悪い取引ではないだろう。それに、そのために布石は打ったさ。あのように人材を派遣することを決めたのは改革をより早く進ませるためだ。急激な改革は敵対心を持つものを煽り、思いもよらぬ行動をとらせることもある。私もよく知っているからな。」

 

 

 ジルクニフは椅子から立ち上がると、窓の近くへと行き帝都を見下ろす。血の改革によって成し遂げた最初の成果がこの帝都だと。

 

 

「陛下、それは普通の場合です。あの国には英雄の領域に到達しつつあるものが多くいるのですぞ。侮っては……」

 

 

 説得するように話すフールーダに「分かった」と手を挙げて返す。ジルクニフからすれば英雄だとしても、今まで良いように扱えた者達が自分が考える以上の事を成し遂げるわけはないと考えていた。同じ人間なのだから限界はあるに決まっていると。

 

 

(何……大丈夫だ。私にもあのような者達とも対等に渡り合える力はある)

 

 

 ジルクニフは帝都を見下ろしながら満足そうな笑みを浮かべた。

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