聖王女の妹は信仰者【本編完結】   作:お稲荷猫

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亜人討伐①

 亜人討伐のために軍を起こすことが決定されてから、一カ月が経ち、遂に出兵するときが来た。今回の作戦はアベリオン丘陵南部に点在する亜人部族を攻撃し、可能であれば殲滅をも視野に入れた物である。北部の国軍と南部の領主軍、聖騎士団、神官団を合わせて約一万人を超えるこの合同軍は聖王女であるカルカを総司令官とし、過去に例がない大規模な作戦となった。

 国民の間にもこの情報が広がり、亜人に対し一矢報いる兵士達を送るべく、多くの人々が行進する彼らを歓迎した。

 

 北部軍と南部軍は城塞線南方の要塞にて合流したのちに、作戦へと挑むことになっており、第一軍及び第二軍は合流地点を目指し本拠地であるカリンシャを出発した。

 リリアは軍の指揮をアルフレドに任せ、自身はカルカや護衛に当たる聖騎士団を率いるレメディオス、神官団を率いるケラルトらと共に直接南方要塞へと向かう。

 

 

 南方要塞は要塞内に指揮所を用意し、作戦の状況等を随時把握することができるような体制を整え、カルカ達を出迎えた。北部軍は現在中央要塞付近を、南部軍は南部の要所であるデボネを既に立っており、もう間もなく双方が到着する見込みだ。

 

 

「本音を言うならば、聖騎士や神官も全員参加させ短期決戦に持ち込みたいところなのだが……」

 

 

「それでは今回の目的が果たせなくなってしまいますから。神官を兵士の治療のために派遣できただけでも良しとしてください」

 

 

 リリアの不満にケラルトが理解を示す。聖騎士団や神官団は聖王国の戦力としてみれば非常に頼れる存在であり、彼らがいれば今回の作戦は容易に進めることができる。しかし、それでは南部の要求をかなえることにはならない。そのため、聖騎士団や神官団はあくまでカルカの護衛と言う形で城塞線に待機することになっていた。

 

 

「しかし、緊急事態となればそのようなことも言ってはいられないでしょう。レメディオス、もしもの時は」

 

 

「はい!いつでも出れるよう準備は済ませておきます!」

 

 

 今回の作戦で不測の事態が起き、合同軍が窮地に陥ることになれば南部の要求などにかまっている場合ではない。聖王国の持つ軍事力が低下する事だけは何としても避けなければならないからだ。

 

 

「私は説明通り、北部軍の代表者として軍と共に出ます。指揮官が前に立てば兵の士気も上がるでしょう。それに兵士達の多くは平民です。姉上からお言葉をもらうことができれば、彼らの士気は益々高くなるに違いありません」

 

 

 四人がそのような話をしていると扉がノックされ、アルフレドや貴族と思われる見知らぬ者達が部屋へと入ってくる。おそらく、この者達が南部軍の指揮官となる貴族なのだろう。

 

 

「聖王女様に挨拶申し上げます。南部より代表し軍を率いてまいりました。アルバロ伯爵家当主、カルリトスでございます」

 

 

 南部の貴族はそう言うと、南部の代表であることを示す文書をカルカへと差し出す。カルカは文書を受け取り、カルリトスに頭を上げさせると、今回の作戦に協力することへの感謝を伝える。

 リリアはこの恐ろしく細い貴族が本当に軍の指揮を執ることなどできるのかと疑いの目を向ける。鎧も着ておらず、どこかに外遊でもするのではないかと言う服装だ。レメディオスも同じような疑問を感じているのか、この貴族を呆れた目で見ている。

 

 そうして、指揮所にいる全ての人物がカルカへの挨拶を終えると、本題である作戦や軍に関して話し合いが始まる。

 

 

「まず、今回の合同軍ですが総司令官が私であることに変わりはありません。しかし、現地で行動する際の指揮官には妹であるリリアを任じます。よろしいですね」

 

 

 カルカはそう言いながら、カルリトスや他の南部貴族が座る席へ目を向ける。一部の貴族が何かを言おうとするも、カルリトスが手でそれを止め「えぇ、もちろんです」と笑顔で返す。アルフレドはこれに反対することは無く、全面的に同意した。

 そして、全体の作戦概要を説明するために、リリアが代わって指揮所の机に置かれた地図を用いて話を始める。

 

 

「今回の作戦の目的は、南方要塞に攻撃を繰り返す亜人達を攻撃することで敵の戦力を低下させることです。殲滅はあくまで可能であればという範囲です。敵地に深く入り込むようなことは控えるように。まず前哨戦として敵の小拠点を叩きます。その後、ここを中心に陣地を築き、森から迎撃に出てくる亜人共を迎えうちます」

 

 

「ずいぶんと消極的な作戦ですな。勢いに任せてそのまま森まで攻め入るべきでは?」

 

 

 カルリトスが作戦の内容を聞き、もっと積極的な作戦に切り替えるように意見をする。リリアはこの男が軍事的知見をあまり持っていないことを理解し、ため息をつきそうになるも、我慢し話を続ける。

 

 

「森は亜人共の得意とする地形です。我々の軍は隊列が乱れ満足な部隊行動がとれなくなる恐れがあるのに対し、敵は地形を利用し死角から攻撃をしてくるでしょう。連携が取れなくなれば、各個撃破されていくだけです」

 

 

「しかし、日々訓練を続けてきた自慢の軍ならば容易なのでは?それとも自信がないのですかな」

 

 

 カルリトスがそう言うと、南部の貴族達が笑い始める。その様子を見たアルフレドが口を出そうとしたが、リリアが制止する。レメディオスも今にも声を上げそうだったが、事前に察知したケラルトによって口に手を置かれている。

 

 

「では南部軍の方々も先頭に立ち、挑まれますか?私は軍を率いる者として最小の被害で最大の結果を出すべく努力しています。そこまで口をお出しになるなら、是非軍も出してほしいものです」

 

 

「そのような発言、断じて許されるものでは……!」

 

 

「お二方、軍議の席でそのように争いあっていては……。連携することなどできるのですか」

 

 

 リリアの発言にカルリトスは声を上げ、一触即発の事態になりかけるがカルカが場を諫める。リリアは謝罪し、カルリトスも不満な様子を隠さずに音を立て椅子に座る。

 その後、軍議は続けられたがこの北部と南部の亀裂は修復されることは無く、翌日の早朝に出陣式を行い、出撃することを確認すると軍議は終了した。

 

 

「リリア様、本当にあのような者達と作戦に挑まなければならないのですか!軍を率いて協力すると言いながら、正面を張るのは我々です!奴らは軍を後方に展開する気しかありません!いざとなれば奴らは一目散に逃げ出しますよ!」

 

 

 軍議を終わるとアルフレドがリリアの下を訪れ、南部の不満を口にした。リリアは一度静かにするように口に手を当てると、周囲を見回し、南部の者に聞かれていないことを確認する。

 

 

「そうだな、アルフレドの言う通りだ。奴らは我々を良いように使い潰そうとしている。作戦が成功すれば南部の協力によって成功した、とでも高々に宣伝するだろう。だが、それであいつらの気が済むのであればやるしかない」

 

 

 アルフレドは悔しそうな表情をすると「分かりました」と言い、一礼してその場を後にした。

 

 

 

 早朝、城壁の下には合同軍の兵士達が整列し、出発の準備を終えている。城壁上から、リリアが指揮官として兵士達に労いの言葉や訓示を終えると、代わってカルカが兵士達の士気を高めるために前へと出る。兵士達の中には初めて自身の目で聖王女を見た者もおり、多くの者が「カルカ様!」と声を上げ、手を振ったり、武器を高く掲げたりしている。南部貴族の中には自身が兵士として連れてきた領民までもが、そのように声を上げているため、面白く思わず舌打ちをするものもいた。

 

 カルカの兵士達に対する無事を祈る挨拶が終わると、遂に合同軍は出撃する。要塞下の大きな城門が開かれ、第一軍を先頭に、第二軍、南部軍と言った順で次々と門から出ていく。城塞線を守っている兵士達は彼らに「頑張れ!」と声を上げ、合同軍の兵士達もそれに答えるように武器を上げている。要塞に残るカルカは兵士達の、そしてリリアの身の安全を願い、祈りを捧げた。

 

 

 移動を開始し、太陽も程よく上がってきた頃。攻撃目標に近づいてきたと感じるリリアは隣で馬に乗るアルフレドに声をかける。

 

 

「アルフレド、敵の小拠点に変化はないか」

 

 

「先ほど戻ってきた偵察兵の報告によれば、動きはないとのことです。ここから少し進んだ先にある平野で大型兵器の組み立てを始め、隊列を形成した後に攻撃を開始します」

 

 

 リリアは「そうか」と返すと、戦場に近づいていることに感情が高ぶるのを感じた。こうした戦争ともいえる経験は、リリアにとっても、そしてこの場にいる兵士にとっても初めてとなることだ。それはまだ見ぬ世界へ歩いていくような感触に近い。

 

 しばらくして、予定していた地点に到着するとアルフレドの指示の下、第一軍が戦闘の準備に入る。第二軍は拠点に対し攻撃が開始された後、逃げようとする石喰猿(ストーンイーター)を狩る仕事が待っているため、指示があるまで待機する。

 南部軍は言うまでもなく、予備部隊だ。同じような訓練を受けているわけではないため、不用意に動かれては作戦に支障が出てしまう。

 

 第一軍は、前衛に武技が使用できるなど、物理的な戦闘を得意とする兵士達が盾や片手剣、長槍で武装し、百人一部隊として部隊長の指示によって行動する。後衛には組み立てられた大型兵器を操作する部隊が配置され、前衛と後衛の間には予備の前衛部隊と長弓兵が後衛の部隊を守る形で展開する。これらの部隊は将軍の指揮によって、各部隊の隊長や班長が率いる隊に指示をだし、統制をとりながら行動を行う。

 野戦でこれを行うことは、非常に高度な技術であり、全ての兵士が十分な訓練を受けていなければできないことだ。

 見事に統率された動きをする第一軍を見た南部貴族達は、素人でありながらもその練度の高さを感じていた。

 

 

「リリア様、全軍の準備が整いました」

 

 

 すべての部隊から準備が整ったと報告を受けたアルフレドがリリアの下までくるとそう報告する。リリアは「分かった」と言うと、開戦前の景気づけのために馬に乗ったまま兵士達の前へと出る。

 

 

「兵士達よ!今朝、我々は聖王女様から勝利を約束された!神は!聖王女様は!我々に比類なき大勝利をお与えくださる!この中には勝利を疑う者もいるだろう。だが私は誓う!例え亜人共が太陽を降らしたとしても、夜になる前に叩き潰す。だから、聖王国に!聖王女様に従う者達は私に従い、亜人共を蹴散らすのだ!」

 

 

 リリアがそう言いながら剣を抜くと、第一軍の兵士達は各々の武器を掲げ、雄たけびを上げる。そして、リリアは自身が掲げた剣を敵の方へ向けて構えた。

 

 

「これより聖なる戦いを開始する!」

 

 

 リリアの言葉と共にアルフレドは「全軍、前進開始!」と声を上げる。

 

 ここに聖王国史上初となる亜人討伐軍の戦いが始まった。

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