見張りの
本拠地に最も近いこの森林を守るために築かれた拠点ではあるものの、敵だったゴブリン達は既に本隊によって近辺から追い出されたため、ここに来る亜人達はいない。しかし、ボスである『白老』ハリシャ・アンカーラの命令によって、本拠地を守る部隊がここにたむろっていた。
そんな時、緩やかに続いている丘陵の先から尖った木のようなものが見え始める。それは一本だけでなく、二本、三本と続き……、全てを把握する前に隊をなした人間達の姿が見え始めた。
見張りの
「人間共の攻撃だ!」
アルフレドの目には見張りの台と思われる場所で叫ぶ
「歩兵部隊は所定の位置に到達次第、停止!後衛部隊の攻撃を待て!」
敵の拠点が迫り、アルフレドが声を上げる。前衛の歩兵部隊が拠点に近すぎない程度の場所で部隊長の指示の下止まり、隊列を整える。長弓部隊は前衛の歩兵と同じ速度で行進できていたが、緩やかな坂となっていたため、大型兵器の移動が多少もたつく。
「将軍!カタパルトの移動が完了しました!バリスタの移動はまだ完了しておらず、もうしばらく時間がかかるかと!」
「これ以上待ってもいられん。カタパルト、長弓隊は攻撃の用意!敵の拠点ごと焼き尽くし、奴らの尻に火をつけてやれ!」
指示を受けた副官は「はっ!」と言うと、声を上げて指示を飛ばす。
「敵に聖なる火をお見舞いするぞ!すぐに油壺の用意をしろ!引け!」
カタパルトを操作する兵士達がすぐに行動に取り掛かり、ロープを引っ張りカタパルトの装填を開始する。長弓隊の兵士の前には火が付いた木が入っている鉄の籠が置かれ、何時でもてにもつ弓に火がつけれるような状態だ。
そうして攻撃の準備をしていると
「敵が来るぞ!迎撃陣形!」
前衛を指揮する部隊長が兵士に向かって指示を出すと、兵士達は訓練で何度も繰り返した動きによって直ぐに一列目が前に盾を、二列目がその間から槍を、三列目が一列目と二列目を守るように頭上に盾を構える。
数名の兵士が悲鳴にも近い叫びと共に一瞬で吹っ飛ばされ、そのうちの一人に
「こいつらは後方に送り神官に見てもらえ!槍を持つものは盾に持ち替え穴を埋めろ!」
指示を受けた兵士が少し後ろに負傷した兵士を運び、後詰の部隊へと預ける。
「将軍!カタパルトの準備ができました!」
「よし、私の合図と共に攻撃開始だ!弓隊は矢を構えろ!」
『矢を構えろー!』
アルフレドの指示を聞き、部隊長が命令を繰り返す。弓兵は目の前の籠に矢を入れ、火をつける。カタパルトの油壺にも同様に火が灯される。
「弓を引け!」
『弓を引けー!』
長弓兵達は亜人の拠点に向けて狙いを定める。
そして、アルフレドの「放て」と言う声と共に、一斉に火の矢玉が
油壺がさく裂し、周囲に火をまき散らすとそれに巻き込まれた
拠点が火の海になったことで、
「将軍!敵が出てきました!」
「予想よりも多いようだな。前衛部隊が衝突するまでカタパルトと弓隊は攻撃を続けろ!歩兵部隊は迎撃用意!
拠点内には予想以上の
「しかし、将軍。このままの勢いで火矢を使えば、明日以降の作戦に影響が…」
「アルフレド、私の魔法を使った方がよいのではないか」
副官の提言に対し、後ろで戦況を見守っていたリリアが前へと出る。
「よろしいのですか?南部の連中が文句を言うのでは……」
「全滅させるわけではない。それに、今日で終わりと言う訳でもないんだ。明日以降のためにも兵士達の被害を減らしておきたい。それに、あのような見栄を兵士達の前で切ったのだ。何もしないでいては面目がたたん」
アルフレドは「それではお願い致します」と言うと、リリアは詠唱を開始する。
「
放たれた魔法は
残った
前衛部隊と
突撃を食らえば、武技を使って無理やり抑える者や吹っ飛ばされそのままこん棒などで殴りかかられる者も。一体の
隊列は瞬く間に崩れ、兵士達も
「アルフレド、騎兵による追撃はどうする」
「既に始まっています。時を見て出るように指示していましたが、若干遅かったようです」
そう言うと、森の手前で騎兵の長槍や投げ槍、剣によって孤立した
そうして、戦いの決着がつき、負傷した兵の搬送や被害の状況、討伐した
「リリア様!記念すべき初の勝利を心からお祝いします!」
そう言いながら近づいてきたのはカルリトスだった。取り巻きの貴族は目の前の光景を見て、汚らわしい物を見たような表情をしている。リリアは形式的に「ありがとう」と返すも、この戦いの後に喜ぶようなことはできなかった。
「リリア様、現在の被害状況の報告に参りました。死者は百二名。負傷者は戦線復帰可能な者が二百十七名。後方に送られる者が十三名です。また、馬十三頭が戦闘不可能です。神官達が必死に治療を行っていますが、おそらく死者は増えるだろうと」
リリアは「ご苦労だった」と言うと、カルリトスに自身も治療に向かうことを告げその場を後にする。ここでつまらない話を始めるよりも、一人でも多くの兵士を救いたいと思うが故の行動だった。
救護所に着くと、神官達が苦しむ兵士達に治癒魔法をかけ続けている。軍医も魔法を使わずに治せるものを治療しているが、包帯もほとんどが血まみれのようだ。神官達も限界が迫っているのか、顔色が悪い。
「私が代わろう」
リリアは声をかけ、治癒魔法をかけ始める。神官は驚き遠慮したものの、一人でも手が欲しかったため、「お願い致します」と頭を下げた。
夜になる頃には大体の状況が整理され落ち着いたため、リリアはアルフレドと共に司令部となるテントに集まり、今後の予定を話し合っていた。
結果的に初日の戦闘における被害は、第一軍だけで死者百三十五名、負傷者二百九十一名、後方に送られる重態者二十一名を出し、第二軍では死者五十七名、負傷者三十三
「初日でこれだけの被害が……」
「しかし、リリア様。
リリアも理解していた。これまでの聖王国軍が同じことをすれば、倒した
「
「おっしゃる通りです。これだけの戦果であれば、国民、いや聖王女様も決して批判なさることは無いでしょう」
戦果に関する報告書は、遺体や負傷者を運ぶ部隊に託しており、今頃は要塞で状況が知られていることだろう。少なくともカルカもリリアと同じ意見であるはずだ。
「絶対ではないが、今日の夜襲はないだろう。あれだけの被害を受け、奴らもこちらを倒すために戦力を集めているはず。
「しかし、リリア様。いかがなさいますか。南部の連中を参加させる以上、部隊の配置も変更する必要がありますが…」
今日の戦果を聞いたカルリトスがテントを訪れ、自分たちの軍も参加させろと文句を言ってきたのだ。被害を聞いた上での発言とは到底思えないような言い分に、リリアは怒りを覚えるも、アルフレドが間に入り、うまく事を収めた。
「それはいい。あの後話したが、南部が担当する戦場は南部軍のみで決着をつけるとのことだ。司令官である私の指示を聞く気もない。まぁ、分かっていたことではあるのだがな」
「しかし、彼らの装備を見る限り、とても
「今、あの南部の兵を救うことはできない。残念だが、多くの血が流れてしまうだろう…」
南部の民があのような自己中心的な貴族によって死地に送られる事に対して、リリアはそれを止めることのできない自身の罪悪感に苛まれた。