「ヒヒヒ。人間共が?気でも狂ったか」
「しかし、ハリシャ様!このままでは我らが森が!」
「そうです!直ちに引き返しましょう!」
「たかが人間如きが我々と正面から戦おうなど!身の程をわからせてやるべきだ!」
「ヒヒヒ。拠点に残した者の内逃げれたのはわずか七十。奴らとて無策できたわけではあるまい」
配下の者が「しかし…」と言うと、ハリシャは「だが」と口をはさむ。
「そうであればこちらも策を練ればいいというものだ。人間共を操ることなど簡単なことだ。ヒヒヒ」
ハリシャはそう言うと、不気味な笑みを浮かべた。
しかし、陣営を築いてからはや一週間が経過しようとしているにも関わらず、
「本日も攻撃してきた
副官の報告を受けたアルフレドが「ご苦労」と言い敬礼すると、副官は敬礼を返しその場を後にする。
「やはり、敵は本隊到着の時間稼ぎをしているのではないでしょうか。森に対し攻撃を開始しますか?」
リリアはアルフレドの進言に少し考えるも「駄目だ」と首を振る。
「もう一週間は経つというのにの
森に攻め入る決断をするには判断材料が少なく、もしこれが
「報告します!左翼に展開していた南部軍が敵に対し突撃を行い、戦果を挙げたとのことです!」
「何!陣地を離れて良いという命令は出していないぞ!」
報告に着た兵士に声を上げるアルフレド。しかし、その後に気分をよさそうにしながらカルリトスが天幕へと入ってくる。
「カルリスト殿!攻撃命令は出されておりませんぞ!勝手に部隊を動かすなど!」
「アルフレド殿。我々の軍は敵が撤退する背後から攻めた結果、四十体もの猿共を討伐しましたぞ。ですが、貴殿らは閉じこもっていて戦果を挙げることもできておりません。どちらが正しいかははっきりしていると思いませんか?」
カルリストの言葉に取り巻きの貴族が「その通りだ」と続く。アルフレドも言い返しようがないため、拳を強く握りしめる事しかできない。
「カルリスト殿。今回の軍の指揮は私に一任されています。今後、私の指示なく軍を動かした場合は責任を問わねばなりません。今回は相応の戦果を挙げられたとのことなので、黙認しますが。よろしいですね」
カルリストは悪態をつきながら「分かりました」と吐き捨てるように言い、その場を後にする。リリアは最近の戦闘の結果、多くの者がこうした状態になりつつあることを理解していた。
「アルフレド。今一度軍の規律を徹底させろ。深追いはしてはならないと」
アルフレドは「はっ!」と言うと、すぐに天幕を出て行った。
(不幸な事態にならなければいいのだが……。姉上には一度報告すべきだろうか……)
リリアは不可解な現在の状況に、焦りと不安を感じていた。
そして、翌日。ついに
甲高い鐘の音が鳴り、見張りの兵士が「敵だ!」と叫ぶ。その場に座って居た兵士や何か別の事をしていた兵士達が一斉に持ち場へと走り出す。
「リリア様、
アルフレドの報告を聞き、リリアも兜をかぶり天幕を出る。森の方から
「アルフレド。ついに決戦だぞ。聖王国に勝利を」
リリアがそう言い手を出すと、アルフレドも手を握って「勝利を」と返す。
これまでにない戦いとなることが予想でき、兵士の間にも動揺が走っているのを見ると、リリアは剣を抜いて空に向かって掲げる。
「
軍全体に広がるように魔法陣が展開され、恐怖への抵抗力が上がったことで兵士達の動揺が収まっていく。
「カタパルト、バリスタ部隊は攻撃用意!歩兵部隊、戦闘位置につけ!弓兵は弓の用意!」
アルフレドの命令と共に兵士達があわただしく動き始める。ある者は神に祈りを捧げ、またある者は自身の装備を軽く点検している。
「あぁ、やっぱり帰るべきだったかな。この前怪我した時に帰らせてもらえばよかったかもな」
「馬鹿、それを言うなら三年前に帰っておくんだったな。覚悟決めろ」
隣で臆病風に吹かれた素振りをする同僚に活を入れる者もいた。
そうして、戦闘態勢が整い始めると
「ヒヒヒ。人間共が恐れ慄いておるわ。我が名はハリシャ・アンカーラ!人間よ、お主らの指揮官は誰じゃ」
ハリシャの呼びかけにリリアが馬に乗ったまま「私だ!」と答える。
「ヒヒヒ。小娘が指揮官とは。それで何用でここまでこられたのかな?」
「貴様らを殲滅し、聖王国に勝利をもたらしに来たのだ!」
リリアの言葉を聞いたハリシャは高らかに笑い声をあげると、笑いながら口を開く。
「ヒヒヒ。ならばせめて楽しませて見せるがいいぞ。人間共」
ハリシャはそう言うと、再び森の奥へと姿を隠す。
リリアは第二軍の指揮を執るため、馬に乗るとアルフレドの方を見る。
「アルフレド。第二軍の用意ができ次第、火矢で合図する。合図と共に聖なる炎を」
アルフレドは「了解しました」と敬礼し、それを見たリリアは直ぐに馬を走らせる。
「カタパルト、弓兵は火の用意!命令あるまで待機!」
リリアは馬に乗り最右翼に展開する第二軍の騎兵の下へたどり着く。リリアの姿を見た兵士達は馬上から敬礼しており、どの兵士も覚悟は決まっているようだ。
「兵士達よ!二週間後には建国祭の時期だ。この戦いが終われば故郷へ帰れる!我が名において約束しよう!互いに離れず、私についてこい!」
兵士達が雄たけびを上げ長槍を高く掲げ、リリアは続けて話す。
「もし、一人はぐれることになり、温かい日差しの下草原に横たわっていたとしても、嘆くことは無い!そこは神の国だ!天に召されたということだ!だが、お前たちの行いは永久に語り継がれる!皆の者、聖王国に勝利を!」
兵士達はリリアに続き「勝利を」と再び槍を高く掲げる。士気は十分。あとは、戦闘が始まるのを待つだけだ。
火矢で合図をするように兵士に伝えると、弓を構え空高く火矢を打ち上げる。それと同時にリリアが剣を掲げ、騎兵と共に移動を開始する。
「将軍、合図です!」 「よし!火を構えろ!」
副官の報告とほぼ同時にアルフレドが指示を出す。カタパルトや弓兵は直ぐに火をつけ、何時でも射撃ができる状態になる。
「攻撃準備完了!」 「直ちに攻撃開始!以降は前衛部隊及び騎兵部隊が接触するまで攻撃続行!」
アルフレドの指示によって、カタパルトやバリスタ、弓兵が一斉に攻撃を開始する。空から雨のように降り注ぐ矢玉が
バリスタから発射された大型の矢は二体をまとめて葬り去り、油壺が直撃した
「将軍、敵をこのまま森に押さえつけることができれば敵を焼き殺せます!」
「よし、歩兵部隊突撃用意!隊列を維持しつつ前進!」
敵を森にとどめるべく、歩兵部隊の前進が開始された。一糸乱れぬ行動によってゆっくりと近づいていくと、
すさまじい量の石が飛んできたかと思うと、盾が大きな音を立て石を防ぐ。完全には防ぎきれず、抜けた石が兵士に当たるとその場に倒れこむ。だが、この兵士を後方へ移送する余裕は今はなく、その場に放置され歩兵は前進する。
「猿共が来るぞ!近接戦用意!」
部隊長の指示により、槍や片手剣を用意すると、すぐに
「将軍、南部軍より優勢との報告です。どうやら彼方は手薄な模様です」
「将軍!第一軍正面は敵の数が多く、既に第二歩兵が戦闘を開始しました!」
「直ぐに予備の歩兵を前に出せ!騎兵が来るまで持ちこたえろ!」
正面から敵を迎え撃つ第一軍の歩兵は地獄ともいえる状況に置かれていた。一体倒したかと思えばすぐに二体が襲い掛かり、指揮を執っていた部隊長の姿もなく、隊列はもはや意味をなさない。初日の戦闘では第二歩兵の出番はなかったが、第一歩兵が蹂躙されたため、直に前進を開始するも、
(
最後の第三歩兵が前に出始め、遂に歩兵の予備部隊の底が付く。弓兵も可能な限り後方から押し寄せている
「将軍!第二軍が到着しました!敵の側背面の森より攻撃を開始しています!」
「ついに来たか!カタパルト、バリスタ、弓兵は攻撃中止!誤射に注意させろ!」
リリアが率いる騎兵が森の中を通り、
「
リリアの放つ防御魔法によって石は防がれ、騎兵は勢いを失うことなく突撃態勢へと移った。
「かかれ!猿共を生かして返すな!」