聖王女の妹は信仰者【本編完結】   作:お稲荷猫

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教え①

 エ・ランテルのとある酒場でリリアは暇を潰していた。リグリットとの連絡を行う手段がない以上、こうして時間を潰して待つことしかできないからだ。リリアの姿を見て、多くの冒険者が不埒な目的をもって声をかけたが、三日目になってからは誰も触れようとはしない。初日に声をかけた冒険者のほとんどが返り討ちにあったためだ。

 そんなリリアの下へ、一人の冒険者が近づいていく。

 

 

「すみません……。あのー……」

 

 

 聞こえてきた女性の声にリリアは顔を上げると、どこかで見た覚えのある顔がそこにはあった。

 

 

「リリア様ですよね?」

 

 

「貴方は確か……。リグリットさんと同じパーティーの…ラキュースさん」

 

 

 ラキュースは「はい」と言うと、リグリットが宿で待っていることを伝え、リリアの手を取り酒場から出る。

 

 

「どうしてここにいると?」

 

 

「冒険者仲間から聞いたんです。頭に包帯を巻いた美人が酒場に毎日いると。それでリグリットさんが探していたリリアさんに違いないと思ったんです」

 

 

 リリアは「そうですか…」と返すと、ラキュースは頭を指さしながら「怪我をしたんですか?」と尋ねる。リリアは迷いつつも「えぇ、まぁ」と答えを濁す。その様子を見て、あまり聞くべき質問ではなかったかもしれないと後悔したラキュースは気まずくなってしまった。

 そうして少し歩くと、以前エ・ランテルに来た際に泊まった『黄金の輝き亭』へたどり着く。ラキュースと共に中へ入り、案内されるままに宿の奥へと向かう。

 

 

「他のパーティーの人はいないのですか」

 

 

「あ、えっと。皆には別の酒場に待機してもらっています。リグリットさんは二人きりで話したいとのことだったので。この部屋です」

 

 

 話していると目的の部屋に着いたのかラキュースが扉を開ける。中には椅子に座ったリグリットの姿があり、ラキュースは「それでは」と言うと、リリアに一礼し扉を閉めていく。

 

 

「それで詳しく教えてもらえるかい」

 

 

 リリアは事前に伝言の巻物で伝えたことを実際に見てもらおうと、頭の包帯をはずし始める。あの戦いから目を覚めた時に教えてもらった傷には、未だ黒い痣のようなシミが残っており、リグリットは顔を近づける。

 

 

「見た目で判断するなら呪いの一種だろうね。だがこんなのは見たこともない。痛みはないのかい」

 

 

「痛みはありません。触られても何とも感じませんが、触り心地は少しザラザラしています」

 

 

 自身が調べた限りの情報をリグリットに伝える。解呪の魔法も効果がないことから、かなり上位の呪いではないのかと伝えると、他に体に異変がないか問いただされる。リリアは、上の服を脱ぎ背中をリグリットに向けると、背中に残る黒い腫瘍のような物を見せる。

 

 

「こんな傷は初めて見るね……。でも、似たような物なら見たことがあるよ」

 

 

「それは……?」

 

 

「翼人種の赤ん坊が生まれたての頃にそういうものができるんだよ。ちょうどあんたの肩の骨、下のあたりにね。生まれたばかりの赤ん坊はまだ翼が生えないからねぇ」

 

 

 リグリットは膨れ上がった皮膚を触りながらそう言う。そして、リリアに上着を着るように言うと、「少し待ちな」と言い部屋を後にした。

 

 しばらくして、リグリットが戻ってくると「行くよ」と言いながら手招きをする。リリアはおいていた荷物を持つと、その後についていく。部屋を出て下の階に降り始めると、焦った様子のラキュースがリグリットに追いすがる。

 

 

「リグリットさん!明日には冒険者ランク昇格に必要なクエストを受けないといけないんですよ!そんな急に用事があるだなんて!」

 

 

「うるさいよ小娘!儂がいないと戦えない状態でオリハルコンが名乗れるのかい!」

 

 

 ラキュースは「そんなぁ!」と言いながらリグリットを引き留めるも、他のパーティーメンバーに掴まれ、引き離される。以前見たことのある大柄な女性の他、双子と思われる小柄な冒険者もそこにはいた。

 リリアはリグリットに「ほら行くよ」と言われ、彼女たちに軽く頭を下げると後に続いて宿を出る。

 

 

「リグリットさん。どこにいくんですか」

 

 

 リリアが尋ねると、リグリットは防音の魔法を発動し、会話の中身が漏れないようにしてから口を開く。

 

 

「以前話した古い友のところだよ。あやつならこの原因もわかるかもしれないからね。行先を言うならば、アーグランド評議国だね」

 

 

 アーグランド評議国は複数の亜人種が築いている都市国家であることだけは知っていた。亜人種の国家であるため、聖王国との関係はなく、入ってくる知識もほとんどないため、それしか知らないのだ。リグリットの言う古い友はどうやらその国にいるらしい。

 

 

「聖王国の者からすればかなり偏見がある国かもしれないけどね。あんたは大丈夫かい」

 

 

「多分……。大丈夫です……。似たような種族が出ない限りは」

 

 

 事情を知っているリグリットは「手は出しちゃダメだよ」と警告し、そのまま街の中にある裏道へと進む。

 

 

「今から転移の巻物で移動するよ。建物の中で使うと中の魔道具をダメにしてしまうからね」

 

 

 リグリットはそう言うと、転移の魔法が使用できる巻物を鞄の中から取り出す。転移の魔法を巻物にして使用するという技術自体が通常であればありえないことだが、逆に言えばそれを生産し、使用することができる伝手があるということだ。古い友と言うのは、それだけの実力者なのだろうとリリアは考えた。

 そうして、巻物が発動されると、瞬時に景色が飛んだかと思いきや前と変わらぬ裏道についていた。いや、道を挟む建物の様子が異なっていることから、別の場所へ飛んだのは間違いない。

 

 

「これを被りな。あんたの髪や容姿は目立つからね」

 

 

 リグリットはそう言うと、古びた外套を手渡す。リリアは言われたとおりにそれを着ると、フードを深くかぶり、歩き出したリグリットについていく。

 裏道を出た先には鎧や服を着た様々な亜人達、そしてその亜人達に商売をしている人間やゴブリンの姿が見える。

 

 

(ここがアーグランド評議国……。亜人ばかり……)

 

 

 リリアは嫌な気分になるも、ここではぐれればどうしようもないため、必死にリグリットの後をついていく。しばらく歩いていると、先ほどまでの街中とは違い、上等な建物が建つ住宅街へと足を踏み入れ、ある家の前で止まる。

 

 

「リグリットが来たと、伝えてもらえるかい」

 

 

「リグリット様ですね。主様より連絡は受けています。どうぞ」

 

 

 門を警備している竜人はそう言いながら門を開けると、二人についてくるように言う。亜人でありながら、文明的な生活を送っている様子を見るとリリアは違和感を感じざる負えない。

 通された部屋で待っていると、執事の様な姿をした竜人が現れ、「通ることを許可されました」と伝え一礼し、部屋を後にした。

 

 

「さて、それじゃ行くかい」

 

 

 リグリットが立ち上がったため、リリアもそれに続くと部屋の中に魔法陣が現れる。突然の事に驚きつつも、これまでの魔法陣と違い光に包まれ、あまりの眩しさに目を閉じてしまう。

 目を開けると、薄暗い人工物の建物にいることがわかる。

 

 

「今から会う相手に驚くかもしれないが、武器を抜いたりしちゃいけないよ。じゃないと、殺されてしまうかもしれからね」

 

 

 リリアが静かに頷くと、再び移動を始める。少し歩くと、長い階段が目の前に現れ大きな台座と思われる物の上に続いている。台の上には翼の様なものがはみ出しており、何かがそこにいるのは確かだ。リリアも感じ取れる強大な何かが。

 

 リグリットに続き階段を上っていくと、その正体が明らかになった。目の前に現れたのは巨大な(ドラゴン)だ。白銀の鱗で覆われ、こちらを見る緑色の瞳は全てを見通しているかのような力を放っている。

 

 

「久方ぶりに会ったというのに、なんじゃその呆け面は」

 

 

「最後に会ったのは十年前じゃないか。その前に会ったのは二十年前なんだから、久しぶりではないんじゃないのかな」

 

 

「人からすれば十年は永いものよ。まぁ儂も人ではないんじゃがな」

 

 

 (ドラゴン)はリグリットが笑いながら言う言葉に「そうか」と返すと、その目をリグリットからリリアに移す。突然のすさまじい威圧感にリリアは思わずその場に立ち尽くしてしまう。リグリットがその間に手を出し「やめんか」と言うと、威圧感は突如として消え失せ、リリアはそのままその場に座り込んでしまう。

 

 

「いやぁすまない。君が目にかけていると聞いて興味がわいてしまったよ」

 

 

「普通の人間じゃったら今ので死んでおるわ。儂の愛弟子に何かしたら許さんぞ」

 

 

 (ドラゴン)は「すまないすまない」と言いながら改めてリリアの方を見るとその大きな口を開く。

 

 

「私はツァインドルクス=ヴァイシオン。アーグランド評議国で評議員を務めているよ。リグリットの旧友でもある。名前は長いから『ツアー』と呼んでくれていい」

 

 

「わ、私は、リリア・ベサーレスと申します」

 

 

 リリアは自己紹介を返し、思わず頭を下げてしまう。尊敬や崇拝から来るものではなく、圧倒的強者を前に伏してしまう感覚に近い。

 ツアーはリリアを見定めるようにジロジロとみると「ふぅん」と言いながら息を吐く。

 

 

「リグリットの言う通りだ。君は見どころのある人間のようだね」

 

 

「儂はお主に会わせたくはなかったんじゃがな」

 

 

「だが、アズスの時は直ぐに会わせたじゃないか」

 

 

「あやつは気に入らんかったからな。それに会わせたと言ってもあの鎧にじゃ。だが、この子は儂のお気に入りじゃぞ。お前に使わせようとは思ってはいなかったわ」

 

 

 何を話しているのかよく分からないリリアはその場に取り残されてしまうも、それに気づいたツアーが事情を説明する。

 

 

「リグリットには人間の中でも才能にあふれる人物を探してもらっているんだ。それに育成もね。君はこれまでに会った人間の中で最も可能性を感じているよ」

 

 

「そ、そうなんですか」

 

 

「リグリット。彼女はどこまで知っているのかな」

 

 

「何も教えておらん。知ることなく生を終えてほしかったからな」

 

 

 ツアーは「はぁ」と大きなため息を漏らすと、その大きな瞳をリリアに向ける。

 

 

「君は自身が持つ異能(タレント)と置かれた環境が完全に適応した結果生まれた、君たちの言う神が作り出した奇跡……。いや、悪戯のような存在だ」

 

 

異能(タレント)ですか…?」

 

 

「あぁ、異能(タレント)は誰しもが望むものを得られるものではない。それにその異能(タレント)と適応するかも分からない。その効果も強大な物から些細な物まである。それは理解しているだろう」

 

 

 ツアーの言葉にリリアは静かにうなずく。

 

 

「君の持つ異能(タレント)である『信仰する者』は強大な物に含まれるんだ。だが、その能力を使用するためには信仰する側と信仰される側、双方が互いを心から必要としなければならない。それに一定以上の『れべる』も必要なんだ」

 

 

 突然の説明によくわからない単語も混じっていたことで、リリアはさらに混乱してしまう。自身が異能(タレント)を持っているという事実を初めて知り、その説明を受けても全く頭に入らない。

 

 

「産まれた時代が違えば君は十三英雄の一人……。いやそれを超える事さえできたかもしれない。それほどの力を持っている稀有な存在であると理解してくれ。だが、それ故に君は危険な状態にあるんだ」

 

 

 ツアーのリリアを見る目に力が入る。リグリットもその様子を初めて見たのか、少し動揺しているようだ。

 ツアーは目の前の人間が持つ運命に憐れみを覚えたものの、真実を知る責任があると考え、ゆっくりと説明を始めた。

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