聖王女の妹は信仰者【本編完結】   作:お稲荷猫

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変化①

 戦闘が終わった後、現地に到着した増援の兵士達は戦場に残る亜人達の死体や装備の回収を行っていた。死体を残したままにしておくと、それが腐敗し、疫病の原因となるだけでなく、魔獣などが死体を漁りに現れるようになる危険があるためだ。

 

 

「俺、初めてこいつらに同情しちまうよ」

 

 

「そんなこと言ってないで早く手を動かせ。夜になる前に終わらせないと陣地で野営だぞ」

 

 

 炎にまかれたのか、爆発により負傷したのかは分からないが、無残な姿になり苦しそうな表情を浮かべている亜人を見た兵士は思わずそうした言葉を漏らす。

 もし、自分たちにこんな魔法が撃たれれば、こいつらのように死ぬんだろうと。

 

 

 それからしばらくして、亜人の攻勢を防ぎ、それらに伴う事務処理なども終わった頃、リリアはある用事から聖騎士団の訓練施設を訪れていた。

 ここで訓練を受け騎士に任じられたものは部隊に配属されていく事になる。

 

 

「グスターボ!ちょうどいいとこに」

 

 

 遠目に見えた知り合いにリリアが声をかける。声をかけられたグスターボは直ぐに駆け寄り礼をする。

 

 

「リリア様!このような所へ何用でしょうか」

 

 

「パベル殿から聖騎士になった娘宛ての手紙を預かっているんだが。直接渡してほしいと頼まれているのだ」

 

 

「なるほど、そういうことでしたか」

 

 

 グスターボは「こちらです」と言いながら、先頭に立ち案内を始める。通りがかる聖騎士や文官達はリリアに対し礼をし、リリアも手を挙げて軽く返し続ける。そうして、しばらく歩いていると、見習いが使用する稽古場へと到着する。

 

 

「ここです。ネイア・バラハは……あそこのものです」

 

 

 グスターボが指をさしてネイアの位置を示すと、そこでは小柄な少女が必死に剣を振っていた。しかし、リリアから見てもあまり剣の腕がよいとは言えない。

 そこへ、数人の若い男たちが来ると少女を取り囲み、何か言っているようだ。

 

 

「リリア様、少々お待ちください」

 

 

「待て、グスターボ。あれは私から見てもわかるが、まさか聖騎士団内で……」

 

 

 彼らを止めに行こうとしたグスターボをリリアが肩を掴んで止め問いただす。グスターボは頭をかいて「実は…」と少し困った表情を浮かべると、聖騎士団の実情を話し始める。

 

 

「団長や我々も能力がある者を貴賤を問わず集めているのですが、未だ貴族や能力が高い者が自分達よりも低い者に対し、まあなんといいますか」

 

 

 グスターボはそこまで言うと言葉を濁してしまう。聖騎士ともあろうものが、そのような行動に及ぶことを認めたくはないからだ。

 

 

「まったく……。いくら実力があったとしても認めるべきではないだろう。それに貴族であることを笠にして身分が低い者を虐げるなど、即刻辞めさせてしまえばいいのだ」

 

 

 リリアはそう言いながら、グスターボを後に連れネイアの下へと歩き出す。訓練中の者が通りがかったリリアに礼をするも、既にリリアの視線はネイア達に固定されており、挨拶を返すことは無い。その様子を見た周囲の訓練兵たちは「やばいぞ」と小声で話し始める。

 

 

「ネイア。ネイア・バラハはいるか」

 

 

 囲んでいる訓練兵を無視し、その中心にいる少女に声をかける。訓練兵たちは振り返り、声の主を見ると直ぐに直立不動になって礼をする。少女はその間から顔を出し、同じように礼をする。

 

 

(話には聞いていたが、本当に父親似なのだな……)

 

 

 パベルと同じような鋭い目つきをしていたことから、この少女がネイアで間違いないとリリアは確信した。普通の人であれば、近づきたくはなくなるような目であるが、リリアからすれば見慣れており、決して忌避するほどのことではない。

 

 

「少し話があるんだ。ついてきてもらえないか」

 

 

 ネイアは「は、はい!」と言うと、訓練用の剣をあるべき場所に戻し、リリアの下までくると後についていく。グスターボは「訓練を続けろ!」と呆けている訓練兵たちに声を上げる。

 稽古場を出て、少し歩いた誰もいない廊下で立ち止まり、胸元から手紙を取り出す。

 

 

「君の父上から手紙を預かって来た。手紙の返答がないから届いていないのではと心配していたぞ」

 

 

「お、お父さんからですか……」

 

 

 ネイアはそう言いながら手紙を受け取ると、少し気まずそうな表情を浮かべる。

 

 

「手紙は届いてはいるんですが…、その…、なんと返していいかが分からず……」

 

 

「それは先程私が見た光景のせいなのか。それとも、単純に話題が用意できないということか?」

 

 

「いえ!先輩方に指導されているのはこの目つきや私自身の性格のせいでもありますので……。決して先輩方が悪いというわけでは!」

 

 

 ネイアが必死に否定する様子をみたリリアは確信した。ネイアは聖騎士団の中ではあまりうまくいっておらず、半ば孤立してしまっているだろうことを。

 

 

「パベル殿の名声の高さが仇となっているということか……。聞いた話では弓の腕は一流と聞いたのだが、聖騎士では弓は使えないからな」

 

 

 パベルは幼い頃からネイアの弓の腕を褒めていた。キャンプに連れて行ったときに獲物を自身で仕留めた時には喜び半分獲物を殺してしまったことへの罪悪感半分と言ったところで、そんな風に相手の事を考えられる娘を褒めに褒めていた。周囲も思わず引いてしまうほどに。

 

 ネイアは事実を言い当てられたため、思わず続けて話せなくなってしまった。だが、それらの怒りを父に向けることはできず、手紙を出そうにも困ってしまっている。

 

 

「ちょうどいい。ネイア・バラハ。今日付けで私の副官になってもらう。見たところ弓と探知系魔法の素質は見て取れた。私の苦手な分野を補ってもらうぞ」

 

 

 ネイアは「えっ、えっ」と動揺しながらも、承諾することも拒否することもできない。そこへ案内をしていたグスターボがやってくる。

 

 

「グスターボ。ネイアを今日付けで私の副官にすることを今決めた。書類仕事は任せていいな」

 

 

「え!な!どういうことですか!」

 

 

「そういうことだ。レメディオスに何か言われたら私の名を出せばいい。文句があるなら来いと。それでもお前に文句を言うようなら後で私に言いに来てくれ」

 

 

 リリアはそう言うと、呆けているネイアの頭を優しく叩き「早く準備をしてくるんだ」と言う。ネイアは「は、はい…」と言いながら、自分の宿舎へと走っていく。

 

 

「グスターボ。ネイアの才は聖騎士にしておくには少々勿体ないと思わないか。まぁ、聖騎士が弓を使うことを認めてくれるなら話は別だが…」

 

 

「団長がそれを認めることは無いでしょう。正々堂々、卑怯な手を用いないのが聖騎士の戦いですから」

 

 

「弓は遠距離から攻撃できるから卑怯な手だ、というのも浅はかだと思うのだがな。聖騎士としての訓練は私がネイアに行おう。それであれば、聖騎士の任命にも問題はないはずだな?」

 

 

「はい、聖騎士に必要な素質が整い、団長と聖王女様の承認が下りれば可能ですから、リリア様であれば問題ないかと」

 

 

 そんなことを話していると、小さな鞄を肩にかけたネイアが用意を終え走って戻ってくる。

 

 

「荷物はそれだけか?ほかに着替えとか必要な物は……」

 

 

「お急ぎのようでしたので、最低限必要な物は持ってきました。他の物は後程運び出そうと思います」

 

 

 リリアは「そうか」と言うと、グスターボに礼を言ってその場を後にしようとする。その時、グスターボがネイアの事を呼び止めた。

 

 

「あぁっと……。すまなかったな。お前の置かれていた状況を俺は知っていたんだが止めることができず……」

 

 

「副団長が気にかけておられたことは分かっていました!最初は止めてくださったことにも感謝しています!謝るなんてやめてください!」

 

 

 グスターボは再度謝り、ネイアは慌てながらグスターボの謝罪を受け取り、リリアと共にその場を後にした。

 

 

「私からも一つ謝らせてほしい。ネイアが母上に憧れて聖騎士になろうとしていたことは聞いていたんだが……。それを辞めさせるような形になってしまったな。だが案ずるな、聖騎士になるために必要な訓練も私が手助けする」

 

 

「それは、私の父がリリア様に親しい者だからでしょうか」

 

 

「それは否定しない。ネイアと関係を持つきっかけとなったのはパベル殿だ。だが、私に必要な探知系魔法の使い手となれる素質を持つ者は身辺に少ない。今のところ見かけたのはネイアだけだな。だから、決してパベル殿と親しいことだけが理由ではないと理解してくれ」

 

 

 ネイアはそう言われると少しうれしそうな表情になり、「はい」と返事をする。

 

 

「それに弓の使い手であるならば私にも教えてほしいほどだ。パベル殿からも手ほどきを受けたのだが、才能がないと一蹴されてしまってな」

 

 

「リリア様は剣と魔法の使い手であられますから、弓など使われずとも十分お強いではありませんか」

 

 

「いや、剣に弓、魔法、その他全ての武器を使いこなしたいと思っている。その方が何かと都合がいいだろう?」

 

 

 ネイアは「は、はぁ」と困ったような返事をした。

 

 後日、ネイアの事を知ったレメディオスが訳を聞きにリリアの執務室へと訪れた。グスターボは無事に難を逃れることができたようで一安心だ。側で書類を持ったまま、元上司ともいえるレメディオスを前にネイアは目をそらしながら隠れるように立っている。レメディオスは一瞬、ネイアを睨みつけたようだったが、リリアが直ぐにこちらに視線を向けるように言う。

 

 

「レメディオス。聖騎士団内の規律はしっかり保たれているのか?私が見たところでは、それなりに問題を抱えているようだが」

 

 

「問題ありません!私が稽古をつける時は皆、熱心に取り組んでいます!」

 

 

「それはそうだろう。聖騎士団長の稽古で怠けるような者がいるわけがない。他の者が稽古に当たっているときに問題は起きているんだ。グスターボや他の者からの報告書は読んでいるのか?」

 

 

 レメディオスは「それは…」と言いかけると口をつぐむ。リリアはため息をつきながら、文書を取り出し机の上に置く。

 

 

「これはお前のとこにも出された報告書だ。ちゃんと身分や能力の優劣によるいじめや差別の件が書かれているじゃないか」

 

 

「も、もっとわかりやすいように単刀直入に書けばいいのです!紛らわしい表現などするからいけないのです!」

 

 

「それをしっかり読むのが団長としての仕事だろう!今回の件は私の方で対処したが、自身で無理だと感じるならグスターボやイサンドロに仕事を分担させられるような体制にしろ!」

 

 

「はい!分かりました!そう言った面は彼らに任せます!」

 

 

 リリアはレメディオスの発言に思うこともあったが、そう言うならばとレメディオスに部屋から出るように促す。

 

 

(潔いのはいいことなのだが……。グスターボ、イサンドロすまないな)

 

 

 後日、ネイアが異動されたことがネイアの手紙によって様々な事情と共にパベルに伝えられると、ネイアへの手紙と共にリリアに対する感謝の手紙が送られてきた。そこには娘の事をお願いするとともに、変な手を出さないようにと警告の意味を込めてか血が付いた封筒も入っていた。

 

 

「ネイア。私は少なくとも自身を女性であると考えているんだが……」

 

 

「リリア様。それはおそらく、周囲で流れている噂が原因ではないかと……」

 

 

 リリアは「噂?」と何も知らないため、ネイアに詳しく話す様に求める。ネイアは少し恥ずかしそうな様子を見せながら口を開く。

 

 

「その……。リリア様や聖王女様、レメディオス様やケラルト様は皆同性を愛していると……」

 

 

(huh)?」

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