聖王女の妹は信仰者【本編完結】   作:お稲荷猫

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変化②

 帝国の執務室でジルクニフやフールーダ、帝国四騎士の筆頭であるバジウッド・ペシュメル、秘書官のロウネ・ヴァミリネンらが聖王国の情報提供者からもたらされた情報を精査していた。

 

 

「それで、爺。この情報は真実だと思うか」

 

 

「私は全くの嘘ではないと思います。リリア殿が行方不明であったこの数年の間に何らかの影響を受けたのならば、あの力を制御する術を得たということですから」

 

 

 ジルクニフは「そうか」と言うと、報告書を机の上に投げ捨て頭を抱える。そして、自身の背後にいるバジウッドに語り掛ける。

 

 

「もしこの情報が真実だとすれば、お前たち四騎士が戦っても勝てるか?」

 

 

「まぁ、無理でしょうな。四人で同時に戦ったとしても相打ちに持ち込めるかといったところでしょう。それこそガゼフ・ストロノーフでさえ勝つことは無理だと思いますよ。唯一勝てるとすればフールーダ様くらいだと思った方が」

 

 

「私でも亜人七千体を一人で倒すことは難しいですな。もちろん時間をかかれば倒すことはできますが、情報の中では一瞬でとありますからな」

 

 

 そう言いながらフールーダはどこか嬉しそうな表情をしていた。自身が目指す魔法の極致にたどり着く手段の一人となりうる可能性があったからだ。それこそ今すぐにでも聖王国を訪れ、面会したいほどに。

 

 

「言っておくが爺。早まっても一人で聖王国に向かうなどするな。外交問題に発展するのだけは御免だ。王国に聖王国まで敵に回すことになれば、もはや帝国に勝ち目はないだろう」

 

 

 フールーダは元の落ち着いた様子に戻り、「かしこまりました」と残念そうに返事をする。そして、ヴァミリネンに指示し、聖王国へ送る帝国製の魔法の武具の量をこれよりも増やす様に命じる。

 

 

「聖王国の重要度は一気に上がった。あの者の力はもはや一国の軍、いや国に相当すると考えてもよいだろう。決して帝国から離れることがないようにうまく扱わなければ」

 

 

 その頃、王国でもこの情報を取り上げた宮廷会議が開かれていた。聖王国にこのような戦力が現れたとなれば、近隣国としては重大事案となる。しかし、その場に出席した者のほとんどが情報は聖王国の問題を抑えるための印象操作の様なものだと考えていた。

 

 

「亜人七千体を一人で相手できるものなど、アダマンタイト級冒険者の中でもわずかなものでしょう。以前、王国に使節として訪れた際にもそれほどの力があるようには見えませんでした」

 

 

「それに病気で療養していたというではないか。大方死亡したという噂を消すためにでも流したのではないか?」

 

 

 貴族達はそう言いながら楽観視していたが、レエブン候だけは表情を崩しておらず、王の隣にいるガゼフも同様である。

 

 

「ですが万が一、情報が正しかったとすれば、我が国はどのような方策をとるべきでしょうか。ここ最近は、聖王国に流す穀物の価格を徐々に上げてきましたが、文句を言ってこなかったのはリリア殿が療養し、取れる外交の手段が限られていたためです。復帰したとなれば、すぐにでも交渉に来るのでは?」

 

 

「来たところで正当な価格だと追い返してしまえばいいだろう」

 

 

 レエブンは隣の貴族の意見にため息をつきながら、自身の意見を続ける。

 

 

「そうなれば聖王国は今度こそ王国を見放すでしょう。それこそ、帝国と合同で攻めてきた場合、勝てるのですか?王国南部全てを両国に割譲するなどと言う事態にならなければいいですが。兵士長はどう思われますか」

 

 

「私ですか?話が本当なのであれば、一対一で戦っても勝ち目はないでしょう。それに帝国の四騎士も同時となれば、例え片方で勝利したとしても、もう片方の戦線は突破されてしまいます」

 

 

 レエブンは「そういうことです」と言いながら、隣の貴族に視線を移す。

 

 

「聖王国と事を構えるのは良策とは言えないだろう。それに、穀物の価格を上げていたとは初耳だったが。価格を戻し、友好的関係を維持するように努めるのだ」

 

 

 ランポッサは貴族達の意見を考慮したうえで、今後の方針を示す。貴族派閥の貴族達は納得しがたいようだったが、王の御前であるため「はっ」と返事をし、宮廷会議は終了された。

 

 

 

 こうして、カルカやケラルトが想定していたような外交上の問題も発生することは無く、むしろ聖王国にとっては良い方向に進展したことで、外政ではなく内政に重点を置くことができるようになった。

 帝国からもたらされた、荒地でも育ち収穫量が多くなるような魔法改良が行われた麦やそのほかの作物の栽培試験の結果も良好であり、これを国内に広めることができれば、王国へ依存している穀物輸入も解決に向かうだろう。しかし、南部は北部への対抗心からこの政策を積極的に受け入れてはおらず、未だ国内統治に成功しているとは言い難い。

 

 

「カルカ様。そろそろ南部への締め付けを厳しくしてもよいのではないでしょうか?聖王国のいち早い統一は北部南部を問わず、聖王国民のために必要なことです」

 

 

「そうです!カルカ様の素晴らしさを理解しない、愚か者には分からせてやらないといけません!」

 

 

 執務室の身内定例会議でレメディオスとケラルトは進言する。カルカによる統治が始まり、かれこれ十年になろうとしており、その統治は安定し多くの利益をもたらしてきた。にもかかわらず、南部貴族はそれらを踏まえたうえでもカルカを支持することは無い。以前として、カスポンドを聖王とするか、新たな聖王家を立てるかでもめているのだ。

 

 

「でも今、彼らを強行的に押さえつければ武力で訴えるに違いない。そうなれば、傷つくのは聖王国の民なの。安易な手段に走ってはいけないわ」

 

 

「姉上が命じれば貴族だけを拘束し、速やかに制圧することも可能ですよ。一日もかかりません」

 

 

「彼らが管理していた領地は誰が管理することになるかしら。誰もいなければ王の直轄地になるけれど、管理をするにも人員が足りないわ。可能な限り、統治に必要な人員も残さないと……」

 

 

「姉上は少々弱気すぎるのではないですか?強く出るところは強く出なければ、いつまでたっても問題は解決しません」

 

 

 カルカは「分かっているわ…」と言うも、それ以上話すことは無く、今日の会議もそのまま終了になった。カルカは一足先に自身の部屋へと戻っていく。

 

 

「姉上は何を怖がっているんだ。ケラルトは心当たりはないのか」

 

 

「おそらく、これまでの統治において一度も強硬的な政策施行を行ってこなかったことが原因かと……。突然、そのような政策を行えば、民の信頼を失うかもしれないと恐れているのでしょう」

 

 

「まさか!民は皆、カルカ様を慕っておられるではないか!」

 

 

「姉様、それはカルカ様の優しさを皆が知っているからです。突然、過激な手段を取り始めれば人が代わってしまったのではないかと不審に思う者も中にはいるかもしれないということです」

 

 

 レメディオスは「私はそうはならんが…」と不満そうな表情を浮かべる。

 とはいえ、カルカの指示なく無断で行うこともできる立場ではなく、今まで通り影響のない範囲で南部を抑え続けるしかないのだろう。ケラルトやカスポンドによってそれらの対策は行われているが、やはりいち早い統一が必要なことは間違いない。

 

 

「お優しい所は姉上の良い所ではあるのだがな……。今は姉上を信じ、支え続けるしかないだろう」

 

 

 リリアはそう言うと、二人に夜の挨拶をし部屋から出ようとする。そこにレメディオスが待ったの声をかける。

 

 

「リリア様。最近、副官に任じたあの……」

 

 

 リリアが「ネイアのことか」と言うと、「そうです!」と声を上げる。

 

 

「あの者の訓練ばかりではないですか!私もそろそろ手合わせを願いたいのです!どうしてあのような者を!」

 

 

「レメディオス。そう他人を下に見るようなのは止めたほうがいい。レメディオスにはレメディオスの、ネイアにはネイアの長所がある。最近、ネイアの訓練ばかり見ていたのは確かにその通りだが、今は大事な時期なんだ。終わり次第、手合わせには付き合うさ」

 

 

 リリアはそう言うと、手を上げその部屋を後にする。するとすぐにケラルトも部屋から出て来てリリアの下に来る。

 

 

「リリア様。姉様も決して本心からあのようなことを言っているのではないのです。以前まで、リリア様の副官としての立ち位置は姉様でしたから、少し嫉妬しているのだと思います」

 

 

 以前までであれば、どこかへ行くにしてもレメディオスを護衛として移動していた。現在はネイアと共にし、会議にも出席していることがほとんどなため、そこに不満を感じているのだ。しかし、大臣となったリリアはカルカの護衛としての立場を今はレメディオスに完全に任せており、互いに立場が変わったというだけではあるのだが。

 

 

「そうか。それはもう慣れてもらうしかないだろう。すまないが、ケラルトにレメディオスのサポートは任せるぞ」

 

 

 ケラルトは「はい」と言うと、一礼し再び部屋の中へ戻っていた。

 

 

 翌日、リリアは城塞線の視察と防衛のための設備を構築するため、ネイアとアルフレドを連れて中央要塞を訪れていた。

 

 

「現在は不可視化の魔法を使える者を中心に偵察部隊を編成し、亜人の動きをいち早く察知できるような仕組みをとっています。とはいえ、先の戦いの影響で亜人も奥地まで下がっていますが」

 

 

「偵察部隊にも被害は出る。貴重な魔法を使える者を使い続けるのも避けるべきだろう」

 

 

 リリアはそう言うと、予定していた設備の構築のため、要塞の最上階へ向かう。

 

 

「ここに私の探知魔法を封じた魔水晶を置く。もし、敵がこの魔法の範囲内に入れば、ここに置いてある地図にマッピングされるという訳だ。問題点を上げるとすれば、敵意を持っていない物には反応しないことだが……。攻めてくる敵を見分けるだけなら問題ないだろう」

 

 

 リリアはそう言うと、魔水晶を台座に置き、詠唱を始める。空から一筋の光が水晶に降り注ぎ、それは徐々に広がりながら一枚の壁を形成していく。そして、壁はアベリオン丘陵の方角へと進んでいき、あるところまで進むとそれは透明となっていった。

 

 

「これで城塞線の全ての範囲でかなり奥地まで監視できるはずだ。後はこれを監視する兵士を準備するだけだが……。それは任せてもいいな」

 

 

 アルフレドは「はっ!」と言うと、副官に命じ手に持つ紙にまとめさせる。その時、何かを言いたそうにしているネイアの姿が目に入った。

 

 

「どうしたネイア。何か気になることが?」

 

 

「いえ!リリア様は探知魔法をお使いになられるのに、私の探知能力は果たして必要なのかと……」

 

 

「私の探知魔法は見ての通り、常時発動できるものでもなく固定しなければ使えない。待ち構えるにはいいんだが、準備が必要だ。それに敵意を持つ者にしか反応しないから使える場面も限られる。その点、どんなものにも対応でき、移動しながら位置を把握できるネイアの様な能力は非常に有用なんだ」

 

 

 ネイアは「そうですか」と少しうれしそうにすると、恥ずかしく思ったのか下を向く。すると、そこへパベルが足音を消してやって来た。リリアが来るという話を聞き、ネイアも共に来ると考えたのだろう。

 

 

「ネイア!会いたかったぞー!」

 

 

「げっ!お父さん!」

 

 

 パベルは人の目も気にせず、ネイアの頭をなで抱きしめようとする。ネイアは「人前だから!」と必死に抵抗しており、この場の者はパベルの娘好きを知っているため、その光景に思わず笑ってしまう。

 

 リリアは想う。願わくばこの平和な日々がずっと続くことを。

 

 だが、物語は進んでいく。

 

 

 その日の夜、トブの大森林のそばの平原に一つの墳墓が現れた。

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