聖王女の妹は信仰者【本編完結】   作:お稲荷猫

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出現②

 他の人の目につかないところで転移をしようとしたことで、今この状況を見ている者は誰もいない。

 

 

「まずは落ち着いて話し合いませんか。その魔法を収めて」

 

 

「貴方の対応しだいですね」

 

 

「見逃していただくことは?」

 

 

「ありえません。モモンさー…んの命令なので」

 

 

 ここで事を荒立てて今後の関係に亀裂を入れることはまずいと考え、転移の魔法を中止し、おとなしく両手を上げる。ナーベは「ついてきなさい」と言い、リリアを連れて路地の更に奥へと行く。

 

 

「……。路地ではなく通りに行きませんか?」

 

 

「いえ、行く必要はありません。おとなしくついてきなさい……。いえ、ここでいいでしょう」

 

 

 ナーベはそう言うと振り返り、リリアの視線と自分の視線を合わせる。体に感じる不快感に咄嗟にリリアは精神系の抵抗魔法を発動する。その感覚は以前、アイルに味合わされた人間種魅了(チャームパーソン)などの精神支配に似ていたからだ。

 リリアは数歩後ろに下がり、ナーベと距離を空ける。路地に誘い込み精神系の魔法を使ってくるなど正気ではない。

 

 

「突然何をするんですか!」

 

 

「初めてです。これに抗う人間がいたとは」

 

 

 ナーベはそう言うと、腰にある剣は抜かずに魔法を詠唱しようとする。先ほどギルドで感じた威圧感を目の前にいるナーベからは感じないことから、リリアは魔法解体(マジックディストラクション)でナーベが発動しようとした魔法の解除を試みる。

 リリアの予想通り、ナーベのレベルはリリアほど高くはなく、相手の魔法を解除するのに問題はなかった。ナーベは自身の魔法が解除されたことに動揺したのか、近づいていた距離をすぐに空ける。リリアはすかさず人間種束縛(ホールドパーソン)を発動するも、ナーベに効果はなく、続いて上位種族捕縛(グレーター・ホールド・スピーシーズ)を唱え動きを拘束する。

 

 

「くっ!人間風情が!」

 

 

人間種束縛(ホールドパーソン)が効かない?まさか……)

 

 

 リリアがアイルから教えられた種族鑑定の魔法を使おうとしたとき、背後から組合で感じたあの強大な威圧感、いやそれ以上の殺気にも近い敵意を感じ取る。

 

 

「これは一体、どのような状況かな?」

 

 

 振り返ると、モモンが兜越しからでも伝わる怒りの感情を醸し出していた。

 

 

「ナーベさんが突然攻撃を仕掛けてきたので、一時的に拘束させていただきました。逆に説明をお願いしてもよろしいでしょうか?」

 

 

 リリアは腰の剣に手をかけるも、目の前の存在に勝てる気は微塵もしない。今剣を抜いたとしても何の意味もなく、可能であればすぐさま離脱すべきだと。

 

 

「まずはその魔法を解除していただけますか?ナーベも私も危害を加えません」

 

 

 リリアは少し考えるも、ナーベにかけていた拘束の魔法を解く。ナーベは直ぐにモモンの前へと立ち、その姿は主を守る騎士に近い。

 

 

「ナーベ。この者が言ったことは本当か?」

 

 

「……。はい、御身が来られる前に情報を引き出そうと……」

 

 

 すると、モモンはナーベの頭に拳を落とし、「馬鹿者!」と声を上げる。ナーベは「申し訳ありません!」と頭を下げる。

 

 

「どうやら、こちらの不手際だったようだ。申し訳ない」

 

 

 モモンはナーベにも頭を下げさせ、リリアに謝罪させる。リリアは「そ、そうですか」と言いながら、謝罪を受け入れる。そして、「ひとまず通りへ」と言うと、三人はそのまま路地の来た道を戻る。

 

 

「ギルド内で魔法を使用していたようなので、違反行為であると伝えたかったのですが……。こちらの不手際もあったことですし、ギルドに通報することは止めておきます」

 

 

「それは……。こちらのギルドでそのような規則があったとは初めて知りました」

 

 

「この辺りでは見ない恰好ですね。どちらから来られたのですか」

 

 

「私は見ての通り、聖王国で騎士をしておりまして……。アダマンタイト級冒険者の漆黒の二人組に一目お会いしたいと思い来たのです」

 

 

 モモンは「そうでしたか」と言い、三人は何事もなく通りまで戻る。そして、リリアがその場で別れを告げようとしたとき、モモンからある提案がされる。

 

 

「失礼ですが、お名前をお聞きしても?」

 

 

「リアと申します。それが何か」

 

 

「リアさんは見たところオリハルコン級の冒険者と思われるのですが、一人で活動を?」

 

 

 リリアが「そうです」と言うと、モモンは何かいい案を思いついたのか手を叩きリリアの方を向く。

 

 

「折角、私達に会いに来られた方にこのような対応をしてただ返すのは申し訳ない。このような出会いになってしまったが、これも何かの縁。冒険者らしく依頼を共にこなしてみませんか」

 

 

「そ、それは構いませんが。私はオリハルコンなのでアダマンタイト級の依頼を受けるには荷が……」

 

 

「大丈夫です。私達が受けることができるような依頼はほとんど終わってしまっていますから、オリハルコンの依頼を手伝わさせてください」

 

 

 リリアとしても漆黒の実力を調べるいい機会ではあったが、先ほどのような行為を荒野で行われては今度こそ誰の目にも止まらずに死ぬことになるだろう。そうした警戒感もあったが、ナーベと違いモモンは先程の様な敵意を向けておらず、一定の信頼を置ける人物のように感じてしまう。そして、何よりギルドを通しての依頼である以上、不用意な行為に及ぶ心配はないだろうと。

 

 

「依頼を受けるのは構いませんが、そのまま連れ出して殺したりはしないですよね?」

 

 

「先ほどの事は本当に申し訳ないと思っている。であれば、依頼報酬は半分ずつではなく三対七にしてもかまわない」

 

 

 リリアとしてはお金に困っていることはないため、そのような提案に魅力を感じることはなかったが、ひとまずモモンの立場も立てるため、その提案で了承することにした。

 モモンは明日の朝に組合で会うという約束を取り付けると、ナーベと共に自身の泊まっている宿へと向かい、リリアも完全に距離を置いたところで転移によって聖王国へ戻った。

 

 

 

 宿に戻ったモモンとナーベは、部屋に入るとモモンは椅子へと座り、ナーベは入口付近に立ったまま待機する。

 

 

「ナーベ。今回は早まったな」

 

 

「しかし、モモンさー…ん。あの人間が使っていた認識阻害は上位の魔法でした。そこまでして身を隠しているということは、何かしら後ろめたいことがあるということです」

 

 

「そこまで分かっていながら挑んだ結果があれだ。あの者が手加減していなければ、今頃お前は死んでいただろう。非常に危険な存在だと分かっていたはずなのにだ。シャルティアを洗脳した者かもしれなかったのだぞ」

 

 

 ナーベは人間に負けたという事実を認めたくないのか、悔しそうな表情を浮かべ唇をかみしめる。

 

 

「ではなぜ、モモンさんはあの人間と依頼を共にしようなどと!あまりにも危険ではありませんか!」

 

 

「ナーベ。あれだけの強さを持つ者が友を一人も呼ばず、探知系の魔法を使ってもあの者以外引っかかることは無かった。それに、私と対峙した時に仲間を呼ぶ気配も、仲間が来る気配もない。つまりソロだということだ。もし、私の正体を知った上で接触を試みるならパーティーを組んで挑むはず」

 

 

(それに装備を見てもユグドラシル産の装備はもっていなかった。あれは現地民に違いない。どこでその強さを得たのかは気になるけど……)

 

 

「それにだ。この世界では珍しく、あの者は私達の強さを見極めることができる。つまり、分をわきまえることができる者だということだ。現地の情勢にも詳しいとくれば、冒険者として活動していく上でも、あのような者と関係を持っておくことは決して悪いことじゃない。それにあのような者は無意味な行為は行わない。このモモンに挑もうなどとな」

 

 

(そう、決して依頼の報酬が欲しいから臨時のパーティーを組むとか、そういうわけじゃない。決して!)

 

 

 ナーベは半ば納得した様子であるが、モモンの本音からすれば新たな収入源となる人材を確保したというだけである。アダマンタイト級になってからと言うもの、報酬は多いが受けられる依頼の数は大きく減り、結果として慢性的な資金不足に陥っていた。

 万が一、あの者がシャルティアを洗脳した者と関係があったとすれば、こちらから仕掛けるチャンスが生まれると言うものだ。

 

 

(聖王国は確か…、デミウルゴスが何か行っていたよな……。後で情報がないか聞いてみるか)

 

 

 

 聖王国へ戻ったリリアは一息つく間もなく、ネイアに追い縋られていた。

 

 

「リリア様!書類がまだこんなに残っているというのに!どこへ行っていたんですか!」

 

 

「す、すまない。すぐにとりかかろう!」

 

 

「もう半分くらいは終わらせておきました!それよりも今日の鍛錬も行えていません!」

 

 

 リリアは必死にネイアをなだめようとしたが、これは長くなりそうだと腹をくくり、しばらくネイアの泣き言を聞き続けた。これも自身への罰だと。

 

 

 翌日、夜遅くまで書類を整理していたリリアは若干寝不足の状態であったものの、モモン達と約束していた依頼をこなすため、朝からエ・ランテルの組合に訪れていた。昨日とは違い、フードではなく兜をかぶって素性を隠している。

 

 

「リアさん。おはようございます」

 

 

 モモンとナーベが先に組合で待機していたリアの下に来ると挨拶をする。ナーベは未だに敵意をむき出しのまま、頭を下げるだけである。

 

 

「依頼は事前に確保しておいたのですが…、採取系依頼は報酬がそんなに良くなかったので討伐系を中心に依頼を受けておきました」

 

 

「ゴブリンの巣の駆除に街道に現れているオーガの群れの討伐、カッツェ平野のアンデッドの間引きですか。分かりました。とりあえず依頼順にこなしていけば夜には帰れそうですね」

 

 

 リリアは「それではお願いします」と言い、冒険者では上となるモモン達に頭を下げる。モモンは「ではいきましょうか」と言うと、リリアとナーベを連れて組合を後にする。移動にはリリアが事前に手配しておいた馬車を使用することになった。

 

 

「リアさんはもしかして、意外といい所の出身なのでしょうか」

 

 

「実はそうなんです。そのためこうして素性を隠して冒険者の活動を行っているんです」

 

 

 モモンは「なるほど」と何かに納得した様子であったが、ナーベはやはりこちらを睨みつけるように見ている。昨日の事があってはこのような視線を送られるのも無理はないだろう。その他にも、モモンからは聖王国と言う国の事に関して多くの質問をされた。特産品やどのような歴史を持つ国なのかなど、まるで初めて見聞きする国家であるかのように。

 そうして話をしている内に最初の目的地であるトブの大森林東部へ到着した。ここにあるゴブリンの巣が依頼の目的だ。

 

 

「中にはゴブリンが貯めている財宝の類もあるかもしれません。可能な限り大規模な攻撃は控えていきましょう」

 

 

 モモンの指示にリリアは「分かりました」と言うと、剣を抜いて属性付与の魔法を唱える。ナーベも同様に自身に強化の魔法などをかけ、中へ入る準備をしている。

 一通りの準備を終えたのを確認したモモンは「それでは行きましょう」と自身を先頭とし、ゴブリンの巣へと突入した。

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