聖王女の妹は信仰者【本編完結】   作:お稲荷猫

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異変①

 アインズはナザリック内にある執務室で送られてきた報告書や書類に目を通している。とはいえ、ほとんどは理解できておらず、あくまで目を通したという動作をしているだけでそこに印を押していくだけなのだが。

 

 

「アインズ様。デミウルゴス様が面会を求められております」

 

 

 アインズは「構わん。通せ」と言うと、一般メイドは扉を開けデミウルゴスを中に案内する。デミウルゴスはアインズの座る執務机の前まで行くと、深く頭を下げ挨拶をした。

 

 

「それで、デミウルゴス。何用だ」

 

 

「はい、現在進めている聖王国への計画について、アインズ様のご許可をいただきたく」

 

 

 アインズはデミウルゴスに全てを任せると伝えようとするも、先日の一件で気になったことがあるため、返答をせずに一度質問へ移る。

 

 

「デミウルゴス。聖王国の者のはずなのだが、名をリアと言う冒険者だ。会ったところかなりの実力を持っているように感じられたのだが、何か心当たりはないか」

 

 

 デミウルゴスは少し考えると、何かに気づいたのか眼鏡を動かして答える。

 

 

「リアと言う名の人間に関しては情報はないのですが……。以前より多くの国で聖王国の騎士に『人類最強』と噂される者がいることは……」

 

 

「ほう、なぜ報告にあげていなかった?」

 

 

「申し訳ありません。所謂おとぎ話のように話が各国で異なっていたため、真実を確認できるまではお伝えしないようにしておりました……。私も調査を試みていたのですが、王都は防御魔法で守られていたため、接触することもできておらず…」

 

 

 デミウルゴスはアインズの不興を買ってしまったと、深く頭を下げながら理由を話す。アインズは「なるほどな」と言うと、頭を上げさせ今分かっている範囲の情報を話すよう指示する。

 

 

「大半の噂は亜人の軍隊を単身で追い払ったというものです。そして、ドラゴンの討伐やアンデットの大群の処理、皇帝のお気に入り、人類最強、同性愛者など様々な噂が飛び交っております」

 

 

「ふむ、そうか。それは気になる話だな。プレイヤーの線は考えられないのか」

 

 

(いくつか変なのが混ざっていた気がするけど!)

 

 

「私も警戒したのですが、どうやら現在の聖王女……、聖王国の統治者の妹であるらしく、かなり若い時から英雄として名を挙げていたとか。名前は確か…、リリア・ベサーレスだったかと。姉の方をカルカ・ベサーレスと呼ぶそうです」

 

 

 デミウルゴスはそう言うと、自身のストレージから関連する書類をアインズに手渡し、アインズは書類を見て「ふむ」と言う。

 

 

 

(リアさんってもしかして、リリアから名をとってるなんてことは無いよな……。バレバレだよな?デミウルゴスも気づかないはずないよな?これってそう言う御約束的な要素なのか!?)

 

 

「興味深いな……」

 

 

 デミウルゴスはアインズの呟いた声に反応し、「アインズ様?」と声をかける。

 

 

「あぁ、この者の話だ。プレイヤーではない、所謂現地民であるのにもかかわらず、これらの話が本当だったとすれば実力は未知数だ。どうやって強くなったのか、ビルドやスキルの構成、レベリングの方法、持っている装備など調べたいことはいくらでもある。一度、聖王国に対する方針を見直すことになるかもしれないな」

 

 

「アインズ様がお望みであれば、王都に無理やり侵入し、この者を連れてくることもできますが……」

 

 

「いや、相手の実力は未知数だ。この世界の人間だからと言って安易に近づけば、前の一件のように思わぬ反撃を食らう可能性が高い。それに、相手の本拠地に攻め入るには入念な情報収集が必要だ。存在するマジックアイテムやギミックの確認、敵の合計戦力など。それらに対抗するためのアイテムや戦力を用意する必要もある。今はこちらの存在に気づかれないようにしておくべきだろう」

 

 

「すると……、今進めている巻物(スクロール)用の羊皮紙となる聖王国両脚羊(アベリオンシープ)の生産体制にも影響が出るかもしれません。あれは聖王国から入手しているものですから……」

 

 

 アインズは「それは困るな」と言うと、気づかれないようにしながら、静かな今のうちに可能な限り買い込んでおくように指示し、デミウルゴスは「かしこまりました」と頭を下げた。

 

 

 

 ケラルトは先日、自身の下へ上げられてきた報告書をカルカに渡すと説明を始める。

 

 

「聖王国の各地……。主にロイツやカリンシャ、及びその近辺の村落ですが、子供や成人した女性、男性を中心に行方不明になるものが増えております」

 

 

「確かに少ない人数だけれど、これは無視できるものではないわね」

 

 

 カルカはそう言いながらリリアに報告書を渡す。目を通すと、その地域から報告された行方不明者がリストになって上げられており、ここ最近で合計して三十人近くが行方不明となっていた。

 

 

「王国の人身売買組織が聖王国にも入って来たか?それとも南部の仕業か?」

 

 

「聖王国を出る馬車や船舶には兵士が荷物を確認していますし、偽装魔法に対する対策もなされていますから、国外に運び出されたとは考えにくいですね……」

 

 

「だとすれば南部勢力が何かたくらんでいると考えるべきか……」

 

 

「その線もないんじゃないかしら。今は南部も内部闘争が激化していて、何かを企む以前の問題だとお兄様が言っていたわ」

 

 

 カルカやケラルトの情報を頼りにすると、ではその行方不明となった者達は一体どこへ連れ去られたというのか。リリアはあり得ないと考えながらも、一つの答えへ行きつく。

 

 

「亜人が何らかの術で壁を越えて内部に侵入しているのかもしれないな」

 

 

「まさか……。スラーシュのように透明化を使用して人々をさらっていると?」

 

 

「普通はあり得ない。その時点で城塞線の魔法に引っかかり、壁に近づくことすらできないだろう。だが、何らかの魔法的手段、対探知に関する魔法か転移系の魔法か……。それらを使用してきたとなれば可能性は残るだろう?」

 

 

「亜人共にそのような知能も能力もあるわけがありません!我々を出し抜くなど!」

 

 

 レメディオスは亜人の事を否定しながらも、もし聖王国の民を連れ去っていたのが奴らならばと、その顔は怒りに満ちている。

 

 

「姉様。落ち着いてください。それにまだ国内の調査も行っていません。まずは国内を、それから国外に目を向けましょう」

 

 

「では、この一件は軍と聖騎士団で担当しよう。私は軍を使って国内を。レメディオスは聖騎士団を率いてアベリオン丘陵の方を調査してくれ。軍から元偵察兵の者を貸し出す。彼らならあの辺りの地理に詳しいだろう」

 

 

 レメディオスは「分かりました」と頷き、この一件はひとまずこれで様子を見ることになった。

 

 だが、それから数日後。事態はこのような様子見で終えられるものではなくなった。ケラルトは上げられた緊急の報告書を見て、カルカ達に緊急の会議を開くことを伝えた。

 

 

「行方不明者が出ていたロイツ近郊の村落ですが……。住民が全員消えました。リリア様には軍からも情報が入っていると思いますが……」

 

 

「交代に向かった兵士が状況に気づき直ぐ報告したからな。警備の兵もまとめて行方不明。争った形跡は一切なし。食事もそのまま置かれていたらしいからな。まさに瞬時に消えたとでも言わんばかりに」

 

 

 リリアはそう言うと、確実な対処に乗り出せなかった自分に悔しさを覚え、机を勢いよく叩く。

 

 

「姉上、これは人間にできる事ではありません。確実に亜人かそれ以外の存在によって引き起こされていると考えるべきです」

 

 

「そうね。この後もっと被害が広がるかもしれない。聖王国の民の間に動揺が広がるのも時間の問題だわ」

 

 

「アベリオン丘陵の調査ではそれらしい痕跡すらありません。亜人達もほとんど動きがありませんし、一体何が起きているのですか」

 

 

 レメディオスの疑問はこの場の誰もが感じていた。アベリオン丘陵で亜人達が争いあっているという情報はここ最近はほとんどなく、また、亜人達が攻めてくることは『一切』ない。その影響で城塞線の兵士達も腕が鈍りつつあった。

 

 

「住民が行方不明になった次期と亜人達の動きがみられなくなった次期はかなり近い。となれば、やはりアベリオン丘陵で何か起きているとみるべきだ」

 

 

「リリア様。では……」

 

 

「あぁ。アベリオン丘陵は一度奥地まで調査に向かう方がいいだろう。まずは少人数の精鋭で状況を調査し、結果次第では聖騎士団の主力と共に行動したい」

 

 

 リリアはそう言うとレメディオスの方を見る。レメディオスは「いつでも準備させます!」と立ち上がって騎士の礼をとる。

 

 

「リリア。調査に向かうのは良いけれど、決して無理な行為に及ばないように。何があったとしても一度、帰還しそれから次の行動をとること」

 

 

 カルカの注意に「はい」と返事をすると、改めて明日から行う調査のために四人は今後の動きについて話し合う。

 

 翌日、リリアは副官であるネイアを敵の動きを把握するための索敵要員として連れ、レメディオスが厳選した聖騎士達と共に中央要塞へと訪れていた。

 

 

「今日の目的はアベリオン丘陵で起きている異変の調査だ。奥地まで侵入し、状況を見て撤退。また、日が暮れる前には何の情報を得られなかったとしても撤退する予定だ」

 

 

 調査部隊の面々にリリアが黒板に示した作戦概要を指さしながら説明する。そして、説明を終えると何か質問がないか確かめ、無い様子を見ると出発の準備を始めた。

 

 

「ネイア。今日はお前の探知能力が重要となる。可能な限り亜人との接触を避け、騒ぎを起こさないためにもな。一応、認識阻害の魔法を強くかけるが、それでも絶対ではない」

 

 

 ネイアは緊張した様子で「は、はい!」と返事をする。

 

 

「精々足を引っ張るんじゃないぞ。リリア様のおそばにいる者として命を懸けろ」

 

 

「レメディオス。そのような言葉を使うんじゃない。前にも言っただろう。ネイアにはネイアの。レメディオスにはレメディオスの役目があると。そんなに牙を向けるな」

 

 

 諫められたレメディオスは「…はい」と納得していない様子で騎士団の方に歩いていく。ネイアを連れていく事には昨晩の会議でも強く反対していた。実力がない者を連れていく事があれば、その者が足を引っ張り、リリア様を危険にさらす可能性があると。

 

 

(一度どこかで強く言ってやらないと駄目だな……)

 

 

 調査部隊の準備が完了したのを確認すると、リリアは要塞の兵に門を開けるように指示する。門が開かれると、調査部隊は目的地であるアベリオン丘陵へと走り始めた。

 

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