聖王女の妹は信仰者【本編完結】   作:お稲荷猫

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異変②

 調査部隊はアベリオン丘陵の調査を行うも、通常ではありえないほどに亜人の存在を確認できていない。リリアも何度かネイアに調べさせてはいるものの、気配や最近ここらにいたという痕跡さえも発見できていないのだ。

 

 

「亜人達はどこへ消えた?ここら辺は確か山羊人(バフォルク)共の勢力圏のはずだが……」

 

 

「以前の調査ではここまで奥地には来ませんでしたが、これは確かに異常です」

 

 

 リリアは一度移動を止め、レメディオスと今後の動きに関して作戦を練る。これ以上奥地に行くとなると、物資が足りなくなる恐れもあったことから、一度帰還し明日調査に向かうべきだと。

 

 

「最後に一度、上空から辺りを見回してみる。皆はここで待ってくれ」

 

 

 リリアは不可視化(インヴィジビリティ)の魔法を唱え姿を隠すと、飛行(フライ)でそのまま飛び上がり、周囲を見渡す。どこまでも丘陵が広がっており、亜人の姿は一体も見えない……。と思っていたが、部隊から前方に少し行ったところで一体の蛇身人(スネークマン)の姿が見えた。その蛇身人(スネークマン)はある場所まで行くと何かに吸い込まれるようにその場から消えていく。

 リリアはすぐさま下へと降り、状況を説明する。

 

 

「この先に亜人達がいるのは間違いない。だが、あのような消え方は異空間に行ったというよりも、そのまま地続きの場所へ歩いて行ったという言い方の方が正しいな」

 

 

「ともかく向かいましょう!原因を突き止める絶好の機会です!」

 

 

 レメディオスの意見にリリアも同意し、調査部隊はリリアを先頭にして速やかに移動する。そして、ある程度距離を置いたところで馬から降りると、馬と周囲を見張る少人数を残し、残りに認識阻害の魔法をかけ、先ほど蛇身人(スネークマン)が消えた場所まで近づく。

 

 

「このあたりのはずだが……。ネイアどうだ?」

 

 

「何も探知できません……。気配も感じ取れませんから、付近にいることは無いかと……」

 

 

「本当に調べたんだろうな。リリア様が嘘をついているとでも?」

 

 

「静かにしろ。認識阻害の魔法をかけているとはいえ、音はごまかせないからな」

 

 

 リリアはそう言うと、足元に転がっている石を手に取り、目のまえに投げる。投げられた石はある場所まで飛んでいくと、吸い込まれるようにその場で消えた。リリア達は可能な限り気配を薄めながら近づき、剣を手に取って不思議な空間に触れる。剣はそのまま吸い込まれるように空間に刺さるも、何か異常が起きた様子はない。

 

 

「おそらく、幻術がかけられているのだろう。このあたり一帯には何もないかのようにごまかしているんだ」

 

 

「こんな魔法があるんですか……。気配も感知できないなんて……」

 

 

「いや、私が知る限りではここまで強い魔法ではない。少なくとも探知系魔法であれば問題なく調べられるはずだ」

 

 

 リリアはそう言いながら未知の空間へと足を踏み入れる。ネイアやレメディオス達も後に続いてはいると、中には外と自然につながっている丘陵が続いており、遠くに先ほどまでは見えなかった亜人の拠点の様なものが目に入った。

 

 

「あれは奴らの拠点か?蛇身人(スネークマン)山羊人(バフォルク)、あれは馬人(ホールナー)だな」

 

 

「異なる亜人達が共に過ごしているということですか?どういうことでしょうか」

 

 

「いや、亜人だけじゃない。小悪魔(インプ)の姿もある。見たところ奴が指令を出しているようだな」

 

 

「我々に勝てないと知り、悪魔の力まで借りたか。化け物共め」

 

 

 リリアは遠視の魔法で様子を伺いながら、見えたものを話す。少なくともこれまでの勢力図が大きく置き換わっているとみていいだろう。拠点の見張り塔の配置などをネイアにまとめさせ終え、遠視の魔法を解こうとしたとき、ある物が目に入った。その光景にリリアは怒りを覚え、思わず地面に生える草を引きちぎる。

 

 

「……。どうやら、あそこに聖王国の民がいるのは間違いない」

 

 

「何か見えたのですか」

 

 

「奴ら、捕まえた人間を犯している。下種共め」

 

 

 一人の女性が亜人達に囲まれ、襲われている姿がそこにはあった。それを聞いたレメディオスはすぐにでも助けに行くため立ち上がろうとするも、リリアがそれを抑え込む。

 

 

「聖王国の民に間違いないです!今すぐ助けなければ!」

 

 

「私だってそうしたい!だが、敵の戦力が不明だ。これほどの魔法を使う者を相手に今の戦力で挑むのは無謀だぞ」

 

 

「しかし!」

 

 

 リリアはレメディオスの口をふさぎ、そのまま部隊に一度要塞まで撤退することを伝える。レメディオスは半ばリリアに引きずられながら、馬を置いてきた場所まで戻った。

 

 一同は大急ぎで要塞まで帰還すると、リリアは他の聖騎士に休むように伝え、ネイアとレメディオスを連れて要塞内の会議室に入る。

 

 

「明日にでも部隊を集め、すぐに攻撃しましょう!不意を突けば奴らも混乱するはずです!」

 

 

「あそこを攻撃すれば、亜人達も反撃に出る可能性がある。そうなれば城塞線を守るための部隊も必要だ。展開が完了するまで早くても三日はかかるだろう……」

 

 

 リリアはレメディオスの意見を十分に理解しているが、あまりにも情報が少ないため、思い切った行動に出れずにいた。ただし、今回の問題はカルカの指示を待たず、リリアの判断によって行うことが許可されている。

 

 

「リリア様。もう少し情報を集めてからでもいいのではないでしょうか。少なくとも敵の戦力だけでも把握した方が……」

 

 

「そのようなことをしている間にあの者はどうなる!奴らに食われてしまうかもしれないのだぞ!」

 

 

 レメディオスの罵声にネイアは思わず身を竦めてしまう。そのまま怒鳴り続けようかというレメディオスの様子を見たリリアはその間に入り、ネイアの発言も正しいと言ってそれ以上怒らないように言う。

 

 

「ネイアの言うことも最もだ。敵の戦力が分からない以上、短期決戦に持ち込む必要がある。亜人が捕まえている民を盾にする可能性もあるな」

 

 

「では、どうしますか」

 

 

「今要塞に集まっている聖騎士は何人だ?」

 

 

「百人ほどです。しかし、全員が聖騎士の中でも選び抜かれた者達です。決して亜人に後れを取ることはありません」

 

 

 レメディオスの話を聞き、リリアはしばらく考え込む。威圧感は拠点から感じ取れなかったことから、相手の主戦力は不在であることを考慮し、しかけるならいましかないと。

 

 

「拠点の周囲には何の障害物もなく、隠れて近づくのは無理だろう。だが、私は不可視化(インヴィジビリティ)の魔法が使える。拠点に入り、奴らに睡眠(スリープ)の魔法をかけ、静かになっている内にまずはとらわれている者達の捜索と救助だ」

 

 

「奴らは殺しますか。無防備な奴らを殺すだけなら兵士にも」

 

 

「あえて殺さずに放置していけば、奴らは互いに疑心暗鬼になるかもしれない。この中に裏切り者がいるのではないかとな。その方が我々がやったという証拠も残らず、敵の攻撃が来るとしても時間が稼げる」

 

 

 レメディオスはリリアの作戦に同意し、ネイアも王都に送る用の文書にまとめ終えると、それをリリアに手渡す。転移の魔法で直接届けてもらうためだ。

 

 

「であれば、要塞の兵士と運搬用の馬車を借りて行こう。彼らには救出した民の運搬を行わせ、ネイアは運搬部隊の者達を護衛するとともに、付近に敵が近づかないか警戒に当たるんだ。だが、もし敵に予想外の戦力がいた場合はその場で撤退だ。作戦は明朝開始する事も付け加えて、レメディオスは聖騎士と要塞の将軍に話を通しておいてくれ」

 

 

 リリアはそう言うと、転移の魔法を使い文書を届けるため王都へと帰還した。部屋へ直接転移するとちょうどカルカが机の上の手紙に目を通している最中であったため、事情を伝え、国軍を動かすことを伝える。万が一、敵の大規模な攻撃が起きればそれを防御するために非常の措置をとる必要性があることも。

 

 

「分かったわ。捕らわれた人々の治療のために神官を要塞に派遣するよう、ケラルトにも話を通しておくわね」

 

 

「ありがとうございます。それでは」

 

 

 そう言って再び現場に戻ろうとしたが、カルカが待つように言うと椅子から立ち上がりリリアの下まで来て、防御魔法をかける。

 

 

「貴方に四大神の加護があらんことを」

 

 

「私は姉上の加護があれば十分なのですが……」

 

 

 カルカは「気を付けて」とリリアの目を見ながら言う。その奥にはまた危険な目に合うのではないかという不安が見て取れた。リリアはこれ以上不安にさせるわけにはいかないと意思を固め、「行って参ります」と騎士の礼をすると転移の魔法でその場を後にした。

 

 

 

 翌日、既に装備を整えいつでも出発できるように部隊は編制を完了していた。要塞からは運搬とその護衛の部隊として二百人ほどが付いてくることになってはいるが、当然正面切って戦える戦力ではない。

 リリアは日がまだ上り始めてもいない早朝に部隊を率いて要塞を出発した。

 道中は、ネイアのおかげで亜人達とも接触することは無く、また、接触したとしても位置が分かっているため、味方に知らされる前に確実に処理し、無事に目的地へと到着した。

 

 

「最後に確認する。私が内部の敵を制圧したら、正面の門で松明を振る。そしたら、幻術内の聖騎士が外の聖騎士にも合図をし、運搬部隊と共に拠点に向かい内部の捜索と救助を行う。全てが完了次第、即時離脱だ」

 

 

 リリアはネイアやレメディオス、そして聖騎士の部隊長に確認を終え、自身に不可視化(インヴィジビリティ)の魔法をかけ行動を開始する。後続のために探知魔法の類や罠の有無を調べつつ慎重に近づいたが、特にそう言ったものはなく、無事拠点の入り口までたどり着く。中では、亜人達が自分達の部族事に休息をとっており、朝日が昇り始めたばかりと言うこともあって未だ寝ている者も多い。

 拠点内をうろついている小悪魔(インプ)には睡眠(スリープ)が効かないため、リリアは亜人達を眠らせるとすぐに小悪魔(インプ)に向けて魔法の矢(マジック・アロー)を放つ。小悪魔(インプ)は突然の事に一切抵抗をすることができず、そのまま灰になった。そうして、周囲の確認を始めたリリアであったが拠点の後ろに隠された施設を見つけると、言葉を失いしばらく立ちすくんでしまう。そして、現実を受け入れると共に我へと帰り部隊に合図を送った。しばらくして、部隊を率いたレメディオスが亜人の拠点へと到着する。

 

 

「よし、お前たち亜人共を起こさないように救助者の捜索だ。静かにかつ迅速に動け」

 

 

「いや、レメディオス。救助者達はここにまとめられている。全員を急いで馬車に乗せろ」

 

 

 レメディオスはリリアの下まで行くと、拠点の背後に広がる牧場の様な施設が目に入る。その中では、人間が家畜と同じように飼育され、中にいる者たちの目には既に生気は感じられない。生きてはいるが、これを生きていると言っていい物なのだろうか。

 駆け付けた聖騎士達もその光景に呆然としたが、すぐに中にいる者たちの救助を始める。

 

 

「リリア様。これは……」

 

 

 レメディオスが飼育用の餌箱の中にある物を見ながら、リリアに話しかける。人間の骨の様なものも混じっていることから、これが確実に人間の…、いや生き物の肉塊であることに間違いはなかった。

 

 

「団長。救助者は六十三名。残りの三十名近くはいまだ不明のままです」

 

 

「いや、三十名の安否はもうわかっている。骨だけでも持ち帰ろう」

 

 

 リリアはそう言うと、肉塊の中に見える骨を丁寧に取り出す。先ほどの救助者の中に昨日襲われていたものは含まれていなかったことから、おそらくこの中にいるのだろうと。リリアはそのまま聖騎士から預かった皮袋に骨を集め終えると、この場にいる亜人共を皆殺しにしてやりたいという気持ちを抑え、部隊に撤収の指示を出す。

 

 

「リリア様。馬車の運搬と護衛の聖騎士はすでに出立しました。我々も」

 

 

「あぁ、すぐに離れよう」

 

 

「それは困りますね。留守の間に泥棒まがいの真似をされては」

 

 

 見知らぬ第三者の声にレメディオスとリリアは即座に剣を構え振り返る。

 そこには、先ほどまで拠点の中には感じられなかった強大な威圧感を放つ仮面をかぶり、スーツを着た者が立っていた。

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