聖王女の妹は信仰者【本編完結】   作:お稲荷猫

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行く末①

 馬が地面をけるたびにその振動によって、左胸に突き刺さっている槍が痛みを与える。出血の量も決して少ないものではなく、レメディオスが定期的に声をかけてくれなければ意識を失いかけるほどだ。

 

 

「リリア様!間もなく要塞に着きます!」

 

 

 リリアは「あぁ…」と言いながらも、顔はほぼ下を向いており、もはや目を開けているのも辛いと言った状況だ。

 要塞に到着し、門が開く音が聞こえると数人が走り寄ってくる音が聞こえる。レメディオスの手を借りながら馬から降りると、大量に出血したためか足に力が入らず倒れそうになるが、すぐにレメディオスが支えその場にゆっくりと座らせる。

 

 

「姉様!リリア様の容態は!」

 

 

「右腕の火傷もひどいが、この槍だ。リリア様は呪いの危険もあり、抜かないようにとおっしゃったのだが……」

 

 

 本来であれば清潔な場所で行うべきだが、これ以上動かせば危険があるかもしれないとその場で治療の用意が行われ、ケラルトは槍の状況を確認し始めた。

 

 

「呪いなどは見受けられませんが……、刺さっている場所が悪いですね……。抜くと大量に出血する恐れもあります。抜くと同時に治癒魔法をかけ始めましょう」

 

 

 ケラルトが神官に指示を出すと、槍に手をかけ抜こうとする。しかし、思った以上に深く突き刺さっていたため、力が足りず抜くことができない。それを見たレメディオスがケラルトに代わり槍を抜く。

 

 

「姉様。可能な限りゆっくりと抜いてください。急に抜けば引っ掛かりがあった時に大変です」

 

 

 レメディオスは「分かった」と言うと、力を籠めゆっくりと槍を抜き始める。抜けると同時に、血が噴き出したがすぐにケラルトが傷口を抑え、神官達と共に治癒魔法をかけ始める。リリアも自身で治癒魔法をかけようとしたが、ケラルトに止められ、そのままの状態でいるように言われた。

 

 

「奴は私が人間ではないと思っていたようだが、私にも赤い血が流れていて安心したよ」

 

 

「リリア様!今はお話にならずゆっくりお休みください!後の事は我々が」

 

 

 リリアは「そうか」と言うと、気合で耐えていた意識をゆっくりと手放した。

 

 

「ひとまず容態は安定しています。槍は肩の方にまで傷が達しており、当分は動きに支障が出るかもしれません。それから右腕の火傷ですが……、こちらは治癒魔法の効果が薄く、自然療法に頼るほかないと。王宮医に火傷によく効く薬を用意させています」

 

 

 執務室でケラルトの報告を聞いたカルカは「ご苦労様」と言って、視線をレメディオスに移す。どうしてこのようなことになったのか、一体何があったのかを確認するためだ。

 

 

「それでレメディオス。何があったのか詳しく説明して」

 

 

「はい、亜人達の拠点で救助者の捜索を終えたのち、リリア様が犠牲者に祈りを捧げられ、我々も帰還しようとしました。そこへ『ヤルダバオト』を名乗る大悪魔が現れ、我々に攻撃を仕掛けてきたのです」

 

 

「ヤルダバオト……。ケラルト、この名に心当たりは?」

 

 

「ありません。一度神殿の資料室で探させてみますが、おそらく情報はないかと……」

 

 

「奴は恐ろしく強く、リリア様の放つ魔法も多くが防がれ、最後に放った強大な魔法以外は効果がないようでした。それに、奴は近接戦闘も魔法による戦闘もどちらも我々より上です……。私は一切歯が立たず、リリア様に怪我を負わせ……」

 

 

 レメディオスが悔しそうに拳を握りしめる。以前、ネイアに放った自身の言葉がまるで自分に帰って来たかのように、足を引っ張っていたのは自分だったと。カルカはレメディオスが悪いわけではないと慰めの言葉をかけるも、それで納得できるわけがなかった。

 ケラルトが話を続けるため、資料を手に取り口を開く。

 

「被害者の多くが背中の皮が何度も剥かれた痕跡がありました。おそらく、人の皮を使い何か儀式を行っていたのではないかと……」

 

 

「被害にあった者達は無事なのですか。体調に変化は……」

 

 

「肉体的な問題はありません。一番は精神的な問題です。唯一口を開くことができた者から集めた情報では、何かの生物の肉を食べさせられていたと……」

 

 

 カルカはその話を聞いただけで報告書にあったことからその肉が何であったのかを察し、顔色を悪くする。かつてこれほどの無残な事件が起きたことは無かっただろう。

 

 

「この事件は極秘裏に処理しましょう。南部に漏れることがあれば、彼らは間違いなく北部を叩く材料にします」

 

 

 カルカは事件の被害者やその家族にも情報を漏らさないことを示されると、自身の信念に傷がついたような感覚に襲われたが、今この事件を漏らせばさらなる混乱を招くと考えケラルトの意見に賛同した。

 

 翌日、リリアもすぐに目を覚ましたこともあり、お見舞いとしてカルカやレメディオス、ケラルトらがリリアの私室を訪れていた。パッと見た限りでは大きな怪我をしていないように見えたが、右腕には包帯が全体にまかれており、王宮医が治療に来てその包帯を外すと、酷くただれたところから膿んでいる部位もあり目を当てるのは厳しい状態だった。

 

 

「リリア様。正直に申し上げますが、元のように右腕を使うことは難しいかもしれません。もちろん、できないとは申し上げませんが」

 

 

「大丈夫だ。私の治癒魔法であれば時間をかければ回復するだろう。今はこの治療を続けてくれるだけでいい」

 

 

 王宮医はリリアや見舞いに来ていたカルカ達に頭を下げると部屋を後にする。

 

 

「何はともあれ、お命を落とすことがなく安心しました。あの怪我で戻ってこられた時は本当に焦りました」

 

 

「以前の私であれば死んでいただろうな。だが、槍は致命傷を避けるように受けたし、治癒魔法のおかげで腕を失わずに済んだ」

 

 

「リリア……。そのように楽観視するものではありません。貴方も女性であるのだから容姿には気を付けないと……」

 

 

 カルカはそう言うと、治癒魔法を無理は承知でリリアの右腕にかける。リリアは魔法をかけられながら、今は動かない右腕を優しく撫でた。例え包帯が取れたとしても人目に出すのははばかられるだろう。

 そのようなことを考えていると、以前考えていた一つの問題が呼び起こされた。

 

 

「そう言えば姉上。私、非常に重大な問題を発見しまして……」

 

 

 カルカは突然のカミングアウトに「それは?」とやや驚いた様子で尋ねる。レメディオスやケラルトも同様の反応を示す。

 

 

「姉上のお世継ぎの事です。姉上もいいお歳であるのに結婚の話が一つもないではないですか。このままでは聖王家の血筋が途絶えてしまいます」

 

 

 カルカとケラルトは呆けながら、今それを言うかと言う表情をして頭を抱える。レメディオスは確かにそうだという表情をすると「それは問題だ」と真剣な面持ちで話す。カルカの産むお世継ぎであれば大層美しい子であるはず……、ではなく、忠誠を誓うのにも問題はないと。

 

 

「リリア…、それは今話しておいた方がよいことかしら?」

 

 

「当然です。血縁もない者が聖王家を名乗ることがあればそれこそ問題です。聖王国に百年の歴史を姉上が終わらせるとなればそれこそ後世に笑われます。だから、私達が同性愛者などと言う噂が……」

 

 

「リリア様の耳にも入っていたのですね……」

 

 

「まさか……姉上だけではなく、お前たちも……本当なのか?」

 

 

 リリアを除く三人は「ありえません!」と声をそろえて言う。レメディオスも同じような反応をしたことにリリアは若干驚きつつも、三人の圧に静かに頷く。

 

 

「確かにそう言った話もないのは事実だけれど…。国内の事が忙しくてそんな話にうつつを抜かしている場合でもなかったのは知っているでしょう?」

 

 

「それは……、そうですが……。姉上は危機感を抱いておられぬのですか?このままだと」

 

 

 続きを話す前にカルカから放たれた謎の威圧感によってリリアは思わず口を閉ざしてしまう。ケラルトも同様の威圧感をリリアに向かって放っていた。

 

 

「私は同等に立ち合える者かカルカ様やリリア様の素晴らしさを理解している者と以外は結ばれるつもりはありません」

 

 

 レメディオスは胸を張ってそう答えるが、ケラルトは「姉様…」と小声でつぶやいて頭を抱えた。

 

 

「そう言う貴方はどうするの。貴方だって私と一歳違うだけじゃない」

 

 

「私は死ぬまで姉上に仕えると決めていますから家庭を持つなど……」

 

 

「貴方の血は英雄の血よ。聖王国としてはその血を後世に残してほしいのだけれど……」

 

 

「……。姉上がそうおっしゃるのであれば……、考えてはおきます」

 

 

 カルカは「それならいいわ」と言うと笑みを浮かべて、リリアの頭をなでる。

 その後は、今後の動向や調査の状況などを互いに確認し、反対はされたものの、動けるようになれば再び執務に復帰することも決定した。そうでなければ、取るべき行動も満足に取れないためだ。レメディオスにも一言言っておこうと思っていたが、その表情を見て、もはや何も言うまいと決めた。少なからず、今回の事件で思うことはあったはずであり、後は自身で解決していくべきことだろうと。

 

 

 

 デミウルゴスはアインズから呼び出しを受け、玉座の間にて頭を下げ待機していた。おそらくは聖王国における一件についてのお話があるのだろうと。

 しばらくして、アインズが守護者統括であるアルベドと共に玉座の間に現れる。

 

 

「デミウルゴス。面を上げよ」

 

 

 デミウルゴスは「はっ」と返事をし、顔を上げる。

 

 

「まずはお前が無事に帰ってきたことをうれしく思う。怪我の方は、もう大丈夫なのか?」

 

 

「はい。アインズ様から指示された通り、信仰系魔法に高い抵抗を持つ装備を中心に対魔法詠唱者装備で固めていましたので、幸い傷は浅く済みました」

 

 

「そうか、ならいい。あのまま戦わせておくのは少々危険だと判断したのだ。もっと戦えたのであれば、それは私の判断ミスということだろう」

 

 

「アインズ様の判断に間違いはありません。目的であった相手の魔法やスキルに関する情報を集めることには成功しました。少々、当初の計画とは違う形になりましたが……、あれほどの実力の持ち主です。使い魔ではなく、私が直接相手をしたほうがよかったでしょう」

 

 

「私もお前から報告を受けた時は驚いたぞ。自分から戦いに出るため戦闘を見守ってほしいとは。しかし、流石はナザリック随一の頭脳を持つデミウルゴスだ。見事、当初の計画を修正し、私が望む情報を持ち帰ってきてくれた」

 

 

 デミウルゴスは「ありがとうございます」と頭を下げようとしたが、アインズは待ったの声をかける。

 

 

「ただし、今後はその身を危険にさらすことは避けてほしい。お前がいなければ、ナザリックの円滑な運営を行うことはできない」

 

 

 アインズの少し怒りが含まれた声に、デミウルゴスは感極まった様子で「承知しました」と言いながら、頭を下げる。

 

 

「それで、聖王国で進めていた羊皮紙の生産だが……。お前の事だ。既に準備はできているのだろう」

 

 

「流石はアインズ様です。そこまでお見通しであったとは……。はい、既に王国内で必要な施設と材料を用意しております。これまでと同様の量を確保するまでは少々時間がかかりますが……。セバス達の情報も元に今後生産量を増やしていく予定です」

 

 

「そうか、それならばデミウルゴス。今回のお前に行動に失態はない。聖王国の生産施設を失ったとしても、それを補うだけの利益をナザリックにもたらした。ただし、聖王国に対する計画は一度見直す必要がありそうだな」

 

 

「私が至らぬばかりにアインズ様のお手を煩わせてしまい申し訳ありません……」

 

 

「何を言う。先ほども言ったようにお前はよくやってくれた。今後も聖王国の件に関してはお前に任せる」

 

 

 デミウルゴスは「ありがとうございます」と再び頭を下げる。

 

 

「アルベド。外部にいる全ての者達に改めて装備の確認を徹底させるのだ。また、新たな強者の話があれば噂であろうとも報告をするようにとな」

 

 

「かしこまりました」

 

 

 アインズは話を終えると、玉座の間を後にしてそのまま自身の部屋へと戻り、ベッドに飛び込んだ。

 

 

(はぁぁ……。デミウルゴスが無事でよかった……。それにしてもあの攻撃は間違いなく第十位階魔法の神炎(ウリエル)だ。どの魔法詠唱者でも条件を満たせば習得できるけど……。それほどの実力者なのか?でも話を聞く限りではそれまで使っていた魔法は最大でも第七位階……。スキルでレベルが上がるなんて話を聞いたこともないし……)

 

 

「訳が分からないよ……」

 

 

 アインズは誰もいない寝室の中で小さく愚痴をこぼした。




現地民「訳が分からないよ……」
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