聖王女の妹は信仰者【本編完結】   作:お稲荷猫

56 / 99
会遇①

 組合の中でモモンが来るのを待っていると、受付での用を終えたモモンが相方のナーベと共に組合の奥からやって来た。リリアは初見ではないものの、今の立場で会うのは初めての事であるため、言葉に気を付けながら話す。

 

 

「お忙しい所時間をとっていただき恐縮です。私は……」

 

 

「存じていますよ。聖王国の英雄、リリア・ベサーレス様。いや、リアさんとお呼びした方がよろしいですか?」

 

 

「気づかれていたんですか?」

 

 

「あー、私はこういった感覚は鋭い自信がありまして。どちらでお呼びすれば?」

 

 

「公的な場であるので、リリアとお呼びしてもらって結構です。様はつけずとも構いません」

 

 

 モモンは「承知した」と言うと、組合の応接室を借りて話すことを提案する。組合長にも既に話は通してあり、部屋は確保してあるとのことだった。念のため、部屋の前に聖騎士二人を見張りと警備のために立たせ、ネイアのみを連れて部屋へと入る。

 

 

「それで、このような形で会いに来たと言うことは、なにか依頼があるんですか?」

 

 

「まずは騙していたことを謝罪します。そして、依頼という訳ではなく……。いえ、依頼はするかもしれませんが、まずはヤルダバオトの件で話を伺いたいと思い……」

 

 

「なるほど、それでどのようなことを聞きたいのですか?」

 

 

 リリアは自身の右腕の装備を外し、包帯をとり傷の跡を見せる。モモンはそこまで驚いた様子もなく「この傷は?」と尋ねる。

 

 

「私もヤルダバオトと一戦交えたのですが、相手を倒すまではいきませんでした。貴方はヤルダバオトを撃退したと聞いたのですが、事実ですか?」

 

 

「えぇ、私は奴を倒し、退かせることに成功しました。どれほどの傷を負ったかは分かりませんが、少なくとも当分の間は動けないでしょう」

 

 

「であれば、お願いがあります。どうか、聖王国のために力を貸していただけませんか。貴方がいればヤルダバオトも聖王国に再び襲い掛かってくるようなことは無いはずです」

 

 

 モモンはしばらく考え込み、無理だという意思を伝える。リリアはそのわけを尋ねた。

 

 

「第一に、奴が次に聖王国に現れるという確証がない。もし、帝国や再び王国に現れることになれば、私が聖王国にいた場合更に後手に回ることになる。つまり、多くの被害が出る恐れがあるということだ。その点から見れば、エ・ランテルは全ての地域に利点がある。第二に、私は国家に縛られることは望まない。確かに冒険者として人々を守ることは重要であると考えているが、それが一国の利益のために使われることは望まない」

 

 

 リリアは「おっしゃる通りです」と残念に思う。しかし、モモンが言うことは正しい。今リリアが依頼したことは言わば、聖王国のためならば他国の被害を許容しても良いという意味を含んでいたからだ。その様子を見たモモンは、咳払いをし「ただし」と付け加える。

 

 

「奴が聖王国を攻めることが確認できたならば、すぐに駆け付けよう。もちろん、報奨金はいただくが」

 

 

「……!感謝する!」

 

 

 リリアは喜び、モモンに左手を差し出す。モモンは左手をとり、互いに握手を交わした。ナーベはどこか不満そうであったが、モモンの意思に逆らうことは無いだろう。

 その後、ヤルダバオトの戦闘の状況などを聞いたが、教えられた状況から見ても以前戦った時とそう違わないことから、奴の戦闘スタイルやスキルなどはある程度絞り込むことができた。モモンに約束を取り付けられただけでなく、ヤルダバオトの戦闘形態を絞り込むことができたことは大きな成果だと言えよう。

 

 話を終えると、リリアはネイアの手を借りて包帯を巻き始めたが、モモンが「これを」と言って赤色のポーションを差し出す。以前、アイルの所で見たポーションと同じようなものだ。外装はこちらの方が一段階上と言ったところだろうか。

 

 

「これはどこで手に入れたのですか?」

 

 

「とある遺跡で入手した物です。数に限りはあるのですが、あらゆる傷を治してくれます。悪魔の呪いがかかっていたとしても効くのではないでしょうか」

 

 

「そのような貴重なものを受け取るわけには……。お支払いできる代金も十分にはありません」

 

 

「礼は結構です。代わりにこのような貴重なアイテムなどの情報が入れば教えていただけませんか。こうしたアイテムの収集が私の趣味なんです。貴方の持っているその剣のように」

 

 

 モモンはそう言いながら、リリアが腰に付けている剣を指さす。彼から見てもこの剣はやはり上等なものだということが分かったのだろう。リリアは剣を外し、「ご覧になりますか」と言いながら目の前に差し出す。モモンは嬉しそうに剣を手に取り、珍しい宝物を壊さないように扱う手つきで隅々まで見ている。

 その間にネイアがポーションをリリアの傷にかけると、傷は瞬く間になくなっていき、元の状態へと戻った。これまでのひきつるような感じもなく、触れられても痛みが走らない綺麗な状態に。

 

 

「そう言えば、先ほどポーションを見た時に随分と驚かれていたようですが、同じようなものをどこかで?」

 

 

「いえ、赤色のポーションは珍しいと思っただけです。遺跡などからはそのような遺物も発見されるのですね」

 

 

 モモンは「そうですね」と言いながら、観察を終えた剣をリリアに戻し礼を言う。リリアは二人の時間を使ったことを改めて謝罪し、ソファーから立ち上がる。ポーションの効果に驚き呆けていたネイアも、すぐに立ち上がり一礼するとその場を後にした。

 

 

「ナーベ。あの反応をどう思う」

 

 

「はい、あの女……。リリア・ベサーレスは明らかに見慣れたような雰囲気がありました。本来であれば、もう一人の人間の様な反応をすると思います」

 

 

「そうだな。それに持っていた剣は間違いなくユグドラシル産のものだ。どうやら、あのようなアイテムに触れることができる立場にあるようだ」

 

 

「では、あの女の近くにプレイヤーが!」

 

 

「だが、彼女自身はあの剣についてあまり詳しくはないようだ。それに私が出したポーションを見て警戒するのではなく、驚いていた。つまりプレイヤーに関する知識はない可能性が高い。あのアイテムを出した時点で剣を抜いてもおかしくはないからな。私ならまず剣を抜いて相手の動きをけん制する」

 

 

「どういたしますか?やはり拘束して……」

 

 

「それは危険だと言っただろう。未だどのような者が背後にいるか分からない以上、友好的な関係を維持すべきだ。それに私は彼女自身にも興味がある。改めてナザリック全ての者に注意喚起すべきだな」

 

 

 モモンはそう言うと立ち上がり、ナーベと共に応接室を後にした。

 

 リリア達が下に降りると、エンリが待合室で座って居る姿が目に入った。側まで行き、何をしているのか尋ねると、『東の魔蛇』や『西の巨人』と呼ばれる者が自身が住んでいる村を襲う可能性があり、その討伐を依頼しに来たのだという。

 

 

「ですが、アダマンタイト級への依頼となる費用が……」

 

 

 『東の魔蛇』や『西の巨人』と言う話を聞いたことがないリリアにとっては非常に興味がわく話題であると同時に、ヤルダバオトとのつながりも考えられるのではないかと警戒すべき対象でもあった。

 

 

「私達が調査に向かっても構わないぞ。ただし、討伐するかどうかは決めかねる。相手が大した相手でなければ、討伐し、無理そうであれば組合に依頼してもらうしかないが……」

 

 

「リリア様。そのような事をしている時間はないのではないでしょうか」

 

 

 ネイアが耳元でそっと話しかける。リリアはエンリに少し待つように言うと、ネイアや聖騎士を連れ少し離れた場所で話し合う。

 

 

「調べると言っても、あそこはトブの大森林です。未だ未開拓な場所も多く、何がいるかは分からないのですよ」

 

 

「だが、その魔物達がヤルダバオトの手先であったならば、奴の手ごまを減らす機会になる。そうでなかったとしても、彼女の村を救うことができる。長くても一日あれば調査はできる」

 

 

 ネイア以外の聖騎士はリリアの意見に口を挟める立場ではないため、黙って聞いているが、ネイアはしばらく考え込んだうえで一日以上かかる場合は即時撤収し、組合に代理で依頼を出すという条件を付けて了承した。エンリの下に戻り、話し合った内容の条件を除いた全てを伝えると、エンリは改めてリリアの両手を掴んで感謝しながら、頭を何度も下げた。

 

 そうして、エンリの馬車に続く形でエ・ランテルを後にした一行は、途中の道で待たせている者がおり合流することを伝えられる。しかし、その話を受けた直後、目の前にある木の陰からこちらを見るゴブリンの姿が目に入った。

 聖騎士やネイアが武器を構えると、ゴブリン達もエンリを無視して守るように間に入る。

 

 

「ま、待ってください!皆さんは私を助けてくれた方なんです!」

 

 

「エンリ。このゴブリン達はお前の召喚したものか?」

 

 

 エンリは「そうです」と言いながら何度も首を縦に振る。リリアは聖騎士やネイアに武器を下ろす様に伝えると、ゴブリン達も武器を下ろしエンリの近くに戻る。

 

 

「エンリは知らないかもしれないが、聖王国の者は亜人に対しあまり良い印象は持っていない。寧ろ、見かけたら殺しにかかるほどだ」

 

 

「それは……。すみませんでした。無知な私のせいで……」

 

 

「君の村には他にもゴブリンがいるのか?いたとしたら君が制御できていればよいのだが……」

 

 

「他のゴブリンさんもいます。昨日はオーガの皆さんが加わったのですが……。皆協力して暮らしているんです!」

 

 

 その話を聞いた聖騎士やネイアはそんなことはあり得ないと言った表情で話しを聞いているが、そういった現場を見たことがあるリリアにとっては、王国では珍しいといった程度の感想しか持たなかった。

 

 

「事情は分かった。ただ、護衛の者達は抵抗感もある。村に泊まるとしても可能な限り、彼らが私達に接触しないように取り繕ってもらえるか?」

 

 

 エンリは「分かりました」と言うと、それぞれのゴブリンの紹介を始め、改めて村に向けて出発した。

 

 

「リリア様。本当に大丈夫でしょうか?ゴブリンが村を支配している可能性は……」

 

 

「彼女が首にかけている角笛はゴブリンを召喚する物だ。おそらく、村にいるのはそれによって召喚されたゴブリン。つまり、彼女の支配下にある」

 

 

 聖騎士の疑問にリリアが答えると、そのような道具があるのかと驚いた表情をしていたが、そう分かってもゴブリンと過ごすということは考えにくいのか、やはり嫌そうな様子は隠せない。これがある意味で正常な反応と言えよう。

 

 

「リリア様!見えてきました!あそこが私の村です!」

 

 

「あれは村と言うよりも……。野戦陣地か?」

 

 

「すごい防壁ですね。ただの村にしてはあまりにも厳重な…」

 

 

 トブの大森林の近くにある村であるからこのような防壁があるのかは分からないが、初めて見る村の印象はやはり軍事拠点と言うほかなかった。入口で帰りを待っていた村人とゴブリンが一行を出迎える。エンリが訳を話し、村人の男が改めてリリアに感謝をすると、リリア達を村の中へと案内した。

 

 

 

「なーんか、知らないやつらがきてるっすね~。んー?あの女は……」

 

 

 村の塔の上で赤髪のメイドは、手に持つ巨大な聖杖をリリアに向けて構え、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。