聖王女の妹は信仰者【本編完結】   作:お稲荷猫

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聖王国の非日常③

 死の騎士(デス・ナイト)が手に持つ禍々しい剣が振り下ろされるたびに一人また一人と聖騎士が死んでいく。あるものは叩き潰され、あるものは上半身と下半身が分かれた無残な姿に。迎撃に当たっていた天使達も圧倒的な差の前にすぐに蹂躙されてしまう。

 

 

「実力がないものは下がって王女様と神官を守れ!」

 

 

 騎士団長がそう叫びながら、死の騎士(デス・ナイト)に斬りかかる。これまでも幾度となく亜人と戦ってきた経験から対等にわたりっているように見えるが、言うまでもなく押されている。

 リリアとレメディオスも騎士団長を援護すべく、両側面から回り込み一撃を加えようとするが、それに気づいたのか騎士団長を押しのけると、腰からもう一本の剣を取り出し、二人の斬撃をいとも簡単に受け止める。

 

 

「このッ……!」

 

 

 レメディオスが無理やり押し込もうとすると、死の騎士(デス・ナイト)は脚でレメディオスの脇腹に強烈な蹴りをいれる。レメディオスはそのまま大きく吹き飛ばされ、空いた剣がリリアに向かって振りかぶられる。

 

 

太陽光(サンライト)!」「神聖光(ホーリーライト)!」

 

 

 カルカとケラルトが放った魔法で死の騎士(デス・ナイト)がひるんだ隙にリリアは拮抗していた剣を受け流し、そのままデスナイトの腹部に一撃を食らわせ、その反動で数歩後ずさる。

 

 

「レメディオス!大丈夫か!」

 

 

「この程度の攻撃で倒れるほど弱くありません!」

 

 

 リリアがレメディオスを見るが、明らかにダメージが蓄積している様子が見て取れた。

リリアは神官にレメディオスに治癒魔法を使うよう指示する。

 

 

「ケラルト!神官への指示は一任する!そっちまで意識が回らない!」

 

 

「分かりました!神官達は天使を召喚し、前衛部隊を掩護しなさい!」

 

 

 ケラルトの指示に従い、神官達は天使の召喚を開始するが、それを見た死の騎士(デス・ナイト)は地面に転がる聖騎士の死体を剣を使い、神官に向かって放り投げる。投石器から発射されたのではないかというほどの速さで死体は宙を舞い、あまりの速さで死体がバラバラになるがそれが散弾のように広がり神官たちに直撃した。

 

 人の骨と骨が当たり、肉が飛び散る嫌な音が聞こえたかと思うと、神官達がいた後方部隊は神官とその護衛に当たっていた聖騎士がまとめて倒れており、血だまりができている無残な光景が広がっていた。顔の一部がいびつにひしゃげそのまま絶命している者や、ぶつかった衝撃で手足が折れ叫び声をあげる兵士がいる。

 

 

「おのれぇぇぇぇぇええ!」

 

 

 騎士団長が部下の変わり果てた姿を見て激昂し、死の騎士(デス・ナイト)に斬りかかる。

 

 

(冷静さを欠いた状態で挑むのは無謀だ!)

 

 

「騎士団長!とまれ!」

 

 

 リリアが叫ぶも加速していた騎士団長を止めることはできず、騎士団長が放った斬撃を死の騎士《デス・ナイト》は片方の剣で受け止めると、もう片方の剣で瞬時に反撃を行い、騎士団長の頭に向かって横から斬りかかった。

 

 次の瞬間には騎士団長がかぶっていた兜の原型が分からなくなり、中には頭であった肉塊が地面へと転がった。頭を失った体はそのまま地面へと力なく倒れる。

 

 

(まずい……。これはまずい……)

 

 

 リリアは額から汗を流す。少なくとも現状において有効な戦力であった騎士団長が死に、援護に回る予定だった神官達も戦える状態ではなく、聖騎士も数人を残して戦闘不能状態。まさに絶望的だ。

 

 

(姉様を逃がすためには時間を稼がなければ……。でもどうやって……?)

 

 

 目の前に立つ理不尽の塊ともいえる存在にリリアは対応策が思いつかない。今の聖王国でこいつを相手できるものはいないといってもいいだろう。レメディオスやケラルト、カルカやリリアも若くして英雄の領域に至ろうとしているが、目の前の存在を圧倒できるほど成長していない。

 

 

「レメディオス、私と二人で死の騎士(デス・ナイト)のヘイトを集め時間を稼ぐ。ケラルトは姉様を何としても逃がせ」

 

 

 リリアの指示に二人は「はい!」と言いすぐに行動にとりかかったが、その指示を聞いたカルカは「リリア!」と大声を上げる。

 

 

「あなたたちを置いて逃げるなど!そんなこと王家の者としてできません!」

 

 

「姉様は今後の聖王国において、絶対に必要となるお方です!姉様が死ねば、この国は破滅への道を歩むかもしれないのですよ!」

 

 

「それを言うならば、貴方たちもこの国にとって失ってはならない存在です!私だけでこの国をまとめていく事なんて!」

 

 

「リリア様!来ます!」

 

 

 カルカとリリアの言い争いを他所に死の騎士(デス・ナイト)が襲い掛かる。

 大きく振りかぶった頭上からの一撃をリリアとレメディオスは左右に避け、レメディオスが注意をひくために斬りこむ。死の騎士(デス・ナイト)は攻撃に対応するため、レメディオスの方を向き、リリアは先ほどのように側面から攻撃するのではなく、背面に回って攻撃するためにそのまま勢いよく走りこみ、その勢いのまま斬り上げる。リリアの放った斬撃は死の騎士(デス・ナイト)に効果があったのか、大きな雄たけびを上げ、剣を振り回し、二人は瞬時に後退する。

 

 

「レメディオス!そのまま離れていろ!火球(ファイヤーボール)!」

 

 

 リリアの剣先に魔法陣が展開され、そこから火球が放たれる。火球は死の騎士(デス・ナイト)に直撃すると大きな火炎となって爆発した。第三位階魔法である火球(ファイヤーボール)は魔力が高ければ高いほど、射程が伸びダメージも大きくなる特徴がある。それ故、魔力が少ない信仰系の者が火球(ファイヤーボール)を使ったとしても、通常より威力が落ちてしまう。しかし、レメディオスやケラルト、カルカから見てもその威力はすさまじく、カルカやケラルトはリリアが二人に劣らぬか、それ以上の魔力を持っていることを理解した。

 

 

「すごい……。これなら……!」

 

 

「まだだ!」

 

 

 レメディオスの安堵する声を否定するようにリリアが声を上げる。その視線の先では、爆発の後の煙から死の騎士(デス・ナイト)が立ち上がろうとしているのが見えた。リリアとレメディオスは再び剣を構えなおす。

 

 

「ケラルト!今の内だ!残っている者を連れて撤退しろ!無理やりでもだ!」

 

 

「いえ、リリア様、その命には従えません」

 

 

「どういうことだ!」

 

 

 リリアはケラルトの方へ振り返り睨むように見るが、生き残っていた聖騎士達の姿は既になく、戦う準備を整えたカルカとケラルトの姿のみがあった。

 

 

「聖騎士には王都への報告と応援部隊の要請に向かわせました。その間、私達でこいつを食い止めることが最善の策です」

 

 

「姉様を危険にさらしてまで行うことか!」

 

 

「リリア!私がケラルトに無理を言ったのです。ここで二人を失うくらいなら死を選ぶと!」

 

 

 そう言うカルカの手には短刀が握りしめられていた。

 

 

「カルカ様のお命のためにもここで戦うことにしました。それにこの四人であれば、勝算もあります」

 

 

「本当に口と頭だけはよく回るな!」

 

 

 ケラルト自身も、姉であるレメディオスを残して行く事に同意はできておらず迷っていたが、カルカの強い意志によってその迷いが断ち切れた。リリアは皮肉めいたセリフを言うと、視線を死の騎士(デス・ナイト)に戻す。

 

 

「要領は先ほどまでと同様に、前衛が注意を引き、状況を見て攻撃。後衛はそのサポートを。ただし、自身を最優先に!」

 

 

 三人はそれぞれ返事を返し、すぐに配置につく。

 

 

「「第三位階天使召喚(サモン・エンジェル・3rd)!」」

 

 

 カルカとケラルトは再度天使を召喚し、少しでも手数を増やそうとする。リリアも第三位階天使召喚(サモン・エンジェル・3rd)を使うことはできるものの、天使の方に注意を向けながら戦うことが難しく、長期戦に備え魔力を温存しておきたいという考えから使用を控える。

 

 こちらの準備が整うとほぼ同時に死の騎士(デス・ナイト)は完全に立ち上がり、雄たけびを上げる。

 絶望の中にわずかに残るかすかな希望を掴むための戦いが始まった。

 

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