聖王女の妹は信仰者【本編完結】   作:お稲荷猫

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幕開け③

 帝国と王国との戦争は過去に例がない規模の戦争となり、両国の国民は戦争が長引くも、例年通り王国が勝利を収めるだろうと考えていた。だが、結果は帝国が圧倒的勝利を収めるという異例の事態に陥った。いや、正確にはアインズ・ウール・ゴウン一人の勝利と言うべきだろう。

 帝国に駐在している武官から送られてきた報告では、帝国軍に攻め入って来た王国軍右翼の部隊がゴウンが放った魔法の一撃によって全滅し、その後に召喚された魔獣によって残存していた王国軍も壊滅。戦争はわずか一日で決着がつくことになったと。

 軍が壊滅し戦闘能力を失った王国はすぐに講和会議を始め、エ・ランテルはアインズ・ウール・ゴウン魔導国に割譲された。

 

 戦争が終結してから日時が経過し、もたらされた報告を受け会議室の面々は言葉をなくしてしまう。報告書が間違っているのではないかと疑問を呈したが、帝国と王国の内部の情報も送られてきていたことで、この報告が誤った物ではないのは確認されていた。

 

 

「また、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフも魔導王との一騎打ちで討ち取られました……。おそらく、戦死者は今後も増えるでしょう……。あくまで『確認』できた遺体の数のみの集計であり、名簿などの照らし合わせで更に戦死者は増えるものと……」

 

 

 文官が報告を終えると、誰もが唖然としているため、リリアが下がるように指示する。

 

 

「王国軍二十四万を一人で潰滅させるなど……。まさに化け物というほかあるまい」

 

 

「だが、これまで通りの商人の通行などは認めているのだろう。国家承認をする手間も省けたのだから、よいのではないか?」

 

 

「どこがよいのだ!人類の敵となる存在が新たに現れたのだぞ!それに商人達も魔導国の領内を通ることには否定的だ!」

 

 

「大臣方、落ち着かれよ。姉上からお話がある」

 

 

 白熱した議論を開始しようとした大臣達をリリアが止め、場を静まらせる。このような報告を聞けば、誰しも混乱してしまうのは仕方がないことなのだが。

 

 

「エ・ランテルは冒険者、漆黒のモモンが魔導王との間に入り大きな混乱は起きてはいないとのこと。あの魔導王がどのような統治を行うかは分かりませんが、少なくとも今は様子見するべきでしょう。幸い、魔導国は聖王国に対し何かを要求するなどの様子は見られません」

 

 

「それはそうなのですが……。聖王女様。相手はアンデッドですぞ。アンデッドが統治するなど聞いたことも……」

 

 

「私もありません。しかし、エ・ランテルを占領した時に魔導王が血を流したという情報もありません。少なくとも今は穏便に統治しているようです。であれば、不用意な接近をする必要もないということ。違いますか」

 

 

 本来であれば、アンデッドが統治することを認めるなどありえないが、現在の状況に至っては黙認するという姿勢をとるしかないだろう。魔導王の武力が聖王国に向けられるのだけは避けなければならない。

 会議は満足のいく答えは出なかったものの、今まで通りの活動を行うように厳命され、ひとまず終了となった。誰もいなくなった会議室でカルカは思わず愚痴をこぼしてしまう。

 

 

「リリア、教えて頂戴。人類に敵対的な存在が二体。それも国を滅ぼしうる存在なの。それらに睨まれているときに聖王国がとるべき方法は何?どうしてあのような者達が突然現れたの?どうして……」

 

 

「姉上、そのようなお顔をなさると折角の美人が台無しです。ひとまず、魔導国に対する方策は私の方でも考えてみます。帝国とのルートを通じて良い方向に導けるかもしれません」

 

 

 縋りつくカルカをなだめながら、自身の意見を伝える。カルカは報告を受けた日からまともな睡眠をとれないほど、一国の統治者として恐怖と混乱に見舞われており、こうなってしまうのも仕方がないことだった。最近ではケラルトからお願いされ、夜になっては睡眠の魔法をかけているほどだ。

 

 

「ひとまず姉上は混乱されていたようだから、寝てもらっている」

 

 

「カルカ様のご容態を安定させるためにも、いち早く良策を考え出せればよいのですが。こうなると分かっていれば帝国と関係を持つなど……」

 

 

「アンデッドなど一捻りにしてやりたいが……。一騎打ちでガゼフ・ストロノーフに勝つとはな……」

 

 

 カルカを除いたいつもの面子は執務室に集まり、今後の方策を考えていた。まずは魔導国がどのような行動を今後取るのか。魔導国に対処するためには何が必要か。相手の戦力はどれほどか。調べなければならないことは多い。

 

 

「だが、漆黒のモモンがいる限り、魔導王も手を出せていないとみることもできます。やはり、あの者こそ人類の希望となりうる存在なのではないでしょうか」

 

 

「だが、奴は魔導王に降ったのだろう。そんな奴を頼りにできるのか?」

 

 

「レメディオス。モモン殿は降ったのではない。エ・ランテルの住民の命を奪わないことを引き換えに魔導王の統治に協力しているだけだ。少なくとも魔導王は人間を統治するために必要な措置をとっているようだ」

 

 

「モモンから情報を聞き出せればよいのですが……。エ・ランテルに派遣していた情報員も既に撤収していますし……」

 

 

 モモンに接触を図るにはエ・ランテルを訪れなければならず、魔導国の領土となった今、不用意に聖王国の者が立ち入ればいらぬ問題を引き起こす可能性があった。商人に扮して侵入したりしても、何かしらの理由でバレればそれこそ魔導王の怒りを買うかもしれない。

 

 

「後頼りにできる国家と言えば……、アーグランド評議国やスレイン法国だが……」

 

 

「評議国は勘弁してください。アンデッドとも亜人とも協力したくはありません。それであればスレイン法国の方がまだマシです」

 

 

「ケラルトに同意します。評議国の亜人に頭を下げるなど決してなりません」

 

 

「亜人が嫌いなのは分かるが、モモンに匹敵する実力者がいるのならば協力を仰がないわけにはいかないだろう」

 

 

 だが、二人はどうしても納得がいかないようだ。亜人はやはり敵と言う認識が強いのは今も昔も変わらない。この聖王国民の持つ偏見も聖王国が取れる方法を狭める要因の一つとなっているのだが……。

 

 

「スレイン法国は聖王国以上に長い歴史を持つ。魔導王に対処する方法を握っている可能性もある」

 

 

「法国に関する話は以前お聞きしましたが……。あれは事実なのでしょうか?」

 

 

「私も聞いた話に過ぎないから何とも言えないが……。法国が亜人狩りやエルフとの戦争の際にそう言った秘密部隊を運用しているのは嘘とは言えないだろう」

 

 

「前話していた神の血を引く者というやつですか?」

 

 

 スレイン法国には神の血を引く者達がいる。その話をしたのはツアー本人だった。法国はその事実を隠すため表立って発表したりしていないものの、アイルによってその裏はとれており、その者達もツアーにとっては監視の対象となるものだった。その強さは魔人をも超えるとされており、リリアであっても互角かそれ以上の可能性もあると。

 

 

「その者達であればモモンと同等の。あるいはそれ以上の実力を持っているかもしれない。そうなれば、法国との協同戦線を張るのも悪いことではないだろう」

 

 

「法国であればまだいいですが……。しかし、あの国にはかつてリリア様を暗殺しようとした疑いもあります」

 

 

「昔の話だ。それに今の危機的な状況にそれを持ち出して関係を悪くする必要もないだろう。時が来れば、法国にも考えてもらわなければならないだろうが……。ひとまずは魔導国にどのように対処すべきかと言うことだな」

 

 

 リリアはそう言いながら何か妙案がないかと考えるも、これと言った策が出ることは無い。こうした裏方仕事はあまり経験がないため、ケラルトやカスポンドに任せておきたいことなのだが……。ケラルトも同じく考えが浮かんでいる様子はなく、カスポンドは南部の動きを監視するためとてもではないが外に意識を回せる余裕はない。

 

 

「我々ではどうにも良い案が出なそうだな。ジルクニフに会い、今後の策を練ってもらうのも悪くはないな」

 

 

「帝国に聖王国の運命を握らせると?」

 

 

「そういう訳ではない……、と言いたいが、我々では現状に有効な方策を打つことは難しいだろう。我々の視点ではなく、帝国の視点からの意見を受ければ、新たな気づきがあるかもしれん。それにもはや国家による対立と言うよりも、種族による対立が始まったという意識でいるべきだ。我々は人間種と言う枠組みの中にいるのだと」

 

 

 弱い人間が強い者に勝つためにはすべての知恵や力を結集しなければならない。もはや国家で対立する時代を終わらせなければならないはずだ。リリアは二人に明日ジルクニフに極秘に面会することを伝え、今は各自が行える事を行い非常時に備えるということを確認した。

 

 

 翌日、リリアはジルクニフの執務室に夜、極秘裏に面会したいことを伝える手紙を置くと、その晩に手紙通りにジルクニフの執務室を訪れた。その場には、ジルクニフとよく見かける文官の男が一人立っており、転移魔法で訪れたリリアに驚きつつも一礼する。

 

 

「突然の面会であるのにもかかわらず、受けていただきありがとうございます陛下」

 

 

「返信など送れるわけもないのだから、拒否するわけにもいかないだろう。それはともかく座ってくれ」

 

 

 リリアが促されるままにソファーへと座ると文官の男がすぐにお茶を用意し、目の前の机に置いた。

 

 

「このようなタイミングで訪れてくれたことはまさに神のご加護と言うべきだろうな。実は先日、法国の『商人』が来訪することを伝えられてな。良ければ、リリア殿もぜひ共にと思っているのだが……」

 

 

「法国の『商人』ですか……。他には誰が?」

 

 

「帝国神殿の神官長だ。リリア殿の事をあまりよくは思っていないが……。事態が事態だ。そのような事もいってはいられないだろう」

 

 

「陛下、思っていたよりも混乱していないようで安心しました。流石は陛下ですね」

 

 

 ジルクニフはフフフッと笑みを浮かべると「本当にそう思うか?」と言いながら、苦し気な表情を浮かべる。自身が失言したことに気づくも、時すでに遅く、ジルクニフもカルカと同様に取り乱してしまう。

 

 

「あの魔導王は何なんだ。魔法一撃で王国軍を壊滅させるだと?騎士達も恐れをなし、次々と辞めていく。大臣達はそれをすべて私の責任だと……。誰が予想できるか!そんなもの!」

 

 

「陛下、失言でした!どうかお許しください」

 

 

 リリアの声に我に返ったのか、息を吐いて心を落ち着けたジルクニフは「すまないな」と言って机の上にあるお茶を飲み干す。文官の男はこうした光景が日常的になってしまっているのか、多少は動揺しているが直ぐに止めに入るなどの事はしない。

 

 

「ともかく、法国からの『商人』と会う際には是非来てほしい。日時はこれだ。覚えたならばこの紙は燃やしてしまう。決して誰かに伝えることは無いようにしてくれ」

 

 

「当然です。そこまで情報を管理しているのには何か理由が?」

 

 

「奴は私が思っている以上に頭が回るやつなのだ。油断すれば命取りになるかもしれない」

 

 

 ジルクニフはそう言いながら文官の男に紙を渡さずに、自身の手で火の魔道具を使い紙に火をつけた。いかに情報の管理を徹底したいかは見るからに明らかだ。

 

 

「では陛下。その日に闘技場でお待ちしております」

 

 

「あぁ、良い夜をリリア殿」

 

 

 長時間滞在するのも危険であるため、約束を取り付けた二人は別れの挨拶を告げるとその日の面会は終了した。

 スレイン法国と関係を持つ手段が構築できたことは決して悪いことではない。帝国が間に入ってくれるのであれば、対立的である法国ともうまくやれるだろうと考え、リリアはひとまず先が見えたと安堵の表情を浮かべた。

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