闘技場から観戦していた市民達の歓声が上がる。
武王が魔導王に一撃をいれ、それによって吹き飛ぶ姿に観客は驚きを隠せない。
「いいぞー!武王ー!」
「頑張れー!」
市民たちの応援が響くも、魔導王はすぐさま反撃に出たため、それ以上の攻撃をすることができない。
「やはり、魔導王と言えど
「いえ、よく見てください。確かに武王は一撃を加えましたが、それほど効いていないようです」
法国の神官の意見に対し、すぐさまリリアが反論する。たしかに武王は全力の攻撃をしたが、魔導王は何もなかったかのように立っており、武王と何かを話している。すると、武王は鎧を脱ぎ始めた。少しでも身軽になろうという判断だろう。
武王は鎧を脱ぎ終えると、魔導王に対し攻撃を始めた。しかし、その攻撃は届く前に見えない壁によって弾かれてしまう。何度も何度も攻撃するもそれらは全て弾かれる。
魔導王はゆっくりと歩きながら距離を詰めると、剣を突き立てる。剣が体に突き刺さったわけでもなく、ただ剣を突き立てられただけで武王はそのまま静かに地面に倒れこんだ。
「そんな……馬鹿な……」
ジルクニフは言葉を失い、倒れたまま動かない武王を見つめている。なぜ魔導王に攻撃が通らなかったのかは分からないが、少なくとも最初は手加減して挑んでいたことは明らかだった。いや、この姿さえも本気ではないのかもしれない。
「なぜ武王の攻撃は弾かれていた。奴の魔法か?」
「魔法を使っていた様子はありませんでした……」
(おそらくスキルだろう。打撃武器に対する耐性?いや、近接攻撃に対する物か?)
一同が戦いの結果に混乱している中、魔導王は武器をしまい、拡声の魔法を使って闘技場の中央で演説を始めた。
『聞け!帝国の民よ!私は魔導国に冒険者育成機関を作ろうとしている。冒険者を育成し、世界に旅立ってもらうことが私の国にとって有益だと考えたためだ!』
闘技場が静まり返り、皆魔導王の言葉に聞き入っている。それは市民のみならず、貴賓室にいる者達も同様だ。
『私は冒険者を戦争の道具に使うつもりはない。今証明したように武力は十分間に合っている。真に冒険をする者、道を探求したいと思う者は我が国に来い!まだ見ぬ力がお前たちを手助けするだろう!私であれば絶対の死にすら抗える!』
魔導王はそう言うと、倒れたままピクリとも動かない武王にどこからか取り出した杖を構え、魔法を唱えた。すると、武王はゆっくりと起き上がる。その光景を見た者達から驚きの声が上がる。
『死を超克した私が諸君達をバックアップして、成長を補佐しよう。我が国に来たれ!真なる冒険者を目指す者よ!』
会場は未だに魔導王の演説やパフォーマンスに驚いた者達で騒がしくなっている。
魔導王は演説を終えると、飛行の魔法を使い再び貴賓室の前へとやって来た。
「先ほどは失礼した。楽しんでいただけたかな」
「さ、流石はゴウン殿。帝国最強の戦士に圧勝とは見事というほかない」
「どちらが勝ってもおかしくはなかったが……、幸運が味方してくれたようだ」
その言葉を聞いたジルクニフはどの口が言うかと作り笑顔が崩れ、思わず顔をゆがめてしまう。
「魔導王陛下、この後、お時間をとっていただくことはできますでしょうか」
魔導王とジルクニフの会話にリリアが突然割って入ったことで、ジルクニフと神官は驚いた様子でリリアの方を向く。
「あぁ、少しであれば構わない。ジルクニフ殿、部屋を用意してもらえないか」
「あ、あぁ。用意しておこう」
魔導王はジルクニフに感謝を述べると、再び闘技場の中央へと降りて行った。
「リリア殿!何を考えているんだ!魔導王に話したいことがあるなど!」
「まさか、今までの話を全て伝える気ではないだろうな!」
「そのようなことはありません。先ほどの演説を聞きましたか?魔導王が今日来た目的はおそらく冒険者の引き抜きです。帝国から大勢の冒険者を引き抜き、魔導国で利用しようとしているのです」
「それは分かるが、それがどのように関係する?」
「ジルクニフ陛下から聞いたところによれば、魔導王には多くの配下がいます。であれば、その者達に探索をさせればよいというもの。それができない理由があるのです。うまくいけば、魔導国の利益を生むために我々と協力関係を築かせられるかもしれません」
「アンデッドと協力するなど、正気か?」
「国家として認めずとも、協力関係を構築できれば魔導王の矛が向くことを避けられるでしょう。そうすれば、ヤルダバオトに対する対策のみに集中できます。人類の脅威に各個対処していくにはこれ以上のプランはないのでは?」
神官はリリアの話を聞いた上で、それには賛同できない意思を伝えると、後日また会議の場を開いてほしいと言って護衛と火の神殿の神官長と共に部屋を出て行った。
「リリア殿。少々気が急いているのではないだろうか。魔導王も今であれば……」
「魔導王はおそらく単身でこちらに来ているのでしょう。お付きの者が見えない今こそ、対談できる唯一の機会。逃す手はありません」
ジルクニフは頭をかきながら、しばらく考え込むと仕方なく了承し、ニンブルに部屋を用意するように伝えた。
闘技場の内部にある貴族などを迎えるための豪華な接待室にはリリアと落ち着かない様子のジルクニフが共に魔導王を待っている。当初は一人で赴こうとしたものの、帝国内で外交問題に発展しようものなら巻き添えを食らうかもしれないと恐れ、ジルクニフが同席を申し出たのだ。護衛としてニンブルとバジウッドも背後で控えている。
部屋に入って少しすると、魔導王がエ・ランテルの冒険組合長アインザックと共に中へ入って来た。アインザックは部屋の中にいる面子を見ると、すぐに膝まづいて礼をするも、ジルクニフが立つように言う。
「アインザックには君たちと話すうえで調整役として来てもらった。アンデッドの私と君たちでは感覚が違うかもしれないからな」
「分かりました。早速なのですが、魔導王陛下にお尋ねしたいことがあります」
「あぁ、答えられる範囲であれば答えよう」
「陛下は何故わざわざ冒険者をお使いになって、世界の探索を行わせようとしているのでしょうか。優秀な配下が大勢いる陛下であれば、その者達に命じればいいのでは?」
「ふむ。私の配下の者は皆優秀だ。だが、コミニケーションをとるという点において少々問題を抱えていてな。アインザックにも話したのだが、未知の相手と出会った際に問題を起こす可能性がある。それは私の望むことではない」
「陛下の力であれば、強制的に従わせることもできるでしょう。何故なさらないのですか」
踏み込んだ質問にジルクニフがリリアの脇腹をつつくも、この質問を取り下げるわけにはいかない。もし、この質問が魔導王の怒りを買うようなものだったのなら、そこから導かれる結果は言うまでもない。
「武力で従わせていては敵を作りすぎてしまう。『飴と鞭』が重要だと私は考えているのだ」
「飴と鞭ですか?」
「あぁ、魔導国に武器を向けた者には武力で答え、魔導国の下にいる者たちには恩恵を与えるべきだろう」
リリアが続いて質問をしようとすると、ジルクニフが先に口を開いた。
「それは、つまり。ゴウン殿の下に降れば安全が保障されるということだろうか?」
「あぁ、私はこのアインズ・ウール・ゴウンの名のもとに保護した者には絶対の安全を保障しよう。もし手を出す者がいれば、容赦はしない」
「そ、それならば!帝国は、ゴウン殿、いや魔導王陛下に属国として認めていただきたい!帝国は魔導王陛下に絶対の忠誠を誓おう!」
突然の発言にリリアだけなく、四騎士の二人、それに魔導王も驚きを隠せていない。リリアでさえ、ジルクニフが何の意図をもってその発言をしたのか理解できていないのだ。
(俺に忠誠ってどういうことだ!?そもそも属国ってなんだ!?)
「ジルクニフ陛下!いったん落ち着かれた方が良いのではないでしょうか!」
「リ、リリア殿の言う通りだ。ジルクニフ殿。少し混乱しているようだな」
「いや、私はいたってまともだ!魔導王陛下!どうか、この提案を受け入れていただきたい!」
「そ、そのような重要な提案であれば、口頭ではなく書面で頂きたい!」
「書面でお渡しすれば認めると?」
「ジルクニフ殿が考える属国としての帝国の立場を記載した草案を送ってほしい!」
リリアはこれ以上、混乱しているジルクニフに話させるのは危険だと考え、背後に控える四騎士に合図し、ジルクニフを目にもとまらぬ速さで気絶させるとそのまま二人に連れて行かせる。
「魔導王陛下、失礼しました。ジルクニフ陛下はどうやらお疲れのようでしたので、お休みになっていただくことにしました」
「あ、あぁ。その方が良いだろう。ゴホン、それでリリア殿。まだ聞きたいことがあるようだったが」
「はい、魔導王陛下。陛下は何故そこまでして未知を探求しようと思われるのですか。何かお探しなのでしょうか」
リリアの質問に魔導王は少し考えこむと「友…だな…」とつぶやく。よく聞き取れなかったが、何かしら目的があることは明らかだ。
「私は未知を探求し、この世界のすべてを知りたいのだ。そして、もう一つの目的は私に武器を向けようとしている者達の調査も含まれている。私の配下の者達が安心して暮らせる世界を築きたいのだ」
「今の魔導王陛下に武器を向ける者がいるとは思えませんが……」
「いや、この世界にはいるのだ。私の配下に武器を向けた者がな」
そう話す魔導王からは怒りの感情が見ずとも感覚で感じ取れるほど溢れている。その威圧感にリリアでさえ思わず顔を下に向けてしまう。隣に座って居るアインザックが気の毒に思える。
「あぁ、すまなかった。つい感情的になってしまった。まとめると、私はこの世界の全てに公平と平和をもたらしたいのだ。それができるのはこの魔導王の下であることを世界に示し、人間も亜人もアンデッドも、種族関係なく平和に過ごせる世界をな」
「それは……。素晴らしいことだと思います」
「リリア殿からすれば皮肉に聞こえるだろう。聖王国は亜人と戦争を繰り広げているからな。だが、私の下であればそれらの問題でさえ解決して見せよう」
「魔導王陛下であれば……。確かにできると思います。しかし、陛下のおっしゃる理想を信じるためには情報が……。失礼しました」
「いや、構わない。口で言っても信じられないのは当然だろう。論より証拠と言う言葉もある。エ・ランテルの住民も私がアンデッドであることに未だ恐怖しているほどだ。だが、私の下にいる者に対しては何の罪もない者を虐げたりすることは決して無い。これは、モモンが証明してくれるだろう」
リリアがアインザックの方を見ると、アインザックも魔導王が言うことは正しいと静かに頷く。魔法でも裏をとれており、どうやら嘘をついていないことは確かなようだ。
「聖王国がアンデッドである陛下に対し、良くない印象を持っていることはご存じであると思います。しかし、武器を向けるつもりはないことをここで明言させてください。私の名の下に保障します」
「リリア殿の言うことは理解した。しかし、口約束と言う者は昔から破られるものだ。形にしてこそ意味がある思わないか」
「先ほどおっしゃられたように、文書の形で示していただきたいということですね」
「その通りだ。ただし、聖王国が持つ他種族に対する偏見と言う者は魔導国においては通用しない。それを十分に理解してほしいのだ。そうでなければ、いらぬ問題を引き起こすかもしれないからな」
魔導王の言葉にリリアは承諾の意を示すと、時間をとらせてしまったことに謝罪した。魔導王は「気にすることは無い」と言うと、アインザックと共に部屋を後にする。
(ジルクニフがとった行動は正しいのだろう。帝国だけは少なくとも救われる。聖王国もうまく立ち回ることができれば……)
リリアはすぐさまこの話を三人に共有するため、すぐさま聖王国へと帰還した。