聖王女の妹は信仰者【本編完結】   作:お稲荷猫

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模索③

 デミウルゴスはアインズへの報告を行うために、執務室へ続く廊下を歩いていた。アインズに直接会い、称賛の言葉を受けることは、守護者として最も望むべきことであり、興奮からか尻尾は横に元気よく振られている。

 扉をノックすると、一般メイドによって扉が開かれ、奥にはアインズとアルベドの姿があった。

 

 

「アインズ様。聖王国に対する計画を修正し終えましたので、その裁可をいただきたく……」

 

 

「デミウルゴスよ。その件なのだが……、まずはこれを見てくれ」

 

 

 デミウルゴスはアルベドから文書を受け取ると、その内容に驚愕する。

 

 

「帝国から送られてきた……。属国に関する提案書なのだが」

 

 

「まさか、これはアインズ様が自ら?」

 

 

 アインズは静かに頷くと、デミウルゴスは驚嘆の声を漏らし「なんと…」と言いながら感動に身を震わせている。

 

 

「アインズ様のお手を煩わせてしまうとは……。この罪、どうお詫びしたらよいか……」

 

 

「いや、それは私の行った計画のいわば副産物に過ぎない。お前が罪を感じることはない。それからなんだが……」

 

 

 話にくそうにしているアインズの様子を見たデミウルゴスは「アインズ様?」と声をかける。アルベドも同様に心配そうに顔を覗き込んでいる。

 

 

「あの女に会ってな。どうやら聖王国にも属国……とまではいかないが、そのような気運が高まっているらしいのだ」

 

 

「あの女というと……。リリア・ベサーレスのことですね。あの者からそのような話が?」

 

 

「そうなのだ。聖王国に対する計画は以前から修正案が送られていたからな。目を通していたのだが…」

 

 

「アインズ様が行われることに私が反対することはございません。計画は直ちに破棄致します。御身の成すがままに……」

 

 

(ここまで計画を準備させておいてこっちの都合で白紙にさせるなんて、デミウルゴスには申し訳なさすぎるよ。何とか落ち込ませないようにできないかなぁ……)

 

 

「デミウルゴスよ。その計画は本当に破棄してよいのか」

 

 

「……!アインズ様、まさか!ここまでお見通しだったのですか!」

 

 

 アインズは静かに頷く。まったく何も理解しておらず、リリアやジルクニフから受けた発言に驚きを隠せなかったとは口に出すわけがない。デミウルゴスをあくまで元気づけようとしただけだったのだが……。

 

 

「かしこまりました。この計画は破棄せず有効活用致します」

 

 

「そ、そうか。お前がそう判断したのであれば、私も支持しよう。頼りにしているぞ」

 

 

 デミウルゴスは「はっ!」という声を上げると、アインズに頭を下げた。

 

 

 

 

「認められません!アンデッドに屈するなど!」

 

 

 レメディオスの怒声が執務室に鳴り響く。案の定、リリアのもたらした報告はレメディオスの怒りをかった。ケラルトも口にはしていないが、決して良くは思っていない。

 

 

「アインザックの反応や魔導王の様子を見るに嘘をついているわけではなさそうだった。奴の庇護下に入ることができれば、安全が保障されるのは間違いない。帝国は庇護下に入ることで自分たちに矛が向くのを避けようとしているのだろう」

 

 

「とはいえ、アンデッドであることに違いはありません。いつまでその気が続くことやら……」

 

 

「しかし法国でさえ、魔導王には打つ手がないとしているのだ。それに、全体の意見としては魔導国には武力で対処しないという方向で決まった。私は帝国のように従属とまではいかずとも、聖王国に矛が向けられることは避けるべきだと思っている」

 

 

「そのために武器を捨て魔導国に敵意がないことを示せと?まだ攻められようともしていないのにですか!」

 

 

「攻められてからでは遅いのだ。王国のように何十万もの死者を出してから頭を下げるのか?王国の惨状を見てみろ」

 

 

 レメディオスは「ですが!」と声を上げながらソファーから立ち上がる。その勢いで机の上にあるカップが揺れ、中身がこぼれかける。

 カッツェ平野の大虐殺によって、王国には多くの孤児や未亡人が溢れる事態となり、それらの対処のため国内はヤルダバオトの件が落ち着きつつあったのにもかかわらず、再び大混乱となっている。カルカの命によって、再度支援が送られたものの被害の大きさからほぼ役に立つことは無いだろう。

 

 

「聖王国は王国や帝国のような大国でもなければ、法国や評議国のように魔導国に対し有効な方策をとれる国でもない。大陸の片隅にある小国だ。今までは私の力を示すことで周辺国と対等に渡り合えてきたが、魔導国はその範囲ではない。あの武力が向けられれば聖王国は数日と待たずに滅んでしまう」

 

 

 王国軍を壊滅させるような魔法を持っている魔導王が本気で聖王国に攻めてくれば、聖王国は対処の使用がない。いや、聖王国に限った話ではないだろう。どの国であっても対処できるわけがない。

 

 

「一応、保険として一国が魔導王か正当な理由もなく攻められた際には共同で対処する方針も決められている。万が一、帝国、聖王国、法国のどれかが攻撃を受ければ各国が戦力を出し、魔導国と一戦交えると」

 

 

「それは勝てる見込みがある上での話なのかしら」

 

 

「いいえ姉上。勝てる見込みはほとんどありません。しかし、人類が持つ戦力が揃えば奇跡が起きるかもしれませんから。後は評議国や王国と打ち合わせをするだけなのですが……」

 

 

「評議国も参加させるのですか!?」

 

 

「当然だろう。伝説とまで言われる白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)の力をも集めたうえで、ようやく互角かもしれないとまで判断していた。抜きでは語れない」

 

 

「アンデッドと戦うために亜人と手を組むなど……。認めたくはありませんが、仕方ないでしょう。姉様も納得してください」

 

 

 レメディオスは不服そうな顔をするも、ケラルトに宥められ仕方なく頷く。法国でさえ魔導国と敵対するのであれば評議国と手を結ぶ用意があるのだ。聖王国も多少は目をつぶらなければならない。

 

 

「ひとまず、話は理解できました。魔導国に対する方針は大臣達とも話し合って決めるけれど……。民はどう思うかしら……」

 

 

「いい反応は帰ってこないでしょう。王国軍の大虐殺は既に民にも知れ渡っています。聖王国の安全を保つためであれば納得する者もいるでしょうが」

 

 

 カルカとしては民の意に反する行為に及びたくはないというのが本音だ。大臣達も大半は反対するだろう。特に怖いのは南部の反応だ。魔導国に膝まづいたという印象を広められれば、統治に影響が出てくるのは間違いなかった。ケラルトもその点を大きな不安要素として考えている。

 

 

「魔導国との関係を良くすれば、それだけヤルダバオトとの戦いに備えることができます。緊急時にはモモンを呼び出す必要もありますから。魔導国と関係を良好に保っておくことはどちらにせよ避けられないことです」

 

 

「そうね……。ひとまず草案はまとめます。その後、大臣達に精査させたうえで、後日魔導国に使節団を送ることにしましょう」

 

 

 カルカはそう言い、ひとまず会議を終えたもののこの草案をまとめることは容易ではないことも十分理解していた。そしてその心配は案の定、現実のものとなった。

 

 

「魔導国に対し武器を捨てるなどありえません!相手はアンデッド!武器を捨てる様子を見たならば、それこそ容易に落とせると思われるに違いありません!」

 

 

「その通りだ!帝国は奴の罠にはまったも同然だ!今に魔導国から無理難題を押し付けられるに違いないぞ!」

 

 

「では大臣方は魔導国にどう対処すべきだと思われる。今まで通り黙ったまま見過ごすか、それともある程度友好的な関係を目指すか、武器をとるか」

 

 

「リリア様。そもそもの問題は貴方が魔導王と面会してしまったことでしょう。何の関係も持たずにいればこのような事には」

 

 

「あぁ、今は起きなかっただろう。だが、いつかは起きたかもしれないことだ。魔導国が王国や帝国を支配すれば次は聖王国や法国を目指すかもしれない。そうなったときに共に立っている人間はどれほどいるのだろうな」

 

 

 なぜリリアが帝国を訪れていたのか、その理由を大臣達は知らない。大臣達には対アインズ・ウール・ゴウンの大連合に関する情報は未だもたらされておらず、各国でも上層部の一部のみしか知らない極秘事項となっていた。万が一漏れることがあれば、魔導国の怒りを買い人類は滅亡へと向かうためだ。

 

 

「先ほどリリア様が説明したように、ヤルダバオトと対峙するためには漆黒のモモンの存在は不可欠です。モモンは現在、魔導王の下に降りますからな。我が国にとって無視できない問題であったのも事実でしょう」

 

 

「であればどうする。予定通り奴らに無抵抗な様子を見せ安心させるか?それとも金銭で囲い込むべきか?」

 

 

「アンデッドが金に目がくらむとは考えられないがな。女子供の命をよこせと言われた方がまだ現実味がある」

 

 

「そもそも、奴らが望むものとはなんだ?それが分からない以上、こちらから案を出したとしても受け入れられないのではないか?帝国は国家そのものを差し出したのだからな」

 

 

 アンデッドに対する忌避感や魔導国への反感から会議は思うような結果を出せずに、ただ無駄な議論を行うまま日々が過ぎていった。

 

 

 

「これではいつまでたっても魔導国に対する方針が固められないではないか!」

 

 

 リリアは自身の執務室でそう声を荒げながら机をたたく。二週間近く話し合われている内容は全く同じであり、三日前に聞いた話もあれば昨日聞いた話を今日も繰り返すという、まったく意味のない会議になっている。いや、大臣達からすればこうして時間稼ぎをすることで、魔導国を事実上黙認したいという思惑があるのだろう。

 

 

「リリア様、落ち着いてください!ひとまずお茶でも飲んで……」

 

 

「ネイア。お前はどう思っている。私は間違っていると思うか?聖王国の民を魔導国の手から守るために奴に誠意を示すのは間違ったことなのだろうか」

 

 

 突然問いただされてしまったネイアは答えに迷ってしまうも、自身が信じる者は何かを見定め口を開く。

 

 

「私はリリア様がこれまでになさってきたことには全て意味があったことを知っていますから。今回も決して無意味でなく、聖王国のためになると信じております」

 

 

 お世辞だったとしても、自身の意見に賛同してくれる者がいたことでリリアも安堵の表情を浮かべる。

 ここまでくれば、より政治的な面で頼りになる人物に意見を求めるしかないと考え、その晩、王都内のある屋敷へ赴いた。

 

 

「こんな夜遅くに来るなんて。おそらく魔導国に関する事だろう」

 

 

「兄様にはかないません。その通りです。議題を話し始めてもう二週間になろうというのに、大臣達はまともに話し合いを進めようともしません……」

 

 

 カスポンドは「だろうな」と言うと、自身で用意してきたお茶をリリアの前に差し出す。

 

 

「本来こうした場合は、カルカが何とかしなければならない。多少強引な手を使ってでも意見を形成しなければならないんだが……。あの子の性格はよく知っている。このような場面でも強気になることはできないだろう」

 

 

「兄様は何をおっしゃりたいのですか?」

 

 

「このような場面では強い指導者こそが必要とされるのだ。カルカではこの難局を乗り越えるのは難しいだろう。どうだ、リリア。お前が今だけ代わりの指導者として……」

 

 

「いくら兄様でもそれ以上話せば反逆罪で捕えますよ」

 

 

「冗談さ。あれほどの扱いを受け続けていれば、少なからずそうした思いを抱いているのではないかと危惧していたが……。大丈夫そうじゃないか」

 

 

「姉上がこの議題を進めたがっていないことでしょうか」

 

 

 カスポンドは静かに頷く。今魔導国に譲歩するような形をとったことが国民にバレれば、それまでの聖王女としてのイメージは崩れ統治に影響が出る。そのようにケラルトが助言したかは分からないが、カルカがこの議題を進めようとしていないのは事実だった。

 

 

「この難局を乗り切る案がないわけではない。一つだけある。ただし、一歩間違えれば聖王国は滅びるだろう」

 

 

「……。一応お聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

 

「聖王国を強制的に魔導国と会談せざるを得ない状況を作り出す。そうすれば嫌でも魔導国に対する方針を定めなければならなくなるからね。だが、その結果が吉と出るか凶と出るかは分からない」

 

 

 カスポンドはそう言うと、計画の詳細を記した紙をリリアへと手渡した。

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