聖王女の妹は信仰者【本編完結】   作:お稲荷猫

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進展③

メイドによってそれなりに良い宿へと案内された聖王国の一行だったが、すぐに問題が発生した。

 

 

「ネイア・バラハ!貴様どういうつもりだ!貴様のせいでリリア様がお一人で魔導王の下に囚われてしまったではないか!」

 

 

「こっちのセリフです!リリア様があ・れ・だ・け気を付けるようにおっしゃられていたのに!どうして!あの場で!思ったことを話しちゃうんですか!せめてエ・ランテルを出るまで……、いや、墓場まで持って行ってください!」

 

 

 レメディオスとネイアが先の一件で胸倉を掴んでの喧嘩となっていた。グスターボやそのほかの聖騎士が必死に二人を止めようとするも、勢いが収まる様子はない。

 

 

「団長!落ち着いてください!ネイアもだ!今ここで仲間割れをしても何も良いことはないでしょう!」

 

 

「だが!こいつの余計な一言でリリア様が!無理を言ってでもおそばについて行くべきだった……今頃何をされているか……!」

 

 

「団長の余計な一言で魔導国と戦争になるところだったんですよ!副団長!こんなことでは聖王国がいくつあっても足りません!今日だけでもう一つ滅びました!」

 

 

「団長!少なくとも今回は団長に非があります!ネイアはその失態をカバーし、少なくとも魔導国との会談は続けることができました!団長はもう少し反省を……!」

 

 

「奴らの言い分をそのまま聞いていろと言うのか!すべては聖王国に非があると!何の証拠も無しに決めつけてくる相手に穏やかになどいられるか!あの醜悪な姿を見てみろ!すべてを物語っているではないか!」

 

 

「リリア様はおっしゃられましたよね!相手の策略だろうとなかろうと、魔導国が納得する形で収めると!どうしてそこまで馬鹿なんですかぁ!」

 

 

「貴様!また、また言ったな!馬鹿だと!一度ならず二度までも!」

 

 

「団長が馬鹿……。素直なのは今に始まったことではありませんが、今日の一件は命取りになるところだったんですよ!ネイアも流石に上官に対し言いすぎだ!リリア様付きの副官とはいえ聖騎士団所属なのだからもう少し言葉を……」

 

 

「あぁ……。ケラルト様とレメディオス団長が合体して一人になれば完璧な団長が……」

 

 

 グスターボの話を聞かずにネイアはどこか上の空と言った様子だ。もはや誰にも収拾できなくなってしまい、グスターボはキリキリと痛む腹を抑えながらリリアが早く帰ってくることを祈った。

 

 

 その頃、アインズとリリアは二人で領主館の中にある一室にいた。メイドが手際よくお茶を用意すると、アインズの指示通りすぐに部屋の外へと出る。

 

 

「リリア殿。まずは私が部下を御しきれなかったことを謝罪させてほしい」

 

 

「いえ、陛下。私の部下が先に問題となることをしたのは明らかです。陛下が謝られることでは……」

 

 

「いや、事前に指示を出しておいたのだ。聖王国の者はアンデッドに対し良い印象を持っていないことを考慮し、相手が多少無礼な行為をとったしても見逃す様にと。だが、止めることができなかったのだ」

 

 

 魔導王が細かい所まで気を配りリリア達を出迎えようとしていたことに驚きつつ、意外な一面を見ることができたことで魔導王に対する印象が変わったような気がした。

 

 

「陛下。今回の一件は謝罪と説明に伺っただけではありません。以前お話しした聖王国が魔導国に対し武力を行使することを否定する旨を記した文書をお持ちしました」

 

 

 リリアはそう言うと、胸元から筒を取り出し魔導王へと手渡す。魔導王はすぐに筒から文書を取り出すと目を通し始める。

 

 

(まぁ、一般的な戦いの後の不可侵の取り決めみたいなものか。ギルド間戦争の場合は期限が指定されていたけど……)

 

 

「リリア殿。この文書には期限が記されていないが、無期限にこれは適用されるという解釈でいいだろうか」

 

 

「私としてはこの文書が破られない限りは有効であると判断しています」

 

 

 魔導王は「そうか」と言うと、文書を筒へとしまい机の上に置く。

 

 

「聖王国の意思は確かに受け取った。だが、私はもう一歩踏み込んだ話をしたいと思っているのだ」

 

 

「と申されますと?陛下は何をお望みですか?」

 

 

「私はアンデッドだ。それ故に民から恐れられている。少なくとも悪法を布いたり残虐な行為を行ったりしてはいないはずだが、恐怖心を薄れさせることにはつながっていない」

 

 

 街の様子を見ても、魔導王の言うことはその通りなのだろうと判断し、静かにうなずく。

 

 

「英雄モモンが私と民の間にいることで何とか統治を行えているようなものだ。だが、これらの問題をいち早く解決する方法がある」

 

 

(と言ってもデミウルゴスの計画によるものなんだけど……)

 

 

「それは……。なんでしょうか?」

 

 

「王国も聖王国と同じように四大神を崇めている。聖王国の神殿は四大神を崇めるまさに総本山のような役割だ。その神殿が私を善良だと認めれば、民の混乱も少しずつだが収まっていくだろう」

 

 

「宗教を利用して統治をおこなうと?」

 

 

「神と言うのは人間の最後の拠り所なのだろう?であれば、彼らの拠り所たる神殿が私を認めれば彼らも安心するに違いない」

 

 

 アンデッドが神を頼み綱にしようとしている光景を想像すると滑稽に思えてしまうも、目の前にいる魔導王は決して何の考えもなくそのような事を行おうとしているわけではない。少なくとも、自身の支配する地域に住む人間と関係を良くするためであれば、そのような手段をも講じようとしているのだ。

 

 

「神殿との協議となると私の管理できる範囲を超えてしまいます。彼らも簡単に陛下を認めようとはしないでしょう。何かしら益となるものがなければ、彼らを誘導するにも問題が……」

 

 

「今、聖王国が抱えている大きな問題は『ヤルダバオト』への対処なのではないか?私の魔法であれば、奴を殺すこともできるぞ。聖王国が襲われた際には協力しよう」

 

 

「しかし陛下のお手を煩わせるわけには……。それに漆黒のモモンがいればヤルダバオトを撃退することも……」

 

 

「モモンではヤルダバオトを殺すことまではできないだろう。撃退することはできるだろうがな。だが、それは奴に更なる猶予を与え、人類の滅びを先延ばしにするだけではないのかな?」

 

 

 魔導王が妙にヤルダバオトの件について話を進めてくるため、リリアは不信感を持つ。どうしてそこまでヤルダバオトに興味を持っているのか。なぜ、奴を殺すことができると断言できるのか。

 

 

「陛下は随分、ヤルダバオトについて詳しいようですが……。どうしてそこまで?」

 

 

「私も奴には因縁があってな。以前、リリア殿もお会いしたメイドの事は覚えているだろうか?」

 

 

「確か……。ルプスレギナとユリと言う者達でしょうか」

 

 

「そうだ。あのような特別なメイドは五人いるのだが、奴は私のメイド達を洗脳し、自身の支配下に置いている。私は奴を倒しメイド達を取り戻したいのだ。配下の者に危害を加えた者に容赦はしないのは知っているだろう」

 

 

 ヤルダバオトは魔導王が手にしていたメイドを支配する能力も持っていることに驚きを隠せない。そのような支配の能力があるのだとすれば、他にも犠牲者が出る恐れがあるからだ。

 

 

「それは魔法によるものなのでしょうか。詳しく教えていただいても?」

 

 

「おそらく魔法だろう。だが、あのような強力な支配の魔法は大勢にかけられるものではない。奴は既に他の悪魔も支配しているからな。おそらく、これ以上支配の魔法をかけることはできないだろう」

 

 

 リリアは魔導王の言葉に安心すると、本題へと話を戻す。魔導王の正当性を神殿が保障する代わりに、魔導王は自身の武力を対ヤルダバオトにおいて使用しても構わないということだ。加えて魔導王は奴を殺す手段を持っている。だが……。

 

 

「陛下をお招きするのは難しいでしょう。アンデッドの軍勢となると聖王国の者達が不安に陥ります。それに……」

 

 

「そのまま侵攻されれば、聖王国は滅亡すると言いたいのだろう」

 

 

「聡明な陛下の事ですから、そのような事はないと思いますが……。そのような不安がある以上、すぐに受け入れることは……」

 

 

「ならば、私一人でもいいだろう。戦争の際には決められた指揮の下に入るという誓約書を書いてもいい。これならばどうだ?」

 

 

 ここまで魔導王が食いついてくるとは思っておらず、これ以上断り続けることも無礼に当たると考え、ひとまず了承の意を示すも、一度身内と話し合ってからその件についてはまとめたい旨を伝える。

 

 

「そうだな。このような案件は良く話し合うべきだろう。今日の所は一先ず、宿で休まれると良い」

 

 

 魔導王はそう言うと、どこからか取り出したベルを鳴らす。部屋の中に先ほどのメイドが入ってくると、リリアを宿まで案内するように言い渡す。リリアは一礼して別れの挨拶をすると、メイドに続いて領主館を後にした。

 

 

 

「皆、今戻ったぞ……。これはどういう状況だ?」

 

 

 宿に到着し、他の聖騎士達は大部屋にいることを伝えられたリリアはすぐに向かうも、部屋の中ではレメディオスとネイアが言い争っており、グスターボは椅子に座って頭を抱えていた。

 部屋にリリアがやってきたことで、周囲の聖騎士は神が降臨したかの如く、リリアに向かって祈りを捧げ帰還を喜ぶ。レメディオスやネイアもすぐに互いから手を離し、何事もなかったかのように取り繕う。

 

 

「グスターボ。簡潔にまとめろ。何があったか 」

 

 

「レメディオス団長とネイアが先の一件をめぐり、互いを罵倒しあっていました」

 

 

「よろしい。二人を残し、その他の聖騎士は自室で休むように。グスターボは後で部屋に来い、治癒魔法をかけてやる」

 

 

 グスターボや他の聖騎士達は一礼すると、部屋から出て行った。リリアは二人を目のまえへと呼び出すと、そのまま二人の頭に向けて拳を振り下ろす。強烈な一撃を食らったことで二人は頭を抱え、ネイアは思わず涙目になってしまう。

 

 

「二人は私の心臓を止めたいのか?あのような場であのような行為に及ぶとは。私の心臓が三つあって良かったな」

 

 

「しかし、リリア様!」

 

 

「しかしもなにもない!レメディオス!私は何度も言ったはずだぞ!どれだけ思ったことがあったとしても口には出すなと!ネイアもあの場はそのまま引き下がる場面だ!魔導王陛下が寛大な心をお持ちでなかったら今頃全員の首から上はなくなっていただろうな!」

 

 

「しかし!あの場で帰るとなっては、魔導王陛下の口ぶりからしても聖王国に……」

 

 

「あれは陛下のお気持ちからの言葉だ。あのような状況では落ち着いて話もできないから、後日場を改めようという意味だった。例えそうでなかったとしても、明日私からもう一度謁見を願い出るつもりだったのだ」

 

 

 二人はリリアの言葉を聞くと、そのまま頭を下げ落ち込んだ様子を見せる。これ以上叱らずとも、今回の一件は相当心に来たはずだろうと考え、一度溜息を吐いて気持ちを落ち着ける。

 

 

「二人が聖王国を滅ぼそうと思ってそのような発言をしたわけではないことは分かっている。だが、今回の一件は危機的な状況につながる恐れがあった。これは姉上にも報告するが、処罰は私の方で行ったとしておく。分かれば下がれ」

 

 

 二人はリリアに騎士の礼をとると、部屋を出て行った。これまでも同様の行為が行われたことはあったが、今回ほど危険な要素を含んでいなかったこともあり、そこまで叱ることは無かった。そのツケが回ってきたということだろう。そう考えていると、グスターボが部屋の中へとやって来た。

 

 

「お話が終わったようでしたので、失礼致します」

 

 

「あぁ……。今すぐに治癒魔法が必要だったか?ならば……」

 

 

「いえ、リリア様に一つ申し上げたいことが……。ネイアはともかく、団長には少しお優しすぎるのではないでしょうか。幼い頃からの親友であることは重々承知していますが、団長の性格を少しでも正さなければ……」

 

 

「分かっている。グスターボまで言うな。分かってはいるのだが……」

 

 

 グスターボは「失礼しました」と言うと、頭を下げ部屋を出て行こうとする。リリアはそれを引き留め、治癒魔法をかける。部屋を出ていく際にもずっと顔色が悪かったため、流石にこのまま返すわけにもいかないと思ったからだ。

 グスターボが去った部屋の中で、リリアはただ一人大きなため息を吐いた。

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