これまでとは違い、レメディオスとリリアが死の騎士に対し攻撃を仕掛ける。前衛へのヘイトを高めることで後衛に対する攻撃を防ぐためだ。
「魔法二重化、雷撃!」
リリアが魔法を唱えると火球を出した時と同じように剣先から二本の電撃が放たれ、死の騎士に直撃する。死の騎士は攻撃をしてきたリリアに向かって武器を構えた。
「流水加速!」
レメディオスは武技によって自身を強化し、その一瞬の隙をついて死の騎士の懐へと入り込む。
「お返しだ!」
レメディオスが勢いをつけ死の騎士の膝に当たる部分を斬りつける。攻撃を受けた死の騎士は雄たけびを上げながら片膝をつき、その機会を逃すまいと今度はリリアが膝をついた死の騎士の頭へと強烈な一撃を加える。リリアの攻撃を受けた死の騎士は被っていた兜がはじけ飛ぶ。
「魔法最強化、聖なる光線!」
カルカとケラルトも最大限に威力を高めた魔法を放つ。
連続で攻撃を受けた死の騎士は周りにいるリリアやレメディオスを追い払うように剣を振り回すが、その剣の勢いは最初に比べれば確実に落ちていた。
(明らかに勢いが落ちた!ダメージが入っている!これなら……!)
その場の全員が同じことを考えていた。
だが、死の騎士が膝をついたまま剣を地面に突き刺し雄たけびを上げると、剣から禍々しい瘴気が放たれる。
「ッ!!レメディオス!こっちだ!護の聖域!」
リリアは後衛の下へと駆け付けると、すぐに範囲防御魔法を発動し全員を瘴気から保護する。死の騎士が放った瘴気にどのような効果があるかは未知数であったからだ。
瘴気はすぐにあたり一帯に広がり、死に絶えた聖騎士達の死体を囲った。すると、死んでいたはずの聖騎士が一人また一人と動き出した。
「こ、これは!?」
「死の騎士に殺された者は、やつの従者としての動死体になってしまう。従者の動死体に殺された者も同様に動死体になる」
レメディオスの問に対するリリアの説明に三人は顔をしかめる。先ほどまで人間であり仲間だった聖騎士をその手で倒さなければならないからだ。
(動死体に変化したものは十数人……。やるしかない)
「死の騎士が使役できる従者の動死体には限りがある!ここにいる者たちを倒しきれれば勝機はまだある!彼らを葬って上げることが最大の救いだ!」
リリアが狼狽える三人に向かって声を上げる。リリア自身も決して狼狽えてないわけではない。しかし、重大な局面での迷いは死に繋がると十分に理解していた。
三人も覚悟を決め、各々の武器を構える。
「レメディオス。ケラルト。姉様を守りながら周囲の動死体を倒すんだ。姉様は二人の援護を」
「リリアは?まさか……一人で……」
カルカがリリアを見ながら震える声で問いただす。
「私が死の騎士のヘイトを集めます。そうしなければ、隙をつかれて壊滅です」
「リリア様、それは危険です!私が!」
レメディオスがリリアの作戦に異を唱える。ケラルトも同意見のようだ。弱まっているとはいえ依然として力がまだ残っており、一人で相手をするにはリスクが高いといえる。
「危険だが、これしか方法はない。この中では私が一番適任のはずだ」
(ヘイトを集める技などがあればよかったのだが……)
レメディオスは剣の才はリリアにも引けを取らないが、近接職であるがゆえに一度相手から離れることがあればヘイトが外れてしまう恐れがある。ケラルトは近接職ではなく神官職であるため、メイスを持っているがあくまで護身としての意味が強い、当然無理だ。カルカは護衛対象であり、ヘイト役にするなどもってのほかだ。その点、剣と魔法の双方を修めているリリアは常に攻撃を仕掛けることができ、ヘイト役としては適任であるともいえる。
「できるだけ早く合流してくれ、何時まで持たせられるかは分からない」
リリアはそう言いながら、展開している範囲防御魔法を解除し、戦いに備えできるだけの強化を行う。
「能力向上!下級筋力増大!下級敏捷力増大!負属性防御!」
リリアはすべての強化手段をかけ終えると、「任せた!」とだけ言いながら、死の騎士に向かって飛び出す。
「リリア様!くっ!」
レメディオスがリリアを追いかけようとするとそれを邪魔するように聖騎士の動死体が目の前へと現れる。
「カルカ様、くれぐれもここを動かないでください。御身を最優先に」
「いいえケラルト。私の妹が戦うというのに自分を優先するなどできません。魔法持続時間延長化、善の波動!」
カルカが魔法を唱えると周囲に善の波動が放たれる。悪の属性を持つ存在に対してのみ効果がある第四位階魔法であり、動死体や死の騎士はその存在が悪に傾いているため動きが鈍くなる。
「すまないっ!」
レメディオスは聖騎士の動死体に斬りかかる。従者の動死体になった彼らは死の騎士の半分程度のレベルであるため、レメディオスにとっては問題となりうる敵ではないが、ケラルトは近接攻撃が得意というわけではないため若干苦戦するも、メイスで確実に動死体の頭を砕く。カルカも天使を使い少しでも数を早く減らそうと慈悲の一撃を下す。
一方で、リリアは苦戦を強いられていた。一対一の戦闘であるため死の騎士の隙をついて近づき有効打を与えることが難しく、大きく振りかぶった攻撃をしてきた際に後退し、その都度魔法を放っている。聖王国の聖騎士は聖撃という武技を全員が習得しており、ほぼ無意識の下で使用している。そのため、死の騎士に対しては近接攻撃の方が聖属性のダメージが追加され効果的なのだ。しかし、有効打を与えられなかったとしても、ヘイトをとるという当初の目的は達成している。
(この振りかぶる攻撃の後に再度下がって魔法を!)
死の騎士が剣を振り下ろし地面へと突き刺さる。リリアは今までと同じように数歩下がり魔法を放とうとしたが、死の騎士は突き刺さった剣を勢いよく斬り上げ、地面をえぐりながら土を飛ばす。
「なっ!」
死の騎士の攻撃パターンを理解しつつあったリリアであったが、不意を突かれた形になり姿勢を崩したため回避が遅れ、視界が一瞬遮られる。すぐに飛んできた土を払いのけたが、死の騎士は攻撃を開始しており、その剣はすでにリリアの横に迫りつつあった。
「ッ!重要塞!」
回避できない以上、敵の攻撃を受けざる負えず、リリアはすぐに防御の武技を発動し剣で受け止めようとする。しかし、姿勢を崩していたため最適な形で攻撃を受け止めることができず、吹き飛ばされ地面を転がる。
「リリア!」
その様子を見ていたカルカが悲痛な叫びを上げ、リリアを掩護しようとすぐに天使を死の騎士に向かって送りだす。レメディオスとケラルトも「リリア様!」と叫ぶ。
「ごほっ…、ごほっ…」
リリアの口から血が吐き出される。痛みをこらえながらすぐに自身に治癒魔法をかけるも、中傷治癒によって治療できる限度を超えていたのか、体の痛みは治まらない。死の騎士の攻撃をまともに食らってしまったことで、大きな怪我を負っているのは明らかだ。
(……起きなきゃ……)
剣を地面に突き刺しそれを支えとして無理やり体を起こす。
倒れている際にカルカが天使を用いて死の騎士のヘイトを集め、リリアに近づけさせないようにしていた。レメディオスやケラルトも周囲の動死体を倒し終え、レメディオスがリリアの代わりとなり、ケラルトがこちらに向かって走ってくる姿が見えた。
「リリア様!血が!」
「大丈夫…。問題ない…」
言葉ではそう返したが、魔法の連続使用による魔力の欠乏や武技である流水加速の常時使用による副作用、そして重度の怪我と決して無理ができる状態ではない。ケラルトもその様子を見てすぐに治癒魔法をかけるが、やはり中傷治癒で回復する感覚はない。
「治癒はいい…。私の体を支えてくれ…」
リリアがそういうとケラルトは「ですが…」と一瞬ためらったものの、すぐに手を貸しリリアの体を支える。
(こうなった以上、早急に片を付けないと……)
いち早く戦闘を終わらせ治療をしなければ死ぬ。そう確信したリリアは己の限界で打てる魔法を唱え始め、指先を死の騎士に向かって構える。
「レメディオス!下がれ!魔法上昇…、龍雷!!」
一拍の間を置いた後、第五位階魔法である龍雷が放たれる。死の騎士に直撃すると悲鳴にも近い叫びを上げ、そのまま倒れこんだ。しかし、先ほどの魔法を食らってまだ動こうとしている。
「これで終わりだぁぁあ!」
レメディオスが飛び上がり落下する勢いのまま剣を死の騎士の頭に向かって突き刺す。カルカの天使も倒れている死の騎士に対し一撃を加える。
死の騎士は雄たけびを上げると体内の瘴気を発散させて動かなくなり、脚から灰となって消えていった。
(何とか…勝てたか…)
戦闘が終わり力が抜けたリリアはそのままその場に座り込む。ケラルトが「大丈夫ですか!」と心配そうに声をかけるが、リリアはそれに手を挙げて答えた。その様子を見たカルカとレメディオスがリリアの下へと駆け寄ろうとした。
その時、カルカの悲鳴がリリアの耳に入る。
リリアがすぐにカルカの方を見ると、死の騎士が最後の抵抗で動死体にしたと思われる聖騎士が倒れこんだカルカに向かって剣を振り下ろそうとしている。ケラルトとレメディオスがすぐに動くが剣を振り下ろすのをやめさせるには距離が足らず、リリアが残された魔力を使って魔法を撃とうとするも視点が定まらない。
(姉様……!)
「次元の移動!」
リリアは即座に転移魔法を発動し、カルカと動死体の間に割って入る。その瞬間、カルカの悲痛な叫びや、レメディオスやケラルトが叫ぶ声も何も聞こえず、時がゆっくり流れるような感覚に襲われる。
そして、リリアが最後に見たのは自身に振り下ろされたまばゆい光を放つ剣身だった。