聖王女の妹は信仰者【本編完結】   作:お稲荷猫

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襲来②

 ヤルダバオトは拡声の魔法を使い、声が城塞線にいる全ての兵士に聞こえるように話す。

 兵士達は動揺を隠せず混乱しかけたが、リリアがすぐに神の御旗の下に(アンダー・ディヴァイン・フラグ)を使用し、落ち着きを取り戻させる。そして、将軍が手に持つ拡声の魔道具を借りる。

 

 

『ヤルダバオト!貴様の目的は何だ!何故聖王国を狙う!』

 

 

『おや、これはこれは。お久しぶりというべきでしょうか』

 

 

 ヤルダバオトは手慣れた様子で貴族の礼をとって見せる。

 

 

『私の目的ですか……。先ほども言ったでしょう。この国を地獄に変えるためにやって来たと!聖王国の王家に伝わる王冠、あれは私達悪魔にとって最も忌むべき物!であれば、障害となるものは先に対処するべきでしょう。王国の一件で傷を負った私はそう考えたのです!王冠を明け渡し、私の下にひれ伏すのであれば、無駄な血を流さずにすむのですがね』

 

 

 聖王国の王家に伝わる王冠、それは大儀式魔法最終聖戦(ラスト・ホーリーウォー)の収束具となる王冠を指している。ヤルダバオトの様な悪魔にとって、あの王冠は奴らの弱点となりうる物のようだ。

 

 

『貴様がここから先に進むことはできない!ここから先は聖王女様が統治する我らが祖国!我らの聖なる領土だ!貴様らの様な邪悪な存在が踏む入れる余地はない!』

 

 

 リリアは宣言をすると同時に、武技や魔法で可能な限りの強化をかけ始める。前回のように様子見をする必要はない。最初から全力で挑むべく、『信仰解放』も発動し自身の持てる全ての力を発揮できる状態になる。

 

 

『そうですか……。それは残念です。多少の血を流すだけで済むはずであったのですが。では、早速始めるとしましょう!貴方方は自ら滅びの道を選択したのですから!』

 

 

 ヤルダバオトが何かの準備を始めようとしたのを見ると、城壁の影で息をひそめていたパベルが手に持つ魔法の弓から魔法の矢を放つ。それぞれの属性が付与された矢は属性に応じた色の軌跡を残しながら、一本も外れることなくヤルダバオトの体に突き刺さる。パベルの弓の腕を知っているリリアだが、この一撃でヤルダバオトが倒れるはずがないことも理解していた。

 予想通り、ヤルダバオトはパベルの矢を受けながらも、微動だにしていない。体を貫くはずだった矢は手前の地面に落ち、スーツに着いた汚れを払うような、余裕そうな態度を見せる。

 

 

「ふむ。この程度ですか。やはりあの者以外は問題となる者はいなそうですね。では、こちらも最初の手を打たせてもらいましょう。第十位階魔法。隕石落下(メテオフォール)

 

 

 ヤルダバオトの周りに巨大な魔法陣が展開されたかと思うと、リリア達の頭上から熱せられた巨大な岩のような何かが降ってくる。この一撃をくらえば、間違いなくこの場にいる全ての者が要塞と共に消滅してしまうだろう。

 

 

魔法三重位階上昇効果範囲拡大化(トリプレットブーステッドワイデンマジック)!|絶対なる護の聖域《パーフェクト・サンクチュアリ・オブ・プロテクション》」

 

 

 自身が発動できる最大級の防御魔法を更に強化し三重に発動すると、空から降ってくる魔法と要塞の間に白い光を放つ巨大な盾が現れる。ヤルダバオトが放った攻撃魔法とリリアの放った防御魔法がぶつかると、目を開けられぬほどの光が発生し、兵士達や亜人達は咄嗟に目を背けるも、リリアとヤルダバオトのみがその行く末を見守る。

 最初の盾は一撃を受け止めると同時に消滅し、二枚目の盾もしばらくは耐えたが、消滅した。

 

 

(これが最後の盾……!これが破られれば……!)

 

 

 リリアは自身が持つ信仰力をありったけつぎ込み、この盾を更に強化する。発動によって既に多くの魔力と信仰力を消費しており、もはやこれ以上強化することはできない。

 最後の盾はヤルダバオトの攻撃を受け止めると、押し返しながら上空に浮かんでいき、岩の様な何かが破裂すると同時に盾も役目を終えたように消滅した。

 

 

 

「まさか完全に防がれるとは思いませんでしたが……」

 

 

「デミウルゴス。デスクワークばかりで腕が鈍ったのではありんすえ?」

 

 

 攻撃の間に森の中へと身を隠したデミウルゴスに、待機していたシャルティアが話しかける。デミウルゴスは「まさか」と言いながら、眼鏡をいじる。

 

 

「既に想定していたことです。それよりも、そちらも頼みますよ。指示されたことは忘れていませんね」

 

 

「もちろんでありんす。召喚した魔獣達の数が減り次第、再召喚して攻撃を続けるでありんしょ。でも、こんな弱い魔獣ばかりで構わないのでありんすか?」

 

 

「シャルティア。私達から見れば雑魚だろうが、人間からすればそれなりに苦労するのだよ。あいにく私の配下には召喚術を使える者が少なくてね、本当に助かるよ。アインズ様にも頑張っていたとお伝えするさ」

 

 

 シャルティアは嬉しそうな様子を見せると、すぐに自身の配下の下へと戻り、改めて指示を確認する。亜人の攻撃と共に召喚した魔物達を攻めさせ、亜人がひくと同時に撤退させるようにと。

 

 

 

 ヤルダバオトの攻撃を防ぎ切ったリリアは力なくその場に座り込んでしまう。スキルも一度解除しなければならないほどの力を出し切ってしまったためだ。

 ヤルダバオトはやはり力を隠し持っていた。あのような魔法を撃てるのであれば、出会ったときに最初から使っていたはずであり、王国でも同じような攻撃をしていたはずだと。

 

 

「リリア様!大丈夫ですか!衛生兵!神官!」

 

 

「将軍……大丈夫だ……。ヤルダバオトは……」

 

 

「申し訳ありません。奴の姿は目を開けた時には既に……」

 

 

 今、ヤルダバオトに攻撃されればひとたまりもない。リリアは剣を杖代わりにしながら立ち上がり、用意していたポーションを全て飲み干す。何もしないよりはマシだと言わんばかりに。

 

 

『私の最強の一撃を防ぐとは思いませんでしたが、良い物を見させてもらいました。これはそのお礼です。どうぞ受け取ってください」

 

 

 どこからともなくヤルダバオトの声が聞こえてくると、それを合図に今まで動いていなかったヤルダバオトの軍勢が一斉に要塞へ向けて攻撃を開始した。いつもであれば先頭を魔法で殲滅できるものの、今の魔力と信仰力ではそうした魔法を放つことも難しい。

 

 

「カタパルト部隊!一撃目を四百五十に設定!指示によって一斉投射!魔法詠唱者(マジック・キャスター)は敵の先頭が射程に入り次第、範囲攻撃魔法で敵を制圧しろ!」

 

 

 将軍の指示を聞いた兵士は投射準備を整えたカタパルトに擲弾を乗せ、距離の最終調整を行う。そして、部隊長の合図と共に導火線に一斉に火をつける。

 敵の大軍は怒涛の勢いで迫ってくると、途中に設置されていた木の棒を踏みつぶしさらに前進を試みる。

 

 

「カタパルト撃てぇ!」

 

 

「発射ぁ!」

 

 

 城塞線の内部に設置されたカタパルトが一斉に動き始め、発射された擲弾は木の棒があった付近に残る亜人達に容赦なく降り注ぐ。擲弾が直撃した亜人はそのまま押しつぶされ、導火線の火が内部に達すると同時に大きな爆発が発生する。だが、そのような攻撃もものともせずに大軍は迫りくる。

 

 

「二撃目は油壺を装填しろ!距離は三百に設定!以降は指示を待たずに自由射撃だ!」

 

 

 もはや一々距離を設定する指示や発射の合図を下す暇もない。敵の進軍速度は予想以上であり、こうなればもはや投射する数が物を言う世界だ。

 

 

「将軍。全体の指揮は任せる。私は城門を超えようとする敵を相手する!」

 

 

「リリア様!お待ちを……」

 

 

 将軍が制止する前にリリアは指揮所から飛び降り、城壁で敵を迎え撃とうとする兵士達の下へ行く。この場にいる多くは正規兵である軍士ではないため、もし壁を越えられようものなら、後は時間の問題だ。

 

 

「リリア様!何をしにいらしたのですか!」

 

 

「指揮を執ることなら私以外でもできる。だが、あのような悪魔達を相手するには聖騎士や軍士が必要だ。今は数が少ない以上、私も戦う」

 

 

「……。分かりました。こちらは私とオルランドで守ります。リリア様は要塞より右をお願いできますか」

 

 

 リリアは頷くとすぐに防御が薄い方面へと走り出した。そうしている間にも大軍は徐々に城塞線へと距離を詰めてくる。要塞に駐屯している五人の魔法詠唱者(マジック・キャスター)も自分たちの使える魔法を敵に向かって放ち始めた。

 

 

「弓兵!目標、敵の先頭集団!任意の目標を狙え!自由射撃!」

 

 

 城塞線から一斉に矢が放たれ、亜人や魔物達に容赦なく降り注ぐ。先頭を走っていた亜人の群れはこの攻撃でほとんど一掃することができたが、魔獣や悪魔にはそもそも矢が通らない敵もいるため、大したダメージを与えられていない。

 

 

「神官達よ!負傷者が出始めるまでは壁を越えてこようとする敵に対し天使で対処しろ!兵士を掩護するのだ!」

 

 

 城塞の下で待機していた神官達はリリアの指示を聞くと、すぐに天使を召喚し、敵の攻撃に備え始める。弓兵やカタパルト、魔法によって攻撃が続けられるも敵は更に距離を詰め、遂に敵の梯子が到達した。

 梯子が壁へとかけられると、亜人達はすぐに上がり始める。上がってくる亜人達を攻撃しようとした兵士は、下で待ち構えている悪魔や魔獣の攻撃をくらい、そのまま息絶えていった。弓兵にも空から飛来した悪魔が攻撃を開始し、少なくない負傷者が出始める。

 

 

「壁から顔を出すな!上がって来た亜人を追い落とすだけでいい!梯子を押し返すんだ!弓兵は飛んでくる悪魔に警戒しろ!」

 

 

 リリアはそう言いながら、弓兵の上を飛び回る悪魔に向かって斬撃を飛ばし、一網打尽にする。魔法は使えずとも、まだこの剣と武技を使えるだけの余裕はある。

 兵士達はリリアの指示の下、梯子を押し返そうとするも、亜人達は梯子をしっかりと抑えていることに加え、奴らが上がってきているため、相当な重さになっており人の手では押し返すことは難しい。その作業をしていた兵士の梯子から亜人が姿を現すと、剣を振り下ろそうとする。

 兵士は目を閉じ死を覚悟したが、リリアがすぐに援護に入り、亜人の首を斬り落とす。

 

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

「梯子を押し返すのは諦めていい!矢が尽きた兵士は剣に持ち替えて前衛に加われ!負傷者は後方に移動!」

 

 

 もはや指示を聞いている余裕すらない者がほとんどだ。目の前に現れる亜人や魔物を相手に必死に抵抗し続ける。だが、城壁を超えてくる敵の数は時間を追うごとに増えていく。

 

 

(だが、敵の勢いは衰えつつある……。ここで一手を打たなければ……!)

 

 

 リリアは残る魔力を自身の防御魔法に費やすと、壁の上に立ち、目下に広がる敵の群れに目掛けて飛び込んだ。

 兵士達は驚きのあまり声を上げるも、壁の下に降りて行ったリリアの姿を見ると、動きを止めてしまう。しかし、リリアが落ちると同時に梯子が全て下に倒れていき、亜人達の悲鳴が聞こえ始める。

 兵士がおそるおそる壁の下を覗き込むと、リリアの剣によって殺された敵の群れが目に入った。

 

 

「超斬撃!」

 

 

 聖剣フラガラッハを勢い水平に振り切ると、そこから発生した斬撃によって亜人達は瞬時に上下で真っ二つになり、悪魔や魔獣も消滅する。勢いが止まったのを見ると直ぐに距離を詰め敵中に向かって斬りこみ始める。

 

 

「奴を近づけるな!矢でも石でもなんでもいい!」

 

 

 指揮を執っている石喰猿(ストーンイーター)がそう叫ぶと、周りの亜人達は距離を空け攻撃しようとする。しかし、リリアもそれに気づいており、わざと敵の中へと突撃する。こうすれば、敵は同士討ちをせざるをえなくなるため、遠距離攻撃はできなくなるからだ。

 

 

「何をしている!早く打て!」

 

 

「まだ味方がいるんだぞ!」

 

 

「お前らもああはなりたくないだろう!なら打て!ここで下がればどちらにしろ悪魔に殺されるぞ!」

 

 

 その指示を聞いた亜人達は手に持っている弓や石で攻撃を始めた。飛び道具に対する魔法をかけているため、多少の攻撃ではびくともしないが、魔力の限界も近いことから敵の死体を盾にして距離を詰める。亜人達の顔には恐怖が見て取れたが、容赦なくその首を斬り飛ばす。

 

 次の敵に対し攻撃を仕掛けようとした時、上半身だけになった石喰猿(ストーンイーター)がリリアの脚にしがみついた。どこからその力が湧いてくるのか分からないほどの力に、「邪魔だ!」と言いながら頭を斬り飛ばすも、その力が弱まる様子はない。

 

 

(こいつ……、まさか……!)

 

 

 既に死んでいるはずの石喰猿(ストーンイーター)がここまで動くのは魔法によって操作されている時だ。その時、動きを止められているリリアに向かって、一本の矢が放たれた。足元の亜人に気を取られ反応が遅れるも、魔法の効果は続いており、防げるはずでである。

 しかし、矢は容易に防御魔法を突破し、リリアの目の前へと迫った。

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