聖王女の妹は信仰者【本編完結】   作:お稲荷猫

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瓦解土崩①

 アベリオン丘陵に設置された侵攻軍の司令部では、デミウルゴスとシャルティアが戦況の行く末を見守っていた。小悪魔(インプ)によってもたらされた情報の中に、南部方面に新たな強者が現れた、という気になる報告が含まれていたからだ。

 

 

「シャルティア。あの者達に見覚えはあるかな?」

 

 

「ないでありんす。あれほどの人間なら少しは覚えているはずでありんすから」

 

 

「どうやらアインズ様の思惑通り、餌にかかったみたいだね。とはいえ、時間がかかりすぎている。アインズ様から連絡が入り次第、次の……。……!少し待っていてくれたまえ」

 

 

 アインズからの伝言(メッセージ)が届いたため、デミウルゴスは一度話を止める。

 

 

「はい、アインズ様。こちらにはアインズ様のお考えの通り……。はい……。……承知しました。失礼致します」

 

 

「アインズ様からはなんと?」

 

 

「計画通り事が進んでいるとのことだ。時間はかかったが、第二段階へ進むとしよう。シャルティア、準備はできているね?」

 

 

「もちろん、言われた通り死んだ奴らもちゃんと有効活用して、亜人共を送り込む用意は全て終わらせているでありんす!」

 

 

 胸を張ってシャルティアは答える。以前の様な失態をしないように、そして失態を償い、アインズに褒められる数少ない機会であるため、デミウルゴスからの指示を間違えないように手帳に計画をまとめるほどだ。

 死んだ亜人達は部下の蘇生魔法を使える者達に蘇生を繰り返させた。消滅するまで何度も行ったことで、少なくとも二、三回は戦場へと送り出すことができたのだ。しかし、リリアの魔法によって消滅してしまったものを蘇生させることは困難であり、仕方なく亜人達はリリアがいない戦線を中心に運用していた。

 

 

「それでは、私もプレアデスを率いて出ますから、他の都市のことは任せますよ」

 

 

「待ってほしいでありんす!最後に!最後に確認を!都市は極力人間を生かすので間違っていないでありんすえ?」

 

 

「あぁ、それで間違いないよ。そうでないと、亜人達の食糧が尽きてしまうからね。それに人間を生かしておくことで他の利点もある。しっかり理由と目的を関連付けて覚えておくんだよ」

 

 

 シャルティアは言われたことを改めて手帳へとまとめなおす。そこには、今回こそ一切のミスなく目的を果たして見せるという熱意が溢れていた。

 

 

 

 戦争が始まって早くも一月と少しが経過していた。法国からの強力な増援もあったことで、戦線は安定し、南部の支援がなくとも何とか維持できるようになりつつあった。そんな中、帝国や魔導国へ送っていた使者の先触れも到着し、報告を終えていた。

 

 

「魔導国からの反応は悪いわ。モモンはエ・ランテルの統治をするうえで外すことができない存在だと言って、何かしらの対価がなければ送ることはできないと。少なくとも派遣した使者が対応できる範囲ではないわね」

 

 

「ですが、このタイミングで姉上やケラルトがこの場を抜けるのは適切ではありません。私も戦線から離れるわけにはいきませんから……」

 

 

「ならば、私が魔導王と直接話をして……!」

 

 

「姉様は絶対にダメです。聖王国をヤルダバオトと魔導国から攻めさせるつもりですか?」

 

 

「私だって一応の礼儀は心得ている!それに今の聖王国の状況は……」

 

 

 ケラルトはレメディオスの口をふさぎ、それ以上話させないようにする。どんな理由があろうとも、レメディオスを派遣するつもりはないからだ。外交や政治と言った面に関心もなく、聖騎士団長であるため任を離れさせるわけにもいかない。

 

 

「大臣達も皆、魔導国にはいい印象を持っていない以上、余計な軋轢を生みかねませんね……」

 

 

「こうなれば、法国の者達と協力してヤルダバオトと戦うしかないでしょう……。あの者達もかなり強いです。モモンほどかどうかは分からないですが、頼りにはなります」

 

 

 今あるもので最善を尽くす。それは用意できなかった側の言い訳でしかないが、事実そうした状況になってしまっている以上受け入れるしかない。だが、初日の戦闘以降、ヤルダバオトは一切姿を現さず、そのことが一つの懸念事項となっていた。

 

 

「帝国からは食料と軍需物資の支援を送ってくると連絡があったわ。ただ、それらを移送するのに最低でも一月はかかるみたい。ひとまず最初の小規模な支援を届けることにはなっているけれど……」

 

 

「送られてくるだけ感謝すべきです。それまで何としても戦線を持たせて見せましょう。兵士達にもこの報告を伝えれば、士気も上がるはずですから」

 

 

「貴方にばかり任せていて……。私も兵士達をねぎらうために前線に行ければいいのだけれど……」

 

 

「カルカ様、私は反対です。ヤルダバオトはカルカ様がこの王都から出るところを狙っているのかもしれません。奴がまだ生きている以上、そのようなことは……」

 

 

 ケラルトもリリアと同様にヤルダバオトの動きを警戒していた。奴の狙いは表向きには王家に伝わる王冠であるが、確実に別の目的をもって動いているのは明らかだ。そのため、本来の目的はカルカの殺害にあるのではないかという推測も立てていた。

 

 

「しかし、魔導王も卑劣な奴だ。モモンを派遣するには対価をよこせだと?聖王国が置かれている状況を知った上で言っているのだから、所詮はアンデッドに過ぎないということだな」

 

 

「帝国と同じように聖王国も属国になっていれば、戦力を送ってくれただろうな。だが、魔導国とはあくまで友好的な関係にあるに過ぎない。自国に危険を冒してまで他国を守ろうとする王はそうそういないものだ」

 

 

 レメディオスは納得していない表情を浮かべる。困っている者がいれば対価を求めずに助けに向かうのが正しいことだと考えている身からすれば、納得できないのは当然だが、そのような行為を行える者は少ない。それを当然として実行できるのはレメディオスの持つ美徳と言っていいだろう。

 

 

「話が長くなってしまいました。私はそろそろ戻ります。それではまた二日後に報告に参ります」

 

 

「リリア。気を付けてね」

 

 

「リリア様。ご武運を」

 

 

「リリア様の無事を神に祈っておきます」

 

 

 三人はそれぞれの別れのあいさつでもってリリアを見送った。

 

 翌日、敵はいつものように攻撃を行ってきたが、これまでの戦いと比べて大きな変化が一つ見られた。それは亜人の姿がほとんどなく、いたとしても十数体程度しか見えないことだ。ほとんどが召喚されたと思われる悪魔や魔物達であり、将軍は亜人の戦力が少なくなったため温存しているのではないかという意見を示した。

 しかし、報告に来た『隊長』も同様の変化を確認しており、これは敵の策略なのではないかとリリアは考える。

 

 

「ですが、亜人を温存したところで何かに使えるとも思えません。我々が来てからも敵の部隊は容赦なく攻撃を続けていましたから、亜人の残りが少なくなったと考えるべきではないでしょうか?」

 

 

「亜人の死体はやはり持ち帰られている。何らかの儀式に使っているのか?亜人の中に蘇生魔法を使える者が……」

 

 

「蘇生魔法を使える者が敵にいるわけがないでしょう。奴らに神に対する信仰があると思われますか?」

 

 

 将軍の意見に『隊長』も頷きながら同意する。しかし、そうでもなければこれまでの敵方の理解できない行為に対する説明ができない。

 

 その時、敵の襲来を知らせる鐘の音が鳴り響いた。会議室から急いで飛び出し城壁へと向かうと、今までにはなかった敵の第二次攻撃部隊と思われる軍が迫りつつあった。

 

 

上位地獄の猟犬(グレーター・ヘル・ハウンド)鱗の悪魔(スケイル・デーモン)、あれはマンティコアだな。バジリスクも見える」

 

 

「どうやら、召喚する魔物達のレベルを上げてきたようですね。普通の兵士では奴らの相手にはならないでしょう」

 

 

「リリア様、如何なさいますか」

 

 

「如何も何もあるか、来る以上迎え撃つだけだ。今まで以上に激しい戦いになるぞ。ヤルダバオトも現れるかもしれない。すぐに……」

 

 

 突然、慌てた様子の兵士が要塞内から駆け出してくる。その様子に思わずリリアも話を止めてしまう。何かが起きたのは間違いない。

 

 

「報告します!煙が上がっています!」

 

 

「何を言っている。敵が来たのだから狼煙が上がるのは……」

 

 

「いえ、そうではないのです!ロイツの方角から黒煙が……!」

 

 

 話を聞いたリリアは飛行(フライ)の魔法を使って高く飛びあがると、ロイツの方角を見る。兵士の言う通り、黒煙が複数本上がっているのが見え、何かが起きたのは間違いなかった。下へ降りると、すぐに将軍や『隊長』達と情報を共有する。

 

 

「敵が城塞線を越えたという報告はありません!まさか……」

 

 

「ロイツがヤルダバオトに攻撃された可能性がある。すぐに向かわなければならない。だが……」

 

 

 何故各所に設置されていた見張り台は狼煙を上げなかったのか。そして、今この戦線を抜ければ、おそらく要塞は敵の悪魔や魔物の大軍によって押しつぶされてしまうという疑問と不安に頭の中がかき乱される感覚に襲われる。中央には国軍の軍士はほとんどおらず、もし敵の中位以上の悪魔や魔物と戦うことになれば兵士達はなすすべもなく死ぬ。

 

 

「リリア様。ここは私どもにお任せいただけませんか?我々が敵の戦力に応じて各所に展開し援護致します」

 

 

「だが……。あの悪魔達に勝てるのか?相当な強さだぞ」

 

 

「問題ございません。このような場合に備えていましたから。それよりも、急ぎロイツに向かっていただいた方が……」

 

 

 リリアは城塞線の事を法国の者に託し、転移の魔法を使ってロイツへ向かおうとしたが、そこへ更に兵士が報告へと駆け付ける。

 

 

「申し上げます!カリンシャから逃げてきた聖騎士が報告に……」

 

 

「待て、今カリンシャといったか?」

 

 

 自分の耳を疑い、再度尋ねるも兵士は黙って頷く。そこへ、傷ついた聖騎士がふらつきながらもリリアの下へ来ると膝をついて礼をとる。

 

 

「報告致します……。突如として敵が郊外に現れ、まともな防衛体制を整えることもできないまま、カリンシャは敵の手に落ちました……。おそらく、ロイツも……。うっ……」

 

 

 聖騎士は報告を終えると同時に、その場に倒れこむ。将軍が直ぐに医務室へ運ぶように兵士へ指示を出すと、自分たちが置かれている状況に危機感を感じ始める。

 

 

「リリア様。あの者の報告が正しいのであれば、我々は補給もなく、応援もこないまま両都市を奪還するまで戦わなければならないということに……」

 

 

「敵が郊外に現れた?穴でも掘っていたというのか?それとも転移の……、いや、転移の魔法でカリンシャを陥落させるだけの軍勢を移動させることは……。クソッ!情報が全く足りない!」

 

 

「亜人達がそちらに回されたのでしょう。亜人と言えども数と力は普通の兵士に勝ります。ほとんどの主力をこちらに回し、防衛体制を整えていない都市を落とすことなど容易ですから」

 

 

「すべてはヤルダバオトの策略通りだったということか。この城塞線を守り切ることができると考えれば戦力は自然と前線に集められる。その隙に背後を……」

 

 

 だが、すぐに一つの危険が頭に浮かぶ。カリンシャやロイツが攻撃を受けたのであれば、他の都市、北部の都市だけでなく、南部の都市が攻撃されている可能性もあるのではないか。王都は一体どうなっているというのだろうか。

 

 

「私は一度王都へ帰還し報告に向かう。ロイツとカリンシャはこちらで何とかするが、それまでこの戦線を維持し続けるのだ。万が一、突破されることになれば、後の事は将軍に任せる」

 

 

 リリアは落ち着いてもいられず、将軍の敬礼を見届ける前に、すぐに転移の魔法で王都に向けて帰還する。

 王都にはリリアの施した防御魔法が展開されている。例え敵が現れたとしても、すぐに突破されることは無いはずだ。そう考えていたが、転移した王都の上空で目にした光景にリリアは唖然とした。

 障壁はすでに破られたのか、その跡もなく、城壁上では多くの兵士が血を流して倒れており、街の中でも亜人や魔物と各所で戦闘が繰り広げられており、大勢の民が危険にさらされている。

 

 そして、王城の門も無残に破壊されており、王宮からは黒い煙が上がっていた。

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