聖王女の妹は信仰者【本編完結】   作:お稲荷猫

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瓦解土崩④

 王都に向かって攻めてくる侵攻軍は様々な亜人によって構成されていた。ゴブリン、オーガ、蛇身人(スネークマン)鉄鼠人(アーマット)洞下人(ケイブン)藍蛆(ゼルン)山羊人(バフォルク)石喰猿(ストーンイーター)――。ほとんどがアベリオン丘陵に生息していた亜人達であり、聖王国にとって因縁のある種族も多い。

 

 

「マーレの魔法でも突破できないとなれば、別の手段を考えていましたが杞憂でしたね。亜人達よ攻撃を開始しなさい。くれぐれも私が下した命令を忘れるのではないですよ」

 

 

 デミウルゴスの背後に控えていた各亜人の指揮官は直ぐに行動を開始する。

 

 

「プレアデスは隠密の魔法を使い、亜人達が暴走しないように見張っておいてください。殺しても構いません。それから、いつでも退避できるよう転移の巻物(スクロール)のセットも忘れないように」

 

 

 プレアデス達は「はっ」という声と共に、その場から瞬時に姿を消す。ようやく始まった王都への攻撃にデミウルゴスは喜びを禁じ得ない。

 

 

(聖王国の皆さん。心より願っています。アインズ様を楽しませてください。あなた方の必死な抵抗こそが私の望むもの。……しかし、アインズ様はいつからお考えになっていたのだろうか……。私の計画を修正し、どのような結果を見せてくださるというのか)

 

 

 期待と興奮のあまり胸が熱くなり、体を身震いさせながらデミウルゴスは仮面を手で押さえる。

 

 

(アインズ様から多くを学び、より優れた私を目指し、さらなる忠勤に励む。なんと素晴らしいのだろうか!)

 

 

「あぁ、本当に楽しみです……」

 

 

 進んでいく亜人達と城壁から必死に抵抗する人間達の姿を見て、デミウルゴスはその風景を手で切り取とるような仕草をすると、仮面の下でほほ笑んだ。

 

 

 亜人達は奇声にも近い雄たけびを上げながら王都を守る城壁へと攻撃を開始した。地面を埋め尽くす亜人に義勇兵達は少年であろうと、老人であろうと恐怖を感じている。これほどの亜人を相手に戦うなど正気ではない。だが、もう後がない以上、この王都で死に物狂いで戦うしかないのだ。

 

 

「皆さん!落ち着いてください!こちらの城壁は聖王国の中でも最も高い王都の城壁です!相手が上がってくるまで時間があります!落ち着いて狙いを定めて!」

 

 

 ネイアが義勇兵達の指揮を執り、自ら弓を引いて一体の馬人(ホールナー)を射抜く。

 それ見た義勇兵達も負けじと眼下に群がる亜人達に弓を引き始めた。カルカの護衛ではない聖騎士や神官も、義勇兵に襲い掛かろうとする亜人達を剣や召喚した天使、そして魔法を使い必死に守り続ける。

 少し遅れて増援の冒険者達も城壁へと到着し、梯子を使って上がって来た亜人達を城壁から突き落とす。

 

 

(連携も十分……。士気も高い……。だけど……!)

 

 

 亜人達は倒しても倒しても次々と梯子を上がってくる。死んだ亜人の死骸を踏みつけながら迫ってくる光景には狂気さえ感じさせるほどだ。飛来してくる翼亜人(プテローポス)を見つけると、すぐに弓で狙いを定め最大まで弓を引き、二体が重なった瞬間に放つ。狙い通り同時に二体を仕留めるも、更に二体が飛来し、義勇兵の一人が犠牲となった。槍が頭から突き刺さっており、間違いなく即死だ。

 

 

(時間を稼げとは言ったけど……!一体、いつまで……!)

 

 

 ネイアは必死に弓を弾き続ける。矢が足りなくなれば、倒した亜人から矢を引き抜いたり、死んだ弓兵の物を回収して。その行為すらあざ笑うかのように亜人達は波のように押し寄せ続ける。

 その時、城門から大きな音が鳴る。波状槌を持った亜人が城門へと到着したのだ。ネイアは身を城壁から乗り出し、波状槌を支えている亜人に矢を放つ。城壁から身を乗り出したネイアに気づいた石喰猿(ストーンイーター)が口に貯めていた石を放つと、その一つがネイアの肩を貫通し、痛みのあまり思わず倒れこんでしまう。その様子を見た神官が直ぐに側へと駆け寄る。

 

 

「ネイア様!すぐに回復を!」

 

 

「私の事は構わないで!まだ大丈夫です!とにかく亜人を倒して!」

 

 

 左肩から流れ出た血で服は赤く染まっていく。どう見ても重症だが、神官一人が戦線を離れる事さえ状況は許さない。ポーチにしまっていたポーションをかけ、回復を試みるも効果は薄く、包帯を右手と口を使って傷口に巻き付ける。痛みで震え続ける左手を騙しながら、再び弓を弾き始めた。

 

 

「団長!敵の波状槌が攻撃を始めました!」

 

 

「街の避難状況は?あとどれほどかかる」

 

 

「倒壊した建物から救助も大体は終わりましたが、捜索にはまだ時間が……」

 

 

「それまで、ここを死守する。間もなく敵は城門を突破するだろう。そろそろ効果時間の長い強化魔法などをかけ始めろ。民兵を亜人共の恐怖から守るのも忘れるな」

 

 

 聖騎士達は自身が使える強化魔法をかけ始め戦いに備える。レメディオスもケラルトから預かっている高位神官から強化魔法をかけてもらい体が淡く光る。内側から力が溢れ、今ならいつもの倍の力で戦えそうだ。

 

 

「よし、神官達は下がれ。ここからは騎士の戦いだ。民兵は盾を使い敵の侵入を阻止!聖騎士は隙間から逃れたものを残さず殺せ!」

 

 

 レメディオスの声に兵士や聖騎士は大きな声で返事をする。聖騎士の神の御旗の下に(アンダー・ディヴァイン・フラグ)によって、その声に恐怖は感じられない。

 そして、城門が亜人達の波状槌によって大きな音を立てながらこじ開けられた。開かれた門の先からは、隙間が見えないほどの亜人達が今にも攻め入ろうとしている。

 

 

「来い、薄汚い亜人共!お前らの毛皮をはぎ取って、尻を拭く材料にしてやろうか!」

 

 

 レメディオスの声は群がる亜人達にも届き、弱者であるはずの人間から受けた挑発に、亜人達は苛立ちを覚え大声を上げながら一斉に城門へと押し寄せた。

 

 

「今だ!落とせ!」

 

 

 レメディオスの指示に従い、用意されていた油が城壁から、城門の下を通る亜人に対しかけられ、熱せられた油を受けた亜人達はその場で動きが止まる。

 

 

「よし、投げろ!火矢も撃て!」

 

 

 火炎壺が後方から投擲され、側面の家屋上に待機していた弓兵により火矢が射られると、門の付近で渋滞していた亜人達が瞬く間に炎に包まれる。熱せられた油によってもはや感覚はないだろうが、火炎による恐怖と苦しみは亜人達の想像を絶しているだろう。いくら人間よりも皮膚が厚く、毛皮があろうともこれほどの攻撃であれば火傷を負わないわけがない。

 実際、後から続く亜人達は城門の悲惨な光景を見ると動揺し、突進は勢いが衰えている。しかし、攻めろと言う命令が出ている以上、下がることはできず、後続も押し寄せているため、亜人達は前進を開始した。

 

 

(やはり来るか。だが、勢いがない亜人など恐れるものではない!)

 

 

 レメディオスと言えども、一人で数十体の亜人を同時に相手することは難しい。だが、今は城門によって敵の攻撃は一定方向に限定され、通れる数も限られている。各個撃破していくには最適な地形だ。

 煙の中をかき分けるように進んできた亜人に、レメディオスは容赦なく攻撃し、次々と切り倒していく。他の聖騎士は隙から逃れた亜人を倒す様に命令を受けていたが、レメディオスは的確にすべての亜人を倒し、城門から先へ進むことを許さない。

 しかし、突然敵の攻撃が止み始めた。未だ煙の先に大勢の亜人がいることはその騒々しさから分かる。すると、煙の中から一際大きいシルエットが見えると、その羽で煙と炎を勢いよくかき消した。

 爬虫類のような鱗に包まれた筋骨隆々の肉体に蛇のような長い尻尾と蝙蝠のような翼をもち、太い腕には巨大な大金槌を装備している。頭部は山羊の骸骨でぽっかりと空いた黒い眼窩には青白い炎が不気味に輝いている。

 目の前の存在は転がっていたオーガの死体を邪魔だと言わんばかりに、槌で勢い良く吹き飛ばすと、オーガの死体は宙を舞い、城門内の民家へと落ちた。明らかにこれまでの亜人とは格が違うことを、レメディオスは直感的に感じ取り、剣を持つ手に力が入る。

 

 

「団長!お下がりください!あれは鱗の悪魔(スケイル・デーモン)です!我々も……」

 

 

「下がっていろ!こいつの相手は私で十分だ!その間、亜人達を防げ!」

 

 

 聖騎士も決して弱くはないが、この悪魔の相手をするのは無理だ。であれば、まだ相手できる亜人達に戦力を回した方が、損害も少なく済む。それにこの悪魔を討ち取れば、兵士達の士気を高めることも可能だ。

 鱗の悪魔(スケイル・デーモン)は大声を上げながら、巨大な槌を振り下ろすも、レメディオスは『流水加速』によって攻撃を避ける。そして、空中に浮かんでいる鱗の悪魔(スケイル・デーモン)に対しとびかかると、無防備な背中に強烈な一撃を食らわせ、地面へと叩き落す。

 

 

「悪魔も地面に這いつくばっていた方がお似合いじゃないか」

 

 

 悪魔に人間の言葉が通じるかは分からないが、それを聞いた鱗の悪魔(スケイル・デーモン)は怒りにも近い大声を上げ、槌を勢いよく振り回す。猛烈な攻撃に近づく暇もなく、レメディオスは様子を見ながら絶妙な距離を維持するも、それを見ていた神官は不味いと考えたのか、魔法による攻撃をしかけてしまう。すると、鱗の悪魔(スケイル・デーモン)は目標を背後にいる神官に変え、そのまま槌を振り回し勢いよく飛び上がった。

 

 

「くそっ……!」

 

 

 レメディオスは目にもとまらぬ速さで神官の下へと駆け寄ると、突き飛ばし振り下ろす槌を『重要塞』で受け止めようとする。槌の重さと悪魔の体重、そして振り下ろされた勢いがレメディオスの体にかかり、地面に亀裂が走る。

 

 

「どりゃあぁぁぁああ!」

 

 

 槌を受け止めたレメディオスはそのまま、相手を押し返し、姿勢を崩した相手の腹に剣を叩きつける。

 

 

「剛撃!!」

 

 

 鱗の悪魔(スケイル・デーモン)は強烈な一撃によって門の付近まで吹き飛ばされ、起き上がろうとするも、それよりも早くレメディオスが飛び上がっると剣を相手の胸へと突き立てる。

 

 

「聖撃!!」

 

 

 突き立てた剣が緑色の光を放つと、鱗の悪魔(スケイル・デーモン)は悲鳴を上げて灰になって消えた。レメディオスは剣を掲げ、誇り高く叫んだ。

 

 

「ヤルダバオト側近の悪魔!このレメディオス・カストディオが討ち取ったぁ!」

 

 

 その光景を見ていた兵士や聖騎士達は歓喜の声を上げる。ヤルダバオト側近の悪魔かというのが事実かどうかは重要ではなく、あのような悪魔を相手に聖騎士団長が戦果を挙げたという事実の方がこの場においては重要だった。レメディオスもそれを理解し、こうして叫んだのだ。

 しかし、先ほどの悪魔の一撃はレメディオスにも大きなダメージを与えていた。いくら武技で耐えたとしても、全てのダメージを一身で受けるとなれば当然だ。しかし、亜人達はこうしている間にも迫っており、嘆いている暇はない。

 

 

「団長!緊急事態です!東側の城壁が既に崩壊寸前とのこと!」

 

 

「潮時か……。ネイアに撤退することを伝えろ!義勇兵が下がり次第、我々も内壁に下がる!」

 

 

「レメディオス団長!城壁はもう駄目です!私の判断で撤退を開始しました!」

 

 

 既にネイアの指示によって義勇兵が城壁から降り始めており、義勇兵の誰もが傷を負っていた。それはネイアも例外ではなく、左肩にまかれた包帯と血まみれになった衣服にレメディオスは驚く。

 

 

「ネイア、その傷は大丈夫なのか!直ぐに神官に……!」

 

 

「そんなことをしている暇はありません!まずは下がりましょう!すぐに敵が城壁に上がってきます!」

 

 

 そう言っている矢先に頭上から翼亜人(プテローポス)が急降下してレメディオス達に狙いを定める。しかし、それに気づいたレメディオスによって一刀両断される。

 

 

「そうだな。すぐに下がろう。聖騎士達も民兵を連れて下がれ!殿は私がする!」

 

 

「団長!援護します!」

 

 

「その傷で何ができる!聖騎士エステバン!ネイアも一緒に連れていけ!」

 

 

 傷ついたネイアが弓を構えるも、既に満身創痍と言った様子を見て、レメディオスは聖騎士の一人にネイアもつれて下がるように指示する。気持ちは嬉しいが、ここで戦うのは無理だ。

 

 

「ここを簡単には通れないぞ!亜人共!」

 

 

 レメディオスは剣を構え、迫りくる亜人達に叫んだ。

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