聖王女の妹は信仰者【本編完結】   作:お稲荷猫

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日常の終わり①

 元聖騎士の動死体(ゾンビ)が剣を振り下ろす。魔力も使い果たし血を流しすぎているリリアは抵抗することもできず、剣はそのままリリアの頭に振り下ろされると鈍い音と共に鮮血が宙を舞う。

 

 

「「「リリア(様)!」」」

 

 

 カルカ、レメディオス、ケラルトが叫ぶ。斬られたリリアはそのまま力なく倒れこみ、レメディオスがすぐに動死体(ゾンビ)の首を飛ばす。

 カルカははいずりながらリリアの下へ行き、体を起こす。斬撃によって右頭部から深く裂けており、顔の右側は絶え間なく血が出続け無残な姿となっている。

 

 

(これは……。もう……)

 

 

 ケラルトはその傷の深さとリリアが一切動かないこと、そして半開きの左目から生者の輝きが失われているのを見て理解する。

 

 

「カルカ様、リリア様は……」

 

 

重傷治癒(ヘビーリカバー)!」

 

 

 ケラルトの言葉を遮るようにカルカが治癒魔法をかける。治癒魔法によって、リリアの傷口は塞がっていき、無残なことになっていた顔は元の凛々しさを戻したが血で濡れたままである。カルカはリリアの顔についた血を自身の袖で拭う。

 

 

「リリア、傷は治ったわ。早く起きて」

 

 

 カルカがリリアの顔を両手で包み声をかける。側にいるケラルトはカルカが行っている行為は無駄だと知りながらも、止めずにただ下を向く。

 

 

「リリア様……」

 

 

 レメディオスは剣を落とし、その場に泣き崩れた。

 カルカはリリアの光のない左目と自身の視線が合うも、すぐに目をそらす。

 

 

重傷治癒(ヘビーリカバー)病気治癒(キュア・ディジーズ)!」

 

 

 カルカが再び治癒魔法をかけ、更には別の効果の治癒魔法をもかけるが、リリアが動くことは無い。

 

 

「カルカ様、リリア様は……」

 

 

「違うわケラルト。リリアは寝ているだけなのよ」

 

 

 カルカはケラルトの方を見ながらそう話す。その目からは涙が止まらずに流れ続けている。カルカ自身も頭では理解しているが、それを認めたくはない。必死に否定しようとすればするほどさらに深い悲しみがカルカを襲う。

 あまりのいたたまれなさにケラルトがリリアをそっと抱き寄せる。すると、カルカは力が抜けケラルトの胸の中で泣き始めてしまう。ケラルトは半開きになっているリリアの目をカルカを支える手とは別の手でそっと閉じる。

 

 

 その後、ホバンスから来た増援が到着するも周辺の状況を見て唖然とする。あちらこちらに残る血だまりや血痕。見るも無残な姿になった聖騎士の死体や騎士団長と思われる遺体。そして、生き残ったカルカやレメディオス、ケラルトと血まみれではあるものの、綺麗な顔のままピクリとも動かず地面に倒れているリリアの姿。

 

 聖騎士達はすぐに馬を降り、リリアの近くまで行くと片膝をつき祈りの姿勢をとる。

 

 そして、直ちに残った遺体を回収する部隊と周辺の調査及び残敵掃討に当たる部隊に分かれ、行動を開始した。

 

 

「第一王女様、こちらへ」

 

 

 一人の聖騎士がカルカを用意した馬車へ乗せようとするも、カルカはリリアから離れようとしない。聖騎士は困り果ててしまったが、ケラルトが「ここは私に」と言うと、「任せる」と言いその場を離れる。

 

 

「カルカ様、リリア様も同じ馬車で帰りましょうか?」

 

 

 ケラルトがそう言うとカルカはリリアの手を掴んだままただ頷いた。ケラルトはカルカの手を掴み、ゆっくりとリリアの手から離す。

 

 

「ではそう致しましょう。姉様。お願いします」

 

 

 レメディオスは震える手でリリアの遺体をそっと持ち上げ、カルカが乗る馬車へと運び入れる。ケラルトはカルカの体を支えながら共に馬車へと乗り込む。カルカは座ると「リリアを」と言ってレメディオスにリリアの遺体を預けるように促す。レメディオスが「それは」と言いかけるも、ケラルトが「姉様」と一言いい要望に従うよう促す。カルカはリリアの頭を自身の膝の上に乗せ、優しくなでる。

 

 

「レメディオス。お前も王女様や妹と共に馬車に乗っていろ。騎士団のことはいい」

 

 

 増援に来た聖騎士団の副団長がレメディオスにそう告げ、カルカに向かって一礼するとゆっくりと馬車の扉を閉める。

 

 

「王女様方をお送りする!他の部隊は各自の役目を終え次第、部隊ごとに撤収!」

 

 

 副団長がそう指示すると、四人を乗せた馬車はゆっくりと動き出した。

 

 

 

 王宮に到着すると入口の前まで父や側近達が集まっており、カルカ達の帰還を待っていた。

 馬車が入口に止まり、従者が馬車の扉を開ける。

 

 

「カルカ様、参りましょう」

 

 

 ケラルトがカルカの体を支え、レメディオスはリリアの遺体を再び預かる。

 最初にカルカとケラルトがゆっくりと馬車から降りた。父は憔悴しきったカルカを見て、「カルカ!」と声を上げながら抱きしめる。

 

 

「リリアは……。リリアはどうしたのだ」

 

 

 カルカは「お父様…」と言いながらただ涙を流す。

 馬車からリリアの遺体を持ったレメディオスがゆっくりと降りてくる。

 

 

「なんてことだ……」「大変なことになったぞ……」

 

 

 側近達が状況を理解し、静かに騒ぎ始める。

 レメディオスはそのままリリアを父である聖王の元まで運び、父は冷たくなったリリアの体を受け取る。

 

 

「あぁ……。リリア……」

 

 

 父の腕の中でピクリとも動かないリリアを見たカルカは再び声を出して泣き出してしまう。

 側近達の中にいたレメディオスとケラルトの父も娘たちの様子を見て飛び出し二人を抱きしめる。

 

 

「父上、私はリリア様を……。お護りすることができませんでした……ッ!」

 

 

 レメディオスは声を出して泣き、ケラルトは胸の中で静かに涙を流す。

 

 聖王はすぐにこの事態に関する緘口令を引き、リリアの死は後日、事件の詳細と共に公表するとしたが、関与していた人数が多く、噂によって次第に広まってしまうことになる。

 リリアの遺体は、神殿ではなく王宮のリリアの自室にて葬儀が決まるまでの間、保存魔法をかけられたうえで安置されることが決まった。

 カルカはその晩、リリアと共に居たいと父に懇願したが、その場にいた神殿から派遣された神官が「アンデッドに殺されたのであればアンデッドになる恐れがある」としてその要請を却下するように願い出ていたこともあり、一度は許されなかった。

 しかし、二人の仲を知っていた父はカルカの部屋を訪れると、レメディオスかケラルトの付き添いの上で密かに行うのであればという条件を付けて許可を出した。

 

 

 翌日、当事者の聞き込みのほか、事件の処理・調査を終えた聖騎士達が戻り、報告書が提出され始めたことで事件の詳細が徐々に明らかになった。

 

 

「王国内で死の騎士(デス・ナイト)が出現し、騎士団長以下王都の守りをつかさどる精鋭騎士数十人が死亡。近くの集落は全員がアンデッド化し、周辺の動物も一部がアンデッドになっていると」

 

 

「はい、既に住民と思われるアンデッドは神官の協力の元、討伐が完了しましたが、身元の詳細をたどることは難しそうです。集落の人口規模も最後に数えられたのは9年前のため、全てのアンデッドを倒し終えたかは不明です。また付近の獣の動死体(アンデッド・ビースト)に関しては未だ捜索及び討伐が行われています」

 

 

 大臣や神殿関係者が出席する会議の場で、騎士団長が亡くなったことにより代理で副団長が騎士団からの報告を行う。騎士団からの報告に会議場はざわめき始める。

 

 

死の騎士(デス・ナイト)は記録にしか残らないような伝説に近いアンデッドなのだろう。なぜ王国内に出現したのだ」

 

 

 一人の大臣が神官や副団長の方を見ながら質問をするも、自分たちも原因が分からないため答えようがなく戸惑っている。その時、会議の場の扉が開かれカスポンドが入ってくる。

 

 

「カスポンド!いったい何をしていたのだ!それに今は会議中で……」

 

 

「父上、お叱りは後で受けます。まずは人払いを」

 

 

 いつになく真剣な表情をいたカスポンドに父は何かあると思い、その場にいた大臣や神殿関係者に「すまぬ、皆一度退出してくれ」と命令する。

 会議場から全員が退出し扉が閉められると、カスポンドは入口の近くから父の座る席まで早足で歩いていく。

 

 

「父上、この事件。神殿勢力がかかわっていました」

 

 

 神殿という北部の支持者が、聖なるものの象徴でもある神官がこの事件を引き起こしたというカスポンドの報告に父は驚きを隠せない。

 

 

「どういうことだ。そこまで言うからには証拠はあるんだろうな」

 

 

「私の配下の者達と信頼のおける冒険者に頼み調査をしてもらっていました」

 

 

 そう言うとカスポンドは用意してきた書類の半分を父に渡す。

 

 

「王国の法律によって、徴兵可能人口の調査を目的として各集落、都市は3年ごとに人口と年齢、性別、名前を記した書類を役所へ提出する義務があります。しかし、あの集落の書類は提出されていないのにも関わらず、提出したものとして処理されていました」

 

 

「役員の不正か?それとも、何者かが手をまわしていたと」

 

 

「少々強引ですが、魔法を用いて尋問させました。本人も罪を認めており、書類偽造の見返りとして神殿関係者から多額の資金を融通してもらっていたとのことです」

 

 

 カスポンドの配下には、全種族魅了(チャームスピーシーズ)や他の攻撃魔法を用いた尋問を得意とする者がおり、非合法な手段で調査を行っていた。もちろん、口を開かなければ尋問によって廃人にしてしまうこともある。

 

 

「しかし、書類偽造までしてなぜあの村の情報を隠す必要があった?」

 

 

「父上、どうやらあの村では不老不死に関する実験が行われていたようです。現地入りした冒険者曰く、魔法実験の後があり、なんらかの過程の失敗により実験の対象者がアンデッドになっていたと考えられます。孤児院が建てられたのも10年前のことらしく、孤児達を集めては利用していたのでしょう」

 

 

 カスポンドはそう言うと、不老不死の研究に関する情報や孤児院内部にあった魔法陣に関する情報がまとめられた紙を指さす。不老不死の実現のために多くの者が犠牲になったと知り、父は顔を赤くする。

 

 

「今回の孤児院支援計画の対象となったことで、情報を隠すことが難しくなった。そこで今回の事件を引き起こしたと考えられます。父上、つまり今回の事件の首謀者は……」

 

 

「……神官長がやったとでもいうのか」

 

 

 カスポンドは黙って頷く。確かに今回の計画を当初は強く反対していたのも神官長であり、突然手のひらを返し強く推進したのも神官長であった。しかし、彼らが支持するカルカやリリアの命の危険を冒してまで行うことだったのか、その点が父の疑問となっていた。

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