聖王女の妹は信仰者【本編完結】   作:お稲荷猫

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英雄の到来②

 デミウルゴスは今か今かと、来るべき人物の到来を待っている。計画通りに進んでいるならば、今頃はロイツも亜人の攻撃が行われている頃だ。ロイツから前線の要塞まではそう遠い距離ではなく、都市からの煙に気づくこともできる。

 

 

(そうなれば、あの人間は間違いなく王都に来るはず……。この光景を目にすれば、間違いなく力を見せるだろう)

 

 

「デミウルゴス様。目標(ターゲット)が現れました。王都の上空です」

 

 

「分かりました。これで壇上に全ての駒が揃いましたね。プレアデス達は予定通り、王都から離脱するように」

 

 

「でも、デミウルゴス様。今目を離したら人間達食べられちゃうっすよ?」

 

 

 亜人達の中でも食欲旺盛な者達は、命じられた人間の捕縛と言う任務を無視し、自身の欲望を満たすためだけに捕えた人間を食べようとしていた。その度に、プレアデス達は仕方なく命令に背いた亜人を殺して回っていた。ルプスレギナはどうせ離脱するなら最後にその光景を見ようと思っていたのだ。

 

 

「アインズ様は君達が傷つくことは望んでいない。あの人間の力を侮ってはいけないと、君の方が十分理解しているんじゃないかな?」

 

 

「り、了解っす。すぐに離脱するっす」

 

 

 ルプスレギナは自身が犯した過去の汚点をデミウルゴスに指摘されたことで、動揺しながらすぐに返事を返す。ユリを除く他のプレアデス達は事情を知らないため、ルプスレギナの反応を不思議に思う。

 すると、王都に潜入していたナザリックの者達が全員離脱を確認したのと時を同じくして、王都の障壁が復活し、亜人達は中へと閉じ込められる。

 

 

(あれほどの防御魔法をこれだけ短時間で展開するとは……。やはり、あの人間はナザリックにとって脅威となる存在かもしれない……)

 

 

 アインズからは決して、彼女に死に至らしめるような真似をするなと厳命を受けており、デミウルゴスもその命に背いてまでリリアを害するつもりはない。しかし、ナザリックにとって問題となる存在を命令のままに放置していることは、至高の御方に与えられた階層守護者としての任を放棄しているに等しい。

 

 

(アインズ様は私の思いすら理解されているはず……。であれば、どうやってあの人間を……)

 

 

 デミウルゴスは深く考え込んだが、突然、目の前の王都が光を放ったことで意識が内から外へ向けられる。王都の上空を覆うような巨大な魔法陣に、プレアデスだけでなくデミウルゴスさえも驚いていた。

 

 

「これほどの魔法は……。まさか、超位魔法……!いや、しかし、至高の御方でもないただの人間が使えるはずが……」

 

 

 それに魔法が発動されるまでの時間が短すぎる。超位魔法には発動準備時間が設定されており、このような短時間で発動する手段を持っているのはアインズのみであると、デミウルゴスは理解していた。

 

 

「ルプー。貴方がいっていた人間って、あの女よね。本当に人間なの?」

 

 

「本当っすよ!でも、前に会った時はあんな感じじゃなかったっす!」

 

 

「でも、現実は違う……。嘘をつかれた……。ショック」

 

 

 疑いの目を向けられたルプスレギナは、ジェスチャーを駆使して必死に弁明しようとするも、シズはじっと見たまま無反応だ。ソリュシャンもはいはいとルプスレギナの言っていることを聞き流す。

 プレアデス達の話をよそに、デミウルゴスは障壁の中では亜人達が動かなくなっていく様子が見えた。障壁の奥で更に何かが起きていることは間違いないが、今動けば気づかれる可能性もあるため、相手の魔法が止まるまで待機したほうがよいだろう。

 しばらくすると、魔法陣と障壁が共に消滅し、薄暗い王都が戻って来た。王都を攻めていた亜人達の残りは郊外で待機し、再編を試みている。

 

 

「どうやら攻撃が終わったようですね。さて、私達も壇上に上がるとしましょう」

 

 

 プレアデス達はすぐに意識と態度を変え、「はっ」と声を揃えて返事をすると、デミウルゴスに続いて再び王都へと侵入を開始した。

 

 

 

 リリアが魔法を発動し始めると、王宮内で奇妙な現象が発生し始めた。魔法陣から放たれる光に体を触れた者達は、負っていた傷が瞬く間に回復し、死んでいたはずの者さえも起き上がったのだ。

 

 

「うっ……。私は一体……」

 

 

「確かに首の骨がおられたはずだったんだが……」

 

 

「ネイア!グスターボ!」

 

 

 カルカ達の側で息絶えていたネイアとグスターボがゆっくりと起き上がったのを見たレメディオスは思わず声を上げてしまう。だが、それに続いて他の聖騎士や神官達も自分に何が起きたのかを理解していないまま、ゆっくりと起き上がり始めた。

 

 

「ケラルト……。これは……」

 

 

「間違いなく蘇生魔法です。しかし、これだけの人数を……」

 

 

 何が起きているか分からずに震えている子供達がカルカの手を掴むと、カルカも優しく頭をなでる。聖王女である自分が混乱する姿をこれ以上見せるわけにはいかない。起き上がった神官達に子供達の事を見ておくように任せると、レメディオスやケラルト達と共に急いで王宮の外へと向かう。

 

 

「なんと神々しい……」

 

 

 王宮の外では、多くの人々が膝をついて空に浮かんでいるリリアに祈りを捧げている。降り注ぐ光の中で剣を掲げているリリアの姿は神々しいの一言に尽き、その力で亜人達を葬り、こうした奇跡を目の当たりにすれば人々が祈りを捧げようとするのも当然だ。

 しばらくすると、王都の上空に展開されていた魔法陣が消えるのと同時に、王都を包んでいた光もゆっくりと消えていく。そして、その中からリリアがゆっくりとカルカ達の下へ降りてきた。

 

 

「リリア、これは一体……」

 

 

「説明差し上げたいのですが、お話しすることは……」

 

 

 リリアがそう言うと、髪で隠れた顔の右から黒い液体が地面に垂れる。液体は地面に落ちると蒸気を発し、瞬時に蒸発した。カルカが髪をまくろうとすると、すぐにその手を払いのけた。その髪の下で起きていることを見せるわけにはいかないと言わんばかりに。

 

 

「例え姉上でも知らなくてよいことがあります」

 

 

「一体何をしたの……?何を隠しているの?」

 

 

 リリアは答えない。ただ黙って、片膝をついてカルカに頭を下げる。これ以上質問を続けたとしても、決して話すことは無いと。

 

 

『またしても素晴らしい魔法を見させていただきました。あなたには驚かされてばかりですね』

 

 

 空から響く声にリリアはすぐに立ち上がり剣を抜く。今まで王都の攻撃を防ぐことで精いっぱいだった三人は、本当の脅威を失念していた。何故、ヤルダバオトはここまで攻め込みながら王冠を奪いに来なかったのか、それはリリアがこの場に来るのを狙っていたのだと。真に脅威となる存在はこの王冠ではなく、リリアの事を指していたのだと。

 翼をはためかせながら上空からゆっくりとヤルダバオトが王宮の庭に降りてくる。周囲の建物には、支配されたメイドの姿もあり、人々は叫び声を上げその場から走り出す。

 

 

「いい悲鳴ですね……。思わず身震いしてしまいますよ」

 

 

「自ら殺されに来るとは、悪魔にしては殊勝な心がけだな」

 

 

 レメディオスとケラルトもカルカの前に立ち武器を構える。庭にいた聖騎士や神官達も各々の配置につき、ヤルダバオトを取り囲んでいる。この状況を前にしても、ヤルダバオトは余裕な態度を崩さず、リリアを見つめて何かに気づくと、仮面を抑え笑い声を上げた。

 

 

「なるほど!全て納得がいきました!あれほどの魔法を亜人達の命だけで発動できるわけがありませんからね。その身を対価にして――」

 

 

 ヤルダバオトが全てを言い終える前に、リリアは剣で斬りかかった。刃物のようになった爪で咄嗟に防御するも、以前までとは比べ物にならないほどのスピードに驚いた素振りを見せる。

 

 

「こちらが話しているというのに攻撃してくるとは。騎士団長の悪い所がうつりましたか?」

 

 

「私はお前に話す機会を与えるとは言っていないぞ。お前がただ一人で話し始めただけだ。私が気にかける必要はない」

 

 

「まったく……。少し痛めつけなければならないようですね!」

 

 

 ヤルダバオトはもう片方の手を刃物のように鋭くすると、リリアの空いている脇腹へめがけて手を突き出す。しかし、リリアの右手に掴まれたことでその刃先は寸前で止まる。互いの力が拮抗しているため、わずかに震えているもののこれ以上動くことは無い。

 

 

「これに反応するとは……。それにこの力。あなた本当に人間ですか?」

 

 

「悪魔に疑われるとは心外だ。だが、私は間違いなく人間だ!」

 

 

 左足による強烈な蹴りを食らわせると、ヤルダバオトは王宮の外の建物へと吹き飛び、建物は大きな音を立てて崩壊した。その様子にメイド達も驚いた様子を見せるが、すぐにがれきの中からヤルダバオトが飛び出してきたことで安堵したようだ。

 

 

「油断していたつもりはありませんでしたが、どうやら本気で挑まなければいけないようですね。少々時間をいただきましょうか。隕石落下(メテオフォール)!」

 

 

 ヤルダバオトの体に炎が纏われ、以前見た黒い炎が手の鋭利な爪に宿る。そして、空から以前も見た熱せられた岩が王宮に向かい降ってくる。王宮にいる者たちはどうすることもできず、ただその岩を見上げていることしかできない。だが、リリアは自身の手に防御魔法を発動すると、岩に向かって飛び上がりそれを手で受け止める。

 

 

「――――ッ!」

 

 

 声にならない大声を上げて力を振り絞り、岩を宙に向かって逆に浮かばせると、瞬時に剣を抜く。

 

 

「急所感知、超斬撃!」

 

 

 岩を真っ二つに斬ると、大きな爆発音と共に王都を避けるように破裂した岩のかけらが宙を舞う。すぐに視線をヤルダバオトに戻し、空中で加速しながら剣をヤルダバオトへ突き立てる。攻撃を受けたヤルダバオトは勢いよく吹き飛び、それを見たカルカ達が歓喜の声を上げるも、リリアは納得できない表情を浮かべた。

 

 

(明らかに飛びすぎている。攻撃を受け流されたか……)

 

 

 その時、空から四度目の喇叭の音が鳴る。王都に入った時からスキルを使用しているため残り時間も少なく、早急にケリをつける必要があった。

 

 

『ふふふ、今の一撃は流石に効きましたよ。この傷は私の戒めとさせていただきます。準備も整いましたし、本気で攻撃を開始させていただきましょう!』

 

 

 再びどこからともなくヤルダバオトの声が響くと、吹き飛んだ先にある建物から勢いよく炎の柱が上がった。炎の中から先ほどまでの人間の体ではない、巨大な悪魔へと変貌したヤルダバオトが姿を現した。体中から発せられている炎によって、民家は燃え上がり、ベンチは瞬間的に炭へと変わる。

 リリアはすぐさま警戒し、剣を構えると隣の路地を動く気配に気づき咄嗟に防御の姿勢をとる。そこからは目の前にいるヤルダバオトが現れた。いや、ヤルダバオトが同時に二体存在しているのだ。受け身をとりながら、口にたまった液体を吐き出し、両方に対応できるよう剣を構える。

 

 

(どちらかは幻術か?いや、幻術ならばあのように周囲に影響を与えることは無い)

 

 

「私の分身は二体だけだと思ったか?人間よ」

 

 

 一体のヤルダバオトがそう言うと、王宮の方から悲鳴が上がる。カルカ達の下にもヤルダバオトが現れ、レメディオスが剣で攻撃を防いでいるが、今にも押し潰されそうになっていた。リリアはすぐに転移の魔法で襲い掛かっているヤルダバオトの背後に回ると、剣を振りかざす。

 

 

上位転移(グレーター・テレポーテーション)

 

 

 ヤルダバオトの姿が消え、振りかざした剣がレメディオスに当たりそうになるも、すぐに軌道をずらして避ける。無理な姿勢をとったため、そのままレメディオスの下に倒れこんでしまうも、すぐに起き上がり剣を構え直す。王宮の鉄の柵を溶かしながら、三体のヤルダバオトが笑みを浮かべてリリア達に向かってきたからだ。

 

 

「|守護大天使の護り《プロテクション・オブ・ガーディアンアークエンジェル》」

 

 

 リリアの魔法によって、魔法陣から門番の智天使(ケルビム・ゲートキーパー)が召喚される。それと同時に防御の魔法を唱え、カルカを中心に王都に展開したような障壁が半球状に展開される。

 

 

「天使を護衛に置いていく!私が三体を相手し続けるが、奴らが攻撃してきたら身を守れ!」

 

 

「守るべき者が弱いと大変だな、人間。お前を倒した後に他の者も同じ目に合わせてやろう!」

 

 

「そのような事はもう二度とさせるか!この王都をお前の墓場にしてくれる!」

 

 

 リリアは剣に改めて聖属性を付与し、自身にありったけの強化魔法をかけるとヤルダバオトへ向かって斬りかかった。

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