聖王女の妹は信仰者【本編完結】   作:お稲荷猫

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英雄と王②

 リリアからの質問を受けたアインズの脳内では、過去の記憶が呼び起こされる。シャルティアが精神支配を受けた際に殺さねばらなかった時、最後のとどめを刺すというときにわずかに躊躇したことは未だに覚えている。

 

 

「私の配下の者が武器を向けてきたのであれば迷わず殺す……。と言いたいが、命を奪う場面になれば少なからず躊躇するだろう。だがそれ以上に、武器を向けさせてしまう状態に陥らせた自分の失態を最も悔やむだろうな。だが、黙って殺されるつもりはない」

 

 

「陛下のお考えは間違っておりません。私も同じように考えています。ただ、唯一違う点は、私はどのような結果になろうとも愛すべき者達へ剣を向けるつもりはないということです。民が私に剣を向けたのであれば、それは私の犯した罪によるもの。私は黙ってその剣を受け入れます」

 

 

「それが王族としての心構えと言うものなのか?民が愚かであったとしても、結論は変わらないのだろうか」

 

 

「変わりません。力ある者が守り導かなければならないと思います。したがって、民が愚かであったとしても、導くことができなかった私の能力不足と言えるでしょう」

 

 

 リリアは少しも微動だにせずアインズと目を合わせたまま話をしていた。その目からは、絶対にぶれない確固たる信念が感じられ、この世界に来てからその目をした者に会ったのは未だ数える程度だ。責務と信念、そして理想や願いを叶えるためには、身をなげうってでも成し遂げようとする人間の目だ。

 

 

「リリア殿の考えは統治者としてとても勉強になった。私のつまらない質問をどうか許してほしい」

 

 

「陛下、私こそ永久を生きている陛下に余計な事を申し上げました。どうかご容赦を……」

 

 

 見た目がアンデッドである故、年長者であると思われたのだろうが、生きている時間だけで見ればそれほど変わらない。いや、過ごしてきた環境だけで言えばリリアの方がはるかに良いだろう。だからこそ、このような尊敬さえ覚えるような人間が育つのかもしれない。

 

 

「私はリリア殿の考えに感銘を受けた。明日、聖王女陛下と今後について話し合うつもりだが……、悪いようにはしないとだけ言っておこう。長話をしてしまったな。私はこの辺りで失礼する」

 

 

「ありがとうございます陛下。おやすみなさいませ」

 

 

 リリアとの話を終え、椅子から立ち上がると入って来た窓から外へと飛び出した。そして、不可視化の魔法をかけると自身の馬車へと戻る。リリアとの会話を通して、今後の聖王国に対する方針を変える必要があったため、直にデミウルゴスに連絡を取る。

 

 

「デミウルゴスか。今、手は空いているか?」

 

 

「もちろんでございますアインズ様。次の段階の準備も滞りなく……」

 

 

 次の準備に入っていると聞いたアインズは話そうとしていた事が躊躇われたが、これ以上聖王国に時間を使う必要もないため、意を決してデミウルゴスに話を伝える。

 

 

「いや、もう知りたい情報は全て手に入れた。もはや、聖王国に行っている工作は必要ない。次の段階は飛ばし、最終段階に入ってくれ」

 

 

「アインズ様がそうおっしゃるのであれば……。しかし、大丈夫なのでしょうか?聖王国の者達がアインズ様を崇拝するためにはまだ影響力が足りないように思えますが……」

 

 

「この国の者達に私は好かれたくはない。だが、本当に関係を持つべき者を見極めることができた。お前から渡された計画書を見た限りでは、問題はないと考えている」

 

 

「それは……!畏まりました。直ちに準備を整えておきます。では、最後の地でお会いしましょう……」

 

 

 

 翌日、王宮の会議室にはカルカやレメディオス、ケラルトに加え、カスポンドとリリアも参加し、魔導王との会談に臨んでいた。

 本来であればリリアが出席する予定はなかったが、昨晩の話を受けてこの場に出席しないという選択肢はないと判断したのだ。

 

 

「さて、魔導国が聖王国を支援するということに関しては昨日話した通りだ。その見返りとして、金銭や領土などを要求するつもりもない。私の善意だと思ってくれればよいのだ」

 

 

「ですが、陛下。こちらとしても、無償で支援を受けたとなれば何らかの裏取引が行われたのではないかと各国から疑いを持たれます。それだけは避けたいのです」

 

 

 ケラルトは魔導王にゆさぶりをかける。昨日の会議の中でも、何の見返りも求めない規模の支援ではないことが取り上げられており、その真意を見抜こうと考えたのだ。だが、魔導王は本当に困ったような素振りを見せると、顎に手をやり良い案はないものかと考え始めた。

 それを見ていたリリアが意見を出そうと手を挙げる。

 

 

「陛下。魔導国は内陸の都市です。交易が控えられている今、様々な物資が枯渇してきていませんか?聖王国が平和になった後には両国で新たに交易を始めるのはどうでしょうか。互いに損はないと思われますが?」

 

 

「交易か……。確かに、周辺国の商人が我が国を避けているのは事実だが、可能なのか?」

 

 

「陛下が求められ、聖王女様が御認めになるのであれば、ここで確約しても構いません。手段はこちらで考えます。いかがでしょうか、姉上」

 

 

「私は構いません。ケラルトはどのように?」

 

 

「魔導王陛下がそれをお望みになるのであれば……」

 

 

「では、リリア殿の意見を採用し、支援の見返りは交易路の開発ということにさせてもらおう。さて、本題に入りたいのだが……」

 

 

 魔導王はペスト―ニャの方を見ると、ペスト―ニャは服からいくつかの文書を取り出し、魔導王へと手渡した。

 

 

「すまないが私の配下に調べさせてもらった。それによると、王都の食糧はもう尽き欠けているようだな。私も不足しているとは思い食料は多めに用意したのだが……、これでは冬を越すことは無理だろう」

 

 

「それは……!いえ、陛下のおっしゃる通りです。こちらとしても、食料の確保を目的として、占領された都市の奪還に向かう予定なのです」

 

 

「ほう。それでどの都市を奪還するつもりか、教えてもらえないだろうか?」

 

 

 レメディオスがカルカの方を見ると、カルカは静かに頷いた。レメディオスからすれば、未だ信用の置けない魔導王に今後の動きを伝えることは躊躇われたが、主君の意思に反してまで黙っていようとは思っていない。

 

 

「港湾都市リムンだ。港を奪還できれば、王国から食料を輸入できる。そうすれば万事解決だ」

 

 

「それは難しいだろう。王国は聖王国に対し食料を輸出するつもりは一切ないことは私の配下からも情報が伝わっている」

 

 

「王国ではなく、帝国から送られてきた食料を海路で輸送するのです。陛下も帝国の物資が港で止められていると……」

 

 

「あぁ、聖王女陛下。止められていると言ったのは少し語弊があったな。正確には、領地を管理する貴族が私腹を肥やすために利用していると言った方が良かったか?こちらに送られてくる量は微々たる物になるだろう。港を奪還しても一週間ばかりの延命になる程度だ」

 

 

「ではどうしろというのだ!王都にいる兵だけではプラートやカリンシャを攻めることなどできないのだぞ!」

 

 

 腐敗した王国貴族に対する怒りと、解決策として見出した先に重なる問題への不満、そして、それを事実として突き付けてくる魔導王に対する怒りが重なり、レメディオスは思わず声を荒げてしまう。すぐにケラルトによって止められたものの、背後に控えているダークエルフの双子は殺気にも近い圧を放っている。

 そんな中、最初の話以来黙って聞いていたリリアが口を開いた。

 

 

「レメディオス。何故、王都にいる兵だけでは攻められないというのだ」

 

 

「第二軍と聖騎士を合わせても数は六千しかいません!プラートとカリンシャの城壁は強固で、敵の数も多いはずです!」

 

 

「六千もいれば十分だ。私が敵の威勢をくじき、聖騎士を中心に残る亜人を倒せば十分に勝てるだろう」

 

 

 カルカ達はリリアの発言に驚きのあまり一瞬固まってしまう。すぐに反対しようと口を開こうとしたが、それよりも早くネイアが口を挟んだ。

 

 

「何を言っているのですかリリア様!まだ全快と言える状態ではないのに戦場に出るなど!それに王都の者達は皆リリア様の事を――」

 

 

「ネイア!少々、口が過ぎるぞ。王都の者がどう思っていようと、私は私が為すべきことを成すだけだ。それとも、私はもう聖王国にとって用済みだとでもいうのか」

 

 

「決してそのような……!失礼しました……」

 

 

 ネイアはひどく落ち込みながら頭を下げ、後ろへと下がる。

 決してリリアの事を怒らせようと思って発言したわけではないが、メイドや王都の者達に対する不満が混じってしまったことで、リリアの気に触れてしまった。自身の失態に目を合わせることもできない。

 

 

「すまない、少し言い過ぎたな。だが、私は発言を取り消すつもりはない。軍が出るというのに今回の指揮官である私が不在では、兵達の士気も上がらない」

 

 

「それはその通りですが……!リリア様の体がどのような状態なのかすら不明なんですよ!?それなのに前線へ出るなど!カルカ様からの許可が降りません!」

 

 

 リリアの事を止めることができるのは、指揮官として任命したカルカだけだ。正確には王族であるリリアを止めることができる者と言う意味だが、レメディオスとケラルトはそのような権限は持っていない。それ故、助けを求めようとカルカの方を見る。

 

 

「リリア、二人の言う通りです。今は体の状態も不明な以上、軍の事はレメディオスとケラルトに任せ休みなさい」

 

 

「ですが、プラートを取り戻さなければ食料が尽き、大勢の者が苦しみます。それでよいのですか?」

 

 

 カルカ達の議論を見ていたアインズはここらで口を挟むべきだと判断し、カルカに声をかける。今こそ、目的の土地に誘導するための楔を打ち込むにはもってこいの場面だと。

 

 

「あー、すまないが話を続けてもいいだろうか」

 

 

「魔導王陛下!失礼しました……!」

 

 

「いや、このような状況で議論が起きるのは当然だ。聞いていれば戦力が足りていないとのことだが、先ほども言ったように魔導国の支援は戦力の派遣も含まれている」

 

 

「それはつまり……」

 

 

「このアウラとマーレ、そして私自身も戦力として数えてもらっても構わない。プラートを奪還したいというのであれば、喜んで協力しよう」

 

 

 その発言を聞いたカスポンドが一つの不安要素に気づき手を挙げる。

 

 

「魔導王陛下。協力してくださるのはありがたいのですが、魔導王陛下に万が一のことがあった場合、魔導国に残る陛下の下にいる者達が暴れ出すことはありませんか?」

 

 

「配下の者には命を下してある。それに、私より強いものはこの世界にいないと自負しているのだ。万が一もないと思ってもらっていい」

 

 

 魔導王の発言はその通りかもしれないが、他国の王を前線に立たせるとなれば、当然カルカも前に出ないわけにはいかない。魔導王のみを前に立たせ、王都に残っていたとなれば、その名声に傷がつくには間違いないからだ。それに、魔導王が命令を下したとはいえ、配下の者が主なき時に命に従うかすら分からない。

 

 

「カルカ様。魔導王陛下がそこまで言うのであれば、良いのではないでしょうか」

 

 

「姉様!何を言っているのですか!陛下を前線に立たせることも問題ですが、そうなればカルカ様も前線に向かわなければならないのですよ!」

 

 

「分かっている。だが、陛下はこれだけの自信をもって協力してくださると言っているのだ。それを拒否するのは陛下の実力を疑っているような物だろう」

 

 

 いつものレメディオスらしからぬ発言に、ケラルトは思わず口をつぐんでしまう。

 レメディオスが何を考えているかは分からないが、これ以上話を進める前に一度話し合いを行っておく必要があるとリリアは考え、一旦会議を中断し、昼過ぎに再開することを提案した。

 

 

「姉様!どういうつもりですか!いくら姉様と言えども、あのような発言は!」

 

 

「待てケラルト。魔導王はアンデッドだろう?亜人とアンデッド、それにその配下の者が戦おうと我々に損害はほとんど出ない。寧ろ、あちらから協力したいとまで言っているんだ。我々にとって好都合ではないか」

 

 

「レメディオス……。もし魔導王の命が奪われでもしたら、誰が魔導国の残党を止めるのかしら……?」

 

 

「それこそ、法国や王国に任せればいいではないですか。あの者達は聖王国を見捨てたのです。それくらいのリスクは背負ってもらいましょう」

 

 

 聖王国を見捨てた者達には当然の報いだ。そして、魔導王から協力を申し出てきた以上、それを利用したとしても何ら聖王国に問題は生じない。レメディオスにとってはその程度の認識であり、この場にいる全員が抱えている問題の頭を抱えていることには気づかない。

 

 

「レメディオス団長……。他国の王を前線に立たせることに躊躇いはないのですか……。いや、それ以上に聖王女様も前線に向かわれるのですよ?心配は魔導王陛下の身もですが、聖王女様の身もです」

 

 

「ネイア、それに関しては問題ない。私が姉上の護衛として一時も離れずに……」

 

 

「リリア様は王都で休むように決まったではないですか!当然のように従軍しないでください!」

 

 

「だが、ケラルト。姉上が戦場に向かうとなれば話は別だ。それに姉様が前線に向かうのであればお前達もついて行くだろう。私一人だけ生き残るような惨めな真似はしたくない」

 

 

 亜人の中に未だ知らぬ強者がいた場合、今回の王都における参事では間に合ったが、次は三人が亡くなった姿を見る羽目になるかもしれない。リリアの蘇生魔法は通常の蘇生魔法と違い、期限や代償が異なるため、短期間でなければ行使できないのだ。

 

 あのような光景を再び見たくない。もし死ぬのであればこの四人で……。そう言う気持ちがリリアの中を駆け巡った。

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