聖王女の妹は信仰者【本編完結】   作:お稲荷猫

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英雄と王③

 カルカ達の想いとは別に魔導王への協力を求めるにあたってはもう一つの問題があった。

 それは、王都に残る主戦力を奪還作戦に投じた場合、王都の守りは義勇兵のみになり万が一攻められた場合にどうするかということだ。

 

 

「王都の守りであれば、私が残って指揮をとろう。まぁ、ヤルダバオトに攻められれば諦めるしかないが……」

 

 

「お兄様、よろしいのですか?表立って動きたくはないとこれまで静かに暮らして……」

 

 

「国家の非常時にまで自身の欲望を求めるつもりはない。それに私を支持していた南部の者達は皆死んでしまったからな。もう周りの目を気にする必要もない。そうすれば、四人が王都から出ても民が混乱することは無いだろう」

 

 

「兄様。直ぐにプラートを奪還して吉報をお持ちします」

 

 

「あぁ、楽しみにしているよ」

 

 

 カスポンドの厚意によって、四人を王都に縛り付ける者はなくなった。だが、以前としてカルカがリリアを連れて行く気にはなっていない。先日までベッドで休んでいたものを連れて行くなど、姉妹と言う立場でなくとも正気ではない。

 

 

「リリア。やっぱり、貴方は王都に残って……」

 

 

「姉上は私が弱っていると思っているのですか?例えそうだとしても亜人に後れを取るほど弱ってはいないと自負しています」

 

 

 カルカはため息をついた。こうなったリリアを止めるには、それなりの理由を用意しなければ本人が納得して辞退することは無いからだ。もし、置いていったとしても何らかの手段を用いてこっそりついてくるに違いない。そうなるのであれば、付いてくることを許可し、側に置いておく方が安心できるというものだ。

 

 

「……。作戦を開始する日までに戦闘に問題がないと判断できれば同伴を許可するわ。でも、少しでも問題があるなら王都に残りなさい」

 

 

「分かりました。万全の状態にしておきます」

 

 

「これで私達の方針は決まったわね。魔導王陛下に協力を求め、私達も共に作戦に加わる。これでいいかしら?」

 

 

 カルカはケラルトの方を見る。他国の王と共にカルカも前に行くということには軍事的だけでなく政治的な要素も含まれる。こうした問題に対処するにあたっては、この手の問題に詳しいケラルトに意見を求める方が良いと判断したためだ。

 ケラルトは少し考えると、おもむろに口を開いた。

 

 

「……そうですね。カルカ様も共に戦ったとなれば、魔導王…陛下に対し、民の心が動くという事態も避けれるでしょう。しかし、軍士達はすでに魔導王陛下に対し崇拝に近い眼差しを向けていますが……」

 

 

「なぜだ?まさか、ここまでに来る途中に洗脳されたのではないだろうな?城塞線に残っていた者達も既に……」

 

 

「いや、それは違うぞレメディオス。陛下は要塞が落ちかけていた時に、敵の悪魔達を瞬く間に追い払い、食料や物資を運び入れただけでなく治療まで行ってくださったのだ。軍士達があのような眼差しを陛下に向けるのも無理はない」

 

 

 リリアは自身の懐から、国軍の軍士より預けられたアルフレドからの手紙を取り出した。それを聞いたレメディオスは驚きと魔導王の意外な対応に目を丸くする。そして、そのような対応をした魔導王に対し、疑いの目を向けるような発言をした自身の言葉を気まずく思ってしまう。

 

 

「な、なるほど……、そうでしたか……。ゴホン、それであれば、軍士達が魔導王陛下を尊敬するのも分かります」

 

 

「それはそれで不味いのでは?軍の者達が心が動くほどの影響力を持ったとなれば、戦後のカルカ様の統治に差し障りがある可能性が……」

 

 

「陛下がこの国を支配しようとするのであればそうだろう。だが、陛下であれば実力でこの国を取れるのは以前も話したはずだ。そのような面倒な手を使わずともな。これ以上、陛下に対しありもしない理由で嫌疑の目を向けていては失礼にあたるぞ」

 

 

 リリアは、未だ魔導王に対する不信感を捨てきれていないレメディオスとケラルトを戒める。聖王国の者であれば、こうした態度はいたって普通ともいえるのだが、このような状況、そして魔導王自らが聖王国に来ている状況で対応に当たる者としてはふさわしい態度ではない。ケラルトのように、少なくともそうした態度は心の中にしまって凛とした姿勢で対応に臨むべきだと。

 

 

「特にレメディオス。お前は態度……、いや口にも出ているが控えるようにしろ。できないのであれば、陛下が臨席する場には同伴することはできないと思った方がいい。陛下の事を軽蔑するのを今すぐやめろと言う無茶は言わないが、せめて態度に出さないようにだけ努力するのだ」

 

 

「リリアの言う通りよ。陛下の寛大なお心のおかげで見逃されているようなものだから……。王族に対する礼を欠くような場合は次からは即刻退席させるわ」

 

 

「カルカ様まで……!……承知しました。後で誰も見ていない場で発散するようにします」

 

 

「姉様のお怒りは亜人共にぶつけるのが良いでしょう。これから多くの機会があるはずですから」

 

 

「話はここら辺にして、そろそろ会議室へ戻りましょう。陛下をお待たせするのも失礼になるから」

 

 

 話を終え会議室へ戻ると、ダークエルフの双子と打ち合わせをしていた魔導王が慌てて元の姿勢へと戻る。何か重要な話をしていたのだろうと、カルカが会談を後にすることを提案するも、魔導王は問題ないと手を振りながら答える。

 

 

「さて、聖王女陛下。貴国の方針はどのようになったか聞かせてもらいたい」

 

 

「はい、陛下。聖王国は陛下の支援を受け、各都市の奪還に向けて動きたいと思います。奪還作戦に当たっては、私も陛下と共に戦場に向かう所存です。陛下が戦場に赴くというのに、私が王都に閉じこもっているわけにはいきませんから」

 

 

「そうか。となると、当然……」

 

 

 魔導王は視線をリリアに移す。何を言いたいか分かっているリリアは、まだ続きを発していない魔導王に対し静かに頷く。

 

 

「私も護衛として戦場に向かう予定です。しかし、それまでにある程度力を確認しておかなければなりません」

 

 

「そうか……。私の護衛を貸しても良いのだが、それは望んではいないのだろう。もし、戦場で助けが必要になればこの巻物(スクロール)を使うとよい。それを使うと空に光が打ち上げられ場所が分かるはずだ」

 

 

「ありがとうございます。陛下」

 

 

「私からも感謝を……」

 

 

 魔導王は謎の空間から何枚かの巻物(スクロール)を取り出すと、それをカルカに手渡す。これはこの場にいる者達が助けを求める際に使うとよいという魔導王の配慮なのだろう。カルカと共にリリアも魔導王に対し感謝を述べる。

 

 

「さて、そうと決まれば奪還作戦をいつ開始するかだが、期日はそちらに任せよう。私はいつでも準備はできている」

 

 

 カルカはケラルトと小さな声で話し合うと、すぐに結論はまとまり魔導王に対し視線を戻す。

 

 

「それでは……、食料の状況から考えて三日後には王都を立つということにしましょう」

 

 

「了解した。では、他に話し合う事もなければこの辺りで私は一度、エ・ランテルに戻る。……あぁ、そうだ。一つ聞いても良いだろうか」

 

 

 席を立ちあがった魔導王は何かを思い出し、その場で足を止めると振り返った。何か不手際や問題があっただろうかと不安に思ったカルカの額に冷や汗が流れる。

 

 

「なんでしょうか、陛下」

 

 

「モモンの事なのだが……。彼の遺品や遺骨……、いや、遺灰とでもいう物は残っているのだろうか」

 

 

 ここにきて何故モモンの話題を出すのか。何かの布石を打つつもりではないのかとカルカは警戒した。ケラルトの方をチラリと見ると、ケラルトも相手の質問に対しどのように返すべきか、答えを迷っているようだ。

 

 

「モモン様の武器はネイアが回収しております。遺灰……に関しては回収はできておりません……」

 

 

 魔導王の質問に対し、リリアは必要な答えのみを的確に返す。この答えに対し、どのような返答が帰ってくるかは分からないが、少なくとも二人がこの後の答えを考える時間を稼ぐには十分なはずだ。

 

 

「そうか、では武器を回収させてもらおう。後は彼を蘇生させれば問題はないだけだからな」

 

 

「お、お待ちください!遺体も残っていないというのにどうやって蘇生を……!」

 

 

「私は彼の一部……、いや、触れているものさえあれば無から蘇生する事さえできるのだ。私は死を支配しているからな」

 

 

「そ、それは……、本当なのでしょうか……?」

 

 

「そこまで気になるのであれば見せても良いが、あまり期待はしないでほしい。この魔法は多くのMP…、魔力を消費するのだ。聖王国で死んだ者達全に使う気にはなれない」

 

 

 カルカは魔導王の言葉に少しの期待、いや、希望を持っていた。死の支配者であれば、この戦いで亡くなった多くの兵士や巻き込まれた者達を蘇生してもらえるのではないかと。だが、その希望はいとも簡単に消え去った。魔導王は他国の王であり、当然と言えば当然なのだが、それによる落胆を隠すことはできない。

 落ち込んでいるカルカの姿を見たリリアは、話題を逸らすために代わって前に立つ。

 

 

「陛下もお忙しい身のはずです。すぐにネイアに武器を保存している場に案内させます。ネイア、陛下に失礼のないように」

 

 

「かしこまりました。魔導王陛下、こちらです」

 

 

「あぁ、よろしく頼む」

 

 

 魔導王とお付きダークエルフの双子やペスト―ニャは共に会議室を後にした。

 リリアは振り返り、カルカの下へ行くとそっと手を重ねて耳元でささやく。

 

 

「姉上は全ての者に蘇ってほしいのですか?」

 

 

「叶うことのない我儘であることは分かっているわ。けれど……」

 

 

「陛下に……期待したのですね」

 

 

 カルカは静かに頷いた。

 その姿と考えにリリアは改めて感動を覚える。それと同時にカルカの理想を叶えるためにこの力を得たはずが、ヤルダバオトの前では無力であったことに対し怒りを覚えた。これまでの出来事を無かったことにはできないが、これからはその罪を償うためにも必死に仕えようと。

 

 

 

 翌日からリリアは直ぐに体の調子と勘を取り戻すため、聖騎士が使う訓練場を借りて体を動かし始めた。他の聖騎士達も奪還作戦の日程が伝えられたため、訓練場を利用している者が多く、その場にいるリリアに自然と視線が集まる。

 だが、リリアはその視線がリリアの剣さばきではなく、黒い翼に集まっていることに気づいていた。その視線に敵意は籠っていないため、どのような感情でみているかは分からない。

 

 

「リリア様。このあたりで一度休息に入られては……」

 

 

「あぁ、そうだな。……ネイア、この後は魔法に関して確認したいのだが」

 

 

「ケラルト様から自由に魔法訓練場を使ってよいと許可を得ております」

 

 

 ネイアから受け取ったタオルで汗を拭き終えると、木剣を元あった場所へかたずけて移動を開始しようとする。すると、一人の聖騎士がリリアの事を呼び止めた。

 

 

「リリア様も奪還作戦に参加なさるのですか?」

 

 

「当然だ。私が参加しないと思ったのか?」

 

 

「し、失礼しました。しかし、あれほどの傷を負って……、それに……」

 

 

 聖騎士はチラリとリリアの翼を見た。そのような姿で本当に戦うことができるのかと思っているのだろう。

 

 

「この翼が生えてからはどことなく体のキレも良い。四大神が私に新たな力を与えたのだ。聖王女様が望まれる皆が平和に過ごせる世界……。それを取り戻すために私はこの力を振るおう」

 

 

 リリアが聖騎士にそう言い放つと、聖騎士は跪いて神に祈るような姿勢をとる。

 その姿を見てリリアは聖騎士達が自分をどのように見ていたのかを理解した。突然の変化に、今までのリリアではなくなったのではないかと不安に思っていたのだろうと。だが、今の言葉を聞いてリリアに対する不信感は直ぐに王族に対する尊敬の念……、いや、神に対する崇拝の念に近い物へと変化したのが分かる。

 

 

(このような姿ではそのような目で見られるのも当然か……)

 

 

 聖騎士達から軽蔑の視線を向けられていた訳ではないことを理解し、安堵する一方でどこか哀しく思う気持ちがリリアの中に残った。

 

 

 魔法訓練場に移動してからも、聖騎士の訓練場で感じたのと同じような視線を向けられているのに気づいた。一つ違う点を上げるのであれば、彼らは聖騎士のようにその場に留まらず、ほとんどの者が訓練場を後にしたということだ。少なくとも、聖騎士と同じような考えを持っているわけではないようだ。

 

 

「まったく……。リリア様がその姿を見せているというのに、神官ともあろうものが……」

 

 

「彼らの教義からすれば、私が扱いにくい存在であることに違いはない。無理を言ってやるな」

 

 

「リリア様はお優しすぎるのです!魔導王陛下も嘆いておられました……。我が国であれば、このような扱いをさせることは無いと……!」

 

 

 魔導王との会話をいつネイアが聞いていたのかと思ったが、ネイアと魔導王を共に行動させたことを思い出した。

 

 

「陛下を武器庫に案内した時か……。陛下が目指しておられるのは種族関係なく過ごせる国家だからな。私の様な者でも受け入れてくださるだろう」

 

 

「もしも……、リリア様がこの国にいられなくなったら……。どうするのですか?」

 

 

「その時はこの地で自決するだろう。産まれたこの地で骨を埋められないのは心残りになる。その時はネイア、お前が墓を作って埋めてくれないか?」

 

 

 リリアのどこか切なそうな表情を見たネイアは、自身の目から流れる涙を見せるわけにはいかないと咄嗟に頭を下げる。

 何故、これほど国を想うリリア様が苦しい思いをせねばならないのか。悲しみと共に怒りの感情がネイアの感情を歪ませた。

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